].ムクドリの集団ねぐらの現状と動向

 

1.形態及び生態

ムクドリは,スズメ目ムクドリ科に属す,体長約24cm,体重約86gのスズメより1回り大きい灰黒色の小鳥である。くちばしと足は橙黄色で,飛ぶと上尾筒の白色が目立つ。芝生や畑の上で,歩きながら昆虫類などをとったり,雑木林で木の実をとったりする。大陸ではシベリアから中国東部にかけて繁殖し,冬には中国南部から台湾,ミャンマーに渡る。日本では周年生息するが,冬季は北海道で減少し九州で増加する。産卵期は3月下旬から7月頃までである(清棲 1978)。もともとは木にできる洞などに営巣するが,建物や巣箱にも営巣することが多く,人々にとって身近な鳥類である。日本での繁殖は九州以北で,中部地方や関東地方の平地に多く,山地には少ない(環境庁 1980)。ムクドリは群れをつくって採食したり,ねぐらをとる習性があり,夏から冬にかけて数万羽もの大規模な集団ねぐらを形成することがある。

 

2.調査方法

集団ねぐらの分布状況,集団ねぐらそれぞれの規模,集団繁殖地とその周辺の環境特性を明らかにするため,アンケート調査と文献調査を行なった。アンケート調査と文献調査の実施期間,調査内容などは,T.カワウの節で述べたものと同じである。

 

3.分布と規模

アンケート調査の結果,ムクドリの集団ねぐらは,北海道から九州まで36都道府県で合計178か所の報告があった。5万分の1地形図で91メッシュと,日本全域に広く分布していた(図10.1)。黒田ほか(1986)は,1981年のアンケ−卜調査により,13道府県合計199件のねぐらを報告している。黒田らによれば,四国や九州のねぐらが把握されていなかったが,今回の調査で四国10か所5メッシュ,九州12か所9メッシュが報告された。しかし報告されたねぐらの数は全体の一部であり,さらに多くのねぐらがあると考えられる。

集団ねぐらの規模は,数羽から10,000羽以上の大規模なものまで報告された。10,000羽以上の大規模なねぐらは,青森県から岐阜県の本州中部以北までの10県13か所(9.0%)から報告された。確認された集団ねぐらの約7割は,数100羽から数1,000羽単位の規模であった(図10.2)。

北海道や東北地方では,冬は積雪が多く地上で採食できないために夏にくらべ冬の生息数が少ない(清棲 1978)。今回の調査で,北海道と東北地方の合計17か所のねぐらの中で,夏ねぐらは13か所,冬ねぐらは4か所と冬に少なかった。一方四国や九州では6月から9月までの夏ねぐらは6か所,冬ねぐらは16か所と冬に多い傾向がみられた。ムクドリは全国で一年中生息する留鳥であるが,季節や地域によってねぐらの分布や規模は変化しており,ムクドリは冬に南へ移動していると考えられた。

 

4.環境選択

ねぐらとして利用されていた環境は,もっとも多いのが竹林,次いで雑木林でこの両方で全体の6割から7割を占めた(図10.3)。そのほか建物や河原,街路樹,ヨシ原などさまざまな環境を利用していた。とくに建物や橋桁,鉄塔などの人工物をねぐらとして利用していたのは21か所(14.6%)であった。

竹中ほか(1987)は,全国13道府県のムクドリのねぐらの環境選択を分析した結果,建物を利用していたのは北海道と近畿地方の4か所(2.0%)だけであったと報告している。また越川(1993)は,都市部で発見されたムクドリのねぐら39か所のうち約半数の21か所で,広告塔,橋桁,鉄塔などの人工物を利用していたと報告している。これらのことから,ムクドリは林の少ない都市部では,人工物を利用する傾向が高まっているど考えられる。

 

5.保護のための対策と提言

ムクドリは,その分布や規模から,山地に少なく農耕地や都市周辺域に多い鳥類といえる。ムクドリは建物に営巣し,ビルの屋上などにねぐらをとるなど環境選択の幅の広い鳥類である。またムクドリは農林業上有害な昆虫類を多数採食し,稲の害虫のニカメイチュウなどをよく食べることが知られていることから,長い間狩猟鳥からはずされてきた(葛生 1927,仁部 1979)。ムクドリが都市や農村の生態系の高次消費者として,生物相の安定に大きくかかわっていることは評価する必要があろう。

しかし,近年ムクドリは住宅地の中の街路樹や公園などに大規模な集団ねぐらを形成することから,そのフンや鳴き声が鳥害として社会問題になる場合が多くなってきた。またムクドリが,果実や農作物を食害することも重大な問題となってきている。果樹園の栽培面積は,全国で昭和35年(1960年)に254,300ha,昭和45年(1970年)に416,200ha,平成2年(1990年)には346,300haと推移している(農林統計協会1992)。長野県では,ムクドリの生息密度とリンゴやカキの栽培面積とに密接な関係があることが報告されている(信州鳥類生態研究グループ1983)。

ムクドリの有害鳥獣駆除が毎年行なわれるようになったのは1965年からであり,その後約20年で年間100,000羽以上が駆除されるようになった。図10.4は,1965年以降5年ごとに有害鳥獣駆除されたムクドリの捕獲数を示したものである(環境庁1991)。神奈川県では,昭和47年(1972年)から果樹園などのムクドリによる食害が問題になり,有害鳥獣駆除がはじまった(坂本 1981)。昭和56年(1981年)におけるムクドリの全国被害発生報告によれば(黒田ほか 1986),ムクドリの被害報告は北海道から佐賀県までほぼ国内全域におよんでおり,果樹園の食害はますます増加が予想されている。

ムクドリの果樹園への食害や,ねぐらにおけるフンの被害などを解決することは,今後都市の中でムクドリと人が共存していく上で大きな課題となろう。そのためには,従来の保護のあり方を見直す時期にきていると思われる。また人家の戸袋や排気孔などで繁殖することから,落下したヒナはしばしば人に保護されることが多い。都市の中では,ワシタカ類などの捕食者は少なく,ムクドリは人から大きな保護を受けている。今後は落下したヒナを,そのまま自然のなりゆきに任せることも必要かもしれない。都市にはバードテーブルよりも実のなる木を育て,農村では雑木林や屋敷林を保全し,小型の猛禽類などムクドリにとっての捕食者も生息できるような生態系を保全し,復元していくことが必要と思われる。

長期的な都市計画においては,ムクドリがねぐらにできる広い緑地を確保することは,人にとっても安全な緑地やグリーンベルトを確保することに通じる。緑地が狭く鳥害の大きい場所では,ムクドリのねぐらを適当な代替地に誘導するような技術や研究も望まれる。そしてムクドリと人とが適正な距離を保ち,より良い関係を保っていけるような保護のあり方を検討することが必要と思われる。

 

6.評価

アンケート調査と文献調査によって収集できた情報は,実際に日本に分布する集団ねぐらのごく一部のものであると思われる。

 

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