4.トカゲ亜目

(1)はじめに

日本産トカゲ類を分布パターンから類型化すると、次の6タイプが識別される。自然保護の面からも、これを考慮して対処することが必要である。

1日本列島に固有か、それに近い種。分布の局限されているものを含む。

タワヤモリ・トカゲ(ニホントカゲ)・オカダトカゲ・カナヘビなど。

2琉球列島に固有な種。

クロイワトカゲモドキ3亜種(クロイワトカゲモドキ・マダラトカゲモドキ・オビトカゲモドキ)・バーバートカゲ・サキシマカナヘビなどの遣存的な固有種をはじめ、イシガキトカゲ・オキナワトカゲ2亜種(オキナワトカゲ・オオシマトカゲ)・キシノウエトカゲ・へリグロヒメトカゲなど。

3大陸産あるいは台湾産とは別亜種として区別されているもの。

スベトカゲ2亜種(サキシマスベトカゲ・ツシマスベトカゲ)・キノボリトカゲなど。

4大陸産と同種。

ヤモリ(ニホンヤモリ)・ミナミヤモリ・コモチカナヘビ・アムールカナヘビなど。

5南方諸地域から、主として人為的な移動要素に伴い分布が及んでいる種。

ホオグロヤモリ・オガサワラヤモリ・キノボリヤモリ。オガサワラトカゲもここに含まれるかもしれない。

6明らかに外国から人為的に移入された種。

ミドリアノール。

 これらを分類学的な面と、地域的な面から概観してみる。

(2)分類群ごとの概要

1ヤモリ科

日本産ヤモリ科には、2つのグループ(トカゲモドキ亜科とヤモリ亜科)が含まれているが、近年はそれぞれを独立した科とする傾向にある。

トカゲモドキ亜科のものは地上性で、一般に狭い地域で孤立的な分布を示す種が多い。琉球列島のクロイワトカゲモドキ3亜種(クロイワトカゲモドキ・マダラトカゲモドキ・オビトカゲモドキ)もこの例で、動物地理学的にはとくに重要なものである。これら3亜種は、第2回分布調査の際から調査対象となっている。沖縄県側に産する2亜種(クロイワトカゲモドキ・マダラトカゲモドキ)は、県の天然記念物であるが、鹿児島県側の亜種オビトカゲモドキには、法的な保護がなされていない。山林等の開発時には、充分な配慮が望まれる。3亜種とも、分布図にはほぼ分布域が示されている。

ヤモリ亜科は垂直面に付着した生活が可能である。このうち、オンナダケヤモリ・オガサワラヤモリ・ホオグロヤモリは、アジアとオセアニアの熱帯・亜熱帯地域に広い分布域をもち、琉球列島にまで及んでいる。タシロヤモリもほぼ同じ性格をもつ。これらは船舶等の移動に伴い、人間の居住環境を中心に分布を拡げつつあるものと思われる。この4種はほぼ分布域を示す情報が得られた。近年になって、さらにキノボリヤモリが西表島・宮古島で発見され、東南アジア・台湾からの植木の移動に伴って侵入し定住をはじめたものと推定されている(Ota, 1990; Takeda and Ota, 1992)。

南鳥島と南硫黄島から知られるミナミトリシマヤモリは、ミクロネシアに分布の中心をもつ。南鳥島からの最近の情報は得られていない。

他の4種はすべてヤモリ属(Gekko)で、中国大陸の種と関連した分布域をもつ。ヤモリは大陸と共通種で、日本では九州・四国・本州とその周辺の島嶼の沿岸部に分布しており、北方になると分布地が飛び石的になる。人間の居住環境にみられることが多いので、分布域形成に人為的な移動要素が関係しているものと思われる。ミナミヤモリも大陸と共通の種で、琉球列島のほとんどの島に広く分布し九州本島南端にまで分布が及ぶ。ヤクヤモリは種の独立性に問題が残っているが、今のところ屋久島・種子島及び阿久根大島(鹿児島県)に記録があり、ミナミヤモリにもっとも近縁なものとみなされる。夕ワヤモリは主として瀬戸内海の海岸地帯にみられ、海岸の自然度指標種になりうるものである。上記4種のうち、ミナミヤモリとヤクヤモリは上述の分布域の一部で情報を欠いている。ヤモリとタワヤモリについては、既往の知見を埋めるにはいたらない。

以上のほか、トカラ列島の一部・男女群島・五島列島・平戸諸島・甑島列島・九州本土などに、ミナミヤモリに近緑の二、三の個体群がすむが、分類学上の位置は未決定であり、分布図にも含まれない。

2キノボリトカゲ科

日本産は1種で、キノボリトカゲが琉球列島に産し、台湾産の種と亜種関係にある。地理的な種内変異が認められるので、島ごとに個体群を保護する必要がある。特に、八重山諸島と宮古諸島の個体群は別亜種ヤエヤマキノボリトカゲとされることが多い。分布図は分布域をよく示している。

3タテガミトカゲ科(イグアナ科)

ミドリアノールが小笠原諸島の父島に定着し、母島でも記録された。北アメリカ原産の種で、侵入経路は不明であるが1960年代の終わりから1970年代のはじめ頃にこの地ヘ移入されたものと思われる。また、沖縄県の石垣島からも一例の報告があった。

4トカゲ科

ミヤコトカゲとオガサワラトカゲの2種はオセアニアに広い分布域をもつ。日本では、前者が宮古島とその周辺の離島に生息する。オガサワラトカゲは小笠原諸島・南硫黄島・南鳥島からしられ、南大東島から古く記録されたことがあるが、最近の調査(太田・当山,1992)ではみつかっていない。この種は海上の漂流物に付着して分布域を拡大する能力をもつものと思われる。これらの2種の分布図に分布域がほぼ示されている。

スベトカゲの2亜種、サキシマスベトカゲとツシマスベトカゲは、日本では前者が宮古群島と八重山群島に、後者が対馬にと、遠く離れて分布している。この現象は、大陸にあった母種から、一方は台湾地域を経由し、一方は朝鮮半島地域を経由して、それぞれの地で亜種が形成されたものとして解釈される。両亜種の分布域は、分布図ではほぼ示されている。へリグロヒメトカゲは、沖縄諸島・奄美諸島・トカラ列島に分布し、北方は大隅諸島西部に達している。分布北端の情報に欠けるが、本種の分布域は分布図にほぼ示されている。

トカゲ属(Eumeces)は日本で7種がしられ、分布範囲は北海道から与那国島に及ぶ。トカゲは北海道・本州・四国・九州とその周辺の島嶼にすみ、西方へは男女群島、南方へはトカラ列島悪石島(すでに絶滅と推定される)までの島嶼に分布する。また、ロシア沿海州からの記録がある。これまでの調査では北海道・東北・中国各地方からの情報が不足している。伊豆諸島には、前種に近縁のオカダトカゲがすみ、ほとんどの島からの情報が得られている。本種は島塊ごとにいくつかの種族が認められており、分類学的な取扱いについてまだ問題が残されている。バーバートカゲはトカゲに近縁で、沖縄諸島・奄美諸島のシイ・タブ林を中心とした山地にすみ、平地のオキナワトカゲ2亜種とそれぞれの群島ですみわけがみられる。バーバートカゲは動物地理学的にも重要な種であるが、原生林開発により生息地が縮小しているようである。しかし今回の調査からは、それを知ることができない。オキナワトカゲ2亜種(オキナワトカゲとオオシマトカゲ)は、それぞれ沖縄諸島と奄美諸島に分布する。亜種オオシマトカゲは、北方へはトカラ列島南部ヘ達している。イシガキトカゲは八重山諸島の山林にも平地にもみられる。キシノウエトカゲは八重山・宮古両諸島のほとんどの島々に分布し、平地の開けた場所で生活している。これら琉球列島の4種の分布図は、ほぼ既往の知見に近いパターンを示している。

最後の1種アオスジトカゲは、中国大陸・台湾との共通種で、尖閣列島から記録されているにすぎない。今回と前回の調査では情報が得られなかった。

5カナヘビ科

コモチカナヘビはヨーロッパから沿海州・サハリンまで広範囲の分布域をもつ種である。日本では北海道のサロベツ原野と頓別平野に分布し、今回の調査でもそれぞれで確認された。自然分布であるとする見方と人為的に持ち込まれた可能性もあるとする見方とがある。

サキシマカナヘビは八重山諸島に、アオカナヘビは宮古諸島以北トカラ列島南部までの島々に分布するが、沖永良部島にはいないものと思われる。ともに緑系統の色を呈していることが多いので、八重山のものがアオカナヘビと誤認されることが多かった。これら2種については、分布図上に既往の知見がよく示されている。

カナヘビは、北海道・本州・四国・九州とその周辺の島嶼(南方はトカラ列島諏訪瀬島まで)に分布する。今回の調査でも、北海道・中国・九州東部など情報の空白地が多く、この分布図からは分布域の現状が把握できない。

アムールカナヘビは中国東北部・朝鮮半島から沿海州へかけての地域と共通の種で、対馬に分布が及ぶ。分布図に分布域がよく示されている。

(3)地域的にみた概要

トカゲ類のなかには、海上の漂流物に付着したり、船舶の積荷にまきれ込んで分布を拡げる種があり、大陸や本島から遠く離れた孤島では、陸上脊椎動物の唯一の種がトカゲ類である例もしばしば報じられている。日本産の種にもこのような性質をもつものは多い。一方、海上の移動能力に欠ける種にあっては、島ごとの種内変異のみられるものがあり、動物地理学からみてその存在は重要である。日本のような島国にあっては、島嶼生態学の面からも、島ごとのトカゲ相を明らかにする意義は大きい。

このような観点も含め、琉球列島においては両生爬虫類相の研究が近年進み、当山(1985)によって既往の知見がまとめられている。ここでは琉球列島以外の島々につき、既往の知見をとりまとめ、今回の調査結果とを照合するとともに、今後の調査のための参考とした。

1北海道とその周辺

ア.北海道。

両生爬虫類の分布調査はおくれており、今回の調査でもほとんど空白のまま残された。既往の知見によれば、トカゲ・カナヘビ・コモチカナヘビの3種が知られ、最後の種の産地は局地的である。

イ.北海道周辺の島嶼。

カナヘビが焼尻島・天売島・奥尻島から、トカゲが択捉島と国後島からしられる。

2本州とその周辺

ア.本州。

ヤモリ・タワヤモリ・トカゲ・カナヘビの4種を産し、夕ワヤモリの産地は局地的である。トカゲとカナヘビについては、今回、多くの情報がよせられたが、まだ分布域を示すには至らない。

イ.日本海の島嶼。

飛島(山形県):カナヘビ。

粟島(新潟県):カナヘビ。

佐渡:トカゲ、カナヘビ。

舳倉島(石川県):ヤモリ、カナヘビ。

大島(七ッ島の1島、石川県):トカゲ。

隠岐島後:ヤモリ、トカゲ、カナヘビ。

見島(山口県):ヤモリ、トカゲ。

ウ.牡鹿半島周辺の島嶼。

金華山:トカゲ、カナヘビ。

エ.房総半島周辺の島嶼。

浮島(千葉県):トカゲ、カナヘビ。

沖ノ島(千葉県):カナヘビ。

オ.三浦半島周辺の島嶼。

猿島(神奈川県):トカゲ、カナヘビ。

カ.伊豆諸島。

大島・利島・新島・式根島・神津島・祇苗島・三宅島・御蔵島・八丈島・八丈小島・青ケ島にオカダトカゲが分布し、ほとんどの島の情報が得られている。カナヘビは大島・神津島・三宝島から記録されている。

キ.渥美湾の島嶼。

姫島(愛知県):カナヘビ。

ク.伊勢湾の島嶼。

神島:トカゲ、カナヘビ。

菅島:トカゲ、カナヘビ。

答志島:カナヘビ。

ケ.大阪湾周辺の島嶼。

淡路島:ヤモリ、タワヤモリ、トカゲ、カナヘビ。

沼島(紀伊水道側の島):タワヤモリ、トカゲ。

友ケ島(和歌山県):沖の島及び地の島ともにトカゲ。

3四国とその周辺

ア.四国。

ヤモリ、タワヤモリ、トカゲ、カナヘビの4種が記録されている。今回の調査でも情報量は少なかった。

イ.瀬戸内海の島嶼。

ヤモリ、タワヤモリ、トカゲ、カナヘビが分布するが、島ごとの様相はほとんど判っていない。タワヤモリについては、川田(l982)のまとめに、この地域のそれまでの情報はすべて含まれている。

ウ.沖の島(高知県):タワヤモリ、トカゲ。古く、ヤモリが記録されているが、タワヤモリである可能性が強い。

4九州とその周辺

ア.九州。

ヤモリ、ミナミヤモリ、夕ワヤモリ、トカゲ、カナヘビの5種を産する。タワヤモリの産地は今のところ大分県の一部に限られている。今回の調査でも、東部・南部の情報量が少なかった。

イ.九州北部・西部の島嶼。

男島(白島のひとつ。福岡県):カナヘビ。

沖ノ島(福岡県):トカゲ。

加唐島(佐賀県):ヤモリ、トカゲ。

馬渡島(佐賀県)トカゲ。

壱岐:ヤモリ、トカゲ、カナヘビ。

対馬:ヤモリ、ツシマスベトカゲ、アムールカナヘビ。

平戸諸島:ヤモリ、トカゲ、カナヘビ。

五島列島:ヤモリ、トカゲ、カナヘビ。

男女群島:男島・女島ともにトカゲ。

伊王島(長崎県):カナヘビ。

天草諸島:上島からカナヘビ、下島からトカゲ、カナヘビ。

通詞島(下島の属島):ヤモリ。

長島(鹿児島県):ヤモリ。

甑島列島:上甑島と下甑島から、ともにトカゲ、カナヘビ。

これらのほか、九州西部の主として島嶼部にすむヤモリ属の個体群(ミナミヤモリに近似)は、ニシヤモリと仮称され、分類学的な位置が未決定である。上述の中にも分布図にも示されていない。

ウ.日南の島嶼。

青島(宮城県):カナヘビ。

エ.志布志湾の島嶼。

枇榔島からトカゲ、カナヘビ。このほかヤモリ属の卵がみつかっているが種名は未確定。

オ.九州南部の島嶼。

屋久島:ヤクヤモリ、ミナミヤモリ、トカゲ、カナヘビ。古くヤモリが採集され標本も残っているが、再発見されていない。

種子島:ヤクヤモリ、トカゲ、カナヘビ。

カ.三島村の島嶼(鹿児島県)。

竹島・硫黄島・黒島の3島からは、共にミナミヤモリ、トカゲ、へリグロヒメトカゲ、カナヘビが記録されている。へリグロヒメトカゲは琉球列島系のトカゲ類で、この3島が分布域のもっとも北に位置する。

キ.口永良部島。

ミナミヤモリ、トカゲ、カナヘビ。

ク.トカラ列島。

北部の島(たとえば中之島)には、九州本土と共通の爬虫類がみられ、南部の宝島では奄美群島と共通種ないし近縁種で全体が占められる。動物地理学的にみて重要な地域である。種別の既知の産地を、北から南へ示す。

ミナミヤモリ(口之島・中之島・平島・諏訪瀬島・悪石島・宝島)。

トカゲ(口之島・中之島・平島・諏訪瀬島・悪石島)。

オオシマトカゲ(小宝島・宝島)。

ヘリグロヒメトカゲ(口之島・中之島・平島・諏訪瀬島・悪石島・小宝島・宝島)。

アオカナヘビ(小宝島・宝島)。

カナヘビ(口之島・臥蛇島・中之島・平島・諏訪瀬島)。

悪石島のトカゲは絶滅したと推定され、分類学的な位置に問題が残されている。

宝島と小宝島にすむヤモリ属の個体群(ミナミヤモリに近似)はタカラヤモリと仮称され、分類学的な位置が未決定である。分布図には示されていない。

5太平洋の離島

ア.小笠原諸島。

鳥島: オガサワラトカゲの古い記録(Okada,1939)があるが、その後の確実な情報は得られていない。

父島と母島: オガサワラヤモリ、ホオグロヤモリ、ミドリアノール、オガサワラトカゲ。

弟島・兄島・西島・南島・姉島・妹島・姪島・向島・平島:オガサワラカゲ。すべて広域分布種と移入種である。この調査で、父島と母島については分布域を概観できる情報が得られている。

イ.火山列島。

硫黄島からホオグロヤモリと思われるものの記録がある。南硫黄島にはミナミトリシマヤモリとオガサワラトカゲを産する。

ウ.南鳥島。

ミナミトリシマヤモリ、オガサワラヤモリ、オガサワラトカゲが記録されているが、最近の情報はない。

エ.大東諸島。

南大東島・北大東島それぞれに、ホオグロヤモリとオガサワラヤモリが産する。古く記録のあるヤモリ(ニホンヤモリ)は目撃によるもので、ホオグロヤモリであった可能性もある(大田・当山,1992)。戦前に南大東島からオガサワラトカゲが記録されたが(Okada,1939)、その後の調査では見出されない。

6尖閣諸島。

二、三のトカゲ類が報告されているが、この諸島のトカゲ類を分類学的に精査した報告はない。種名の確定しているものにアオスジトカゲがあり、魚釣島・南小島・黄尾嶼からしられる。本種についての情報は、今回の調査でも得られなかった。

(柴田 保彦)

引 用 文 献

川田英則、1982. 新採捕地を含めたタワヤモリの分布地に関する一仮説、香川県自然科学館研究報告、(4): 1-8.

OKADA, Yaichiro. 1939. A study on the lizards of Japan, contribution III. Scincidae. Sci. Rep. Tokyo Bunrika Daigaku, sect. B., 4:159-214 pls. 15-17.

OTA, Hidetoshi. 1990. The tree gecko. Hemiphyllodacttylus typus typus(Lacerti1ia: Gekkonidae): an addition to the herpetotauna of Japan. Jpn. J. Herpetol., 13(3): 87-90.

太田英利・当山昌直、1992. 南・北大東島の両生・爬虫類相、ダイトウオオコウモリ保護対策緊急調査報告書(沖縄県天然記念物調査シリーズ第31集): 63-72.

TAKEDA, Nobuyuki and OTA, Hidetoshi. 1992. Record of the tree gecko, Hemiphyllodactylus typus typus (Reptilia: Gekkonidae), from the Miyakojima Islands of the Miyako Group, Ryukyu Archipelago. Island Studies in Okinawa,(10): 59-04.

当山昌直、1985. 琉球の両生・爬虫類−現状と問題−、南西諸島とその自然保護 そのU(世界野生生物基金日本委員会): 54-199.

 

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