[.セキレイ類の集団ねぐらの現状と動向

 

1.形態及び生態

セグロセキレイとハタセキレイはともにスズメ目セキレイ科に属す小型の鳥類である。セグロセキレイは,背が黒く,眉と腹が白い体長21cm,体重31gで日本にのみ生息する鳥類である(榎本 1941)。日本では,北海道から九州にかけて分布し,一年をとおして生息している。3〜7月が産卵期である(清棲 1965)。

ハクセキレイは,後頭部と胸,背が黒く,腹とほおが白く,体長20cm,体重30gのユーラシア大陸に広く繁殖する鳥類である(榎本 1941)。日本では北日本を中心に全国的に分布し,一年をとおして生息している。5〜7月が産卵期である(清棲 1965)。両種とも秋期〜冬期にかけて集団ねぐらをつくり,特にハクセキレイは大きなねぐらをつくることが知られている(内田 1990)。

両種とも,河川沿いを中心に分布する。特にセグロセキレイは河川に非常に強く依存し,水生昆虫などを食物としているが,ハクセキレイは河川から離れた場所にも生息している(Higuchi & Hirano 1983,1988)。

 

2.調査方法

集団ねぐらの分布状況,集団ねぐらそれぞれの規模,集団繁殖地とその周辺の環境特性を明らかにするため,アンケート調査と文献調査を行なった。アンケート調査と文献調査の実施期間,調査内容などは,T.カワウの節で述べたものと同じである。セグロセキレイとハクセキレイを調査対象種としたが,両種の形態が似ているため,ねぐらに戻ってくる夜間に両種を識別することがむずがしいことと,両種が一緒にねぐらをとることがあるという点から,解析にあたっては,セキレイ類として両種を一括して扱った。

 

3.分布と規模

アンケート調査により,112か所のねぐらが34の都道府県,5万分の1地形図で94メッシュから報告され,セキレイ類が全国的に分布していることが明らかにされた(図8.1)。ねぐらの規模は,最少で数羽,最大で数1,000羽単位のものもあったが,数10〜数100羽のものが全体の74%と多く記録された(図8.2)。

 

4.環境選択

街路樹(38%),建築物(24%),雑木林(23%),橋桁(14%),孤立木(12%)など,人工物から森林,そして孤立木まで幅広い環境にねぐらをつくっていることが明らかにされた(図8.3)。今回の調査結果からは,セキレイ類が集団ねぐらの場所として,特定の環境を選好しているかどうかは明らかにできなかった。また,ねぐらの環境によって集まるセキレイ類の個体数が違っているかどうかも,この調査の結果からは明らかにすることはできなかった。

 

5.保護のための対策と提言

セキレイ類は,さまざまな環境にねぐらをつくることができるため,ねぐら場所はセキレイ類の分布や数を制限していない可能性が高い。今回のアンケート調査では周囲の採食環境の調査を行なうことができなかったが,セグロセキレイは採食地として河川に強く依存していることが知られているので(Higuchi & Hirano 1983,1988),採食地である河川環境の保護がセグロセキレイの保護にとってより重要と考えられる。ハクセキレイに関しては,分布が拡大しているので(中村 1980),保護の緊急性は小さいものと思われる。

セグロセキレイは,ハクセキレイにくらベコンクリート護岸などになると生息しづらくなる可能性が示唆されており(Higuchi & Hirano 1988),河川の改修などによって,個体数に変化が起こっている可能性がある。しかし,今回のアンケート調査では,この点は明らかにできなかった。

しかし,ハクセキレイについても個体数の増減を記録することや個体数と環境とのかかわりを明らかにすることは重要なことである。集団ねぐらをつくるセグロセキレイやハクセキレイは,ねぐらの個体数を継年的に追跡することで,個体数の変遷を比較的容易に調べることができる。今後もこのような調査が継続的に行なわれ,セキレイ類の個体数が調査されることが望まれる。

 

6.評価

セキレイ類については,アンケート調査および文献調査によって調査を行なった。セキレイ類は集団ねぐらに入る際,あまり鳴かないので比較的目につかない。したがって,本調査の結果には見落としが多く,分布も図8.1に示したものよりも広く,記録された箇所数よりもかなり多くのねぐらが全国にはあると思われる。

 

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