W.まとめ

 

 第4回自然環境保全基礎調査における動植物分布調査の全種調査は、哺乳類、両生類・爬虫類、淡水魚類、昆虫類(トンボ類、ゼミ類、チョウ類、ガ類の一部、甲虫類の一部)、貝類(陸産貝類、淡水産貝類)を調査対象に実施した。本調査においては、種の同定能力のある専門研究家に協力を要請し、分布情報の提供をいただいたもので、結果として約2,600名の協力が得られ、延べ報告件数はおよそ53万件にのぼった。これらの分布に関する原情報は、1kmメッシュの情報であるが、分布図に整理する際しては10kmメッシュに変換して表示した。分布図は、報告のあった全ての種について作成し、分類群ごとの分冊(哺乳類、両生類・爬虫類、淡水魚類、トンボ類、チョウ類、ガ類、ゼミ類・甲虫類、貝類の8分冊)として取りまとめた。

 

1.全種調査全般について

全種調査は、生物地理学、生態学等の自然科学の基礎資料になるとともに、動植物の保護管理のための施策立案に客観的な情報を提供することを目的に、人為的、自然的要因により変化し続ける我が国の生物相を網羅的に記録する事を目指しているものである。

なお、この調査を通じて、特定の目的に利用が限られていた各種の調査結果や、公開の機会が限られていた個人の観察記録などが有効な分布情報として蘇生されるよう期待した。

今回の調査では、ごく限られた期間の内に、約2,300種についての分布情報が得られ、全てが分布図化された。分布情報に空白域があって全ての分布図が全国的な分布状況を表しているわけではないが、半数以上の分布図が「分布パターンを表している」と判定されたこと、分布に関するいくつかの新しい知見が得られたことなどが今回の全種調査の成果である。なお、今回の調査では、第3回調査に引続き、全国の専門家の協力によりデータを収集する、という調査体制が採られたが、前回にも増して多くの専門研究者の理解が得られた。これは、今後の全種調査継続に明るい展望を与えるものである。

しかし、今回の調査を顧みれば、いくつかの問題点も指摘される。まず、調査者になりうる人の絶対数が限られ、かつ調査フィールドの地域的な片寄りもあって、収集された分布情報にも地域的な片寄りが見られ、調査の全国的な均一性はまだ確保できていない。このことから、今回の報告書は前回調査結果より分布情報数及び精度に向上が見られるもののまだ情報の補完の余地が残されているといえる。

また、調査者の負担についての問題として、地域メッシュコードの検索・書き写しに多くの時間を要したこと、調査票の控えが手元に残せなかったことなどが挙げられる。

今後の調査継続の際には、分布情報の空白の解消とともに、調査員の省力化についての改善策の検討が必要である。

 

2.両生類・爬虫類の調査について

両生類・爬虫類については、発見の機会が時期や偶然性に左右され易く、得られた分布情報はひとつひとつが貴重なものである。今回、こうした分布情報が蓄積され前回調査に比べ分布図の精度は上がったが、依然として情報の空白地域や最近の情報のない地域が残る。今後、そのような地域についての情報収集体制を強化する必要がある。

 

両生類・爬虫類についての調査の概況は次のとおりである。

(1)調査対象種

我が国に生息する両生類の全種60種(亜種を含む)と爬虫類の全種87種(亜種を含む)計147種(亜種を含む)を調査対象とした。

(2)調査員と分布情報

調査は、両生類・爬虫類分科会検討員より推薦された両生類・爬虫類の専門研究者の内、76名の参加協力により実施され、130種について11,886件の分布情報が得られた。

(3)分布図

分布図は、130枚が作成された。分布図には、それぞれの種の分布がどの程度表現されているか、その程度を判定し短いコメントを付したが、「分布パターンを表している」と判定されたものは82枚、「やや情報不足」と判定されたものは30枚、「情報不足」と判定されたものは18枚である。なお、特に注意を要するものについては個別に短いコメントを付した。

 

目次へ