III.  考   察

1. 考 察

セミ類は、昆虫網(Insecta)、カメムシ目(Hemiptera)、ヨコバイ亜目(Homoptera)、頚吻群(Auchenorrhyncha)、セミ科(Cicadidae)に所属する一群で、多くは中形種であるが、一部に大形、また小形の種がある。

世界に知られたセミ科は、約2,000種に達し、日本産は32種となっているが、ヒメハルゼミ、ヒグラシの亜種については、今後種に昇格すべきものがある。セミ科の各種は、一般に長い成長期を要するためか、分化程度の弱いものがあり、近似種間で種の特徴がはっきりしないものが少なくない。

日本に産するセミの多く(コード番号0001〜0029)はセミ亜科(Cicadinae)に属すもので、コード番号0030〜0032の3種がチッチゼミ亜科(Tibicininae)に入る。セミ亜科では雄の発音器に背弁を備えているが、チッチゼミ亜科ではこれを欠き、発音膜を露出している。日本産は各種の雄はすべて発音器を有し、それぞれが種として特徴のある鳴き声を発する。

日本に産する、上述の32種のコード番号、和名および学名は次のとおりである。

0001 ニイニイゼミ Platypleura Kaempferi (Fabricius)

0002 ヤエヤマニイニイ P. yayeyamana Matsumura

0003 ミヤコニイニイ P. miyakona(Matsumura)

0004 イシガキニイニイ P. albivannata M.Hayashi

0005 クロイワニイニイ P. kuroiwae Matsumura

0006 チョウセンケナガニイニイ Suisha coreana(Matsumura)

0007 コエゾゼミ Tibicen bihamatus(Motschulsky)

0008 エゾゼミ T. japonicus(Kato)

0009 ヤクシマエゾゼミ T. esakii Kato

0010 アカエソゼミ T. flammatus(Distant)

0011 キュウシュウエゾゼミ T. Kyuskyuensis(Kato)

0012 クマゼミ Cryptotympana facialis(Walker)

0013 ヤエヤマクマゼミ C. yaeyamana Kato

0014 アブラゼミ Graptopsaltria  nigrofuscata(Mntschulsky)

0015 リュウキュウアブラゼミ G. bimaculata Kato

0016 ハルゼミ Terpnosia vacua(O1ivier)

0017 エゾハルゼミ T. nigricosta(Motschulsky)

0018a ヒメハルゼミ Euterpnosia chibenis chibensis Matsumura

0018b ダイトウヒメハルゼミ E. chibensis daitoensis Matsumura

0018c オキナワヒメハルゼミ E. chibensis okinawana Ishihara

0019 イワサキヒメハルゼミ E. iwasakii(Matsumura)

0020a ヒグラシ Tanna japonensis japonensis Distant

0020b イシガキヒグラシ T. japonensis ishigakiana Kato

0021 タイワンヒグラシ Pomponia linearis(Walker)

0022 ミンミンゼミ Oncotympana maculaticol1is(Motschulsky)

0023 ツクツクボウシ Meimuna oplifera(Walker)

0024 オオシマゼミ M. oshimensis(Matsumura)

0025 クロイワツクツク M. kuroiwae Matsumura

0026 イワサキゼミ M. iwasakii Matsumura

0027 オガサワラゼミ M. boninensis(Distant)

0028 ツマグロゼミ Nipponosemia terminalis(Matsumura)

0029 イワサキクサゼミ Mogannia minuta Matsumura

0030 チッチゼミ Cicadetta radiator(Uhler)

0031 エゾチッチゼミ C. yezoensis(Matsumura)

0032 クロイワゼミ Baeturia kuroiwae(Matsumura)

日本のセミの豊富さは外国の人びとにとっては想像を絶するものがあるらしい。琉球を除く日本各地に極めて普通に産すアブラゼミにしても、初めてこのセミをみた外国人は、異口同音に"beautifu1"とか、"excellent"と感嘆する。エメラルドを散りばめ、まるでアール・ヌーヴォーのガラス工芸品を思いおこさせるようなミンミンゼミ、山あいで涼しげな声で鳴くヒグラシ、独特なリズミカルな声で夏の終わりを告げるツクツクボウシなど、豊富で多彩なセミが挙げられる。セミの声は、日本人の生活の中に深く溶け込んでおり、季節の風物誌となるなど、日本人の感性にフィットしている。

各種の調査メッシュ図について

A 分布パターンを表している。

B やや情報不足(AとCの中間)

C 情報不足(分布の特色が出ていない。)

0001 ニイニイゼミ -------------------C

0002 ヤエヤマニイニイ ---------------A

0003 ミヤコニイニイ -----------------A

0004 イシガキニイニイ ---------------A

0005 クロイワニイニイ ---------------A

0006 チョウセンケナガニイ二イ -------A

0007 コエゾゼミ ---------------------B

0008 エゾゼミ -----------------------B

0009 ヤクシマエゾゼミ ---------------A

0010 アカエゾゼミ -------------------B

0011 キュウシュウエゾゼミ -----------A

0012 クマゼミ -----------------------B

0013 ヤエヤマクマゼミ ---------------A

0014 アブラゼミ ---------------------C

O015 リュウキュウアブラゼミ ---------A

0016 ハルゼミ -----------------------B

0017 エゾハルゼミ -------------------B

0018 ヒメハルゼミ -------------------B

0019 イワサキヒメハルゼミ -----------A

0020 ヒグラシ -----------------------B

0021 タイワンヒグラシ ---------------A

0022 ミンミンゼミ -------------------B

0023 ツクツクボウシ -----------------C

0024 オオシマゼミ -------------------A

0025 クロイワツクツク ---------------A

0026 イワサキゼミ -------------------A

0027 オガサワラゼミ -----------------A

0028 ツマグロゼミ -------------------A

0029 イワサキクサゼミ ---------------A

0030 チッチゼミ ---------------------C

0031 エゾチッチゼミ -----------------B

0032 クロイワゼミ -------------------A

琉球のセミ類は、ようやく大体の整理ができたのが現状で、まだ分類学的な再検討を要する事柄も二三残されているが、産地の局限される種が多いため、分布パターンの把握も容易で、Aの評価が多いことになった。それに対して、全国的に普通にみられるセミの分布状況は十分に把握されてはいない。「どこにでもいる」という安心感(?)からか、きちんと記録しようとしないからであろう。しかし、自然環境が大きく変わりつつある現状であり、その変化をみる上でも、現在の分布状況を把んでおく必要がある。前述の区分で、CをBやAにもっていけるよう努力すべきであろう。

2. 日本産各種の概要

1)0001 ニイニイゼミ Platypleura kaempferi (Fabricius)

日本全土(沖縄本島以北)、台湾、朝鮮、中国に分布。模式産地は"Japan"。

6月中旬ごろから9月にかけて至る所に最も普通に現われる日本のセミ。チィ-・・と"岩にしみ入る"ような鳴き声で、その初鳴きは梅雨明け、またはその近いことを告げる。広食性で、多くの樹木に生息するが、ミカン、ナシ、ビワなどの果樹園では多少有害と思われる。

2)0002 ヤエヤマニイニイ P. yayeyamana Matsumura

琉球の八重山諸島(石垣島、西表島)に固有。模式産地は"石垣島"。

前種に近縁で、鳴き声もよく似ている。5月下旬から11月までみられ、リュウキュウマツにとくに多い。前胸背側縁が大きく張り出しその角度は約90°である。

3)0003 ミヤコニイニイ P. miyakona (Matsumura)

琉球の宮古諸島特産。模式産地は"Miyakojima"。

宮古島では全島的に見られ、出現期は5月中旬から6月末。前翅の前縁部は基部に近く、強く張り出している。伊良部島、多良間島などにも分布する。

4)0004 イシガキニイニイ P. albivannata M. Hayashi

琉球の石垣島特産。模式産地は"Ishigaki Is."

石垣島北部(裏石垣)の米原付近に、6月から7月上旬に現われる。鳴き声は同属の他種と互いによく似る。後翅に白色部をもつ顕著な種。

5)0005 クロイワニイニイ P. kuroiwae Matsumura

琉球の奄美諸島と沖縄諸島に分布。模式産地は沖縄の那覇。

5月から8月上旬にかけて出現。種々の樹木に生息するのみならず、ススキ、サトウキビなどイネ科草本にも見られ、産卵も確認されている。形態や鳴き声はニイニイゼミに似ているが、体は一般的にやや小さく、後翅の外縁部の幅が広く、翅長の約1/3に及ぶため容易に区別される。

6)0006 チョウセンケナガニイニイ Suisha coreana (Matsumura)

日本では対馬だけに産するが、大陸性の種で、朝鮮半島から中国大陸に広く分布している。模式産地は韓国の"Tairyo"。

対馬では島内全域に分布するが、産地は局所的である。出現期は秋で、10月から11月にかけて現われ、10月後半が最盛期である。コナラ、スダジイなどの梢に多く、チーッ・チーッ・チーッ・・・・・・チーと断続的な声で鳴く。

本種は日本産の他のニイニイゼミとは別の仲間に属し、頭部が大きく、和名が示すように体表に黒色の長毛が密生し、後翅はオレンジ色である。

7)0007 コエゾゼミ Tibicen bihamatus (Matschulsky)

北海道、本州、四国、サハリン、南千島に分布し、九州や朝鮮からの記録のないことは注目される。模式産地は"Japon"。

北海道では平地や低山帯にいるが、西日本では標高1,000m前後より高いブナ帯に生息し、7月中旬より8月末まで、ジー・・・・・・という連続音で鳴く。本州での西限は広島県比婆郡道後山(1,268m)。四国ではかなりの産地が知られ、愛媛県石鎚山(1,982m)、同上浮穴郡皿が嶺(1,271m)、徳島県剣山(1,955m)、高知県長岡郡梶ガ森(1,400m)などである。種の特徴は♂の腹弁にはっきりしており、細長く八字状で、左右が重なることはない。

8)0008 エゾゼミ T. japonicus (Kato)

北海道、本州、四国、九州、朝鮮、中国に分布し、模式産地は"北海道、本州"。

北海道や東北地方では平地に産するが、西日本では標高500〜1,000mの低山帯に普通。7月中旬から9月上旬にかけて出現し、各種の樹木に生息するが、アカマツなどの針葉樹に多く、スギ、ヒノキなどの人工林にも珍しくない。ギー・・・・・・という連続音で鳴く。一見、前種に似ているが、体が一回り大きく、斑紋が比較的細いので区別できる。

9)0009 ヤクシマエゾゼミ T. esakii Kato

屋久島固有種。模式産地は屋久島の"Hananoego(花之江河)"。

屋久島の標高800〜1,800mの山地に生息し、スギの樹上に多く、エゾゼミの声を低くしたような声で鳴く。個体数は少くない。

1O)0010 アカエゾゼミ T. flammatus (Distant)

北海道、本州、四国、九州、朝鮮、中国に分布する。模式産地は"Japan:Yessoand Tokoe"。

エゾゼミとほぼ同じ標高の所に生息し、混生することもある。7月中旬から9月上旬にかけて出現し、梢付近や枝先の葉上にとまって、コエゾゼミの声を低くしたような、ジ・・・・という声で鳴き、鳴き終ると直ちに飛び去る。広葉樹林にのみ生息し、マツ林やスギ・ヒノキ植林ではみられない。体の大きさ、斑紋などもエゾゼミに似ているが、和名のように橙色が強く、前胸背ではその内片と外片との色彩の差が小さく、♂の腹弁は短く、円味がある。

11)0011 キュウシュウエゾゼミ T. kyushyuensis (Kato)

本州(広島県)、四国(愛媛県、高知県)および九州に分布する。模式産地は九州の大分県九重山。西日本特産種である。

本州では、広島県山県郡臥竜山(刈尾山1,223m)の他、恐羅漢山、十方山などの西中国山地の頂点部のみに産す。四国の愛媛県では、上浮穴郡大野ガ原(1,000〜1,200m)一帯に生息することが以前から知られ、石鎚山ではコエゾゼミと混生するらしい。高知県では中〜西部の山地から局所的に記録され、四国では標高1,000〜1,500mの山地に広く分布しているものと思われる。九州では英彦山、九重山、市房山一帯に点々と産地が知られている。本種の分布状況とくにコエヅゼミとの関連については今後の調査に大いに期待される。本種は、形態、生態共にコエゾゼミに似ているが、中胸背の斑紋が大きいこと、腹弁の形状によって区別できる。

12)0012 クマゼミ Cryptotympana facialis (Walker)

本州(関東地方以西)、四国、九州、琉球、台湾?、中国大陸?、タイ?。模式産地は"Siam"。タイの記録はおそらく何らかの間違いによると見なされる。台湾から本種として記録されたものは、これまでのところ近似の別種タカサゴクマゼミ C. takasagona Katoである可能性が高い。腹部背面には白粉による帯状紋が現れることがあり、宮古諸島の多良間島と八重山諸島の個体群は腹部背面の白粉紋が発達し、そのため別亜種として扱われていたが、地理的変異と見なすべきものと考えられる。なお、同じような現象が、インドネシアのジャワとバリに分布する1種、C. acuta (Signoret)にもみられる。

7月中旬から9月上旬にかけて現われ、カキ、センダン、ビワ、ホルトノキなどの幹に群れるものが多い。早朝から午前中にシャア・シャア・・・・・・と大きな声で鳴く。

13)0013 ヤエヤマクマゼミ C. yaeyamana Kato

琉球の八重山諸島(石垣島、西表島)特産種。模式産地は"琉球(八重山)"。

普通7月中旬から9月下旬に現われ、カラスザンショウを好み、細い枝に止まってミンミンゼミのようにミーン、ミーンと鳴く。日本最大のセミで、クマゼミよりやや大きく、体は黒色で光沢を装い、黄金色の鱗毛で覆われている。

14)0014 アブラゼミ Graptopsaltria nigrofuscata (Motschulsky)

北海道、本州、四国、九州(屋久島以北)、朝鮮、中国に分布し、模式産地は"Japon"。

日本各地に7月中旬から9月中旬にかけて、極めて普通の、いわば日本のセミの代表。多食性で、種々の樹木にみられるが、リンゴ、ナシなどの果樹害虫になることがある。

15)0015 リュウキュウアブラゼミ G. bimaculata Kato

琉球の奄美諸島と沖縄諸島に分布し、模式産地は"琉球(那覇)"。6月中旬から10月にかけて普通。前種によく似ているが、頭部と胸背に茶色や緑褐色の斑紋を有し、鳴き声も連続的な前種に対し断続的である。比較的暗い林中にみられ、鳴き移りもよく行なう。

16) 0016 ハルゼミ Terpnosia vacna (Olivier)

本州、四国、九州、中国に分布し、模式産地は"Japon"。

4月末から6月上旬にかけて、平地から山地にかけてのマツ林に多く、横枝にとまって、晴れ間に合唱する。最近の松枯れによるマツ林の消滅と開発などの人為的破壊によって、残念にもハルゼミの全く見られなくなった所が多い。ハルゼミはアカマツ、クロマツに限って生息し、他の樹木にすめないことによる悲劇としかいいようがない。石原(1982)を参照のこと。

17)0017 エゾハルゼミ T. nigricosta (Motschulsky)

北海道、本州、四国、九州、サハリン、南千島、中国と広範な分布が明らかになったが、模式産地は"Japon"である。

北海道や東北地方では平地や低山帯に、西日本では標高700〜1,500mのブナ帯に生息し、5月下旬から7月末まで、広葉樹上にあって、ミョーキン!ミョーキン!ケケケ・・・・・・と奇妙なカエルのような声で鳴く。大きさは前種とほぼ同じであるが、♂の腹部が大きく袋状で、胸背には緑色や褐色の斑紋があるので容易に区別される。

18)0018 ヒメハルゼミ Evterpnosia chibensis Matsumura

本州、四国、九州、琉球に分布。模式産地は千葉県の"Mt.Yawata"。日本固有種。

次の3亜種に分けられている。

0018a ヒメハルゼミ基本亜種 E. chibensis chibensis Matsumura

分布は本州(関東以西)、四国、九州、琉球(徳之島以北)。

シイ、カシ類、ツバキ、タブノキなどの暖帯林にみられ、7月に入ると多数が出現し、濁った低いウワーンといった声で鳴き、8月になれば姿を消し、鳴き声も絶える。本種は顕著な合唱性を持つので、最盛期にはたいへんにぎやかである。北限の茨城県笠間市(八幡社、楞厳寺)、千葉県茂原市(八幡山)、新潟県西頚城郡能隼町(白山神社)の発生地は、国指定の天然記念物として保護されているが、四国の西南部の海岸や島嶼部では、普通のセミである。

0018b ダイトウヒメハルゼミ E. chibensis daitoensis Matsumura

分布は北大東島と南大東島。模式産地は"Daitojima"。

基本亜種では、体の背面には光沢を欠き、斑紋は明瞭、腹部背面の節間膜が黒褐色であるのに対し、本亜種では体の背面に光沢があり、斑紋は不明瞭。3月中旬〜4月上旬の早い時期に出現し、海岸近くの岩礁上の植生にすむ。島内での分布も限られ、個体数も少なく、保護しないと絶滅が危まれる。

0018c オキナワヒメハルゼミ E. chibensis okinawana Ishihara

沖縄本島とその北西に位置する伊平屋島に産する。模式産地は"Yona,OkinawaI."。沖縄本島では北部と本部半島の山地だけに生息し、イタジイ林にすむ。6月にもっとも多く、細い枝にとまって大合唱をする。

基本亜種や前亜種では、頭部が前胸背最大幅より狭く、口吻は後基節を超えないが、本亜種では、頭部は幅広く、前胸背大幅とほぼ同じで、口吻は後基部を超えて後方に伸びるなどの相違があり、一段と小さい体や翅、特異な腹部の形状などの特徴から、ヒメハルゼミの亜種とすべきかどうか、今後検討する必要がある。

19)0019 イワサキヒメハルゼミ E. iwasakii (Matsumura)

琉球の八重山諸島(石垣島、西表島、与那国島)特産種。模式産地は"沖縄(八重山)"。

山間の林中に、4月中旬から8月上旬に出現し、種々の広葉樹の枝にとまって、ヒメハルゼミに似た低くゆっくりとしたテンポの声で鳴く。本種はヒメハルゼミ基本亜種に似ているが、一回り小形で、胸背の黒条は細く、容易に区別できる。

20)0020 ヒグラシ Tanna japonensis Distant

北海道(南部)、本州、四国、九州、琉球、朝鮮、中国(東北部)に分布。模式産地は"Japan:Tokoe"。文学上にもよく出てくる日本のセミである。

現在の知見では、次の2亜種に分けられる。

0020a ヒグラシ基本亜種 T. japonensis japonensis Distant

分布は北海道、本州、四国、九州、トカラ列島、宝島、奄美大島、朝鮮半島、中国(東北部)。

関東以北では平地にもいるが、西日本では低山帯から山地にかけて多く、出現期は7月上旬から9月上旬。鳴き声はケケケ・・・・・・と、涼しげである。なお、奄美大島の個体では、鳴き声がやや異なる。

0020b イシガキヒグラシ T. japonensis ishigakiana Kato

琉球の八重山諸島(石垣島、西表島)に産する。模式産地は示されていないが、和名などから石垣島と思われる。

ヒグラシとの相違点として、イシガキヒグラシの中胸背には黒色部がなく、斑紋がぼやけていることくらいしか、指摘しえないが、生物地理的にみても、ヒグラシの亜種とするのは問題がある。奄美大島産のを含め、今後分類学的な再検討が必要である。

21)0021 タイワンヒグラシ Pomponia linearis (Walker)

琉球(八重山諸島:石垣島、西表島)、台湾、中国、ベトナム、タイ、バングラデシュ、インド、スマトラ、ジャワ、ボルネオなど、東洋熱帯に広く分布する。

出現期は長く、5月下旬から11月におよぶ。午後6時頃から濁った大声で鳴く。鳴き移りもよくおこなう。

22)0022 ミンミンゼミ Oncotympana maculatico11is (Motschulsky)

北海道、本州、四国、九州、朝鮮半島、中国、アムールに分布し、模式産地は"Japon"。

東日本では平地に多いが、西日本では主に低山帯から山地に生息する。ミーン・ミンミンミン・ミーと鳴き、和名は明らかにこの鳴き声に由来する。出現期は7月下旬から10月上旬までで、夏の後半に特に多い。

23)0023 ツクツクボウシ Meimuna opalifera(Walker)

分布は北海道、本州、四国、九州、琉球(トカラ列島悪石島以北)、台湾、朝鮮、中国。模式産地は"Corea"。

模式産地は日本ではないが、日本各地の広葉樹林に7月下旬から9月にかけて普通にみられるセミで、8月中旬に個体数を急増するため、秋の近いことを告げるセミとされる。その鳴き声は、リズミカルで音楽的である。

24)0024 オオシマゼミ M. oshimensis (Matsumura)

分布は琉球の奄美大島、徳之島、沖縄本島、慶良間列島、久米島。模式産地は"Oshima und Kikaigashima"であるが、喜界島産の個体(♀)は0025クロイワツクツクの誤りである。

山間部の種々の樹木の主として幹にとまって、カンカン・・・・というかん高い声で鳴く。出現期は7月から11月末に及ぶ。本邦の Meimuna属の最大種で、色彩や斑紋は前種に似ているが、緑色味が強い。♂の腹弁は大きく、長三角形状である。

25)0025 クロイワツクツク M. kuroiwae Matsumura

九州(大隅半島鹿屋市以南)から琉球(沖縄本島以北)の各島に普通に産し、模式産地は"Riukiu(Naha)"。

平地から山間部にかけて、7月末から10月下旬に現われ、9月に最盛期となる。リュウキュウマツ他の種々の樹木の幹や枝に止まって、のんびりした独特の声で鳴く。本種はツクツクボウシに比べてやや大きく、♂の腹弁が長円形であるため区別できる。

本種にみられる個体変異や地理的変異によって、多くの別名(異名)がある。すなわちオオシマツクツク(屋久島、奄美大島)、キカイゼミ(喜界島)、サカグチゼミ(沖縄本島)、ツチダゼミ(大隅佐多岬)、ヘントナゼミ(沖縄本島辺土名)などである。

26)0026 イワサキゼミ M. iwasakii Matsumura

琉球(八重山諸島:石垣島、西表島)、台湾に分布。模式産地は"沖縄(八重山)"。

山間部の種々の樹木に生息し、テンポの早いせわしない声で鳴く。出現期は普通8月中旬からll月下旬。クロイワツクツクに比べ、頭部と胸部とが比較的大きく、♂の腹弁は長く、先は尖っているため区別できる。

27)0027 オガサワラゼミ M. boninensis (Distant)

小笠原諸島(父島列島、母島列島特産)。模式産地は"Bonin Islands"。

出現期は長く、5月から12月にかけて現われ、種々の樹木に生息する。本種は小笠原諸島の固有種と考えられて、天然記念物にも指定されているが、形態的にも生態的にもクロイワツクツクと決定的な相違点がなく、おそらく、植物と共に琉球より入って広がったものであろうという意見がある。

28)0028 ツマグロゼミ Nipponosemia terminalis (Matsumura)

分布は琉球(宮古島以西)、台湾、中国、模式産地は"沖縄(八重山、宮古島)、中国(四川州)"。

4月下旬から7月下旬にかけて、イスノキ、カラスザンショウなどの繁みに出現し、シー、シー、と鳴く美しく小さいセミである。宮古島の産地はきわめて局限され、そこでは天然記念物として保護されている。

29)0029 イワサキクサゼミ(ヒメクサゼミ) Mogannia minuta Matsumura

琉球(沖縄本島南部以西)、台湾に分布。模式産地は台湾の恒春。

日本産の中で最小のセミ。3月から7月にかけて出現し、ススキ、サトウキビなどイネ科草本の葉上にあって、ジーと鳴く。

イワサキクサゼミ M. iwasakii Matsumura, 1913は、台湾産のヒメクサゼミ M. minuta Matsumura, 1907のシノニムであり、学名は当然 minuta にしなければならないが、和名は、現在のまま(イワサキクサゼミ)をすすめたい。琉球ではサトウキビの害虫とされ、その名も浸透しているのに対して、台湾では南部に局所的にみられる稀種と思われるからである。なお、台湾でサトウキビ害虫とされるのは別種、クサゼミ M. hebes (Walker)である。

30)0030 チッチゼミ Cicadetta radiator (Uhler)

北海道、本州、四国、九州に分布。模式産地は"Japan"。日本固有種。

北海道と九州では産地が局限される。7月中旬から10月上旬にかけて、低山帯から山地に多く、好んでアカマツ、スギなど針葉樹の小枝や葉にとまって、チッチッ・・・・・・と弱い連続した声で鳴く。

31)0031 エゾチッチゼミ C. yezoensis (Matsumura)

分布は北海道、南千島、サハリン、ウスリー、朝鮮、中国(東北部)。模式産地は"Japan(Hokkaido)"。

北海道での分布西限は、小樽市と登別温泉を結ぶ線と考えられている。本州の日本アルプスで採られたという未確認記録もある。前種と比較すると大形で、体が短く、ずんぐりしているため容易に区別できる。海岸近くから標高1,000mくらいの山地まで生息し、7月下旬から9月中旬にかけて、種々の樹木の枝葉に止まって、シシシ・・・・と鳴く。鳴いたまま、飛ぶという変わった習性がある。

32)0032 クロイワゼミ Baeturia kuroiwae (Matsumura)

琉球の沖縄本島と久米島特産種。模式産地"沖縄"。

体全体が鮮黄緑色で、眼がグレーの小型で美しいセミ。種々の広葉樹の枝葉部に生息し、夕方の7時すぎの約30分間、チュチュチュ・・・・と可愛らしい声で鳴く。出現期は5月末から7月中旬だが、6月後半に多い。

(林 正美)

引用文献

林正美、

1984. 日本産セミ科概説.日本セミの会々報,5(2-4):25-76.

林正美、

1989. 日本産セミの分布調査報告(1).アブラゼミ属、エゾゼミ属.日本セミの会々報、8(1):1-27.

林正美、

1990. 日本産セミの分布調査報告(2).ハルゼミ属,ヒメハルゼミ属,ヒグラシ属,タイワンヒグラシ属,ミンミンゼミ属.日本セミの会々報,9(1-3):1-46.

林正美、

1991. 日本産セミの分布調査報告(3).ニイニイゼミ属,ケナガニイニイ属,クマゼミ属.日本セミの会々報,10(1-2):1-32.

林正美、

1992. 日本産セミの分布調査報告(4).ツクツクボウシ属,ツマグロゼミ属,クサゼミ属,チッチゼミ属,クロイワゼミ属.日本セミの会々報,11(1-2):1-32.

石原保、

1982. 指標昆虫としてのハルゼミ.遺伝,36(7):23-28.

 

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