XI.カラス類の集団ねぐらの現状と動向

 

1.形態及び生態

ハシボソガラスとハシブトガラスはともにスズメ目カラス科に属する。

ハシボソガラスは全身黒色でくちばしが細く,全長50cm,体重約560gのユーラシア大陸の温帯から亜寒帯で広く繁殖する鳥類である(榎本 1941)。日本では北海道から九州までの各地に一年をとおして生息しており,3〜6月にかけてが産卵期である(清棲1965)。

ハシブトガラスは全身黒色でくちばしが太い,全長56cm,体重約670gのロシアのウスリー地方から東南アジアにかけて繁殖する鳥類である(榎本 1941)。日本では北海道から南西諸島まで全国に一年をとおして生息している。3〜6月が産卵期である(高野1985)。

両種ともに秋期から冬期にかけて集団ねぐらをつくり,両種が同じ場所にねぐらをつくることも多い。

 

2.調査方法

集団ねぐらの分布状況,集団ねぐらそれぞれの規模,集団繁殖地とその周辺の環境特性を明らかにするため,アンケート調査と文献調査を行なった。アンケート調査と文献調査の実施期間,調査内容などは,T.カワウの節で述べたものと同じである。ハシボソガラスとハシブトガラスは同じ場所でねぐらをとることも多く,また,ねぐら入りの時間は,既に暗くなっており,正確に両種を区別することは困難なので,この2種を「カラス類」としてまとめて解析を行なった。なお,ミヤマガラスについてもアンケート調査を行なったが,ミヤマガラスは日本では九州地方を中心に分布しているにもかかわらず,得られた情報の多くは,九州以外の地方からのものだったので,情報の信頼性に疑問があり,今回は解析を行なわなかった。

 

3.分布と規模

アンケート調査では,全国の36都道府県から383か所のねぐらが報告された。5万分の1地形図で192メッシュであった(図11.1)。ねぐらの大きさは,数羽単位のものから数10,000羽のものまであったが,数100〜数1,000羽のものが全体の71%と多く,特に数100羽のねぐらが45%ともっとも多く記録された(図11.2)。

 

4.環境選択

ねぐらの61%は雑木林につくられており,アカマツ林などの雑木林以外の森林を含めると,87%のカラス類のねぐらが森林につくられていた(図11.3)。また,集団ねぐらがつくられた森林の大きさは,0.1ha程度の小さい緑地から5ha以上のものまであったが(図11.4),孤立木,街路樹などといった人との距離が近いと考えられる場所では記録がなかった。したがって,カラス類がねぐらをつくるには,人と距離をある程度保つことのできる森林が必要であると考えられる。

 

5.保護のための対策と提言

カラス類は果実や穀類などの植物質の食物と動物の死体などの動物質の食物ともに採食し,ゴミなどに混ざっている食物も利用している。したがって,現在の日本では,都市のような場所でもカラス類の食物は豊富にあるものと思われる。

カラス類は食物になるゴミの増加などの人為的な原因で,各地で増加傾向にあるとされている(唐沢ほか 1991,東京都労働経済局 1994)。

関東地方のカラス類が,他の鳥の巣をおそい,卵やヒナなどを捕食していることが,報告されている(唐沢 1988,Ueta 1994,植田 1994)。このことから,カラス類が,都市部周辺に生息する他の鳥類の個体数や分布に強い影響を与えていることが予想される。カラス類が増加した原因は,現時点では明らかにされていない。カラス類はゴミをあさって採食することが知られており,ゴミが安定して供給されることによって,カラス類が増加した可能性がある。都市部周辺で,カラス類以外の鳥を増加させるためには,ガラス類の個体数をある程度減らす必要があるだろう。その方法として,まず最初に実施されるべきものは,ゴミの管理を強化し,カラス類が採食できるような形でゴミを放置したりしないようにすることが重要である。

カラス類は,大きな集団ねぐらをつくることが多く,個体数の変遷を比較的容易に調べることができるので,個体数管理のためにも,このような調査を今後も行ない,カラス類の個体数を継続的に調査していくことが望まれる。

 

6.評価

カラス類はアンケート調査および文献調査によって,調査が行なわれた。カラス類はねぐらに入る時間帯に,よく鳴き群れで飛ぶことが多いので,人家周辺にあるものについては見落としは少ないと思われる。しかし,山間部にも集団ねぐらがあると考えられるので,そのようなねぐらは見落とされている可能性がある。したがって,実際には本報告書の調査結果よりもかなり多くのねぐらが全国にはあると思われる。

 

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