III. 考   察

《総 論》

甲虫類は種類が多く、全種を対象とする調査は現状では不可能である。したがって今回もまたいくつかの分類群に限定して調査が行われることになった。選定基準は次の各項に従った。

1)国内での分布調査が進んでおり、情報量も比較的多い。

2)同定が比較的容易か、同定の助けとなる高いレベルのすぐれた図鑑類または同定手引が存在する。

3)この調査でとりあげられている他の昆虫群と異なる指標性をもち、調査の成果に独自性をうみだすことができる。

前回の調査では、ハンミョウ、クワガタ、オオキノコムシの3科が対象となったが、今回はハンミョウ、クワガタは継続、オオキノコムシだけカミキリムシ科(ハナカミキリ亜科)に更新された。対象分類群の主たる指標環境は次のとおりである。

ハンミョウ科:  裸地または裸地的自然環境

クワガタムシ科: 森林環境、特に林床

ハナカミキリ亜科:森林環境の多様度

調査結果については各分類群の考察に譲るが、今回もまた全体的に情報量が少なく、日本列島における分布を表わすに足る十分な成果は得られなかった。特定の地域や小島嶼などに分布が限られている種類では、たとえ情報量は乏しくても分布パターンはそれなりに把握できたものの、広域に分布する種では情報不足が特に目立った。

情報不足の原因はいろいろある。その一つは、データが調査年次に限定されているためと考えられる。しかし、この点は調査回数がふえ、その結果が累積されれば必然的に欠が埋められ、種単位の分布像はより正確なものになっていくであろう。データの集積度を、より早めるために何らかの改善策は必要であろうが、やはり回数を重ねることしか解決の途はあるまい。

もう一つの原因は日本産の各種について、その分布状況が調査者によく把握されておらず、そのことが情報収集の効率を低下させているためではないかと考えられる。日本の昆虫でもチョウやトンボなど、一部の昆虫群では種単位の分布図がほぼ完成、調査者は担当地域でどのような調査をすればよいか判断しやすい状況になっている。しかし甲虫では、オサムシ族など特定のグループを除いては、チョウ、トンボ的なまとめはなされていない(カミキリムシ科では全種について分布図が作られているが、県単位で産否を示すだけの形式。チョウ、トンボの分布図にくらべると著しくレベルが低い)。したがって、前回の報告書でも述べておいたとおり、こうした分布調査では、各分類群の専門家がそれぞれの種について既知の分布情報を整理し、それに基づいて種単位の分布基図を作成、その基図を拠りどころとして分布調査を展開することが望ましいといえよう。調査対象として選定した分類群だけでも、その作成を急ぎたいものである。

(大野 正男)

 

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