3−14 海域生物調査要綱

 

1.調査の目的

わが国の海岸域における生物の生息状況及び生息環境を把握するため、潮上帯(飛沫帯)及び潮間帯に生息する生物を調査する。

2.調査実施者

国が都道府県に委託して実施する。

3.調査地区

わが国の海岸域において、都道府県ごとに調査地区を選定する。

4.調査実施期間

契約締結の日から昭和54年3月31日までとする。

5.調査内容

(1) 調査対象とする生物は、潮上帯及び潮間帯における肉眼で見える大きさの動植物とする。

(2) 調査事項は次のとおりとする。

ア.調査地区周辺の概要

イ.植物の被覆度及び湿重量

ウ.動物の個体数及び湿重量

6.調査方法

各都道府県において選定された調査地区において、春(主として4月)夏(主として9月)の年2回現地調査を実施する。

調査方法の詳細は、別紙1「海域生物調査実施要領」による。

7.調査結果のとりまとめ

受託者は、調査結果を下記の図票にとりまとめる。

(1) 調査地区位置図

調査地区の位置を明らかにするため別紙2「調査地区位置図」にならい調査地区位置図を作成する。

(2) 環境調査票

調査地区周辺の概況を別紙3「環境調査票」にとりまとめる。

(3) 海域生物調査票

生物について調査した事項は別紙4「海域生物調査票」にとりまとめる。

8.調査結果の報告

受託者は、調査結果をとりまとめ報告書150部を別紙5「報告書作成要領」により作成し、昭和54年3月31日までに環境庁自然保護局長あて提出する。

  (別紙1)       海 域 生 物 調 査 実 施 要 領

 

1.通   則

第2回自然環境保全基礎調査海域生物調査は、この実施要領に従って行う。

2.調査地区の設定

調査地区は、各都府県ごとに次の諸点を考慮して2ケ所選定する。

北海道については、10ケ所選定する。

(1) 今後引き続き調査ができるような場所であること。(※1)

(2) 2つの調査地区は地理的に離れていること。

(3) 2つの調査地区は海岸域の形態や生物相の違い等を勘案して、タイプの異なるものであること。(※2)

3.調査時期及び調査回数

調査は、各調査地区において春(主として4月)、夏(主として9月)の年2回実施する。

また、調査は、大潮の干潮時に行うものとする。

4.調査方法

調査は調査地区ごとに次の手順により行う。

(1) 岩盤の様子、砂の粒子の大きさ等調査地区全般の地形的特徴等を観察し、記録する。

(例)

岩盤のようす−岩盤は非常に広く、高潮線より低潮線まで80cmある。

高潮線付近の岩盤の上にこぶしよりすこし小さい石の堆積があり、これより約20m海側へ進むと、ここには径約30cm以下の転石が散らばっている。

このあたりより海側には溝が走っていて砂がたまっており、さらに海側へ進むと岩盤に続いた大小の岩が点在し、そのあいだに大小の潮だまりがある。この岩盤のもっとも外縁は、急傾斜で海に落ち込んでいる所と、ゆるやかに海に向かっている所とがある。

(2) 海岸を歩き、できるかぎり広い範囲を観察し、眼にふれた生物を記録する。

記録は次の例のように潮位帯別に主たる生息場所ごとに整理して記載する。また生息する生物は優占する順に記録する。

(例)

潮 位 帯 生息場所 生   息   生   物
潮 上 帯 岩表面 アラレタマキビ カモガイ
高 潮 帯 岩表面 イワフジツボ
中 潮 帯 小転石区 タマキビ クロタマキビ
大転石区 タマキビ クロタマキビ イシダタミ コウダカアオガイ ホソウミニナ ヘソアキクボガイ ヒライソガニ
岩表面 イワフジツボ コガモガイ レイシ ベッコウガサ ムラサキインコ ムラサキインコ イボニシ
潮だまり キタムラサキウニ バフンウニ ミドリイソギンチャク ヨロイイソギンチャク コモチイソギンチャク
溝の砂 アサリ ヌノメアサリ イワムシ
低 潮 帯 岩表面 クロフジツボ オオアカフジツボ

(3) 潮上帯最上部に調査基点を設け、その点から海側に向って汀線に直角に横断線を設定するとともに、横断面略図を作成する。

この際、後で潮汐表によりその地方での基準面(standard sea level)からの高さを求める必要があるため、その日の低潮位を調査基点からの落差として必ず測定し記録する。

(例)

(4) 横断線の周辺において、潮上帯、高潮帯、中潮帯、低潮帯の潮位帯別に、できる限り同一条件の典型的な場所を選び、下図のようにそれぞれの潮位帯に3つの方形枠を置く。(形12ケの方形枠)(※3)

(5) それぞれの方形枠の位置を、調査基点からの落差として記録する。(後で潮汐表により、基準面からの高さに換算する。)

(6) 各方形枠において、生物の観察、採集を行うが、その仕方は海岸域の形態(磯浜、転石浜、砂泥浜など)により若干異なるので、以下によって行う。(※4)

ア.磯浜・転石浜の場合

(ア) 方形枠の大きさは、原則として50cm×50cmとする。

(イ) 方形枠内の肉眼で見えるすべての生物の種名を植物と動物にわけて記録する。

(ウ) 記録されたすべての植物について、表1「被覆度区分表」の区分により被覆度を記録した後、肉眼で見える生物を全部採集する。

(エ) 植物については、相観的に優占するもの上位5種以上についてそれぞれの湿重量を測定する。

また、植物群別(緑藻類、褐藻類、紅藻類、その他)に湿重量を測定する。

(オ) 動物については、相観的に優占するもの上位5種以上についてそれぞれの個体数及び湿重量を測定する。カイメン等1個体の識別が困難な種の場合は、表1の区分により被覆度及び湿重量を記録する。

また、動物群別(軟体類、甲殻類、多毛類、棘皮動物、その他)に湿重量を測定する。

湿重量を測定する場合、生きている貝類の殻も含めて測定する。(※5)

イ.砂泥浜の場合

(ア) 方形枠の大きさは、30cm×30cmとする。

(イ) 方形枠内の肉眼で見えるすべての植物について種名及び被覆度を記録する。被覆度は表1「被覆度区分表」の区分による。

(ウ) スコップにより方形枠の砕泥を深さ15cmを目やすとして堀りとり、1mm目のふるいにかけ、

表1 被 覆 度 区 分 表

被  覆  度  区  分
 5・
 4・
 3・
 2・
 1・
 +・
・・80〜100%をおおう。個体数は任意
・・60〜80%をおおう。個体数は任意
・・40〜60%をおおう。個体数は任意
・・20〜40%をおおう。個体数は任意
・・20以下をおおう。個体数は任意
・・きわめてわずかをおおう。個体数はすくない。

 (別紙2)   調 査 地 区 位 置 図

(調査地区位置図様式)                      (調査地区位置図裏面)

(調査地区位置図作成上の注意)

1.調査地区位置図の様式は前頁に掲げるものとし、用紙は110kg程度、B5版、左側2つ穴あきとする。

2.調査地点位置図は、調査地区ごとに作成する。

3.「調査年月日」には、調査が実施された年月日を記入する。

4.「調査地区番号」には、各都道府県において、調査地区ごとに付された通し番号(以下「調査地区番号」という。)を記入する。

5.「位置」には、当該調査地点が属する地形図名、海域名等を記入する。

「海域名」、「海域区分コード」は、別冊「コード番号一覧」による。

6.「位置図(1/5万)」には、当該調査地区が含まれるように国土地理院発行の1/5万地形図を切り取って貼付し、調査基点及び横断線を図示する。

7.「調査地区平面略図」には、例のように海岸線、調査基点、横断線、潮位等と方形枠の位置関係を明らかにするような略図を記入する。方形枠には海岸線から海側に向って順に番号(以下「方形枠番号」という。)を付す。

また、方位、縮尺を必ず記入する。

8.「調査地区横断面略図」には、例のように、横断線における地形断面図を描き、潮位等と方形枠の位置関係を明らかにする。

9.「調査地区概況写真」には、調査地区の状況をよく表わしているようなカラー写真を貼付する。

 (別紙3)     環  境  調  査  表

      (環境調査票様式)

(環境調査票記入上の注意)

1.環境調査票の様式は前頁に掲げるものとし、用紙は110kg程度、B5版、左側2つ穴あきとする。

2.環境調査票は、調査地区ごとに作成する。

3.「調査地区の地形的特徴」には、別紙1「海域生物調査実施要領」の4−(1)の例のように、岩盤の様子、砂の粒子の大きさ等、海岸域の地形的特徴を記入する。

4.「海岸の種類」には当該調査地区の海岸が該当するものを○で囲む。

なお、開放海岸、保護海岸、包囲海津の区分は下図を参照すること。

5.「ゴミ等の漂着状況」には、当該調査地区における空缶、ビニールなどのゴミ漂着状況、廃油、浮泥等の付着状況について記入する。

6.「調査地区における生物相の概要」には、別紙1「海域生物調査実施要領」の4−(2)の例のように、調査地区に生息する生物について潮位帯別に主たる生息場所ごとに記入する。また、生物は優占する順に記入する。

   (別紙4)      海 域 生 物 調 査 票

(海域生物調査票様式と記入例1……植物の場合)

(海域生物調査票様式と記入例2……動物の場合)

(海域生物調査票記入上の注意)

1.海域生物調査票の様式は前頁に掲げるものとし、用紙は110kg程度、B5版、左側2つ穴あきとする。

2.海域生物調査票は、1つの方形枠により採集された植物または動物ごとに作成する。

3.「調査年月日」「調査地区番号」「方形枠番号」には、それぞれ該当のものを記入する。

4.「潮位帯」には、当該方形枠がどの潮位帯に属するかを記入する。

5.「基準面からの高さ(cm)」、」「基準面からの水平距離(m)」には、方形枠の位置を潮汐表等を参考にして、その地方における基準面からの高さ及び水平距離で示す。

6.「方形枠の大きさ(cm)」」は、調査に使用した方形枠の大きさを「タテ×ヨコ」で表わす。また採泥した場合は、その深さもあわせて記入する。

7.海域生物調査票は、植物、動物別々に作成するので、以下次のようにする。

(1) 植物の場合

ア.「植・動」には該当するものを○で囲む。

イ.「種名」には当該方形枠内で採集された植物の種名(学名及び和名)、被覆度を記入する。

ウ.相観的に優占するもの上位5種以上については、それぞれの湿重量を記入する。

  なお、湿重量は、単位面積(u)当りの値を換算して併記する。

エ.調査票最下欄には、当該方形枠内で採集された植物の総種類数及び総湿重量を記入する。

(2) 動物の場合

ア.「植・動」には、該当のものを○で囲む。

イ.「種名」には、当該方形枠内で採集された動物の種名(学名及び和名)を記入する。

ウ.相観的に優占するもの上位5種以上については、それぞれの個体数、湿重量を記入する。1個体の識別が困難な種の場合は、被覆度を記入する。

  なお、湿重量は単位面積(u)当りの値を換算して併記する。

エ.調査票最下欄には、当該方形枠内で採集された全動物の動物群別の種類数、個体数、湿重量を記入する。

〔補足事項〕

※1.今後引き続き調査ができる場所とは、調査に便利な場所、埋立、干拓等が予想されない場所等のことである。

※2.調査地区の設定において「(3)2つの調査地区は、海岸域の形態や生物相の違い等を勘案して、タイプの異なるものであること。」とあるのは、磯浜と砂浜等の組合せとすることを意味する。

※3.・日本海沿岸のように潮位差の小さいところでは、潮間帯の巾が小さく、1調査地区あたり12ケの方形枠がとりにくいので、採泥器等で水面下の生物を採集してもよい。

   ・方形枠の設置にあたっては、春と夏とで、ほぼ同じ場所に置くように努めること。

   なお、夏の調査において、方形枠の位置が海面下になった場合には、採泥器等で、水面下の生物を採集してもよい。

   ・潮位差が小さい等の理由で、1調査地区あたり12ケの方形枠がとれない場合は、事前に次の事項を記載して文書で当課あて通知されたい。

   ただし、夏の調査において、春の調査時の方形枠の位置が海面下になった場合等の理由で12ケの方形枠がとれない場合は、この通知は要しない。このような場合でも、採泥器等で水面下の生物を採集してもさしつかえないことに変わりはない。

    〈通知に記載すべき事項〉

   1.調査地区の海岸の通称

   2.方形枠の数  春○ケ

            夏○ケ

   3.方形枠を規定数置けない理由

※4.種の同定が困難なものがある(特に動物)と思われるが、その場合は、属あるいは生物群の判定どまりでやむをえない。ただし、優占するものについては、必ず種名を調べることとする。

※5.湿重量の測定にあたっては、死貝の殻は測定しないこと。

※6.スコップにより方形枠内の砂泥を掘りとる場合は、深さ15cmまで掘ることを標準とするが、主要な生物の生息場所が15cm以深である場合等は、その場所の状況に応じて掘りとる深さを変えてもさしつかえない。

  その場合、海域生物調査票の「方形枠の大きさ」欄に「深さ○○cm」と注記する。

※7.報告書に調査地区位置図及び環境調査票を掲載する場合、春と夏の調査時期で状況が多少異なる場合でも、それぞれ1枚で済むように工夫すること。その場合、春と夏の区別がつくように凡例等を注意して記入すること。

目次へ