3. 第2回自然環境保全基礎調査要綱

 

3−1  植生調査要綱

 

1.調査目的及び調査概要

植生図は国土計画、地域開発、産業立地等のための自然診断図として、また自然保護・復元・維持のための生態学的処方箋として重要な基礎図であり、各種の保護ないし開発のマスタープラン作成に不可欠な資料として高く位置づけられている。

本調査は、全国の植生の現況をより詳細に把握するとともに地域レベルの計画に対応できる植生図を全国的に整備するための一環として、国土の約1/2の地域について植生調査を実施し、縮尺1/5万の現存植生図を作成する。

2.調査実施者

国が都道府県に委託して実施する。

3.調査対象地域

「植生調査対象地域一覧図」(別図)に示す地域について調査する。

4.調査実施期間

契約締結の日から昭和55年3月31日までとする。

5.調査内容及び調査方法

第1回自然環境保全基礎調査による植生図及び空中写真等を参考にしながら現地において植生調査を実施する等により、「植生図凡例一覧表」(別表)に示す植生凡例区分に従い、縮尺1/5万現存植生図を作成する。詳細については、別紙1「植生調査実施要領」による。

6.調査結果のとりまとめ

受託者は調査結果を下記の図表にとりまとめる。

(1) 現存植生図

植生調査の結果は、別紙2 「現存植生図」にならい国土地理院発行の1/5万地形図に表示する。

(2) 植生調査表

現地調査の結果は、別紙3 「植生調査表」にとりまとめるものとする。

7.調査結果の報告

  受託者は、調査結果をとりまとめ、報告書150部及び現存植生図帳1部を、それぞれ別紙4 「報告書作成要領」(略)、別紙5 「現存植生図帳作成要領」(略)により作成し、昭和55年3月31日までに環境庁自然保護局長あて提出する。

 

(別表1)

植 生 調 査 実 施 要 領

1.通  則

第2回自然環境保全基礎調査植生調査は、この実施要領に従って都道府県ごとに行う。

2.調査対象地域

(1) 「植生調査対象地域一覧図」(別図)において斜線で示す地域については、現地において植生調査を実施し、縮尺1/5万現存植生図を作成する。(以下「現地調査」という。)

(2) 「植生調査対象地域一覧図」(別図)において横線で示す地域については、既存の植生図等を参考資料として縮尺1/5万現存植生図を作成する。(以下「資料調査」という。)

この場合、作成された植生図には参考とした資料名、調査者所属・氏名、調査年度を明記し、出典を明らかにする。

3.現地調査等

(1) 現地において植生調査を実施した場合、その結果は「植生調査表」(別紙3)にとりまとめる。

(2) 現地調査の結果及び過去に作成された植生調査表(または組成表)等の現存資料により、当該都道府県で使用したすべての凡例のそれぞれについて、その植物群落の相観、立地条件、主要な構成種、県内における分布、保全上の留意事項等当該群落の特徴を記載する。

4.植生凡例区分

(1) 植生凡例区分は、原則として別表「植生図凡例一覧表」に示す凡例区分によって行う。

(2) 当該都道府県で使用したすべての凡例には、必ず植生調査表(または組成表)を掲載することにより、その群落の構成を明らかにする。

(注1)植生のほとんどない凡例で小面積のものについては植生調査表を省略してさしつかえない。(植林地、畑地、水田等には植生調査表を添付するよう努める。)

(注2)既存資料による植生調査表(または組成表)を使用してもさしつかえない。

(3) なお、調査者が必要と認める場合は、別表に示す凡例以外の群落名を用いてもさしつかえない。ただし、この場合、新たに使用する凡例と別表に示す凡例との対応関係を次の例のように示す。また、新たに使用する凡例が群集(または群集レベルの群落)である場合は、必ず組成表を掲載すること。

(注) 組成表には「標徴種」 「識別種(区分種)」が明示されているものを使用すること。

     

 

     

5.植生図の作成

現地調査の結果を空中写真の判読及び既存資料等により補足し、次により現存植生図(別紙2)を作成する。

(1) 基 図

植生図の基図には必ず最近の国土地理院発行の1/5万地形図を使用する。

(2) 精 度

図上で2mm×2mm(または長さが10mm)を超える大きさを有する植物群落は可能な限り植生図上に表示するよう努める。また、必要があればそれ以下の大きさの植物群落であっても表示してさしつかえない。この場合は、直径1〜1.5mmの黒丸(●)(または巾0.8mmの黒線)で表示する。

(3) 図示方法

ア.植物群落の境界は幅0.2mm程度の黒線(黒インク)でくくり線を入れ、明確に縁取りする。

イ.それぞれの都道府県で使用するすべての凡例に次の例のように別表「植生凡例一覧表」の群落のコード番号の若い順に1から始まる通し番号(以下「表示番号」という。)を与える。

なお、別表以外の凡例を使用する場合は、表示番号を付ける順序は次の例に準じるものとする。

ウ.植物群落は別表に示す色彩凡例により彩色するとともに、植生図の判読の便宜のため、適宜、群落の「表示番号」を黒文字で表示する。(群落のくくりごとにすべて表示番号を添える必要はないが、一見して群落が判別できるように工夫する。)

     

     

エ.彩色にあたっては、三菱ポリカラー(番号1〜38)三菱ユニカラー(番号501〜572)の色鉛筆を使用する。

オ.別表「植生図凡例一覧表」の色彩凡例及び色彩番号の見方は次の例のとおりである。

     

(4) 植生図の接合部に対する配慮

現存植生図を作成するにあたっては、隣接する地形図間及び都府県境界付近でズレが生じないよう特に配慮すること。

6.調査実施体制

(1) 調査実施手順

この調査は、都道府県に委託して実施するが、ブロック体制のもとで調査するので、図1の手順により行うものとする。

        

図1 植生調査実施手順

 

(2) 植生調査実行委員

植生調査をブロック体制のもとで円滑に実施するため、表1に示すとおり、各ブロックごとに「植生調査実行委員」が置かれている。

(3) 植生調査員

各都道府県内の植生調査を担当する植生調査員は、植生図作成にあたり、技術上の細部について、各ブロックの植生調査実行委員と協議のうえ実施するものとする。

(4) ブロック調査会議

調査の実施にあたってはブロック内での調査の円滑を期するため、ブロックごとに調査会議を開催することとする。会議は次の要領で行う。

ア.会議は、実行委員の要請を受けてブロック幹事県(実行委員の所在する都道府県―表1参照)が招集する。

ブロック幹事県は、会議開催に関する庶務を行う。

(別紙2)

現  存  植  生  図

植生図例

     

 

(植生図作成上の注意)

1. 植生図には、必ず国土地理院発行の1/5万地形図を使用する。複写図、編さん図等は使用しないこと。

2. 1/5万地形図には、都道府県単位で東側から、北から南へ「地図番号」を打つ。(下図(以下「地図番号図」という)参照)

       

イ.会議は、調査の実施前と後の年2回程度開催する。

ウ.会議は、実行委員を座長とし、各都道府県の植生調査員1名程度及び都道府県調査担当職員をもって構成する。(北海道ブロック、沖縄ブロックの場合も同様とする。)

工.会議においては、次の事項等について検討し、ブロック内都府県間の調整を図る。

(ア) 植生凡例のブロック内での取扱いについて

(イ) 都付県境界付近における調整について

 

表1 植生調査実行委員名簿

ブロック 実 行 委 員 担 当 都 道 府 県
北 海 道  伊  藤  浩  司 (北  大  教  授) *北海道
東   北  飯  泉     茂 (東  北  大  教 授) 青森、岩手、*宮城、秋田、山形、福島
関   東  奥  富     清 (東 京 農 工 大 教 授) 茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、*東京
北   陸  香  室  昭  円 (福  井  大 教 授) 新潟、富山、石川、*福井
中   部  宮  脇     昭 (横  浜  国  大 教 授) *神奈川、山梨、長野、岐阜、静岡、愛知
近   畿  菅  沼  孝  之  (奈 良 女 子 大助教授) 三重、滋賀、京都、大阪、兵庫、*奈良、 和歌山
中   国  鈴  木  兵  二 (広  島  大 教 授) 鳥取、島根、岡山、*広島、山口
四   国  山  中  二  男 (高  知  大 教 授) 徳島、香川、愛媛、*高知
九   州  伊  藤  秀  三 (長  崎  大 教 授) 福岡、佐賀、*長崎、熊本、大分、宮崎、 鹿児島
沖   縄  新  納  義  馬 (琉  球  大 教 授) *沖縄

10 名   *印はブロック幹事県   

3.植生図例のように、地形図の余白の所定の位置に「タイトル」、「地図番号」、「調査年度」(西暦)、「都道府県名」を黒インクで記入する。

4.その他、植物群落等の表示方法は、別紙1「植生調査実施要領」によること。

5.地形図の下辺の余白には、植生図例のように調査者の氏名、所属を記入する。なお、「資料調査によって植生図を作成した場合は、調査氏名・所属のほかに主として使用した資料名、調査年度を明記し、出典を明らかにする。

 

 

(別紙3)         植  生  調  査  表

(様式及び記入例)

 

     

 

(記入上の注意)

1. NOには群落の表示番号を記入する。

2. 群落名:当該調査地の植物群落名を記入する。

高木層の優占種と低木層(または草木層)の優占種とをハイフンでつないであらわすのが望ましい。例えば、ブナ−チシマザサ群落、またはブナ−チシマザサ−ミヤマカンスゲ群落などとなる。

3. 調査地:府県、市、町村名は必ず記入し、加えて字、河川、沢、山地名などの記入は5万分の1地形図上の名称をなるべく採用する。

4. 図幅:5万分の1地形図名を記入する。なお調査地の位置を明らかにするため地形図を右のように4等分して該当する上下左右の箇所を○で囲む。

上左 上右
下左 下右

 

5. 海抜:近くの三角点、水準点、独標点などで更正した携帯用高度計で測定する。やむをえない場合は5万分の1地形図上で推定する。10mのケタまで記入する。

6. 方位:調査区が面している方向をクリノメータで測定し、N22°Wのように記入し、NNWという表現はできるだけさける。

7. 傾斜:調査区斜面のほぼ平均とみられるところをクリノメーターで測定する。

8. 面積:縦×横mで表現する。調査区の面積は少なくとも最小面積の2倍以上の面積をとることがのぞましい。

9. 出現種数:各層の種数の和から2つ以上の階層に出現する種類の重複分を差引いたものを記入する。

10. 地形:調査区の位置する地形区分を○で囲む。斜面上にある場合は斜面主方向にそって上中下区分と凸凹別で表現する(凸凹のない場合は凸凹チュックなしとする)。傾斜5°以下である程度広がりをもつ場合は平地とするが、谷底平地とは区別すること。

谷底平地は谷と平地をダブルチェックして表わす。

11. 土壌:該当する土壌型名を○で囲む。調査表内の略称はつぎの土壌型を表わしている。ポド性―ポドゾール性土、褐森―褐色森林土、赤―赤色土、黄―黄色土、黄褐森―黄褐色森林土、アンド―火山灰土壌(黒色土壌)、グライ―グライ上、擬グライ―擬グライ土、沼沢―沼沢土、沖積―沖積土、高湿草―高山湿草地土、非固岩屑―非固結岩屑土、固岩屑―固結岩屑土、水面下―水面下土壌、その他

12. 風当・日当:調査区をとりまく地形的特徴に注意し、遮蔽物の有無や樹形の変化などにも留意してチェックする(○で囲む)。

13. 土湿:乾とは土塊をにぎって湿りを感じない場合、適とは湿りを感じ、湿とは水が出るがたれない。過湿とは水がしたたる場合、としてチェックする。

14. 階層:独立または比較的独立した植物層(葉群層)を一つの階層とし、自然の階層を映し出すように把握する。森林の場合階層は基本的にはT1高木層、T2亜高木層、S低木層、H草本層、Mコケ層の5層に分かつ。低木層及び草本層が更に細分可能の場合は各々に第1、第2またはS−1、S−2、H−1、H−2を区分して記入する。そのためS,Hには余白を設けてある。草本の場合には草本層は上層と下層に分けられる。その他の区分を必要とする場合には適宜工夫する。低木林の調査では高木層と亜高木層の欄は空白となる。

15. 優占種:各階層の優占種の植物名を記入する。同一の階層に優占種が複数のときは少なくとも二種類を記入する。

16. 高さ:各階層の葉群層の上限と下限の高さを記入する。例えば8〜15mのように上限は〜の右側に書く。コケ層は上限だけで足りる。

17. 植被率:各階層毎の植被率(種類別の被度ではなくその階層全体としての植物被覆の割合)を百分率で判定して記入する。

18. 胸径:胸高直径は高木層および亜高木層に限り、各層の最大胸高直径のもののみを測定して記入する。

19. 種数:組成表から数えだして各階層ごとに記入する。したがって各層で同じ種類(例えば高木性の種など)が重複して数えられることもある。

20. 調査者:直接調査を行なった人をもれなく記入することがのぞましい。責任者には○印をつけて おくこと。

21. 組成表について:調査区内の種類組成、階層、優占度または被度、群度、活力度および芽生えについて記入する。表中のS欄は階層、D・S欄は優占度または被度と群度、X欄は活力度、SPP欄は種名をそれぞれ記入する。記入の要領はつぎの通りである。

(S)階層:T1、T2、S−1、S−2、H、Mのようにし、種類のリストはT1(高木層)からはじめて、順次下層にいたる。

(D・S)優占度または被度と群度:種の優占の度合を判定するには下記のBraun−Blanquet法による優占度―被度と数度(推定的個体数)の組み合せによる測定法を用いる。

     r・・・・・・・・・ごくまれに出現

     +・・・・・少数で被度は非常に低い

      1・・・・・・・・・多数だが被度は低      い、あるいは少数だが被度はやや高い

      2・・・・・・・・・非常に多数(ただ      し被度は1/10以下)あるいは被度が       1/10〜1/4(ただし個体数は任意)

      3・・・・・・・・・被度が1/4〜1/2で      個体数は任意

      4・・・・・・・・・被度が1/2〜3/4で      個体数は任意

      5・・・・・・・・・被度が3/4以上で      個体数は任意

    また群度はつぎの記号で記入する。

      1・・・・・・・・・単生する

      2・・・・・・・・・群状または叢状に      生育する

      3・・・・・・・・・斑状に生育する(      小斑あるいはクッション)

      4・・・・・・・・・小さいコロニーを      つくって生育するか、あるいはまた大      斑かじゅうたんを形成する

      5・・・・・・・・・大群をなす

この(D・S)欄の記載にあたっては優占度(または被度)を先にし群度をつぎに記す。例えば4・2のようにする。+・1の場合は単に+とのみする。高木層を占める種の群度については調査区外をも概観して評価する。例えば全山がブナでおおわれているがたまたま調査区内にブナが1本である場合は5・1とせず、5・5とする。

(V)活力度と芽生え:群落内における種個体の生活力により重点をおいたEllenbergやKnappの方式にしたがいつぎの記号で記す(略してもよい)

〇 〇 ・・・・・・・・・極めて生育不良でほとんど果実や種子を生じない

 〇  ・・・・・・・・・生育不良

無印 ・・・・・・・・・生育普通

なお、芽生えである場合にはこの欄にKの記号を記す。また開花している(fl)、果実や種子をつけている(fr)場合にも、それぞれの記号をこの欄に記しておく。

22.植生断面図:植生調査を実際に行なわれた植分と、その立地条件との関係を具体的に表現する手段として植生断面の図化は重要である。また地形に対応した群落構造とその配分を概観する手がかりとなる。

したがって、図化には地形に対応した植生配分模式図(図1)と、具体的な対象植物自体の群落断面模式図(図2)の2通り画く(おもてに空白がない場合には裏面に画く。)

 

〔例〕

       

別表 植生図凡例一覧表(増補改訂版)

 

この植生図凡例一覧表(増補改訂案)は、植生調査要綱の別表に示した当初の植生図凡例一覧表を、今後のとりまとめ、整理の都合上、下記により再検討を行ったものである。

 

1. 今回は、第1回基礎調査の際、環境庁による植生図凡例(以下「環境庁凡例」という)に各県から独自に追加された凡例について整理するにとどめた。

2. 凡例の整理は、次の観点により行った。

(1) 同質の群落と思われるものは、できるだけ既存の環境庁凡例に含めた。

(2) 2以上のクラス域にまたがっているものは、クラス域が明りょうになるよう凡例を整理した。(ex、ツガ林、コウヤマキ林、ケヤキ林)

(3) 1凡例で自然植生及び代償植生を包含しているものは、それを区分した。(ex.ヨシ群落、オギ群落)

(4) 広い面積をもつ群落については新たに凡例を設定した。(ex.ササ群落、コナラ林)

(注1) 植生図凡例一覧表「群落番号」欄の記号

    *印・・・・・・・・・第1回基礎調査の際、環境庁凡例に各県から独自に追加されたもののうち、環境庁凡例として追加採用しようとするもの。

    ※印・・・・・・・・・環境庁凡例として新しく追加しようとするもの。

    △印・・・・・・・・・名称等を修正、変更した凡例(変更前の名称は、備考欄に記入)。

(注2) 色彩凡例及び色彩番号は次のことを表示している。

     

(注3) 色彩番号の数字で

  2ケタのものは、三菱ポリカラーNo.7500の色鉛筆の番号

  3ケタのものは、三菱ユニカラーの色鉛筆の番号である。

1. 寒帯・高山帯自然植生

 

2. 亜寒帯・亜高山帯自然植生

 

3. 亜寒帯・亜高山帯代償植生

 

4. プナクラス域自然植生

 

5. プナクラス域代償植生

 

6. ヤプツバキクラス域自然植生

 

7. ヤプツバキクラス域代償植生

 

8. 川辺・湿原・塩沼地・砂丘植生(各クラス域共通)

 

9. 植林地・耕作地植生(各クラス域共通)

 

10. そ   の   他

 

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