U.サギ類の集団繁殖地と集団ねぐらの現状と動向

 

1.形態及び生態

サギ類は,世界で約60種が南極大陸以外のほぼ全域に生息している。日本には9属18種が記録されている。しかし,小笠原諸島に生息していたハシブトゴイはすでに絶滅してしまった(日本鳥学会1974)。サギ類には首や足が長いアオサギやシラサギ類(ダイサギ,チュウサギ,コサギ)と,それらが比較的短いゴイサギやササゴイ,アマサギなどがある。ダイサギやアオサギなどはくちばしが長く魚類を採ることがうまく,チュウサギやアマサギなどはくちばしが短いため,昆虫類や両生類などをとるのに適していると言われている。サギ類は,一般に,浅い水辺で歩いたり待ち伏せたりしながら小動物を採食する。表2.1は,これらサギ類の形態や特徴について示したものである。

サギ類には,主に昼間活動するものと夜間活動するものとがある。シラサギ類やアマサギは昼間採食し,ゴイサギは夕方から朝方にかけて採食する。アオサギは,昼間も夜間も採食する。繁殖期の4月から8月頃には,ゴイサギは,ヒナに給餌するため日中にも採食するようになる。

サギ類には,ミゾゴイやサンカノゴイのように1つがいが単独で繁殖するものと,いくつかの種が集まって集団で繁殖したりねぐらを形成するものとに大別できる。ゴイサギ,ササゴイ,アマサギ,コサギ,チュウサギ,ダイサギ,アオサギは,いくつかの種が集まって集団繁殖地をつくる。サギ類は林や地上などに,木枝や草などを用いて皿型の巣をつくり産卵する。1本の木に数十もの巣がかけられることがある。産卵時期は種によって多少異なっているが,4月から7月である。抱卵期間は3週間から4週間で,その後巣立つまでに1か月から2か月を要する。

サギ類は,繁殖期以外の時期にも集団でねぐらを形成している。ここでは,繁殖がほぼ終了した8月下旬から10月頃のねぐらを夏ねぐらど呼ぶことにする。夏ねぐらは,その地域で繁殖した個体だけでなく,渡りの中継地として立ち寄っている個体も加わっている。12月から2月までのねぐらを冬ねぐらと呼ぶことにする。冬ねぐらは,その地域で越冬する個体によって形成されている。ササゴイ,アマサギ,チュウサギは,日本に4月頃渡来する夏鳥で,冬には南方に渡去するため日本では冬ねぐらを形成しない。ゴイサギ,コサギ,ダイサギ,アオサギは1年中日本に生息する留鳥であり,この4種が冬ねぐらの主要な構成種となっている。

 

2.調査方法

サギ類の集団繁殖地については,前述のアンケート調査と文献調査で全国的な分布を調べるとともに,茨城県,千葉県,埼玉県,東京都,神奈川県,静岡県,奈良県,大阪府,京都府,兵庫県において,詳細な生息環境を明らかにするための現地調査を行なった。夏ねぐらや冬ねぐらについては,集団繁殖地との混乱を防ぐためにアンケート調査を行なわず,現地調査を主体として行なった。アンケート調査については,他の種と同時に情報を収集したので,T.カワウの節で説明したものと質問事項などは同じである。

集団繁殖地の現地調査については,平成4年(1992年)5月から8月までの期間,関東地方の茨城県,埼玉県,千葉県,東京都,東海地方の静岡県,関西地方の奈良県,大阪府,兵庫県の3地域で調査を行なった。集団ねぐらについては,平成3年(1991年)8月から10月までの夏ねぐらと,平成3年(1991年)12月から平成4年(1992年)2月までの冬ねぐらを調査した。夏ねぐらの調査地は,関東地方の茨城県,埼玉県,千葉県,東京都,神奈川県,栃木県,東海地方の静岡県,関西地方の奈良県,大阪府,兵庫県,京都府の3地域1都2府8県である。冬ねぐらの調査地は,夏よりややせまい関東地の茨城県,埼玉県,千葉県,東京都,東海地方の静岡県,関西地方の兵庫県の3地域1都5県である。

現地調査では,集団繁殖地やねぐらの成立している位置,サギ類の種と個体数,環境特性について調査を行なった。サギ類の種数と個体数の調査は,集団繁殖地では,日中から夕方に巣にいる成鳥を観察することによって記録した。集団ねぐらでは,夕方から日没後30分までに飛来飛去したサギ類の個体数を数えることによって記録した。

集団繁殖地や集団ねぐらが成立している環境の特性を明らかにするため,集団繁殖地やねぐらのある林の種類,階層別優占樹種,高さ,被度,面積,地勢,集団繁殖地やねぐらの保護状況,継続年数,環境変化,鳥害など人との関係について記録した。

林の種類は,松林,スギ・ヒノキ林,湿地以外の場所にある広葉樹,湿地にある広葉樹,竹林,その他に区分し記録を行なった。階層別樹種構成は,集団繁殖地に利用されている区域の高木の優占種を,ハンノキ類,ヤナギ類,それ以外の落葉広葉樹,常緑広葉樹,マツ類,マツ類以外の針葉樹,タケ・ササ類に区分し,もっとも優占しているものを選んで,出現頻度の高い樹種を求めた。同様にして低木の優占種についても,出現頻度の高い樹種を求めた。樹高は,高木を目測し,0〜5m,6〜10m,11〜15m,16〜20m,21m以上に区分し記録した。被度は高木,低木のそれぞれについて,葉が地表面を被う割合を目測した。面積は,集団繁殖地がある林全体の面積を地図より算出した。繁殖に利用している区域の面積は,集団繁殖地の外側の巣を線で結んだ内側の面積を求めた。

採食環境を明らかにするため,集団繁殖地の半径1km圏内について,国土地理院発行の縮尺率5万分の1地形図から河川や水田,池沼の開水面の割合を記録した。採食環境を評価する範囲は,サギ類がどのくらいの範囲を採食域とするのか明らかでないので,便宜的に1km圏内について評価した。集団繁殖地や集団ねぐらの保護状況については,法的な銃猟規制や開発規制が行なわれているか否かな調べた。法的な規制が行なわれている場合,どのような種類の規制(鳥獣保護区,銃猟禁止区域など)が行なわれているかについて記録した。集団繁殖地の継続年数や鳥害の発生の有無について,住民への聞き取り調査をもとに記録した。集団繁殖地やねぐらが変化している場合の環境変化についても記録した。

 

3.分布と規模

1)概要

集団繁殖地については,アンケート調査では433か所,現地調査では75か所,のべ508か所が北海道から鹿児島まで大分を除く全国46都道府県で,報告された。集団繁殖地の規模が1,000羽以上と大きかったのは,北海道(1か所),茨城(6か所),石川(1か所),長野(1か所),栃木(1か所),静岡(2か所),岐阜(1か所),京都(1か所),滋賀(1か所),広島(1か所),山口(2か所),福岡(3か所)の合計12府県21か所であった。

現地調査によって確認された集団繁殖地と集団ねぐら(夏ねぐらおよび冬ねぐら)の数を,種別地域別に示した(表2.3)。関東,静岡,関西の3地域全体としては集団繁殖地が75か所,夏ねぐらが83か所,冬ねぐらが78か所が確認された。また集団繁殖地と夏ねぐら,冬ねぐらそれぞれの調査期間において,同じ場所にこれらが成立していたのは,合計13か所と少なく,サギ類は季節によって異なった場所を利用していた。

アンケート調査と文献調査,現地調査合計では5万分の1地形図で繁殖地は206メッシュ,ねぐらは57メッシュが報告された。

サギ類の集団繁殖地は,1種以上のいくつかの種によって構成され,そのなかでゴイサギとコサギ,アオサギが含まれる繁殖地は多い。大規模な繁殖地を形成しているのは,アマサギやチュウサギであった。多くの繁殖地の規模は,数10羽から数100羽と小規模であった。今回の調査で,1,000羽以上の集団繁殖地が全国で21か所報告されたが,このうち現地調査を行なった関東,静岡,関西では,1,000羽以上の規模は茨城で5か所が確認され,2,000羽以上のものも3か所含まれていた。日本野鳥の会研究部(1981)によれば,1980年には1,000羽以上の規模が16か所報告され,2,000羽以上が5か所,その内3,000羽以上が3か所報告されている。今回の調査では,3,000羽以上の規模は認められなかった。

夏ねぐらは,集団繁殖地より規模が大きく,1,000羽以上が8か所で,このうち3,000羽以上も3か所確認された。大規模な集団繁殖地や夏ねぐらはほとんどが茨城県でみられた。冬ねぐらは,いずれの地域でも規模が小さかったが,500羽以上の規模が兵庫に1か所みられ,コサギやアオサギが多かった。

 

2)サギ類各種の分布

(1)ゴイサギ

ゴイサギはサギ類の中ではもっとも分布が広く,集団繁殖地は青森以南の43都府県で347か所,5万分の1地形図で168メッシュが確認された(図2.1,表2.2)。しかし,現地調査を行なった3地域において,種別に個体数を合計して割合を求めると,集団繁殖地のゴイサギはこれらの地域のサギ類の24.5%を占め,夏ねぐらや冬ねぐらではそれぞれ12.8%,16.9%と少なかった(表2.4)。昭和55年(1980年)に行なった全国調査では,ゴイサギが,繁殖地のサギ類の個体数の約49.7%を占め,冬ねぐらにおいては59.7%で,サギ類のほぼ半数に達していたことが報告されている(日本野鳥の会研究部1981)。近年,ゴイサギが減少していることが予想される。

(2)ササゴイ

ササゴイは,集団繁殖地を形成するサギ類の中でもっとも規模が小さく,分布も宮城以南の15都県で30か所,5万分の1地形図で26メッシュともっとも分布がせまかった。(図2.2,表2.2)。ササゴイは,現地調査で確認した個体数の割合は,サギ類全体の0.2%でとくに関東で少なかった。ササゴイはかつて関東で普通にみられ(野口 1943,津戸 1984,内田 1982),埼玉県野田の集団繁殖地においても,他のサギ類と共に集団で繁殖していた(中西 1965)。大阪では,ササゴイが市内のイイチョウに営巣していたことが報告されているが(榎本 1934,上田 1987),現地調査での確認はできなかった。したがってササゴイは,近年激減している可能性が高い。

(3)アマサギ

アマサギの集団繁殖地は27都県でのべ115か所,5万分の1地形図で80メッシュから報告があった(図2.3,表2.2)。関東以北での繁殖は少なかったが,現地調査を行なった地域ではコサギやゴイサギに次いで個体数が多かった。しかし,アマサギはかつて関東でも繁殖個体数は少なかったことが記録されており(清棲 1978,小杉 1976),栃木(岸田 1936)や福島(湯浅 1953)の各県では繁殖が確認されていなかった。1973年には宮城でも繁殖が確認されるようになり(環境庁 1977),1978年には宮城のほか,福島や新潟においても1例ずつ繁殖が確認された(環境庁 1980)。今回のアンケート調査では,秋田で繁殖が確認された。昭和55年(1980年)における全国サギ類の調査(日本野鳥の会研究部1981)によれば,アマサギはゴイサギやコサギに次いで個体数が多く,全繁殖地のサギ類の約10%の個体数を占めていたことが報告されている。今回の現地調査の結果,アマサギは関東では26.1%で,静岡の9.8%や関西の10.8%より高い割合を占めていた。3地域全体では22.1%を占め,コサギやゴイサギと共に優占種になっていた(表2.4)。このようにアマサギは,地域によって分布拡大の兆候が認められ,今後の動向や増加の要因を調査していくことが必要であろう。

(4)ダイサギ

ダイサギの集団繁殖地は関東以南の19都県でのべ95か所,5万分の1地形図で59メッシュから報告があった(図2.4,表2.2)。ダイサギの繁殖地は,海岸や湖沼,大きな河川に沿って分布しており,四国や九州の太平洋側には分布が見られなかった。コサギやチュウサギに比べ,繁殖分布の範囲は狭い(表2.2)。1978年には,濃尾平野やその周辺でも繁殖していたが(環境庁 1980),今回はこれらの地域での報告がほとんどなかった。

現地調査を行なった関東,静岡県,関西においては,サギ類の集団繁殖地のほぼ半数36か所(48.0%)で繁殖していたが,茨城県以外はその規模は数羽から30羽程度の小規模なものであった。ダイサギの集団繁殖地に占める個体数は,528羽(2.0%)にすぎなかった(表2.4)。

しかし夏ねぐらは,数100羽規模のねぐらが埼玉県,千葉県,兵庫県で確認され,合計52か所(62.7%),3360羽(8.2%)と多数のダイサギが確認された。冬ねぐらでは,37か所(47.4%),781羽(10.1%)で再び減少した(表2.3,4)。これは,繁殖したダイサギが夏の渡りによって分散して大きな夏ねぐらを形成し,冬には多くが渡ってしまうが,大陸からもダイサギが渡ってきているものと推察された。

(5)チュウサギ

チュウサギは秋田以南の25県でのべ109か所,5万分の1地形図で65メッシュから報告された(図2.5,表2.2)。チュウサギは,集団繁殖地の中でもっとも個体数の多い優占種であったが,昭和40年代から50年代にかけて全国的に減少してきた。チュウサギの営巣数は埼玉県野田で昭和39年(1964年)に1,451巣(小杉 1976),千葉県新浜鴨場において昭和43年(1968年)に約1,400巣が報告されている(広居 1971)。関西においても,チュウサギは昭和40年代までもっとも多いサギで,数羽から数千羽の規模の繁殖地が多かった(小林 1950,江原 1955)。昭和50年代になると,岡山県や山口県でチュウサギの個体数が減少していることが報告されるようになった(日本野鳥の会岡山県支部 1988,山口県 1980)。昭和50年(1975年)に全国の集団繁殖地のチュウサギの個体数の割合は,わずか約9.9%しか占めていないことが報告されている(日本野鳥の会研究部 1981)。今回の現地調査の結果で,茨城県で千羽以上の規模がlか所確認されたため,関東で12.9%と比較的割合が高いものの,静岡3.1%や関西0.4%と低く,とくに関西では23か所の集団繁殖地のうち合計3か所(13.0%)16羽のチュウサギが確認されたにすぎない。チュウサギの減少傾向は進行しており,その減少の仕方には地域差があると考えられる(表2.4)。

(6)コサギ

コサギの集団繁殖地は,ゴイサギに次いで多く報告され,宮城県以南の38都県から230か所,5万分のl地形図で134メッシュから報告があった(図2.6,表2.2)。夏ねぐらや冬ねぐらの数は,現地調査を行なった地域では,ゴイサギよりも多く報告された(表2.3)。個体数の割合は,集団繁殖地で26.4%であり,夏ねぐらで30.1%,冬ねぐらで49.5%を占め,もっとも個体数が多かった(表2.4)。冬はコサギの個体数も減少するが,他のサギ類はそれ以上に減少するため,相対的にコサギの割合が増加するものと考えられる。

(7)アオサギ

アオサギの集団繁殖地は,北海道から九州まで広く確認され,北海道から九州までの30都県で169か所,5万分の1地形図で113メッシュから報告された。(図2.7,表2.2)。しかし,昭和40年代までは関東や静岡県では確認されておらず,山口県や九州でも繁殖は未確認であった(環境庁 1980)。鴨川(1978)は,昭和53年(1978年)に長崎県佐世保市でアオサギ3巣と抱卵を初めて確認したと報告している。また北海道においてもアオサギの集団繁殖地の分布の拡大が指摘されている(松長ほか未発表)。日本野鳥の会研究部(1981)は昭和55年(1980年)の全国調査において,アオサギは全繁殖地のサギ類の個体数の約5.5%を占めていたことを報告している。今回の現地調査の結果,関東で0.1%,静岡で4.4%,関西で12.5%の割合を占めていた(表2.4)。これらのことから,アオサギの集団繁殖地の分布域は増加していることは明らかである。しかし,個体数が増加しているかどうかは不明である。

 

3)種間の比較

アンケート調査,文献調査および現地調査によって,種別にサギ類の繁殖が確認されたメッシュ数を比較した(図2.8)。アンケート調査や現地調査において,サギ類の集団繁殖地のメッシュ数がもっとも多く,分布が広かったのはゴイサギである。次いでコサギ,アオサギが多く,アマサギはゴイサギの約半分のメッシュ数である。チュウサギやダイサギの集団繁殖地はさらに少なく,ササゴイは全国で26メッシュともっとも確認が少なく分布がせまかった。

図2.9は,種別に集団繁殖地数と夏ねぐら数,冬ねぐら数を比較したものである。コサギはどの時期にも多数が確認され,集団繁殖地やねぐらの約8割で確認されている。ゴイサギも繁殖地や夏ねぐらの確認は多く,とくに集団繁殖地の9割でゴイサギが確認されている。しかし冬ねぐらの確認数は少なく,冬ねぐらでゴイサギを確認したのは確認された全ねぐら数の約4割であった。ササゴイは,集団繁殖地が5か所,夏ねぐらが4か所しか確認されず,アンケート調査と同様に分布が限られていることが明らかになった。チュウサギは,関東の約半数の繁殖地で確認されたが,関西では3か所のみで,繁殖数も十羽未満と少なかった。ササゴイとチュウサギは,冬ねぐらでは確認されなかったが,アマサギは1か所のみ越冬が確認された。逆に冬にねぐらの確認が増えたサギは,アオサギであった。

表2.4は,種別に集団繁殖地,夏ねぐら,冬ねぐらのそれぞれにおける個体数を比較したものである。アマサギ,ダイサギ,チュウサギ,コサギの4種は夏ねぐらで個体数が増加する傾向が認められた。コサギとゴイサギは1年を通して個体数が多く,繁殖地やねぐらの優占種になっている。アマサギは繁殖期と夏ねぐらで個体数が多いが,冬はほとんど見られない(図2.10)。その他のサギ類は少なく,とくにササゴイは数十羽と極めて少ない。

 

5)継続年数

現地調査で報告されたサギ類の集団繁殖地75か所の内,継続年数がわかった場所は50か所である(図2.11)。繁殖地が形成されてから1年目であったものが12か所(24%)で,とくに関東では11か所(22%)が初年度であった。2年から3年目が12か所(24%),4年から9年目が13か所(26%),10年から19年目が11か所(22%),20年以上が2か所(4%)であった。10年以上の場所は,河畔林,学校や神社,その他植林地などで,20年以上利用されていたのは,埼玉県羽生市の放置された廃屋の竹林と静岡の日本平動物園の池の斜面林である。関西では,兵庫県佐保神社でササゴイが12年継続したものが最長であった。このように10年以上利用されている場所は,鳥獣保護区や社寺林,学校,人家から離れた河畔林などであった。

一方,繁殖1年目の場所は,住宅開発の進んでいる地域の中にある林で,社寺や公園にも確認された。これらの多くは,前年まで利用していた林が,伐採などによって利用できなくなったため,近くから移動してきたものであった。関東のサギ類の集団繁殖地は継続年数が短い。環境変化の有無についての情報が得られた32か所のうち,環境変化ありとされたところは,15か所(46.9%)あり,半数近くの営巣場所の林で環境変化が認められた。営巣場所のいちじるしい環境変化によって,サギ類は継続して同一場所で繁殖ができず,短期間に移動して営巣場所をかえると考えられる。

集団ねぐらのべ161か所の継続年数については,夏ねぐらでは40か所,冬ねぐらで19か所だけが情報を得ることができた。夏ねぐらでは4年から9年目が16か所(40.0%),冬ねぐらでは10年から19年目が8か所(42.1%)ともっとも多く,集団繁殖地より継続する期間が長い傾向にあった。これはサギ類が,鳥獣保護区や公園などを利用する割合が高いため,移動する必要が少ないことや,ねぐらは目立たないため鳥害が少なく,人による妨害が少ないためと考えられる。

昭和13年(1938年)に国の天然記念物に指定された埼玉県野田の集団繁殖地では,1725年頃から1971年まで,数万羽のサギ類の大規模な集団繁殖地が形成されていた(小杉ほか1976,小杉 1980)。小杉ら(1976)によれば,昭和39年(1964年)には,ダイサギ,チュウサギ,コサギ,アマサギ,ゴイサギの合計3,658巣が報告されている。しかし,その後急激に減少し,昭和46年(1971年)には営巣数は215巣となり,昭和47年(1972年)には0巣となり,約250年間継続してきた集団繁殖地が消滅してしまった。1992年現在,営巣環境としての林は保全されているものの,サギ類の採食していた水田は減少して畑や住宅地に変化している。野田のサギ類の減少は,営巣林である竹林などの枯死や観光客の増加,農薬による水生生物の減少(小杉 1976)とともに,特にチュウサギにとって重要な採食環境である水田や浅い湿地の減少によって助長されたと考えられている(成末 1992)。

埼玉県中央部では,1940年代から1990年代の間に,サギ類の集団繁殖地の数は大きく変化しないものの,それぞれの集団繁殖地の規模が縮小し,とくに1970年代から集団繁殖地の継続年数が短くなっていることが報告されている(成末 1992)。1970年代は,日本の産業構造が農業から工業に移行したため,都市近郊の林や水田などの環境が大きく変化した時代であった。この頃から,サギ類の営巣林の伐採や採食場所の変化によって,集団繁殖地の継続年数は短くなっていったと考えられる。

 

4)分布の変化

以上の結果をまとめると,サギ類の集団繁殖地は,全国に広く分布し,大分をのぞく46都道府県で報告された。第2回自然環境保全基礎調査ではサギ類全種の5万分の1地形図のメッシュ数を合計すると354メッシュだったのに対して,今回の調査は645メッシュと大きく増加していた。また,日本野鳥の会研究部(1981)によるアンケート調査では1980年に37道府県,184件のサギ類の集団繁殖地を報告している。今回の調査では2倍以上の集団繁殖地が報告されたことになる。

種別に環境庁(1980)の第2回自然環境保全基礎調査の5万分の1地形図によるメッシュ地図の結果と比べると,分布はアオサギが関東で繁殖するようになった以外大きな変化はないが,ゴイサギが111メッシュから168メッシュに,ササゴイが38から26に,アマサギが53から80に,ダイサギが28から59に,チュウサギが51から65に,コサギが90から134に,アオサギが18から113に変化した。このように多くのサギ類では記録された集団繁殖地が増加していた。しかし,これは実際に増加していることを示すのではなく,調査員やサギについての文献が増加した結果と考えられる。また,記録地点数が減少しているササゴイは,実際には個体数が減少していると思われる。

 

4.環境選択

 サギ類が集団繁殖地やねぐらとして,どのような環境を選択しているのかを,関東と関西で比較した。サギ類が営巣した林は,竹林,落葉広葉樹,スギ・ヒノキ林,マツ林などさまざまな種類が確認されたが,関東と関西ではやや異なった傾向がみられた。関東においては竹林で繁殖するものがもっとも多かったが,関西では湿地以外に成立した広葉樹が多く,竹林は少なかった(図2.12)。

 林の中を高木層と低木層にわけ,階層別に優占種を比較すると,関東の集団繁殖地,夏ねぐら,冬ねぐらにおいては高木層の優占種は,タケ・ササ類とクヌギ・コナラなどの落葉広葉樹で,低木層においては,タケ・ササ類の進入する林が約6割を占めた(図2.13)。これに対し関西では,高木層や低木層においてタケ・ササ類が少なく,繁殖地やねぐらとして常緑樹やマツが多く利用され,低木層においては常緑のなく,繁殖地やねぐらとして常緑樹やマツが多く利用され,低木層においては常緑の低木が約5割を占めていた。

 集団繁殖地の被度は,関東と関西でさまざまな割合が観察された。関東では,低木層の被度が,76〜100%を占めるところが24か所(45.3%)と多いのに対し,関西では,被度が0〜25%しかない低木の少ない林が利用される割合が16か所(42.1%)と多かった(図2.14)。

 集団繁殖地の高木の高さは,関東では6〜10mが32か所(54.2%)と半数を占め,5m以下の木が6か所(10.2%)利用されていた。関西では5m以下の木は利用しておらず,21m以上は6か所あり,関東にくらべ高木が高い傾向がみられた(図2.15)。

 サギ類の集団繁殖地やねぐらが形成された林の総面積を,面積のランク別に頻度を求めて示した(図2.16)。それぞれ約半数が1ha以下の比較的せまい林であった。とくに冬ねぐらでは集まる個体数が少なく,せまい林を利用する割合は高い。10ha以上の広い林を利用するものは3か所(3.7%)と少なかった。関東では0.024haから30ha,静岡では0.1haから2haまで,関西では0.016haから4.5haまでが確認された。幅4m長さ60mほどのせまい屋敷林であっても,周囲に畑が広がり人が追い払わないような場所であれば,サギ類は継続して繁殖していた。営巣していた区域そのものの面積は,0.01haから12haであったが,1ha以下の繁殖地は関東では41か所(89.1%),静岡では4か所(66.7%),関西では17か所(77.3%)とほとんどの繁殖地の利用面積は1ha以下であった。全体としては関東が,関西よりせまい林を利用する割合が高い傾向にあった。

 採食場所と集団繁殖地の関係をみると,関東では集団繁殖地から半径1km圏内の環境要素を調査した結果,46か所の内の41か所(89.1%)で,この範囲内に海岸や河川,用水,湖沼などが含まれていた。残り4か所(8.7%)にも半径2km範囲内には,これらの環境要素が含まれていた(図2.17)。集団繁殖地の周囲の環境は,サギ類の採食場所として,そこで繁殖するサギ類の種構成に影響をあたえていると考えられる。東京都のように水田や畑のほとんどない地域では,ゴイサギとコサギの繁殖が大部分で,集団繁殖地の規模も小さい。これに対し茨城県では,霞が浦とその周辺の蓮田にチュウサギやアマサギが多く,千羽以上の大きな繁殖地が5か所確認された。チュウサギが確認された集団繁殖地では,半径1km圏内の環境要素に水田が認められ,水田はチュウサギにとって重要な採食場所と考えられる。アマサギも水田がある場所に多く観察されたが,水田がなくても畑や草地がある場所では確認された。

 

5.保護のための対策と提言

1)保護状況

集団繁殖地や集団ねぐらの法的な保護状況について比較した(図2.18)。集団繁殖地や夏ねぐらにおいては,何の規制もなされていない場所を利用する割合がもっとも大きかった。次いでその他の規制区の割合が高かったが,これらは社寺や公園などの銃猟禁止区域になっている場所である。鳥獣保護区に指定されている場所を利用した割合は,集団繁殖地で6か所(8.0%),夏ねぐらで13か所(15.7%),冬ねぐらで20か所(25.3%)と,低く,冬に増加する傾向が認められる。これは,サギ利用するようになる可能性を示している。

サギ類の中でゴイサギは唯一の狩猟鳥となっており,冬から春にかけ鳥獣保護区や銃猟禁止区域以外の場所では,狩猟圧が加わる。ゴイサギの捕獲は,関東では市街地をのぞく広い地域で行なわれており(大日本猟友会 1982),このことが冬ねぐらの形成に大きな影響をあたえていると考えられる。1990年度におけるゴイサギの狩猟数の多い県は,千葉,熊本,福岡,茨城などで,関東ではゴイサギの狩猟数が多いことがわかる(環境庁 1991)。

ゴイサギの全国における狩猟捕獲数の推移を図2.19に示した。大正14年(1925年)度におけるゴイサギの捕獲数は45,633羽と多かったが,平成2年(1990年)度には7,364羽と約6分の1に減少している(環境庁 1991)。大正時代の狩猟登録者数は,現在の半数の約10万人と少なかったことを考えると,ゴイサギの生息数は減少している可能性がある。

前述したように,冬ねぐらにおけるゴイサギの割合は,1980年にくらべ減少している。捕獲数の減少は,ゴイサギの生息数の減少を反映しているものと思われる。ゴイサギは,サギ類の集団繁殖地の9割で確認され,他のサギ類に先だって繁殖を開始していることから,集団繁殖地を形成する上で重要な役割を果たしていることが予想できる。そのゴイサギが減少していることは,他のサギ類の生息状況にも大きな影響をあたえる可能性がある。

サギ類は,浅い湿地に水田がつくられるようになってきたころから,人々にとって,より身近な存在であったと思われる。根木(1991)は,水田の造成によって浅場高温水域が拡大し,ここで繁殖するカエル類,魚類,水生昆虫類の生息場所を拡大し,この食物連鎖の上位に位置するサギ類に理想的な採食場所をあたえたと指摘している。サギ類は,水田農業と深い関わりをもつ身近な生き物であり,サギ類の減少は,身近な田園の変化を示唆するものであろう。サギ類の採食場所である水田や池沼,河川,干潟などの湿地や,営巣するための林の減少が進行しつつある。

2)鳥害

現地調査の結果から,関東では12か所の営巣場所で鳥害が発生していることが確認された。人家と接した林でサギ類が繁殖している場所では,ヒナのフンや鳴き声が悪臭や騒音の原因となっていた。とくに住宅地や飲食店が近くにある場所では苦情が多く,公園の中で営巣している場合でも,近くに人家が密集しているところでは,社会問題になっていた。また,大阪の天王寺動物園では,オリの上に営巣したゴイサギがペンギンなどの餌用の死んだ魚類を採食するという問題がみられた。サギ類の集団繁殖地が人家と離れている場所では鳥害は認められなかった。住宅地の中にあっても社寺や学校,工場などの林にある場合には,問題の発生は比較的少なく,積極的に保護したいと考えている場所も関東では6か所(8.1%)確認できた。

鳥害を発生させないためには,サギ類が安心して営巣できる場所を地域ごとに保護区として,できるだけ広い範囲を指定することが望ましい。現地調査の結果,社寺林や公園緑地などは,比較的継続して繁殖が期待できる場所であった。公園などの設計を行なう際,サギ類が繁殖できるような林をできるだけ広く設けたり,池の中に浮島をつくるなどの配慮が望まれる。

以上のような生息場所を設定した上で,必要に応じて集団繁殖地やねぐらを誘致以上のような生息場所を設定した上で,必要に応じて集団繁殖地やねぐらを誘致していくことは検討する価値があろう。また開発を行なう時期については,サギ類にもっとも影響の少ない季節を選ばなければならない。とくにヒナが巣の中にいる時期に,営巣林を伐採するようなことは避けなければならない。サギ類と人との共存を図るためには,フンの消臭対策などが必要になるが,牧場などではおが屑をまいて消臭効果をあげていることから,わらや落ち葉を敷いてそこにフンを吸着させることは有効であると考えられる。現地調査において下草が少なく,落ち葉が多い繁殖地の林床では,フンによる臭いの強度が軽減されている印象を受けた。さらに悪臭や騒音を軽減したり,樹木の枯死を防ぐ技術的な開発が望まれる。かつては,サギ類のフンを敷きわらに染み込ませて,田畑の堆肥として利用していた(小杉 1980)。今後このような,フンの効用を見直し,有機農業や森林の維持に役立てるとともに,営巣林の管理を地域活動の中に位置付けることも大切に思われる。

図2.20に全国の有害鳥獣駆除によるサギ類駆除数の推移を示した(環境庁 1991)。有害鳥獣駆除による捕獲数は,ゴイサギが多く,年による変動が大きい。コサギとチュウサギは,1981年以降に駆除数が増加しつつあり,1990年にはコサギが3,021羽,チュウサギが528羽が駆除されている。ダイサギは,1985年以降駆除されるようになり,もっとも多い年には1,137羽が駆除されている。平成2年(1990年)度での有害鳥獣駆除の多い県は,ゴイサギでは愛知,福岡,新潟,コサギでは佐賀,福岡,愛知,ダイサギでは佐賀,岐阜などである。関東の現地調査において,冬に養魚場で採食するゴイサギやコサギがワナによって駆除されているのが観察された。日本野鳥の会研究部(1981)によれば,サギ類の鳥害として養魚池の食害(25.7%)がもっとも多くあげられ,以下フン害,悪臭,騒音,苗の踏みつけ,植林地の枯死,汚水の流出があげられている。このことからも,サギ類は養魚場などと密接な関係があると示唆された。

近年,河川や海岸の水際線は人工化され,干潟や池沼は埋め立てられ,水田も乾田化しつつある。このため,サギ類にとって冬は食物資源の特に少ない時期で,結果として養魚場に集まってくると考えられる。サギ類が,養魚場で魚を簡単にとれないような工夫をするとともに,採食環境である水辺の復元をしていくことが望まれる。またサギ類は,水田で稲の苗を倒すが,稲に被害を与えるイナゴやザリガニなど小動物を食べるので,これらの天敵としての役割をもっと評価する必要があろう。

3)保護対策のあり方

サギ類の集団繁殖地が形成される林の種類や面積は,さまざまであった。一般に低木層にタケ・ササ類,常緑樹が生育したり,高木の被度が高く,樹冠がうっぺいしている林が選ばれている傾向がみられた。また鳥獣保護区や社寺林や学校の敷地林,廃屋の屋敷林,河畔林など人為的撹乱の少ない場所では,長期間にわたって集団繁殖地が維持されていた。このことから営巣場所の立地条件の社会的側面は重要で,社寺林や公園,河畔林などは地域住民に受け入れやすい場所であるといえる。今後集団繁殖地の保護を進める上では,この点について十分留意すべきであろう。

また集団繁殖地が成立している場所の半径約1kmから2km以内には,採食場所となる河川や海岸,水田,池沼などの水辺環境が存在していた。したがって,サギ類の集団繁殖地を保護するためには,集団繁殖地が形成される緑地と一緒に水辺も保全することが必要である。現地調査では,湿地に生育するハンノキやヤナギを利用する割合は低かったが,これはすでに調査地においてほとんど失われている植生と考えられる。人とのあつれきを解消するためにも,人との接触の少ない河畔林などを回復させていくべきであろう。

本調査によって,ササゴイの集団繁殖地の規模は小さく,繁殖地の数も少ないことが明らかになった。ササゴイは,これらのサギ類の中で,緊急に保護対策が必要なサギである。ササゴイは,河畔林の広葉樹や樹高16m以上の神社のイチョウやケヤキに営巣する傾向にあった。ササゴイの営巣できるような中州の広葉樹や樹冠の発達したイチョウなどは,できるだけ伐採しないように保全することが望まれる。また,河畔林を復元したり,人工の巣台を設置することによって,営巣場所の代替地をつくり誘致することも試みる価値があろう。

チュウサギは,茨城では多く観察されたが他の地域では少なく,保護を必要とするサギである。茨城では蓮田や水田,池沼などの浅い湿地が多く,チュウサギにとって,重要な採食場所となっている。チュウサギは,流れのある河川ではほとんど採食しないため,水田や浅い湿地の食物資源の減少がチュウサギの減少の原因と考えられる。戦後,水田の土地改良が大規模に行なわれ,用水路がパイプライン化することによって,魚類や甲殻類が減少し,チュウサギも減少したと考えられる(成末・内田 1993)。海や河川,水田などの連続した水域の分断や消失は,サギ類の食物資源である魚類や両生類などの多くの水生生物の減少を引き起こしていると考えられる。

ゴイサギは,はとんどの集団繁殖地で観察され,繁殖開始時期が比較的早いため他のサギ類が繁殖地を形成する上で重要な役割をはたしている可能性がある。また,ゴイサギの狩猟捕獲数の減少から銃猟禁止区域の拡大や,必要に応じて狩猟を規制することも検討すべき課題である。

ダイサギは,集団繁殖地の中でも個体数が少なく,大きい樹木の高い位置に営巣している傾向が観察された。人に対する警戒心が高いので,営巣環境として人が立ち入らないことも重要な繁殖条件と考えられる。アオサギやアマサギは,分布拡大の傾向がみられるが,詳しい調査は今後の課題である。

サギ類の集団繁殖地において,開発規制や銃猟規制が行なわれている場所は少なく,関東では46か所の集団繁殖地のうち,鳥獣保護区の指定が3か所だけで,そのうち1か所は埼玉県花園町指定文化財として,落下したヒナの養育も行なっていた。このほかには社寺や公園のような銃猟禁止区域の開発の心配がない場所は5か所ほどしかなく,それ以外の場所は将来開発などによって利用できなくなる可能性がある。サギ類の保護の効果をあげるためには,営巣場所の法的な保護が必要であろう。

しかし,野田のサギ山のように営巣場所だけを天然記念物として指定して保護しても,サギ類の集団繁殖地の規模は縮小したり,消失することもある。現地調査を行なった埼玉県坂戸市には,約50年以上継続してきたサギ類の集団繁殖地と夏ねぐらが確認されたが,1992年に営巣場所周辺の休耕田が開発されると,集団繁殖地は約5km離れた他の場所に移動した。これは採食場所として重要な休耕田や湧き水のある湿地が開発により消失したためと考えられる。したがってサギ類の保護においては,営巣場所だけでなく採食場所もいっしょにセットとして保全していくことが重要である。

東京駅から南に2kmの浜離宮庭園では,人の立ち入らない鴨場跡に,ダイサギをはじめ,コサギ,ゴイサギ,アオサギが集団繁殖地やねぐらを形成している。これらのサギ類は,都市の中心地でも安全な林と採食する水辺があれば生息できる。サギ類と共存できる環境は,人にとっても潤いのある住みよい環境と考えられる。身近な環境を保全するためにも,サギ類を指標として,豊かな水辺環境を保全していくことが求められる。

 

6.評価

今回の調査によって,サギ類の集団繁殖地については全国的な分布状況をほぼ把握できたものと考えられる。集団ねぐらについては,アンケート調査では,情報を収集しなかったため,日本全域にわたる分布状況などは明らかにできなかった。しかし茨城県,埼玉県,東京都,神奈川県,静岡県,大阪府,兵庫県については,文献調査と現地調査によって充分な情報が収集でき,集団ねぐらの分布状況も明らかにできたものと思われる。

 

表2.1サギ類の形態と特徴

Table2.1 Characteristic Features of herons and egrets.

ゴイサギ

ササゴイ

アマサギ

ダイサギ

チュウサギ

コサギ

アオサギ

全長

体重

くちばしの色

目先の色

虹彩

57cm

590g

52cm

300g

暗黄

50cm

370g

90cm

930g

黄(黒)

緑(青緑)

暗黄

70cm

540g

黄(黒)

暗黄

60cm

420g

黄(黒)

黄(青緑)

93cm

1370g

緑黄

鮮黄

特徴

繁殖期には後頭部から白色の飾り羽が伸び,脚や紅彩も赤みを帯びる。

 

 

外見はゴイサギによく似るが一回り小さく,後頭部の羽毛は黒色で長く冠羽状である。

 

 

繁殖期には頭から胸,背の羽がオレンジ色になる。

 

 

 

 

繁殖期には肩や胸に飾り羽が伸びる。白いサギのなかで最大の大きさである。

 

 

 

繁殖期には肩や胸に飾り羽が伸びる。コサギに比べて体はやや大きく,くちばしは短く,頭は丸くずんぐりしている。

繁殖期には後頭部から数本の飾り羽が伸び,背や胸にも飾り羽がはえる。

 

 

 

頭上や額は白色で目の後方の上部に黒色帯があり,後方に伸びて房状にたれる。

 

 

 

( )は繁殖期

清棲(1978)榎本(1941)

 

表2.2 サギ類の集団繁殖地の確認数

Table2.2 Number of heronry sites.

ゴイサギ

ササゴイ

アマサギ

ダイサギ

チュウサギ

コサギ

アオサギ

全体

都道府県数(文献含む)のべ確認数

 

メッシュ数(文献含む)

43

 

347

 

168

15

 

30

 

26

27

 

115

 

80

19

 

95

 

59

25

 

109

 

65

38

 

230

 

134

30

 

169

 

113

46

 

508

 

206

 

表2.3 地域別にみたサギ類の集団繁殖地と集団ねぐらの数

Fig.2.3 Number of heronries and roosts in each region of Japan.

 

都道府県数

ゴイサギ

ササゴイ

アマサギ

ダイサギ

チュウサギ

コサギ

アオサギ

全体

か所数

%

か所数

%

か所数

%

か所数

%

か所数

%

か所数

%

か所数

%

か所数

%

関東

繁殖地

夏ねぐら

冬ねぐら

4

6

4

44

40

23

95.7

69.0

46.0

2

1

0

4.3

1.7

0.0

28

24

0

60.9

41.4

0.0

24

35

23

52.2

60.3

46.0

20

20

0

43.5

34.5

0.0

37

44

42

80.4

75.9

84.0

7

13

14

15.2

22.4

28.0

46

58

50

100.0

100.0

100.0

静岡

繁殖地

夏ねぐら

冬ねぐら

1

1

1

6

10

3

100.0

100.0

33.3

1

2

0

16.7

20.0

0.0

3

5

0

50.0

50.0

0.0

1

5

5

16.7

50.0

55.6

3

6

0

50.0

60.0

0.0

5

9

7

83.3

90.0

77.8

3

5

5

50.0

50.0

55.6

6

10

9

100.0

100.0

100.0

関西

繁殖地

夏ねぐら

冬ねぐら

3

4

1

20

12

13

87.0

80.0

68.4

2

1

0

8.7

6.7

0.0

12

11

1

52.2

73.3

5.3

11

12

9

47.8

80.0

47.4

3

8

0

13.0

53.3

0.0

19

15

12

82.6

100.0

63.2

15

7

14

65.2

46.7

73.7

23

15

19

100.0

100.0

100.0

合計

繁殖地

夏ねぐら

冬ねぐら

8

11

6

70

62

39

93.3

74.7

50.0

5

4

0

6.7

4.8

0.0

43

40

1

57.3

48.2

1.3

36

52

37

48.0

62.7

47.4

26

34

0

34.7

41.0

0.0

61

68

61

81.3

81.9

78.2

25

25

33

33.3

30.1

42.3

75

83

78

100.0

100.0

100.0

%は出現率を示す

 

表2.4 地域別にみたサギ類の集団繁殖地と集団ねぐらの個体数

Fig.2.4 Number of individuals in heronries and roosts, each region of Japan.

 

都道府県数

ゴイサギ

ササゴイ

アマサギ

ダイサギ

チュウサギ

個体数

%

個体数

%

個体数

%

個体数

%

個体数

%

関東

繁殖地

夏ねぐら

冬ねぐら

4

6

4

3,897

4,020

405

20.0

12.7

9.9

6

0

0

0.0

0.0

0.0

5,085

8,118

0

26.1

25.6

0.0

429

2,567

555

2.2

8.1

13.6

2,513

4,580

0

12.9

14.4

0.0

静岡

繁殖地

夏ねぐら

冬ねぐら

1

1

1

843

472

22

39.3

20.5

2.3

8

9

0

0.4

0.4

0.0

210

153

0

9.8

6.6

0.0

4

71

20

0.2

3.1

2.1

67

69

0

3.1

3.0

0.0

関西

繁殖地

夏ねぐら

冬ねぐら

3

4

1

1,659

744

880

36.4

10.9

32.7

43

1

0

0.9

0.0

0.0

491

602

3

10.8

8.8

0.1

95

722

206

2.1

10.5

7.7

16

147

0

0.4

2.1

0.0

合計

繁殖地

夏ねぐら

冬ねぐら

8

11

6

6,399

5,236

1,307

24.5

12.8

16.9

57

10

0

0.2

0.0

0.0

5,786

8,873

3

22.1

21.7

0.0

528

3,360

781

2.0

8.2

10.1

2,596

4,796

0

9.9

11.7

0.0

 

都道府県数

コサギ

アオサギ

不明

合計

個体数

%

個体数

%

個体数

%

個体数

%

関東

繁殖地

夏ねぐら

冬ねぐら

4

6

4

5,070

7,338

2,204

26.1

23.1

54.0

21

148

75

0.1

0.5

1.8

2,429

4,949

840

12.5

15.6

20.6

19,450

31,720

4,079

100.0

100.0

100.0

静岡

繁殖地

夏ねぐら

冬ねぐら

1

1

1

718

1,063

672

33.5

46.2

70.9

94

36

234

4.4

1.6

24.7

200

429

0

9.3

18.6

0.0

2,144

2,302

948

100.0

100.0

100.0

関西

繁殖地

夏ねぐら

冬ねぐら

3

4

1

1,124

3,889

942

24.7

56.8

35.0

569

63

399

12.5

0.9

14.8

557

683

261

12.2

10.0

9.7

4,554

6,851

2,691

100.0

100.0

100.0

合計

繁殖地

夏ねぐら

冬ねぐら

8

11

6

6,912

12,290

3,818

26.4

30.1

49.5

684

247

708

2.6

0.6

9.2

3,186

6,061

1,101

12.2

14.8

14.3

26,148

40,873

7,718

100.0

100.0

100.0

図2.21 集団ねぐら ゴイサギ

図2.22 集団ねぐら ササゴイ 

図2.23 集団ねぐら アマサギ

図2.24 集団ねぐら ダイサギ

図2.25 集団ねぐら チュウサギ

図2.26 集団ねぐら コサギ

図2.27 集団ねぐら アオサギ

 

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