14.カサゴ目

(1)カジカ科

○ヤマノカミ Trachiderumus fasciatus

日本では福岡県の矢部川、筑後川、佐賀県の嘉瀬川、住の江川、六角川、浜川のほか、長崎県や熊本県の有明湾とその流入河川に分布する(木村,1980)。しかし仔稚魚の分散状況からみて、諌早湾奥部に注ぐ本明川から佐賀・福岡両県を経て、熊本県緑川までの多くの河川に生息するものと思われる(田北,1990)。今回の分布図は既知分布の現状からみて、情報量がやや少ない。環境庁(199l)は本種を危急種としている。

○カジカ類 Cottus spp.

カジカ属のほとんどの種が混じって報告されている。種を限定することができない。

○カジカ(生態型不明) Cottus spp.

カジカの陸封型とカジカの回遊型を区別することが困難な情報を得るためであったが、カジカ、ウツセミカジカ以外のカジカ属の種が混入した可能性がある。

○陸封型カジカ=カジカ Cottus pollux

河川陸封型(大卵型)と両側回遊型(小卵型)が存在し、両型は別種である可能性が示唆されていた(水野・丹羽,1961)。最近の研究で両型が別種にされ(中坊,1993)、本種は従来の河川陸封型(大卵型)=カジカに相当する。本州、四国及び九州北西部に分布し、河川の上流の砂れき底に生息する。分布図では四国と九州の情報が得られていない。

○回遊型カジカ Cottus reini

従来のカジカの両側回遊型(小卵型)とされていたものは琵琶湖固有種と考えられていたウツセミカジカと集団遺伝学的研究で差がないことが判明した(岡崎・小林,1992)。学名の問題はまだ解決していないが、両者は同一種にされた(中坊,1993)。北海道の日本海側積丹半島以南、秋田県から新潟県までを除くほぼ本州の全域、四国、九州北西部に分布する。河川の中・下流の石れき底に生息する。回遊型カジカとした分布図は情報が総じて少なく、北海道と九州の情報を欠いている。

○ウツセミカジカ Cottus reini

琵琶湖固有種と考えられていたが、最近の研究で回遊型カジカと同種とされた(回遊型カジカ参照)。

○カンキョウカジカ Cottus hangiongensis

日高地方以東の太平洋側を除く北海道及び東北地方に分布するほか、富山湾に注ぐ河川からも知られている。北海道の日本海側に多い。国外では朝鮮半島東部と沿海州に分布する(後藤,1990)。河川の中・下流域の早瀬や岸寄りの浅瀬に多く生息する両側回遊型カジカである。今回の情報はおおむね既知の分布の現状をあらわしている。

○ハナカジカ Cottus nozawae

従来ハナカジカとされていた2型(後藤,1975a,b)のうち、河川陸封型(大卵型)に相当する(Goto,1980,1983)。北海道のほぼ全域及び青森県、秋田県、岩手県の一部の河川の上流部に局所的に分布する。河川の中・上流の平瀬の石れき底や蛇行型の淵に多く見られる(後藤,1990)。分布図では北海道の南部、オホーツク海側及び日本海側北部の情報を欠いている。

○エゾハナカジカ Cottus amblystomopsis

従来ハナカジカの両側回遊型(小卵型)とされていたが、別種にされた(Goto,1980)。日本では北海道の津軽海峡側から標津地方までの太平洋とオホーツク海側の河川に分布する(Goto,1980;後藤,1990)。河川の下流域や感潮域を含む河口域の平瀬の石れき底に好んで生息する。国外ではサハリンやアムール水系から知られている。今回の調査では全体に情報量は少ない。特に北海道南部、日高地方の空白地帯が目だつ。

○カマキリ Cottus kazika

日本の固有種。陸海回遊型のカジカで、本州では伊豆半島から紀伊半島の太平洋側及び秋田県の水沢川(杉山,1981)以南の日本海側、四国では太平洋側の河川、九州では熊本県の球磨川と宮崎県の数河川に分布する。河川の中流域の瀬のれき底に好んで生息する(後藤,1990)。今回の調査でも一部の地域で天然記念物に指定されている福井県、熊本県の情報が得られていない。

(尼岡 邦夫)

引 用 文 献

 

後藤 晃.1975a. ハナカジカ Cottus nozawae Snyderの生態的形態的分岐−I.産卵習性及び初期発育過程.北大水産彙報,26(1):31-37.

後藤 晃.1975b. ハナカジカ Cottus nozawae Synderの生態的形態的分岐−U.成魚の形態及び分化について.北大水産彙報,26(1):39-48.

Goto, A. 1980. Geographical distribution and variations of two types of Cottus nozawae in Hokkaido, and morphological characteristics of C. amblystomopsis from Sahkalin, Japan. J. Icthyol. 27(1)79-105.

Goto, A. 1983. Spawning habits and reproductive isolating mechanism of two closely relative river-scalpins, Cottus amblystomopsis and C. nozawae. Japan. J. Ichthiol., 30(2):168-175.

後藤 晃.1990.アユカケ,カンキョウカジカ,ハナカジカ,カジカ,ウツセミカジカ.日本の淡水魚(川那部浩哉・水野信彦編):654-668,山と渓谷社.

環境庁(編).1991.日本の絶滅のおそれのある野生生物−レッドデータブック−脊椎動物編.(財)日本野生生物研究センター.東京.331pp.

木村清朗.1980.動物分布調査報告書(淡水魚類):149-151.日本自然保護協会.

水野信彦.丹羽 弥.1961.カジカ Cottus pollux Guntherの生態的2型.動物学雑誌,70:25-33.

中坊徹次.1993.日本産魚類検索:556-557,東海大学出版会.

岡崎登志夫・小林敬典.1992・カジカの遺伝的分化−種分化の様式をめぐって.1992年度日本魚類学会年会講演要旨:42.

田北徹.1990.ヤマノカミ.日本の淡水魚(川那部浩哉・水野信彦編):654,山と渓谷社.

杉山秀樹.1981.秋田県に生息する淡水魚の研究−2.秋田県に生息する淡水性カジカ属4種の分布について.日本水産学会東北支部会報,31:22-26.

 

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