7.ナマズ目

(1)ナマズ科

○ナマズ Silurs asotus

今回の調査によってはじめて分布状況が明らかになった。分布図では、北海道・大分県・佐賀県・沖縄県が欠落しているが、国内では本種が生息しないのは沖縄県のみである(青柳,l979;瀬能,1985)。本種は古くから各地に移殖されているため、自然分布を知ることはきわめて困難であるが、木村(1983)によれば関東以北の分布は江戸時代以降の移殖の可能性があると言う。少なくとも青森県と北海道のものは移殖であるとされている(成田,1935;後藤,1982)。

○ビワコオオナマズ Silurus biwaensis

琵琶湖固有種。自然分布をよく表わしている。本種は琵琶湖本体以外に、その流出河川である瀬田川・宇治川(前畑,未発表)や淀川(長田,1982;矢田ほか,1987)にも生息している。ただし、これらの河川における繁殖については未確認である。

○イワトコナマズ Silurus lithophilus

琵琶湖水系(琵琶湖と余呉湖)の固有種。最近、前畑ほか(1990)により、本種が琵琶湖の流出河川である瀬田川にも生息することが明らかにされている。

(前畑 政善)

引 用 文 献

青柳兵司.1979・日本列島産淡水魚類総説・(財)淡水魚類保護協会,vi+ii+ 272pp.+xvii+xx.(復刻版.原著は1957年に大修館より発行)

後藤 晃.1982.北海道の淡水魚相とその起源.淡水魚,(8):19-26.

木村 重.1983.魚紳士録 上巻.617pp.緑書房,東京.

前畑改善・長田芳和.1990.イワトコナマズ Parasilurus lithophilusの新分地.滋賀県琵琶湖文化館研究紀要(8):1-5.

長田芳和.1982.淀川の魚.淡水魚 創刊号:7-15.

成田末五郎.1935.最近に於ける青森県下の動物の変異.青森博物研究会会報 I:1-18.

瀬能 宏.1985.沖縄の川魚滅亡の危機.淡水魚,(11):73-78.

矢田敏晃・加藤喜久也ほか.1987.大阪府淡水魚試験場研究報告(9):125pp+72pp(資料).大阪府淡水魚試験場.

(2)ヒレナマズ科

○ヒレナマズ Clarias fuscus

本種の自然分布域は長江以南の中国、台湾島、海南島、フィリピンであるが、日本では1950年代以降に台湾から石垣島に移入されたものが、宮良川中流域や元名蔵の水田地帯に定着している(瀬能・鈴木,1980;川那部・水野編・監修,1989)。今回の調査では確認されていないが、これは本種の主たる生息場所が在来種があまりみられない止水域であるため、そのような環境の調査が十分に行われなかった結果であると考えられる。石垣島では各種の開発にともない、本種の好む環境が近縁急速に増加しつつあるので、在来種への影響も含めて、今後十分な動向調査を継続する必要がある。

(瀬能 宏)

引 用 文 献

川那部浩哉・水野信彦編・監修・1989・山渓カラー名鑑:日本の淡水魚・719pp.山と渓谷社,東京.

瀬能 宏・鈴木寿之. 1980. 八重山列島の淡水魚(I). 1-8. 淡水魚, 6:54-65, pls. 1-8

 

(3)ギギ科

○ギギ Pelteobagrus nudiceps

中部以西の自然分布のパターンがよく表わされているが、全体の分布域は移殖により第3回調査時にくらべて拡大している。新潟県、山陰地方、九州地方の個体群は自然分布か人為分布かの判断がつかない。本種は日本産ギギ科魚類のなかでもっとも優勢で、他のギギ科魚類と共存する水系では、在来の他魚種を圧迫する恐れがある。とりわけ、絶滅危惧種ネコギギが局在する濃尾平野では、ギギが拡大の様相を示しており、厳戒を要する。

○ネコギギ Coreobagrus ichikawai

調査結果は自然分布をよく反映している。個体群規模ほどの水系でも小さく、地域に根ざした保護体制を早急に確立する必要がある。絶滅危惧種(環境庁,1991)、国の天然記念物である。

○ギバチ Pseudobagrus tokiensis

自然分布は関東以北の本州。東北地方の情報がやや不足しており、福島県下ではその生息を確認することができなかった。日本の固有種。各地で減少している。

○アリアケギバチ Pseudobagrus aurantiacus

従来九州産ギバチとされていたもので、関東以北のギバチとは別種であることがすでに確認されている(上野,1974,1985;細谷,1993)。九州西北部に局在する。長崎県壱岐からも記録されているが(森,1937)、その後確認されていない。環境庁(1991)は本種を絶滅危惧種としている。

(細谷 和海)

引 用 文 献

 

細谷和海. 1993. ギギ科. 中坊徹次編 日本産魚類検索, P.236, 東海大学 出版会, 東京.

環境庁(編).1991.日本の絶滅のおそれのある野生生物−レッドデータブック−脊椎動物編.(財)日本野生生物研究センター. 東京. 331pp.

森 為三. 1937. 壱岐島産淡水魚類.朝鮮博物学会雑誌, 22:94-95.

上野紘一. 1974. ギバチの地理的集団間にみられた染色体と酵素分子型の多型現象. 魚類学雑誌, 21(3):158-164.

上野紘一. 1985. 日本および韓国産ギギ科魚類の核型. 海洋科学, 17(2):102-108.

 

(3)アカザ科

○アカザ Liobagrus reini

自然分布は宮城県・秋田県以南の本州、四国とされているが(宮地ほか,1976)、第3回、第4回調査結果とも、関東以北宮城県までの太平洋岸側は空白地帯となっているので、この地域の自然分布については再考を要する。本調査では日本版レッドデータブック(環境庁,1991)で、保護に留意すべき地域個体群に位置づけられている九州産アカザが、福岡県から再確認された。

(細谷 和海)

引 用 文 献

 

環境庁. 1991. 日本の絶滅のおそれのある野生動物(レッドデータブック),脊椎動物編.自然環境研究センター, 東京, 340pp.

宮地伝三郎・川那部浩哉・水野信彦. l976. 原色日本淡水魚類図鑑 第2版, 保育社, 大阪, 462pp.

 

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