主題図の解説

日本列島の概要

1.世界の生物地理

 生物の側面からみた世界の中の日本列島の位置付けを把握するため、動物・植物の地理区について最も一般的であると思われる図を掲載した。

 動物地理区は対象とする動物によって区分が異なるが、ここで掲載した図は哺乳類を対象としたものである。また、植物区系は、世界の特徴ある植物相を持つ区域を区分したものである。

 

2.日本とその周辺

 日本はアジア大陸の東縁に位置し、日本海をへだて大陸とほぼ平行に連なる弧状列島から成っている。弧状列島は北から千島弧、本州弧、琉球弧と本州弧の中央から南にほぼ直角に交わる伊豆小笠原弧に細分される。

 日本の領土の北端は北緯45°33′の択捉島、南端は北緯20°25′の沖の鳥島、東端は東経153°59′の南鳥島、西端は東経122°56′の与那国島で経度差31度、緯度差25度の広い範囲に位置する。

 また日本近海には南からその規模において世界最大の海流である黒潮が流れ込んでおり、北からはべーリング海及びオホーツク海北部を源とする親潮が流れ込んでいる。

 

3.自然地域の名称

 この図は、山地・平地・半島等のひとつの地域的単元として考えられる地域のおもなものの名称を表示したものである。ここでの自然地域の種類は、山地・山脈・高地・高原・丘陵・平野・盆地・台地・半島・諸島に区分されている。また、その名称は、長年にわたり広く慣習的に使用されているものを採用した。

 

4.地質構造

日本列島は、太平洋の西縁に連なっている弧状列島の一部を構成し、種々の地学的現象の非常に活発な地域である。

 日本列島は古生代から幾多の地殻変動を受けたが、なかでも中世代後期と新第三紀の地殻変動は、現在の地質構造にもっとも大きな影響を与え、起伏に富んだ地形が形成された。

 

5.地形分類

 日本列島の地形は起伏に富み、火山地・丘陵をふくむ山地の面積は国土の4分の3をしめる。山地は谷によって細かく刻まれ、山地の斜面は一般に急傾斜である。

 台地・段丘は各地に分布しているが、火山灰砂台地は北海道・九州地方に多く分布し、南九州でシラス台地と呼ばれる。

 平野・盆地の多くは小規模で山地のあいだに点在し、河川の堆積作用によって形成されたものが多い。河川は山地から低地に向かう谷口部に、砂礫を堆積して円錐形の扇状地を形成する

 

6.地質

 地形の組み立て方については、まず地表について、岩石や地層の分布やその種類や生成時代が調査され、地質図が作成される。それにより地質分布の成立過程や地形の歴史が推定できる。地質は地形の成り立ちにも深く関わっており、また地殻最表層の土壌に大きな作用を及ぼしている。

 

7.土壌

 土壌は、母材・気候・植生・地形・地下水などの多くの土壌生成因子の総合的な作用によって、長い時間をかけて生成され、絶えず変化し続ける。

 また、土壌は土壌生物の生存基盤として、多様な生物相を維持するとともに、各種の生物の影響により土壌も変化するという相互作用をくり返している。

 

8.気候

 日本の気候は、ケッペンの分類でいうと北海道は亜寒帯多雨気候であり、その他の地方は大部分温帯多雨気候である。さらに南北に3つに大別され、それらは「北海道」と「本州・四国・九州」および「南西諸島・小笠原諸島」である。北緯40度あたりの津軽海峡を境として動物の種類が不連続的に変化し、ブラキストン線と呼ばれている。気候はこの線を境として急激に変化しており、さらに本州の中心部を走る脊梁山脈を境としても著しく変化する。

 日本の気候は、地域的多様性にくわえて一年の季節の移り変わりも顕著であり、日本の植物相を多様化している。

 

9.土地利用

 わが国の土地利用形態は、森林を除いていずれも複雑に入り組んだ形状を示し、全般的に国土の自然条件をよく反映している。

 山地・丘陵と火山地は大部分森林におおわれ、わずかに採草放牧地や果樹園などに利用されている。

 台地・段丘と低地からなる平野部は、ほとんど耕地や市街地などに利用されている。低地は市街地を除いて、ほとんど水田に利用されている。

 この複雑に入り組んだ土地利用状況がわが国の自然現況を大きく規定しており、土地利用図は自然を知る上での基礎図である

 

10.人口密度

 人口密度は自然に対する人為の関わり方を示す指標として重要な意味をもっている。わが国の1平方キロメートルあたりの人口密度は、昭和54年現在では311人であり、世界第5位となっている。

 国土の面積約38万km2およそ4分の3が山地であるため、平野部の人口密度はさらに高くなる。

 市区町村別の人口密度は、平野部と大都市地域で高く、山間部と北海道の大部分の市町村で低い。

  

 陸域の自然環境

13.現存植生

 現存植生図は、現実に野外に生育している植物群落の空間的な配置を地図化したものである。植生の違いは、環境に差があることが原因となっており、植物をとりまく環境には、気温・雨量・土壌・地形・人間の影響がある。また、一方において植生は環境に影響をおよぼしている。

 

14.植生自然度

 植生自然度は、人間による陸域の人為的改変状況を把握するため、植物群落の種組成により判断して、程度の区分をおこなったものであり、その土地の自然性を示す一つの指標である。

 

15.潜在自然植生

 潜在自然植生は、現在、植生に加えられている一切の人為的干渉が停止した場合、その立地がどのような自然植生を支え得るかという、理論的な植生である。つまり、潜在自然植生は、人為が加えられる以前の原植生とは異なり、現在の自然植生を支える能力を示すものである。

 

16.表土の改変

 表土は生態系の基盤であり重要な資源であるにもかかわらず、安易な改変がおこなわれている。ここでは、関東地方を例にとりあげ、表土の改変状況を昭和20年頃、35年頃、50年頃の3時期でとらえ、時系列変化をみる。森林→植林地→畑地→市街地、または、水田→市街地へと変遷していることがわかる。

 

17.植生現存量・生産量

 植生現存量は、ある地域に現に存在する生きている植物の量であり、植生生産量は、ある地域に存在する植物が生産する有機物の総量であり、一般に単位空間当りの重量で表わされる。

 両者とも、生態系の物質循環の基本的数量であり、自然環境を量的に表わす指標の役目も果している。

 

18.重要な植物群落

 第2回自然環境保全基礎調査(特定植物群落調査)では、わが国の植物群落のうちで、学術上重要なものや保護を必要とするものなどの調査がおこなわれ、全国から3,833件の群落が報告された。その中の代表的なものとして、原生林もしくはそれに近い自然林、常緑広葉樹林、湿原、ブナ林の分布をとりあげた。

 

21.哺乳類の種別分布

 わが国で減少が心配されている大・中型哺乳類のうち、ニホンザル、シカ、ツキノワグマ、ヒグマ、イノシシ、キツネ、タヌキ、アナグマ、カモシカの9種について、その分布状態を示している。

 

22.哺乳類の生息種数分布

 分布状況をみた9種のうち、カモシカを除く8種を対象としてその地域に生息する哺乳類の種数の分布をとりあげ、哺乳類相の多様な地域をさぐる。

 

23.哺乳類の生息と絶滅

 ニホンザルについて、その大正12年における分布域と昭和53年の分布域を比較し、その変化をみる。

 また、哺乳類8種について、地方別にみた絶滅と分布の傾向をさぐる。

 

25.鳥類の繁殖分布

 日本国内で繁殖の知られている代表的な鳥類の分布をみる。

 高山や、山地の森林に生息する山の鳥であるヤマゲラ、アオゲラ、カッコウ、ライチョウの分布図、低山帯の森林や民家近くの雑木林などでみられる里の鳥であるアオバズク、メジロ、ムクドリ、ハシブトガラスの分布図、水辺の鳥であるバン、オオジシギ、カイツブリ、ヨシゴイの分布図、市街地でも見かけられる身近な鳥であるツバメ類のうち、ツバメ、イワツバメ、コシアカツバメ、ショウドウツバメの分布図、さらに狩猟の対象となっている鳥のなかから、キジ、ヤマドリ、コジュケイ、ウズラの分布図をとりあげた。

 

26.鳥類の出現種数分布

 鳥類を生物指標として自然環境を把握するため、関東地方を対象とした鳥類の出現種数分布をとりあげた。

 

27.渡り鳥の渡来

 わが国においては鳥類の種数の8割以上が渡り鳥であり、渡り鳥にとって日本列島は重要な位置にあたる。日本列島に渡来する鳥類の渡来地と渡来数をみるため、ハクチョウ、ガン・カモ類、大型シギ・チドリ類をとりあげた。

 

29.両生類・は虫類の種別分布

 両生類・は虫類について、絶滅のおそれのある種、学術上重要な種等についての分布状況を見る。

 ハコネサンショウウオ、モリアオガエルは広域に分布しており、キタサンショウウオ、アベサンショウウオ、オオイタサンショウウオ、タワヤモリなどは分布が局所的である。また、サドサンショウウオ、オキサンショウウオなどは、分布が島しょに限定されている。

 平地性の多くの種が、生存を脅かされており、とくに大都会周辺でこの傾向がいちじるしい。また山地性のものについても、人間の営みによって生息場所がせばめられている。

 

31.昆虫類の種別分布

 昆虫類を生物指標としてとらえ、その分布状況をみることによって良好な自然環境をさぐる。ある特定の環境を生息の場とする昆虫類のうち、ムカシトンボ、ムカシヤンマ、ハッチョウトンボ、ガロアムシ目、タガメ、ハルゼミ、ギフチョウ、ヒメギフチョウ、オオムラサキ、ゲンジボタルの10種をとりあげた。

 

32.昆虫類の絶滅と減少

 分布をみた10種の昆虫類について、ここではその絶滅状況を原因別にみることで、環境破壊の傾向をさぐる。

 

陸水域の自然環境

35.河川と湖沼

 わが国の河川は、狭長な国土と急峻な地形の制約を受け、一般に流路が短かく河床勾配が急で、山地から低地に出ると運搬してきた砂礫を堆積して、海に流入する。水系は全国的によく発達し、水系密度の地域差はあまり大きくない。一般に河川の流域面積は狭い。

 また、湖沼は、面積1ha以上の天然湖沼が487存在し、その面積は2,400km2で、国土面積の0.64%を占める。地域別にみると、北海道131、本州328、四国1、九州沖縄25湖沼であり、四国九州がきわめて少なく、東日本に偏在する。

 

36.河岸の改変

 全国を大分水界によって13のブロックに分割し、総数113河川、総延長1,121,395kmの水際線における護岸の設置状況により、河川の人工化の程度を表わしたものである。

 わが国の河川は、山地ではダムの建設、平地では河道の改修、堤防の構築など、利水と治水を目的とした改変が行われている。

 

37.多摩川の自然環境

 河川とその流域の自然環境について、多摩川を事例にして、河岸の改変状況、水質、流域に生息する動植物の分布状況をとりあげた。

 

38.湖岸の改変・土地利用・透明度

 人間の産業活動や生活様式は湖沼の水質や生物相に変化をおよぼしている。代表的な61の天然湖沼について、湖岸の改変と土地利用状況により、湖沼の自然環境の現状を把握する。

 

39.琵琶湖の自然環境

 湖沼とその流域の自然環境について、琵琶湖を事例にして、湖岸の景観、水温、PH、透明度、さらに流域に生息する動植物の分布状況をとりあげた。

 

40.淡水魚の種別分布

 日本に生息する淡水魚類については、学術上重要と思われる24種をとりあげ、その分布状況をみる。

 いずれの種も、分布地域が極めて特定の環境条件をもつ場所に限られている。

 

41.おもな河川の淡水魚分布

 9河川を例にとりあげ、河川別、流域別に淡水魚類の分布をみる。河川の地域的な差や勾配を反映して、淡水魚の生活域も異なっている。

海域の自然環境

44.海岸の改変

 日本の海岸総延長距離は32,170kmであり、面積当りの海岸線延長は他国に比べ非常に大きい値を示している。これは日本の海岸地形が全般的に複雑な形態を成していることを示すものである。

 この海岸線を、自然海岸、半自然海岸、人工海岸、河口部に区分し、その改変状況を把握する。

 

45.干潟・藻場・サンゴ礁の分布

 全国に存在している干潟は約5万haであり、タイプ別にみると、面積の大きなものから、前浜干潟、河口干潟、潟湖干潟になる。

 太平洋岸に比較し日本海側の各県には干潟が少ないが、これは潮汐の干満が少ないために干潟が形成されにくいことによる。

 全国に存在する藻場の面積は約20万haである。これをタイプ別にみると、コンブ場、アラメ場、ガラモ場、ワカメ場、小型多年藻場、アマモ場、小型一年藻場である。

 全国に存在するサンゴ礁の面積は、約9万haである。タイプ別にみると、テーブル状、枝状、塊状、その他に区分できる。

 

46.干潟の消滅

 消滅した干潟についてみると、昭和20年には全国に82,621haの干潟が存在していたのが、昭和53年までには、その3割以上が消滅した。

 干潟の消滅理由では、埋立と干拓によるものが主であり、埋立てがその6割以上を占めている。

 

47.潮間帯の生物

 潮間帯を潮上帯、高潮帯、中潮帯、低潮帯にわけ、代表的な海域についてその生物構成種を示した。特に潮間帯は人為の影響を受けやすいため、その生物構成を知ることは海域環境をみる上で主要な指標となる。

 

48.赤潮の発生

 昭和48年4月より昭和53年3月の5ヶ年間に日本全国で赤潮が発生した件数は2,168件、その総継続日数は15,165日であった。

 発生した赤潮の種類では珪藻類、ノクチルカ、渦鞭毛藻類のものが際立って発生件数が多い。また、珪藻類の発生1件当りの継続日数は他に比較して長く、ラン藻類においては短い。

自然環境の保全

49.自然環境保全地域

 自然環境保全法は、自然環境保全の基本理念を示すとともに、自然環境の保全を目的とする他の法令と相まって自然環境の適正な保全を総合的に推進することを目的としている。

 ここでは、同法に基づき設けられているつぎの地域を表示した。

1.原生自然環境保全地域  (5地域、約5,600ha)

2.自然環境保全地域    (8地域、約7,400ha)

3.都道府県自然環境保全地域(445地域、約78,000ha)

 

50.自然公園

 自然公園法は、すぐれた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図り、もって国民の保健、休養及び教化に資することを目的としている。ここでは、同法に基づき設けられているつぎの地域(これらを総称して自然公園という。)を表示した。

1.国立公園     ( 27公園、約202万ha)

2.国定公園     ( 52公園、約125万ha)

3.都道府県立自然公園(293公園、約205万ha)

 

51.鳥獣保護区

 鳥獣保護及び狩猟に関する法律は鳥獣保護事業を実施し、狩猟を適正化することによって、鳥獣の保護繁殖を図り、また有害鳥獣の駆除等をおこなうことにより、生活環境の改善及び農林水産業の振興を図ることを目的としている。

 ここでは、それらの施策のなかから、鳥獣保護区の分布をとりあげた。鳥獣保護区は、国設のものと都道府県設のものがある。

 

52.温泉の分布

 貴重な天然資源である温泉の現況をみるため、温泉を保護しその利用の適正を図り、公共の福祉の増進に寄与することを目的とした温泉法にもとづく温泉地の分布をとりあげ、さらに、同法の規定に基づき国民の保養・休養に適した温泉地として環境庁長官が指定した国民保養温泉地を表示した。

 わが国には非常に多くの温泉が存在し、1981年3月31日現在、源泉総数は約20,000本に達し、全国の温泉の総湧出量は169万l/分にのぼる。また温泉地の数は約2,100ヵ所で、国民保養温泉地は69ヶ所である。

 

53.史跡・名勝・天然記念物

  歴史的風土保存区域

  近郊緑地保全区域

 文化財保護法による指定文化財には、重要文化財、重要無形文化財、重要民族資料、史跡名勝天然記念物がある。

 古都における歴史的風土を保存するため、1966年に古都における歴史的風土に関する特別措置法が制定された。この法律は歴史的風土保存区域を指定し、種々の規制や対策を講じている。

 近郊緑地保全区域は、首都圏および近畿圏において指定されているもので、首都圏においては、首都圏近郊緑地保全法、また、近畿圏においては近畿圏の保全区域の整備に関する法律によって、それぞれ規制や整備がされている。

 

目次へ