U−3 調査対象8種の分布傾向の比較

 表28は,調査対象の8種について生息区画数と生息区画率を比較したものである。

 調査対象8種のうち生息区画数が最も多いのは,タヌキ9,830区画であり,全区画に対する割合は,61.1%に達している。キツネ9,782区画(60.8%)がタヌキに次ぐ。アナグマ,イノシシは,それぞれ5,877区画,4,905区画と30%台を占め,ニホンジカ,ニホンザル,ツキノワグマが,それぞれ4,089区画,3,904区画,3,585区画と20%台である。ヒグマは1,963区画であり,生息区画数は,調査対象種の中で最も少ない。

 しかし,上記は,国内全区画に対する生息、区画率を計算したものであり,各種の自然分布域内での生息区画率は,上記とやや異なる。*

 すなわち,ヒグマの生息区画率は12.2%であるが,自然分布地域(北海道)の区画数に対する生息区画率は,52.8%とタヌキ,キツネに次ぐ高率を示す。

 アナグマ,ニホンザル,ツキノワグマは,北海道,沖縄に自然分布しないが,これらの自然分布地域の区画数に対する生息区画率は,それぞれ,48.2%,32.0%,29.4%である。また,イノシシの自然分布地域は北海道以外の全国であり,その生息区画率は,39.7%である。ニホンジカは全国に分布するが,その生息区画率は25.4%と最も低い。

 したがって,自然分布域内での生息区画率は,タヌキの61.8%を筆頭に,キツネ,ヒグマ,アナグマ,イノシシ,ニホンザル,ツキノワグマ,ニホンジカの順となる。

*ただし,今回の計算では,対象種が自然分布しない道,県の区画数を減じただけで自然分布域内区画数を求めている。島嶼など自然分布しない地域の細部までは扱っていない。したがって,奄美諸島にはタヌキ,キツネ,ニホンサル,ツキノワグマなどは分布しないが,鹿児島県に属するので自然分布区画数に算入されている。

表28 調査対象8種の生息区画数および生息区画率の比較

 なお,島嶼などで各種が自然分布しない場合,多雪地帯ではイノシシ,ニホンジカの自然分布が制限される場合,高標高地域で各種が自然分布を制限される場合があり,この点を考慮すると,上記の生息区画率にも若干のズレがある可能性が考えられる。

 図24は,調査対象8種の分布傾向を地方別の生息区画率によって比較したものである。

 各地方の生息区画率の変動を見ると,ツキノワグマは東北から九州にかけて漸減する傾向にある。ニホンザルでは中国地方で最も生息区画率が高く,東北,九州へかけて,生息区画率が漸減するという山型の傾向をみせている。

 ニホンジカは,北海道と近畿地方に高い生息区画率のある二山型の傾向を示す。東北では,ニホンジカの生息区画率はきわめて低い。

 イノシシは,近畿,中国の生息区画率が低くなる傾向がある。しかし,イノシシは,近畿以西ではすべての地方で50%以上の生息区画率を示し,ニホンザル,ニホンジカの生息区画率が50%以下であることと比較して,高い生息区画率を示している。これは,イノシシとニホンザル,ニホンジカとの生息地,食性,繁殖力の相違を示すものと考えられる。

 タヌキ,キツネ,アナグマは,どれも生息区画率が高く,各地方でほぼ一様な率を示している。しかし,タヌキは北海道で,キツネは四国と九州で,それぞれ他地方に比べて非常に低い生息区画率を示すことが特徴的である。

 アナグマは,全国的に一様な生息区画率を示すとはいうものの,タヌキ,キツネに比較すると一般に低い生息区画率を示す。また,北海道には分布しない。

 図25は,調査対象8種の生息区画率区画(T〜X)毎の都道府県数を示したものである。

 タヌキは,区分Tが23,区分Uが18,合計41と区分T,Uに87%の都道府県が含まれ,生息区画率の高い都道府県が多いことがわかる。キツネは,区分Tが15,区分Uが13,区分Vが12であり,区分T,Uに全都道府県の600%が,区分T,U,Vに85.1%が含まれている。

 アナグマは,区分Vが20,区分Uが18,区分Wが5であり,区分U,Vに全都道府県の80.9%が含まれる。

 ニホンザルは,アナグマ同様に区分Vが20と最も多いが,区分Wが15,区分Uが9となっており,区分U,Vに含まれる都道府県の割合は,61.7%とアナグマに比較してやや低率である。区分U,V,Wには,93.6%が含まれ,この率はアナグマにほぼ等しい。

 アナグマとニホンザルを比較すると,アナグマは,区分Tが2県あるが,ニホンザルには,区分Tの都道府県はみられず,区分U,V,Wの都道府県数の割合からみても,アナグマの方が生息区画率が一般に高いといえよう。

 ニホンジカは,区分Wが24と最も高く,区分Vが10,区分Xが7である。区分V,Wに含まれる都道府県の割合は,72.3%,区分V,W,Xの合計は,41都道府県で87.2%に達する。タヌキ,キツネと対照的に低い生息率の区分に属する都道府県が多くなっている。

 ツキノワグマは,ニホンジカ以上に低い生息率の区分に属する都道府県が多い。すなわち,最も多い区分は,まったく生息しない区分であるXであり,15県に達している。区分Wが13,区分Vが10であり,区分V,W,Xに含まれる都府県は,80.9%に達する。

 ただし,北海道だけにしか生息しないヒグマは区分Uの比較的高い生息率を示している。

 イノシシは,上記各種に比較すると独特の傾向を示し,区分Uが15と最も多いが,他の区分はT〜Xまで6〜9とほとんど同じ都道府県数を示す。

 上記より,調査対象8種の生息区画率と都道府県数の関係をまとめると以下のようである。

 タヌキ,キツネは,生息区画率の高い都道府県の多いグループであり,ツキノワグマ,ニホンジカは,これらと逆に生息区画率の低い都道府県の多いグループである。これらの中間に位置するのが,アナグマ,ニホンザル,イノシシである。アナグマは,ニホンザルに比較するとやや生息区画率の高い都道府県が多い。またイノシシは,生息区画率によるどの区分にも,ほとんど同じ数の都道府県の数がみられる。

図24 調査対象8種の地方ごとの生息区画率

図25 調査対象8種の生息類型ごとの都道府県数

Fig.25 The pattern of occupation rates for eight species.

   The occupation rate for each species in each prefecture were ranked by order of magnitude and classified in five grades(I=75.1-100.0%,II=50.1-75.0%,III=25.1-50.0%,IV=0.1-25.0%,V=0%).

 これらから,タヌキ,キツネは安定しているグループであり,ツキノワグマ,ニホンジカは,生存の危ぶまれるグループであると言うことができよう。イノシシは,安定している地域と絶滅に瀕している地域の両極端を同じように持っている種であり,ニホンザルは,生存の危ぶまれつつある地域の多い種であると言えよう。

 最後に,調査対象8種の地理的分布を,各島嶼毎にまとめてみた。

 本州,四国には,ニホンザル,ニホンジカ,ツキノワグマ,イノシシ,キツネ,タヌキ,アナグマの7種が分布する。九州では,上記7種のうちツキノワグマが欠け,6種が分布する。

 北海道では,ニホンジカ,ヒグマ,キツネ,タヌキの4種が分布する。

 北海道,本州,四国,九州以外の島々では調査対象となった中・大型哺乳類の生息状況は種数からみると極端に少なくなる。

 各島嶼の調査対象種の分布状況は以下のとおりである。

     礼 文 島……………キツネが移入されたが,エキノコックス病撲滅のために絶滅させられた。

     利 尻 島……………キツネ

     奥 尻 島……………タヌキ

     佐渡ケ島………………タヌキ(キツネは移入されたが,絶滅した)

     金 華 山……………ニホンザル,ニホンジカ

     隠岐(知夫里島)……タヌキ(移入されたもの)

     淡 路 島……………ニホンザル,ニホンジカ,イノシシ,タヌキ

     小 豆 島……………ニホンザル,ニホンジカ,タヌキ,アナグマ(?)

     鹿久居島………………ニホンジカ

     宮   島……………ニホンザル(移入されたもの)

               アナグマ,ニホンジカ(イノシシは絶滅)

     大島(屋代島)………タヌキ

     向   島……………タヌキ

     壱   岐……………タヌキ

     対馬(上島・下島)…ニホンジカ(イノシシは江戸時代に絶滅)

     五島列島………………キツネ,イノシシ,ニホンジカ

     平 戸 島……………タヌキ(ニホンジカ絶滅)

     鷹   島……………タヌキ

     天草諸島………………タヌキ(ただし,九州本土から泳ぎついたと思われるイノシシが生息)

     甑   島……………タヌキ

     種 子 島     (ニホンザルは絶滅)

     馬 毛 島

     口永良部島……………ニホンジカ

     屋 久 島……………ニホンザル,ニホンジカ

     奄美大島

     徳 之 島……………リュウキュウイノシシ

 

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