2 調査事業の実施状況

(1)昭和53年度事業の実施状況

 第2回自然環境保全基礎調査動物分布調査(哺乳類)の聞きとり調査は,昭和53年5月から昭和54年2月の間に行なわれた。

 聞きとり調査地点は,国土地理院発行の5万分の1地形図を縦横それぞれ4等分してできる区画(「調査区画」)の中から,2地点が選ばれた。

 調査者は,1地点につき2名以上,すなわち,1調査区画につき4名以上の回答者から聞きとることを原則とした。しかし,人が定住していない,あるいは全域にわたり市街地化が著しい調査区画は,調査が省略された。

 上記の聞きとり調査によって得られた資料をもとに,各都道府県において「第2回自然環境保全基礎調査―動物分布調査報告書(哺乳類)」が作成された。哺乳類の分布図は,5万分の1地形図の16等分された1区画(5kmメッシュ)を単位とするメッシュ図によって表示された。

(2)昭和54年度事業の実施状況および情報処理方法

 昭和54年度事業では,第2回自然環境保全基礎調査で得られた哺乳類の分布情報の処理作業を行った。

 情報処理作業は,(1)得られた情報の正確さの検討,(2)情報の磁気テープ入力化作業,(3)哺乳類8種の全国分布メッシュ図の作成作業の三つを柱とした。

 (i)情報の検討

 情報の正確さの検討は,既存分布資料との比較検討,特に哺乳類分布調査科研グループによる調査結果との比較,および既存資料との不一致地域についてのアンケート,聞きとりによる補足調査として実施された。

 各県から提出された県別哺乳類分布メッシュ図と哺乳類分布調査科研グループによる分布調査結果を比較検討し,調査結果にズレのある区画を抽出した。そして,後者では情報を得たが,前者では情報を得ていない区画のうち,とくにズレの多い地域に関し,(イ)直接ヒアリング調査,(ロ)再アンケート調査を行なった。

 (ii)磁気テープ入力化作業

 磁気テープ入力の概要を図2に示す。

図2 昭和54年度情報処理のフローチャート

 全国47都道府県で作成された分布原図から調査票の情報に対応する生息地域を読みとり,それらの地点を8桁メッシュコード化するにあたっては,昭和44年12月に行政管理庁に答申された基準メッシュシステムを用いた(図3)。

 データシート作成のためのコーディング・フォーマットは図4のとおりである。

図3−1 第一次地域区画

図3−2 第一次地域区画のコード番号の付け方

図3−3 第2次地域区画

図3−4 第三次地域区画

図4 コーティング・フォーマット

 (iii)全国分布メッシュ図の作成作業

 5万分の1地形図にマッピングされている情報の表示にあたっては,数量的処理が容易になるメッシュ方式を採用した。メッシュの大きさは,国土地理院発行5万分の1地形図を16等分したものである。これによって,全国メッシュ分布図を各種ごとに作成した。

 これらの手順を通して得られた生息状況は,表1のように記号によって表示した。

表1 全国哺乳類分布5kmメッシュ図の表示方法

(3)昭和55年度事業の実施状況および情報処理方法

 (i)事業の実施状況の概要

 本年度における事業は,(1)MT化した哺乳類分布情報の集計,整理,(2)分布要因情報の収集・整理,(3)分布要因の解析作業の三つであった。

図5 昭和55年度集計および分布要因解祈フローチャート

 図5に本年度事業の概要を示した。MT化した情報の集計・整理は,電子計算機によって処理され,種別,県別,年代別に情報を整理すると共に,図化された。これによって得られた資料,および前年度に得られた(5kmメッシュの)資料と本年収集した分布要因を重ねあわせ,哺乳類各種の分布要因の解析を実施した。分布要因は狩猟,積雪など,おもに,5kmメッシュの分布図に対応させるものと,土地利用区分など,おもに第3次地域区画(1kmメッシュ)に対応させ,電子計算機による処理を行うものに大別される。双方の結果は,哺乳類の各種ごとにまとめられ,担当者がこれを解析し,報告を作製した(次章参照)。

 (ii)処理作業の電子計算機による情報

 哺乳類分布情報の集計・整理のため,まずMTの再編集および,既存MTの選別・検討を行ない,つぎに,中間作業ファイルを作成した。以上をもとにして,集計解析を行なった。

(イ)哺乳類情報MTの再編集

 i)哺乳類の1記録に含まれた1〜3のレコードを,それぞれ1つのレコードに整理した。

 ii)全国通しのファイルを,県ごとのファイルに区分し,コードをEBCDICからASCIIに変換した。

(ロ)既存MTの検討・選別

 国土関連情報MTを検討し,本分布情報の集計・整理に必要なファイルを検討した。国土関連情報MTのうち,行政界面積ファイル,土地利用区分ファイル,標高ファイルを選び,レコードの再整理を行ない,コードをASCIIに変換した。

(ハ)中間作業ファイルの作成

 哺乳類情報MTの全国通しのレコードを第1次地域区画毎のファイルとしてまとめた。同時に県別に対応する第1次区画の作業ファイルを作成し第1次地域区画毎に作業ファイルとレコードファイルを対応させ,県別の中間作業ファイルを作成した。

 これら中間作業ファイルは,i)メッシュごとに,どの種が生息するか,ii)1つのメッシュがどの行政界に属するか,iii)1つのメッシュがどの土地利用区分に属するか,についてまとめられた。

(ニ)総合関連分析

 i)単純集計

 哺乳類情報MTだけから行われた集計は以下のとおりである(47都道府県単位)。

  a 生息,絶滅情報数および区画数(種別)

  b 生息,絶滅区画分布図(種別)

  c ニホンザルの群れ,仔連れ,その他生息情報別情報数,および区画数

  d シカの出現季節別情報数,および区画数

  e ツキノワグマとヒグマの出現季節別情報数,および区画数

  f 時代別生息,絶滅情報数(種別)

  g 時代別メッシュ分布図(種別)

  h 時代別生息絶滅積算百分率図(種別)

 ii)クロス集計

 国土数値情報MTと哺乳類情報MTをあわせ使用して得られた集計は以下のとおりである。

  a ニホンザルの群れ,仔連れ区画の全生息区画へのオーバーレイ区画分布図。

  b シカの秋期生息区画の全生息区画へのオーバーレイ区画分布図。

  c 生息種類数の区画分布図。

  d 生息―土地利用(森林率)クロス表(種別)

  e 生息―土地利用(森林率)オーバーレイ区画分布図(種別)。

  f 生息種類数―土地利用(森林率)クロス表。

 (iii)分布要因情報の収集および分布要因の解析

 電子計算機によって集計・整理した結果は,哺乳類各種のとりまとめ担当者によって分布要因の解析に利用された。電算機処理された国土数値情報に加えて狩猟圧や積雪に関する資料が収集・整理され,分布要因の解析に利用された。

 イ)森 林 率

 哺乳類分布情報と重ねあわせるべき国土数値情報として,土地利用区分が採用された。これは,土地の利用状態を,森林,農耕地,市街地に分類し,第三次地域区画(1kmメッシュ)のそれぞれについて,これらの土地利用がそれぞれどれ位の割合で含まれているかが情報として示されている。森林の種類(人工林か天然林か)や森林の組成(構成種はスギか,ブナか,など)は,この情報からでは判別できない。しかし,1kmメッシュにおける森林面積の割合が明らかになるということは,森林以外の人為の影響下にある土地利用率を逆に示すことになる。したがって森林率が,相対的な人為的影響の度合を示す指標として使用可能であろうと考え,これを4段階にわけ,それぞれの区分に,各種の生息区画がどれほど含まれるかを調べ,集計すると共に,2kmメッシュの図を作成した。

 本報告における各種の分布と環境要因の解析に使用した各森林率区分は,以下のように各区画に対する森林面積の割合を示している。

 森林率区分9:森林面積70%以上

 森林率区分6:森林面積40〜70%未満

 森林率区分3:森林面積10〜40%未満

 森林率区分その他:森林面積10%未満

 ロ)狩猟圧に関する資料の収集

 狩猟圧に関する資料として,狩猟統計(大正12年〜昭和37年)と鳥獣関係統計(昭和38年以降)を利用した。

 ハ)積雪に関する資料の収集と整理

 サル,シカ,イノシシの分布と積雪との関係を検討するために,一定の積雪深を越える一冬あたりの積雪日数分布図を作製した。基準となる積雪深には,積雪が各種に与える影響を考慮して,サルについては150cm,シカについては,北海道では60cm,本州では50cm,イノシシについては30cmをそれぞれ採用した。積雪日数分布図の作製は以下のように行なった。

 昭和43年(1968年)から昭和53年(1978年)までの冬期10シーズンについて,基準となる積雪深を越える積雪日数を,各都道府県気象月数によって調べた。その際,北海道における60cm以上,本州以南における30cm以上,50m以上の積雪日数に関しては,10シーズンのうち通算5シーズン以上観測が行なわれている地点から,標高,位置等を考慮して選び出した1,120地点について調べた。本州以南における150cm以上の積雪に関しては,資料が少ないため,1シーズン以上観測が行なわれたすべての地点(282地点)について資料を得た。なお,欠測日がある場合でも,積雪深が上記の基準値に達しているか否かが不明な日数が5日以下であれば,そのシーズンについての資料を利用した。

 つぎに,観測シーズン数と基準値を越える積雪日数の合計から,各地点における一冬あたりの平均積雪日数を算出した。そして,得られた数値を50万分の1地勢図上の観測地点の位置に記入し,地形,標高等を考慮しながら,北海道については80日まで,本州については70日まで,10日毎の等積雪日数線を引いた。さらにこれらの図に基づいて,各5kmメッシュの平均積雪日数を各積雪深について10日単位で求めた。このとき,ひとつの5kmメッシュが複数の積雪日数区分にまたがる場合には,最も面積の大きい区分あるいはメッシュのほぼ中央に位置する区分を採用した。また,四国,九州については,基準となる積雪深に達する日数が10日以上になる地域が狭いことから,積雪日数分布図は作製しなかった。周辺島嶼も同様に除外した。

 上記の狩猟圧および,積雪に関する資料は,昭和53年度事業で得られた5kmメッシュ分布図による分布資料と対応され,分布要因の解析に利用された。

 (iv)「5kmメッシュ」と「1kmメッシュ」による分布表示上の関係

 図6に生息区画率の「5kmメッシュ」と「1kmメッシュ」表示の関係を示した。

 「1kmメッシュ」表示による生息区画率は「5kmメッシュ」によるものよりもはるかに少なく,1/10から1/4となっているものが大部分である。この原因としては,(1)本調査の設計が「5kmメッシュ」を基準にしていること,(2)原情報の中で「生息区域」を表示したものは,「1kmメッシュ」を単位とする磁気テープ入力に際して,中央の1点だけをとったこと,が考えられる。

 本調査の聞きとり地点は「5kmメッシュ」で4点が原則であり,これを「1kmメッシュ」あたりに換算すると0.16点にすぎない。さらに,山岳地帯などの人家のない地域を考えると,この割合はさらに下がることは当然である。したがって,「1kmメッシュ」表示による生息区画率等は,小さな値にならざるを得なかった。

 また本調査の対象としたニホンザルなどの中・大型哺乳類の行動圏は,いずれも1平方キロメートルよりも大きく,これらの種の生息情報地点を1kmの小区画で表示した場合には,その分布域図は,実際よりも過少な表示となる。したがって,本報告のとりまとめに用いた「1kmメッシュ」を単位とする分布情報による生息区画率等よりも,昭和54年度報告書で発表した生息区画率等の方が,それぞれの種の分布域を表示する場合には,より事実に近いといえよう。

 「1kmメッシュ」による分布情報地点の処理は,上記のような分布域表示上の欠陥はあるものの,(1)より正確な分布地点を表示しているので,これよりも大きな分布区画の表示に変換することができる,(2)他の国土数値情報の多くは,「1kmメッシュ」で入力されているので,これらと分布情報とを対照させることができる,という利点をもっている。

図6 生息区画率に関する1kmメッシュと5kmメッシュの関係

 そこで,国土数値情報上分布情報を対照させる場合には,「1kmメッシュ」表示を用いることとし,分布域の拡がりを重視する必要がある場合には「5kmメッシュ」を用いることを原則として,分布要因の解析を行った。

 

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