第1部 調査方法

 

1.動植物分布調査(全種調査)概要

(1)目的

本調査は、第4回自然環境保全基礎調査・動植物分布調査の一環として動物の主要分類群の全種(または一部の種)を対象に専門研究者の参加・協力を得て実施したものである。(図1−1)

自然環境保全基礎調査の目的は、全国的視点から我が国における自然環境の現状を科学的に把握し、自然環境保全施策の推進のための基礎資料を提供することである。野生動物についていえば、人間を含むあらゆる動物は、大気・水・土地やその上に生育する植物(植生)等の環境に依存して生息するとともに、生態系を構成する一員としてそれを支えている側面があるが、中には、環境条件の変化等さまざまなインパクトにより絶滅の危機に頻している種もあり、一方、一部の帰化動物に代表されるように一定条件の下で分布域を著しく拡大するような種もある。

このため、野生動物に関する自然環境保全施策として、当面、絶滅のおそれのある種の保護や、人間生活との関わりの中で適切な保護管理を要する種に対する施策が優先的に講じられているところである。

自然環境保全基礎調査の一環として行う動植物分布調査(全種調査)は、これら施策の対象となるべき種の洗い出しや、今後講ずべき施策の検討のための、基礎的かつ客観的資料を提供する目的で、究極的には我が国に産する動物群の全種に関する全国的分布の現状及び経年変化の状況を把握しようとするものである。

(2)調査の内容及び方法

全種調査は、究極的には我が国に産する全ての動物種について、分布の現状を把握するとともに調査の積み重ねにより経年変化状況も把握しようとするものである。

このために必要な最小限の情報は「いつ、どこに、何が」いたかということである。また、必要に応じ情報源をたどるためには「誰が」報告したかということも重要である。

本調査では、調査対象種が多く、また、多数の調査員(専門研究者)の協力を得て実施するため、調査項目は上記に示すできるだけ単純かつ客観的な資料を得るためのものに絞りこんだ。

これらの調査項目に関する具体的な調査方法及び調査体制ならびに今回調査における調査対象種については、平成元年度に実施した「第4回自然環境保全基礎調査(動物分布調査)における調査手法の検討調査」に引続き、環境庁が設置した自然環境保全基礎調査検討会の下に動物の各分類群毎に設けた分科会(以下「分科会」という。)における検討作業を経て下記のとおり決定された。

なお鳥類は、一部の種の集団繁殖地および集団ねぐらの状況について、分布、個体数、環境等を調査したため、本報告書に記述されている調査方法、取りまとめ方法とは異なる方法で実施された。

1調査対象種

今回の調査では、生態系の主要な位置を占め、生物学的知見の蓄積がある等の要件を満たし、さらに調査実施体制の構築が可能という観点を加味して次の分類群に属する全部または一部の種・亜種を対象とした。

ア.哺  乳  類(全種)

イ.両生類・爬虫類( 〃 )

ウ.淡 水 魚 類( 〃 )

エ.昆  虫  類(トンボ類・セミ類・チョウ類の全種及びガ類・甲虫類の一部)

オ.陸産及び淡水産貝類(全種)

カ.鳥類(集団繁殖地及び集団ねぐらを形成する一部の種)

これらの調査対象種について、本調査における種名の呼称の統一をはかるとともに既存の知見を整理するため、第3回自然環境保全基礎調査の動物分布調査に先立ちとりまとめられた「動物分布調査のためのチェックリスト」(環境庁、1983)を参考にして、各分科会において新たに第4回調査用の調査対象種一覧(巻末資料4)を作成した。この際、第3回調査以降分類学上の変更が生じた種については、別途調査対象種変更点一覧(巻末資料5)としてとりまとめた。

調査対象一覧は、種の学名及び和名を対応させるとともに(淡水魚類を除く)電算処理のためのコード番号が付されている(巻末資料参照)。

2分布地

調査対象種の分布地を記録する方法としては、地名呼称によるあいまいさを避け、電算処理を容易とするために、「標準地域メッシュ・システム」(昭48.7.12行政管理庁告示第143号「統計に用いる標準地域メッシュ及び標準地域メッシュコード」)による第3次地域区画(「基準地域メッシュ」または「3次メッシュ」ともいう。本報告書では以下「3次メッシュ」という。)を基本とした。この3次メッシュの大きさは、タテ(緯度差)30秒、ヨコ(経度差)45秒であり、概ね1km×1kmである。

なお、補助情報として従来どおりの地名による表記も採用し、メッシュコードのチェックが可能となるようにした。なお、今回調査では、一部過去の記録も収集したため、3次メッシュの特定が不可能な場合には「第2次地域区画」(以下「2次メッシュ」という。約10km×10kmの範囲で、1/25,000地形図1枚分に対応する。)により記録した。

3調査時期

今回調査は、全分類群について平成2年度〜3年度に実施した。(さらに、とりまとめの段階で平成4年度以降のデータも若干補足されている。)

また、今回調査は、全種調査としては第2回目(第1回目は第3回自然環境保全基礎調査において実施された。)であるが、調査期間中のデータのみでは分布図を作成するには不十分であったため、過去の記録、標本等であっても、現在の分布を反映していると考えられる情報については積極的に収集した。

調査年月日は、実際に記録(観察もしくは標本採集)された時点を調査票に記入し、過去の記録については、さらに調査票記入者名のほかに、観察または採集者名及び標本所蔵場所を明記することとした。

4調査体制

第4回基礎調査の動植物分布調査(鳥類を除く)では、第3回調査に引続き全国各地の調査員(専門研究者)が、自らのフィールドで得た情報を直接環境庁に報告し、環境庁はこれらの報告を集大成して調査員に還元することにより、今後の継続的情報収集に資する調査網づくりと調査精度の向上を目指す調査体制を採用した。

特に動物の分布調査においては、そもそも目指す動物との出合の機会は偶然性に左右され、少数の調査員が限られた期間に充分なデータを収集することは困難であるため、継続的・反復的調査の必要性が高い。

また、本調査(全種調査)では、調査対象分類群が多岐に上ることから、調査員は、種の分類・同定に関する確かな知識と能力を備えていることが必須である。

このため、原則として分類群毎に、分科会検討員や学会等から推薦されたできるだけ広範な専門研究者に対し、環境庁から直接、調査への協力要請を行い、承諾頂いた方々について調査員として依頼し、調査体制を作った。

調査員数は全分類群を通じ、延べ2,521人である。

5実施方法

各調査員には、調査実施要綱等(巻末資料参考)のほか、次に示す調査票、メッシュ地形図を送付し、原則として平成4年3月31日までに調査結果を環境庁あて返送するよう依頼した。

ア.調査票

調査票は、分類群別に、図1−3に示すような2種類の様式のものを使用した。これは、調査員の作業の便を考慮したもので、「調査地」毎の情報整理には、タテ型の調査票(E票)、「種」毎の情報整理には、ヨコ型の調査票(N票)というように自由に選択して使用できることとした。

イ.メッシュ地形図

調査地(分布地)のメッシュコードを読みとるために、5万分の1地形図上に3次メッシュ区画線等を別刷した「1/5万メッシュ地形図」を作成し、各調査員より申告のあった調査地域分を配布した。(図1−4)

 

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