発刊によせて

黒田 長久

 近年,環境庁が広く野生生物を対象とし,全国的にかつ地域住民の参加を求めて,きめ細かい自然保護行政を推進していることは喜ばしい。今や,一国一地方の野生生物も地球の生命遺産として位置づけられ,その保全は該当する国の責務として問われている。この野生生物保全に対する世界的な哲学を国民共有の哲学として育て,行政担当者が交代しても遂行できるような,持続性ある保全施策の基盤を早期に確立しなければならない。

 そのためには,欧米諸国では古くから成果をあげている行政機構を参考として,学者,専門家などの行政参加による情報の収集と分析のシステム部門を設置することにより,計画的、科学的な行政施策が立案される方途を開拓していくことが必要である。

 環境庁が実施している自然環境保全基礎調査は,日本産野生生物の分布を把握することにより,その保護に必要な野生生物保護対策を立案し実行してゆく科学的な行政への試みとして歓迎される。

 今回の「第4回自然環境保全基礎調査 鳥類の集団繁殖地及び集団ねぐらの全国分布調査」では,日本野鳥の会の会員を中心とした多くの方々の熱意あるご協力により,全国から情報がよせられた。これらの貴重なデータは,日本野鳥の会により逐一検討され,分布図として本報告書に示さている。その成果に基づいて,集団繁殖地や集団ねぐらを形成する鳥類の保護が一段と進展することを望みたい。

 本報告書の発刊にあたり、有意義な試みに参加された全国の調査員および関係者の方々のご努力に謝意を表し,併せてこの企画の将来の進展を期待いたしたい。

 

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