U−2 調査対象8種の分布

(1)ニホンザルの分布

1.分布の現況

 図7は,ニホンザルの地理的分布をメッシュ図で示したものである。

 本種は,北海道,茨城および沖縄県を除く1都2府41県に分布している。すなわち分布域の北限は青森県下北半島(北緯41゜31′)であり,南限は屋久島(北緯30゜20′)である。本州,四国,九州の周辺島嶼では,屋久島,淡路島,小豆島にだけ分布する。広島県,宮崎にも生息しているが,自然分布ではなく,小豆島より移入したものである。

 生息区画数(群れ生息区画数+群れとは判定できない少数個体出現区画数)は,3,904区画と本調査の対象種の中で,ヒグマ,ツキノワグマについで少なく,生息区画率(全区画数に対する生息区画数)は,243%である(付表1)。

 図8は,付表1より,地方別の生息区画数・率と絶滅区画数・率を示したものである。生息区画数は中部の954区画を筆頭に,中国762.5区画,九州707区画,近畿606区画,東北327区画,四国277区画,関東270区画と続く。

 生息区画率をみると,中国,近畿,四国,中部がそれぞれ,53.7%,44.3%,41.7%,34.4%と全国平均またはそれ以上となっている。九州は32.9%と全国平均をやや下まわり,関東,東北はそれぞれ21.6%,11.9%と全国平均よりかなり低く,ことに東北は全国で最も低い。関東から東北地方にかけて分布域に空白が多いことは,このことを物語っている。

 全国的な分布傾向を見ると,中部地方以西の分布域が広い西高東低型の生息分布を示しているといえよう。これは,本州,四国,九州におけるニホンジカおよびイノシシの生息分布の型に類似している。

図7 ニホンザルの全国分布メッシュ図

図8 ニホンザルの地方別の生息区画率と絶減区画率

図9 ニホンザルの地方別の群れ/生息区画率,絶滅/生息区画率

表13 ニホンザルの地方別の群れ/生息区画率

 また絶滅区画数と全ての情報のあった区画数との割合(絶滅/生息区画率)は,東北16.3%と高く,中国2.1%,近畿5.5%と低い。

表14 ニホンザルの地方別の群れ/生息区画率

 ニホンザルの生息区画は,調査方法でのべた区分により,「群れの生息する区画」と「群れと判定できない少数個体の出現区画」の両者である。生息区画数に対する「群れ生息区画」数の割合はその地域の個体群の構造を示す,と考えられる。

 図9,表14は,群れ生息区画数と生息区画数の割合(群れ/生息区画率)を示す。四国,中国,近畿は70%台で全国平均の57%よりも高く,中国,九州は30%と低い。

 表15は,付表1にもとづいて,本種の生息区画率と絶滅/生息区画率から都道府県を類別したものである。区分Xの北海道と沖縄県には本種は自然分布しない。区分TとUは,生息区画率が50.1%以上であるが,本種では,このような高率の生息区画率を示す県はない。

 区分Vには,福井ほか14府県が該当し,本種としては比較的高い生息区画率と低い絶滅区画率を示している。

表15 ニホンザルの生息区画率,絶滅/生息区画率からみた都道府県の類別

 区分W1には,青森ほか24都府県が該当する。生息区画率は低いが,絶滅区画率も低い。

 区分W2には,岩手,福島,新潟,石川の4県が該当する。生息区画率が低いだけではなく,絶滅区画率が高く,本種の将来が憂慮される。

 さらに,群れ/生息区画率を考えあわせて,表16に都道府県を類別してみた。同じ生息区画率ならば,群れ/生息区画率の高い方が,低い方に比べてより安定していると考えられる。群れ/生息区画率が50%より大きいか,小さいかを区分の基準として都道府県を類別した。区分Uに類別された9府県の中では,山梨,三重の群れ/生息区画率は大きい方に属する。区分Vに類別された20都県のうち,群馬,兵庫,岡山,香川,福岡の5県は,群れ/生息区画率も小さい。さらに,区分Wに類別された15府県のうち,秋田,山形など9府県は,群れ/生息区画率も小さく,本種の存続が危ぶまれる府県であるといえよう。

2.第2回自然環境保全調査,都道府県「動物分布調査報告(哺乳類)1978」にみられる分布要因と分布域変動傾向

 都道府県の報告書に記されているニホンザルの分布の変動についての知見をまとめると以下のようである。

 分布域の拡大,あるいは目撃例の増加は山形,栃木,神奈川,岐阜,静岡,山梨,愛知,山口の各県で指摘されている。その要因については,個体数増加,生息地の撹乱,狩猟対象獣でないこと,などが挙げられている。

表16 ニホンザルの生息区画率,群れ/生息区画率からみた都道府県の類別

 分布域の拡大要因を明確に個体数増加と指摘したのは神奈川県である。

 分布域の拡大要因の中で,生息地の撹乱には林道,観光道路などの交通網の発達,拡大造林の奥山での進行,広葉樹林の針葉樹林化などの様々な内容があるが,この点を指摘しているのは,山形,栃木,愛知の3県である。

 分布域の拡大あるいは目撃例の増加の理由として,本種が狩猟対象獣でないことを指摘したのは山形県である。

 分布域の拡大の年代は,昭和30年代あるいは40年代と報告されている(山形,栃木,岐阜,静岡,愛知の5県)。

 分布域の縮小を報告しているのは,群馬,長野,新潟,奈良,京都の5府県である。その要因として,森林伐採,開発があげられている。

 奈良県では,明治以降,昭和30年代まで,本種が一貫して分布域を縮小していることが指摘されている。

 本種の自然的分布制限要因については,岐阜県で以下の指摘なされている。「本種の分布域の大部分は,積雪1m以下,根雪期間20日以内,1月の平均気温が0℃を越える地域であり,根雪2m以上の豪雪地帯の生息例は,荘川村別山(2,399m)南斜面などわずかである」

3.分布域の変動要因および分布を制限する要因について

 ニホンザルの分布域の変動要因および分布制限する要因は,1)分布域を拡大する要因,2)分布域を制限する要因にわけて考えることができる。

 1)分布域を拡大する要因

 分布域を拡大する自然的要因としては個体数の増加があげられる。また人為的要因としては,生息地の撹乱(前述),移出があげられる。各地の野猿公苑の中には,他地域から本種を移動させた例がある(広島県宮島など)。

 2)分布域を制限する要因

 分布域を制限する人為的要因としては,狩猟,森林伐採,開発があげられる。本種は,昭和21年以降狩猟の対象獣からはずされているが,有害獣としての駆除は各地で行われている。特に近年大都市近県で捕獲数が急増しており(渡辺,1978),本種の分布域を制限する大きな要因となっている。

 分布域を制限する自然的要因としては,気候,標高,植生等があげられる。本種の分布域を積雪量,気温等の気候要因から分析したものとしては,前述の岐阜県の例がある。本種は,積雪期には高標高地域から低標高地域に季節的移動を行うことが知られており(丸山他,1974),高標高地域では本種の分布が制限されると考えられる。

 本種は,分布する地域の植物を選択的に利用するという食性上の特徴をもっている。すなわち,本種は亜寒帯林要素の木本植物を主要な食物としてとりいれていない(上原,1978)ので,このような植生の地域には,分布域を拡大することは困難であると考えられる。

(2)ニホンジカの分布

1.分布の現況

 図10は,ニホンジカの地理的分布をメッシュ図で示したものである。

 本種は,北海道,本州,四国,九州,瀬戸内諸島,対馬,五島列島,大隅諸島,慶良間諸島に分布することがわかる。

 しかしながら,生息区画数は4,089区画と本調査の対象種の中で,ニホンザル,ヒグマ・ツキノワグマについで少なく,生息区画率(全区画数に対する生息区画数)は,25.4%にすぎない。

 図11は表17より,地方別の生息区画数・率と絶滅区画数・率を示したものである。

 生息区画数は北海道の1,684区画を筆頭に,近畿690.5区画,九州551.0区画,中部511.0区画の順である。東北の65.0区画は,極めて低いといえる。

 生息区画率をみると,北海道,四国,九州がそれぞれ45.3%,26.0%,26.6% と全国平均またはそれ以上となっている。本州にっいては,近畿が50.5%と高いことを除いては,東北,関東,中部,中国とも全国平均をはるかに下回っている。とくに東北は2.4%と極端に低い。分布メッシュ図に空白部の多いことが,これを如実に示している。また中部については,北陸地方で空白が目立っている。

 北海道と近畿が,区画数・区画率ともに高く,逆に東北・関東・中国が低いといえる。

図10 ニホンジカの地方別の生息区画率と絶滅区画率

図11 ニホンジカの全国分布メッシュ図

図12 ニホンジカの地方別の周年/生息区画率,絶滅/生息区画率

表17 ニホンジカの地方別周年/生息区画率

 全国的な分布傾向を他の動物種と比較すると,北海道を除いた場合,中国の値がイノシシ,ニホンザルに比べて少し低いようであるが,イノシシ,ニホンザルの傾向と同じように,西高東低型の生息分布を示しているといえよう。

 絶滅区画率は,中部で6.0%と最も高く,中国,四国,九州,関東,近畿は,ほぼ全国平均3.2%に近い。北海道,東北は0.6,0.2%と低いことがわかる。

 また絶滅区画数の生息区画数に対する割合をみると,中部24.5%,中国22.1%,関東16.8%となる。北海道1.4%,近畿,四国,九州が14%台と低いことがわかる。

 生息区画率の高い北海道,近畿で低く,生息区画率の低い関東,中国で高いことが特徴的である。

 ニホンジカの生息域は,調査方法でのべた区分によって,「一年中生息している地域」と「季節によって生息している地域」に区分することができる。前者を「周年生息地域」,後者を「季節的・一時的生息地域」とする。

 図12,表16は,周年生息区画数と生息区画数の割合(周年生息/生息区画率)を示している。

 北海道,中国,九州は,30%台で全国平均51.7%より低いことがわかる。他地域は53.8〜64.0%と比較的高い値を保っている。

表18 ニホンジカの生息区画率,絶滅/生息区画率からみた都道府県の類別

 表18は,本種の生息区画率,絶滅/生息区画率から都道府県を類別したものである。

 本種の生息をみない区分Vは,青森,秋田,新潟,富山,石川の日本海側に面した5県と茨城・福島の2県の合計7県である。一方,生息区画率75%以上の区分Tを示す地域は認められず,区分Uの比較的高い生息区画率を示す地域も山梨県をはじめとした6県にすぎない。47都道府県のうち34都府県(72%)は,生息区画率が50%以下の区画V,Wに類別され,特に生息区画率が低い区画Wには岩手県をはじめとした24都府県(57%)が含まれている。これらのうち,絶滅/生息区画率が25%以上と高い比率を示す区分V2,W2,W3に含まれる地域は,静岡県をはじめとする10都府県である。なかでも区分W3に整理される東京,愛知,佐賀,沖縄の1都3県は絶滅/生息区画率が50〜75%と特に高い値となっているのが注目される。

 表18は,先述した表17の絶滅/生息区画率のかわりに,本種の周年生息区画率を用いて生息区画率からみた都道府県の類別を区分したものである。生息区画率からみて同じ区分でも,周年生息区画の多少によって,個体群の勢力は異なる可能性が考えられる。すなわち一般的にみて,同じ生息区画率なら周年区画率が高くなるほど個体群は安定しているとみることができると考えられる。また,生息区画率が小さくなるほど個体群が不安定になると考えられることをこれに重ねあわせると,奈良,京都のようなU1,U2に区分される地域に比べてW1に区分される高知県等の地域での本種の動向はより不安定であり,広島県等のW2に該当する地域はさらに不安定であると考えられる。

表19 ニホンジカの生息区画率,周年/生息区画率からみた都道府県の類別

2.第2回自然環境保全調査,都道府県「動物分布調査報告(哺乳類)1978」にみられる分布要因と分布域変動傾向

 上記の報告書に記されているニホンジカの分布制限要因は次のように整理される。

 自然的分布制限要因としては本種の移動と採食を妨げる積雪を指摘するものは,石川,滋賀,兵庫,栃木,山形,富山,福井,長野,北海道の1道8県である。

 一方,人為的分布制限要因としては,(1)開発(都市開発,観光開発,森林の農地化,道路建設など),(2)森林伐採と人工林造成,(3)狩猟(駆除を含む),(4)野犬による捕食,の大きくわけて4項目が考えられている。(1)の開発を指摘しているのは,高知,兵庫,和歌山,愛知,東京,福岡,石川の1都6県である。(2)の森林施業問題は,徳島,奈良,和歌山,沖縄,群馬の5県で指摘されている。(3)の狩猟を指摘しているのは,山口,栃木,愛知,東京,福岡,福井,高知,石川,奈良,沖縄,宮崎の1都10県と多い。また(4)の野犬による捕食を指摘しているのは長崎県である。狩猟による撹乱が原因となって周辺地域へシカが移動し,一見分布域が拡大するようにみえる場合があるが,これは結局は本種の将来にとってマイナスの徴候でしかないのではないかという興味深い指摘があった(奈良県)。

 一方,分布域拡大の人為的要因として,他地域からの移殖ならびに飼育ジカの逃亡が,秋田,兵庫,沖縄県などで指摘されている。

 また本種の分布域変動傾向として,減少傾向を指摘あるいは示唆しているのは,愛媛,奈良,和歌山,長崎,熊本,佐賀,大分,東京,秋田,福島,宮城,青森(絶滅),福岡の1都12県と多いが,逆に漸増あるいは回復を指摘または示唆しているのは,岡山(わずかに),広島,山口,岩手,千葉,福井のわずかに6県でしかなかった。

 なお,分布域拡大例として,エゾシカが津軽海峡を大挙して渡り,青森県に移住したことが報告されている。これは,その後絶滅したが本種にとっては,20km程度の海峡も場合によっては越えうることは,分布域変動の要因として特記しておく必要があると考えられる。

(3)ツキノワグマの分布

1.分布の現況

 ツキノワグマの分布域は,本州では中部以東の山岳地帯に偏り,中部および東北地方に広く分布している(図13)。近畿地方南部と中国地方西部には,他の分布域と完全に隔離された分布域がみられる。四国での分布は希薄で小規模なものが点在し,繁殖区画の情報は得られなかった。

 九州では確実な生息情報は得られていない。

 ツキノワグマの総生息区画数は3,585区画で全国陸地総区画に対する割合は,22.2%とヒグマに次いでせまい分布を示す。

 生息区画数は,東北地方が最も多く,1,442区画,次に中部地方の1,323.5区画で,この2つの地域だけで全生息区画の77.7%と日本全体の生息区画の大部分を占める。その他の順位は,関東(297区画),近畿(270.5区画),中国(227区画),四国(26区画)の順である。

 生息区画率でも,東北地方が最も高く(52.5%),中部(47.8%),関東(23.8%),近畿(19.8%),中国(16.0%),四国(3.9%),九州(0.0%)の順となる。

 絶滅区画率は,中部地方で最も高く(2.4%),次いで四国(2.1%),近畿(1.9%),関東(0.6%),東北(0.4%),九州(0.3%),中国(0.2%)であった。

 生息区画率と生息/絶滅区画率を25%毎に各県について類型化すると表20のようになる。これでみるとTは岩手県だけであり,Uは岐阜,長野など8県,Vは新潟,宮城,奈良など10県である。類型Xではじめて絶滅/生息区画率25%以上の県がみられる。W1は神奈川,滋賀,鳥取など9県,W2は静岡,愛知,和歌山,徳島の4県でみられた。

 X1は絶滅区画だけがみられる県で,愛媛,大分,宮崎の3県であった。

 X2は生息区画も絶滅区画もない県で,このうち北海道と沖縄にはツキノワグマは自然分布していない。

図13 ツキノワグマ,ヒグマの全国分布図メッシュ図

図14 ツキノワグマの地方別の生息区画率と絶滅区画率

図15 ツキノワグマの地方別の繁殖区画率,絶滅/生息区画率

表20 ツキノワグマの地方別の繁殖/生息区画率

表21 ツキノワグマの生息区画率,絶滅/生息区画率からみた都道府県の類別

表22 ツキノワグマの生息区画率,繁殖/生息区画率からみた都道府県の類別

 さらに,ツキノワグマの生息区画率と繁殖/生息区画率から都道府県を類別した(表21)。同じ生息区画率ならば,繁殖/生息区画率の高い方がその個体群はより安定していると考えられる。

 岩手県は生息区画率の高い区分Tに類別されるが,さらに繁殖/生息区画率の高い区分T1に類別される。区分Uおよび区分Vでは繁殖/生息区画率の高い区分U1およびV1に類別される都府県の方が多いが,区分Wでは,繁殖/生息区画率の低いW2に類別される県の方が多くなっている。この区分W2に類別される愛知,滋賀など7県では,本種の将来が危ぶまれる。

2.第2回自然環境保全調査,都府県「動物分布調査報告(哺乳類)1978」にみられるツキノワグマの分布要因と分布域変動傾向

 ツキノワグマの分布の自然的制限要因としては,生息環境としての落葉広葉樹天然林などの自然植生の存在,人工的制限要因としては,伐採,人工林化などの生息環境の改変,狩猟・捕獲があげられる。

 ツキノワグマの生息環境としてミズナラ―ブナクラス域広葉樹林をあげているのは,宮城,秋田,石川,福井,岐阜,京都,和歌山,徳島,山口の9県である。

 また,原生林の伐採,人工林化などの生息環境の改変を指摘しているのは,群馬,栃木,和歌山,徳島である。さらに人工林でのクマによる被害発生に対応した駆除,捕獲が示唆されているのは徳島県だけである。

 ツキノワグマの絶滅に対する危倶が各県の報告書にみられる。絶滅の可能性および進行を指摘している県は,青森,福井,静岡,京都,和歌山,徳島である。

(4)ヒグマの分布

1.分布の現況

 ヒグマの分布は北海道本島に限られ,周辺の離島には生息していない(図13)。

 主な生息域は,大雪,紋別,日高,胆振などの山岳地帯に限られ,都市化,農地化のすすんだ平野部にはみられない。

 生息区画数・率は,1,963.0区画,12.2%と今回の哺乳類分布調査対象種のなかでも低い値を示している。

 都道府県別の生息区画率,繁殖区画率は,それぞれ52.8%,20.5%と,ツキノワグマの平均的なそれよりも高く,生息区画率では東北地方のものと近い値を示している。

 分布状況を類別してみると,生息/絶滅区画率が7.4%であり,類型U1に入る。

表23 ヒグマの生息区画率,絶滅/生息区画率からみた都道府県の類別

2.第2回自然環境保全調査,北海道「動物分布調査(哺乳類)1978」にみられるヒグマの分布要因と分布域変動傾向

 ヒグマの自然的制限要因にはふれていないが,根釧および宗谷の一部にみられる絶滅したとされる地域については,戦後,採草地化等の農耕地化が急激に進行した地域であると指摘している。

 分布変動については,多少の変動はあるが,シカと比較して安定した生息状態を維持しているとしている。

図16 イノシシの全国分布メッシュ図

(5)イノシシの分布

1.分布の現況

 図16は,本調査によるイノシシの地理的分布をメッシュ図で示したものである。

 本種の分布は大きく西南日本に片寄っている。北海道,東北の大部分,福井,石川両県を除いた北陸といった東北日本には全く生息していない。また,関東,大阪,高知,熊本等の平野部では分布が粗であるか,分布していないことが目立つ。

 周辺島嶼での本種の生息例は少なく,本種が分布する島嶼としては兵庫県淡路島,南西諸島があげられる。南西諸島に生息するものはリュウキュウイノシシと呼ばれ,亜種あるいは独立種として区別する説もある。長崎県五島列島では大正時代に絶滅したという情報が得られている。

図17 イノシシの地方別の生息区画率と絶滅区画率,絶滅/生息区画率

 図17は,付表5にもとづく本種の生息区画率,絶滅区画率,絶滅/生息区画率を地方別に示したものである。

 本種の生息区画率は,東北の7.5%にはじまり,関東,中部の順に高くなり,近畿に至って最高値75.1%を示す。一方,近畿以西では,中国,四国の順に除々に減少し,九州では47.1%にまで低下する。

 本種の絶滅区画率の最高値は四国の6.6%である。関東が45%でこれに次いで高い値となっている。一方,東北と中国はきわめて低い値を示し1%以下である。これらに次いで中部,近畿九州は低い値となっている。一方,絶滅/生息区画率をみると最高値は関東の18.9%であり,次いで四国が9.1%と高い値となっている。反対に,中国と東北はそれぞれに0.8,1.9%ときわめて低くなっている。近畿,中部,九州は,2.7,4.3,5.4%で中間的な値となっている。

 以上から,関東地方は生息区画率が低い上に絶滅区画率,絶滅/生息区画率とも高く個体群の将来は特に注意を要する。生息区画率をはじめとしていずれの数値もきわめて低い東北は,雪に対する本種の分布前線的傾向が顕著であり,今後の動向が興味深い。四国は生息区画率こそ比較的高いが,絶滅区画率,絶滅/生息区画率も比較的高いので,個体群の勢力維持が心配である。これほどではないにしても,他の地方も生息区画率が高いとはいえ,数%の絶滅区画率,絶滅/生息区画率が認められ,個体群の将来を楽観しうるというものでは決してない。

表24 イノシシの生息区画率,絶滅/生息区画率からみた都道府県の類別

 表24は,付表5にもとづいて,本種の生息区画率と絶滅/生息区画率から都道府県を類別したものである。区分Xの,北海道をはじめとした1道6県は,先述したように自然分布の範囲外に位置していると考えられる。一般的にみて,区分T→Wへの推移と個体群の勢力の変化に対応しているとすると,生息区画率がきわめて小さい区分Wに分類される栃木,宮城等の10県は,特に今後の動向が注目されるわけである。なかでも絶滅/生息区画率が大きい群馬,千葉両県の生息状況はきわめて不安定であると推測される。

2.第2回自然環境保全調査,都道府県「動物分布調査報告(哺乳類)1978」にみられる分布要因と分布域変動傾向

 都道府県報告書に記載されている自然的分布制限要因としては,積雪を指摘しているものが多く,石川,滋賀,長野,福井,山形,青森,愛知,岐阜の8県となっている。いずれも本種の分布前線的位置を地理的に占めている。積雪の絶滅要因としての働き方については,(1)積雪による採食阻害(長野県),(2)積雪によって個体群の隔離が生じ,小形化すると狩猟によって絶滅し易くなる(福井県),(3)積雪により本種の移動は大幅に妨げられるので,捕獲され易くなる(青森,愛知県),の3点が説明されている。ただし,(2)と(3)は狩猟すなわち人為的制限要因との相乗効果を意味している。沖縄県の場合,台風による森林破壊が餌不足につながり,結果として本種の退行に結びついているのではないかという説明もある。広島県ではキツネによるイノシシの幼獣の捕食例が述べられている。

 人為的分布制限要因として最も多く指摘されているのは,駆除を含めた狩猟であり,福井,群馬,千葉,青森,宮城,愛知,岐阜,長崎,岡山,島根,京都,和歌山,奈良,高知の1府13県にのぼる。都市化,鉄道・道路網の発達,林地の農地化等の開発による移動阻害と生息地の狭小化を指摘するものは,福井,東京,愛知,岐阜,沖縄,島根,和歌山,兵庫,滋賀,愛媛の1都9県と少なくない。また伝染病,豚コレラを指摘しているのは,和歌山,群馬,東京,岐阜の1都3県である。

 一方,滋賀,岐阜両県では,最近の積雪量の減少により生息地が増加し,本種の分布拡大がみられる地域のあることを指摘している。また岐阜県は,生息地での開発行為や狩猟が本種の移動を促し,結果として分布域の拡大した地域があると指摘している。

 ところで本調査の調査票には,本種の優れた遊泳能力を記したものがみられる(沖縄県西表島2例,沖縄本島,鹿児島県奄美大島,滋賀県竹生島各1例)。これは分布拡大要因として取りあげることができよう。

 都道府県報告書に記されてはいないが,本種の人為的な分布拡大要因として,飼育されていたイノブタの逃亡,野生化も考えられる。

 以前は生息していたが現在は生息していない,すなわち本種の絶滅を報告しているのは,青森,石川の2県である。青森,石川の両県の場合,分布制限要因としての積雪の影響によるものと考えられている。

 都道府県報告に記されている「増減」は必ずしも分布域の変動だけを意味するものではなく,むしろ個体数の変動を意味する場合も多いと考えられる。しかし,一般的に両者は互いに関連しているとみられる。「増減」イコール分布域の拡大縮小と考えてもよいだろう。

 減少傾向を指摘しているのは,沖縄,熊本,長崎,岡山,高知,群馬,宮城,静岡の8県である。また全体的には減少傾向だが一部地域で回復がみられるものは,東京,栃木,佐賀の1都2県である。一部地域的減少は,和歌山,奈良,愛媛の3県である。一方,一定していると記しているのは,福井,山梨,宮崎の3県であり,増加あるいは拡大傾向と記しているのは,福島,岐阜,大分,広島,島根の5県である。

(6)キツネの分布

1.分布の現況

 図18は,本調査によるキツネの地理的分布をメッシュ図で示したものである。

 本種は,九州,四国,本州,北海道にきわめて広く分布し,生息区画数は9,781.5区画が数えられる。これの全区画数に対する割合すなわち生息区画率は実に60.8%にものぼり,タヌキとともにまさしく全国的に分布していることがわかる。しかし,周辺島嶼での生息例は少なく,わずかに北海道の利尻島と長崎県の五島列島が知られているにすぎない。兵庫県淡路島,北海道の礼文島ではそれぞれ昭和30年代,40年代に絶滅している。これ以外に分布の空白が目立つのは,(1)山岳地帯奥地(2)平野部(関東,越後,庄内平野等)(3)四国(4)南九州,である。山岳地帯奥地の場合,無人地帯が多いので聞り取り情報が得られず,生息していても確められなかったことも考えられる。平野部ではこのようなことは殆んど考えられず,何らかの原因によって絶滅が進行した結果とみられる。四国,南九州で本種の分布がきわめて薄いのは特徴的であり,その原因としては,先の2点の他に理由があるかもしれない。

 ところで本種の絶滅区画の全国合計は762.0区画で,全区画数に対する割合は4.7%,全生息区画数に対しては7.8%であった。

 図19は,付表6にもとづいて作成した本種の生息区画率,絶滅区画率ならびに絶滅/生息区画率を地方別に比較したものである。

 生息区画率の最高は中国の78.9%,最低は四国の13.8%となっている。九州は40.7%を示し,四国と比べるとはるかに高い値となっているが,中国以北の地方が50%前後あるいはそれ以上を示しているのと比べるとむしろ低い値であることがわかる。

 一方,絶滅区画率は関東が最高で13.4%,北海道および中国は最も低く1%以下であった。次いで東北が3.7%と低い値を示している。中部,近畿,四国,九州では6.7〜7.4%と中間的な値となっている。

 次に絶滅/生息区画率をみると,北海道と中国の値がきわめて低く,1%以下であった。次いで東北が4.9%と低くなっている。反対にきわめて高い値となっているのは四国の34.9%である。次いで関東の21.7%と比較的高い値となっている。中部,近畿,九州は9〜15%の間におさまる。

図18 キツネの全国分布メッシュ図

 以上をまとめると,北海道,東北,中国は生息区画率が高い一方,絶滅区画率, 絶滅/生息区画率がきわめて低く,他地方に比べて個体群の勢力は比較的安定していると考えてよいかもしれない。反対に,四国の場合は,絶滅区画率は中間的な値であるが,生息区画率がきわめて低く,絶滅/生息区画率がきわめて高いので,この地方の個体群の先行きが心配である。関東は,まだ比較的高い生息区画率を示しているが,絶滅区画率は最も高く,絶滅/生息区画率も高いので,やはり個体群の将来が心配である。九州は,絶滅区画率,絶滅/生息区画率ともいわば中間的であるが,生息区画率が比較的低いので,注意を要する。この辺の個体群のトレンドに関する分析は,各種の分布要因と重ねることにより,明確に判定し得るものと考えられる。

図19 キツネの地方別の生息区画率と絶減区画率,絶滅/生息区画率

 表25は,付表6にもとづいて,本種の生息区画率と絶滅/生息区画率から都道府県を類別したものである。区分Xの沖縄県には本種は分布していない。区分TとUは,岩手県をはじめとした1道31県が該当し,比較的に生息区画率の高い地域が多いことがわかる。反対に生息区画率が低いのは,東京,埼玉,神奈川,大阪,愛知,千葉など,平野部が多く,都市化の進んだ地域が目立つ。一般的にみて,区分T→Xへの推移と個体群の勢力の変化が対応しているとすると,生息区画率がきわめて低い区分Wの茨城をはじめとした4県,なかでも絶滅/生息区画率がきわて高い千葉県での今後の本種の変動は充分に注意を要する。

表25 キツネの生息区画率,絶滅/生息区画率からみた都道府県の類別

2.第2回自然環境保全調査,都道府県「動物分布調査報告(哺乳類)1978」にみられる分布要因と分布域変動要因

 キツネに対する自然的分布制限要因は,特に指摘はないが,島および半島では,自然分布しない,または生息するが少ない,あるいは絶滅したとの報告が多くみられる。新潟県(佐渡ケ島),静岡県(伊豆半島),兵庫県(淡路島),長崎(対島,壱岐,五島列島)

 次に,人為的制限要因は,農薬の大量使用,殺鼠剤などの薬品汚染,都市化,宅地化.工業地帯化,水田化のような生息環境の改変,犬疫などの病気,狩猟があげられている。

図20 タヌキの全国分布メッシュ図

 農薬および殺鼠剤がキツネに及ぼす影響は,これらの薬品を直接あるいはネズミなどの餌を通して間接に体内に取り込んで死亡する場合と餌動物の減少にともなう個体数の減少とにわけられる。

 農薬の影響によるものは,奈良,和歌山,福井,愛知の4県,殺鼠剤によるものは,青森,山形,新潟,福井の4県である。

 生息地の改変によって分布域が減少したとする報告のうち,道路建設,都市化,宅地化,工業地帯化によるものは,栃木,千葉,神奈川,新潟,岐阜,京都,大阪,福岡の2府6県,水田化によるものは山形,宮城の2県であった。逆に,観光地化,宅地化などによって,分布域が増加しているとするのは,東京,神奈川,長野,岐阜,山口であった。この原因を観光地化,宅地化による残飯,生活廃棄物等のエサの出現,増加によることを示唆する報告がみられる。

 犬疫による絶滅の可能性を示唆したのは愛知県だけであった。また毛皮を目的とする捕獲がなくなったことを分布域増加,回復の要因としている県は奈良と福井の2県であった。

 個体数の増減が必ずしも,分布域の増減を示すものではないが,個体数の増加または回復のみられるとする県は,北海道,群馬,茨城,東京,富山,石川,奈良,岡山,広島,山口であり,減少したとする県は,青森,秋田,山形,愛媛,福岡,長崎であった。

(7)タヌキの分布

1.分布の現況

 図20は,タヌキの全国分布メッシュ図である。

 本種は,北海道から九州までほぼ全国的に分布し,生息区画数は9,8300区画,生息区画率は61.1%となっている。 ただし,周辺島嶼のうち,奥尻島(北海道),佐渡,隠岐,壱岐,甑列島(鹿児島県),天草上島下島(熊本県),淡路島・小豆島などの少なからぬ瀬戸内海の島々には分布するが,南西諸島,五島列島,対馬,伊豆七島,利尻島,礼文島などには分布していない。

 また北海道では,留萌支庁と宗谷支庁の北部で分布が比較的連続しているのを除けば,大部分の地域は切れ切れあるいはまばらな分布となっており,中央部の山岳地帯と網走支庁東部から根室支庁にかけては,本種の分布情報が稀である。

 本州での生息情報が得られず,分布が空白あるいはまばらな地域は,下北半島,津軽平野,秋田平野等の東北地方北部,越後平野,奥利根・奥只見一帯,関東平野,北アルプス,南アルプス,濃尾平野,加古川流域等があげられる。四国地方では瀬戸内海沿岸部の新居浜,讃岐,徳島などの平野部,石鎚山等の奥地山岳部で分布が空白あるいはまばらになっている。

 以上の分布空白部のうち絶滅情報が得られた区画は全国で合計378.0区画,全区画数に対して2.4%と比較的小さな値となっている。

 図21は,付表7にもとづいて作成した本種の生息区画率,絶滅区画率,絶滅/生息区画率を地方別に比較したものである。

 生息区画率は,北海道が248%と比較的低くなっているのを除けば,東北から九州まで63.1〜89.4%と比較的高い値となっている。最高値89.4%を示しているのは四国である。

 絶滅区画率は,関東が10.5%と比較的高い値を示すのを除けば,他の地方はいずれも低い値となっている。すなわち,北海道,東北,中国はいずれも1%以下できわめて低い値を示し,次いで九州,中部,四国は2.3〜2.9%と比較的低い値となっている。

 絶滅/生息区画率は,やはり関東が最高値14.3%を示す。次いで近畿が5.9%となっている。反対に東北,中国はいずれも0.9%できわめて低い値であり,北海道,中部,四国,九州は2.7〜3.4%と比較的低い値となっている。

図21 タヌキの地方別の生息区画率と絶滅区画率,絶滅/生息区画率

表26 タヌキの生息区画率,絶滅/生息区画率からみた都道府県の類別

 生息区画率が比較的高く,絶滅区画率,絶滅/生息区画率とも比較的低い東北,中部,近畿,中国,四国,九州に比べて,絶滅区画率,絶滅/生息区画率とも低い値を示すものの生息区画率が低い北海道と,生息区画率は比較的高いものの絶滅区画率,絶滅/生息区画率ともに最高値を示す関東での本種の動向は注目される。

 表26は,本種の生息区画率と絶滅/生息区画率からみて都道府県を類別したものである。本種は沖縄県では自然分布していないとみられている。

 生息区画率が75%以上で絶滅/生息区画率が25%以下と低い区分Tには岩手県をはじめとし1府22県が含まれる。次いで,生息区画率50〜75%の区分Uのうち,絶滅/生息区画率が0〜25%の区分T1には青森県をはじめとした1府16県が含まれる。U2に区分される埼玉県は絶滅/生息区画率が36.5%と比較的高い値を示している。生息区画率が50%以下と低い値を示す区分V,Wには愛知,滋賀,長崎の3県と東京都,北海道が該当する。このうち,V2に区分される東京都は,生息区画率が比較的低い上に,絶滅/生息区画率が比較的高くなっており,生息区画率がきわめて低いWに区分される北海道とともに,この2地域での本種の動向が注目される。

2.第2回自然環境保全調査・都道府県「動物分布調査報告(哺乳類)1978」にみられる分布要因と分布変動要因

 本種では,他の調査対象種に比較して人里近くまで広く分布することが分布域の特徴である。多くの県で,この点を指摘し,本種の生息しない地域の傾向に言及している。本種が生息しないと指摘されているのは,高山地域,水田地帯の1部,都市地域である。

 高山地域には本種が分布しないと指摘しているのは,宮城,山形,栃木,山梨,長野,岐阜の6県である。しかし,高山地域とは漠然とした概念であり,上部温帯林よりも上(長野),亜高山帯(山梨),1,200m以上(宮城),2,000m以上(栃木),山奥(岐阜)とさまざまな表現で表わされており,一定しない。

 水田地域の1部では本種の生息がみられないと報告しているのは新潟県である。

 東京,神奈川,京都,大阪では,都市化によって本種の分布が後退する現象をあげ,東京,大阪ではその年代も明らかにされている。本種の分布域の変動と個体数の変動は,多くの場合混同されている。分布域の拡大と個体数の増加を明確に指摘したのは和歌山である。

 本種の増加傾向を指摘したのは,和歌山の他,広島,神奈川,島根である。神奈川では市街化地域の一部で,島根県では移入した知夫里島で,本種の増加がみられたという。

 本種の減少傾向を指摘しているのは,東京,京都,大阪,栃木の4都府県であり,都市化によるとされている。本種の減少要因の一つとして野犬をあげているのは,山口,愛知の両県である。山口では向島のタヌキが野犬のために全滅の危機にあると指摘している。

(8)ニホンアナグマの分布

1.分 布 現 況

 図22はニホンアナグマの地理的分布をメッシュ図で示したものである。

 本種は,本州,四国,九州のほぼ全域と瀬戸内諸島の一部に分布し,北海道,佐渡,伊豆諸島,隠岐,瀬戸内諸島の大部分,壱岐,対馬,五島列島および大隅諸島以南の南西諸島には分布していないことがわかる。また牡鹿半島,三浦半島,知多半島,佐多岬等の半島ではアナグマは生息していないが,このことは離島にアナグマがいないこととともに興味ある特徴である。これに加えて下北半島,津軽半島,能登半島,薩摩半島,大隅半島等の半島部でもアナグマの分布は粗になっている。さらに仙台,新潟,東京,名古屋,大阪,福岡,熊本等大都市周辺の平野部でアナグマがみられず,絶滅域が多いことも特徴的である。

 全国の生息区画数は5,876.5区画で,タヌキ,キツネに次いで多く,生息区画率(全生息数に対する生息区画数)は36.5%である。

 図23は付表8にもとづいて,地方別の生息区画数・率と絶滅区画数・率を示したものである。

 生息区画数は東北の1,509.0区画を筆頭に,中部1,4105区画,九州818.0区画,中国765.5区画と続き,最も少ないのは四国の305.5区画である。

 生息区画率をみると,全体に50%前後となっており,とりわけ生息区画率が高い地域,低い地域はない。ただ関東の34.3%,九州の38.0%が若干低くなっている。

図22 アナグマの全国分布メッシュ図

 絶滅区画率は関東が4.9%で最も高く,近畿3.1%,中部2.3%,四国2.0%,東北1.5%,九州1.2%,中国0.9%の順になっている。また絶滅/生息区画率をみるとやはり関東が12.5%と最も高く,次いで近畿6.3%,中部4.4%,四国4.2%,九州3.1%,東北2.7%,中国1.4%となっている。九州,東北で絶滅区画率および絶滅/生息区画率の順位が入れかわっているのが注目される。

 以上をみると本種の分布パターンは生息区画率が比較的高く絶滅区画率,絶滅/生息区画率の比較的低い東北,中部,中国と,生息区画率が比較的低く絶滅区画率,絶滅/生息区画率の高い関東,近畿,更に両者の中間的位置をしめる四国,九州の3つのパターンに分類できるだろう。

 表27は,付表8にもとづいて生息区画率と絶滅/生息区画率から都府県を類別したものである。

 これをみると生息区画率が75%以上で絶滅/生息区画率が25%以下と低いTに区分されるのは奈良県,宮崎県のみである。次いで生息区画率50〜75%,絶滅/生息区画率が0〜25%の区分Uには岩手県をはじめとして18県が含まれる。また生息区画率25〜50%,絶滅/生息区画率0〜25%の区分V1には19県,絶滅/生息区画率25〜50%の区分V2には東京が含まれる。生息区画率が25%以下のWに区分される茨城,栃木,大阪,香川,長崎とともに本種の動向が注目される地域である。

図23 アナグマの地方別生息区画率と絶滅区画率,絶滅/生息区画率

表27 アナグマの生息区画率,絶滅/生息区画率からみた都道府県の類別

 

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