は じ め に

 日本においては、自然環境保全法にもとづく自然環境保全基礎調査によって、はじめて自然保護に関する基礎資料の集積が全国規模で組織的に行なわれるようになったと言えよう。その第1回は、植物の調査を主にして1973年に実施された。この基礎調査は5年毎に行なわれるものであるが、環境庁が計画する調査とは別に、財団法人日本野鳥の会が1975年に独自に繁殖地図を作製しはじめていた。これは、同会の支部、会員より寄せられた各種報告書や記録等をもとに作られた、都道府県単位の野鳥の繁殖分布地図である。この繁殖地図の考え方が、第2回の自然環境保全基礎調査に取入れられて、1978年に全国野鳥繁殖地図調査実施のはこびとなったのである。

 従来、鳥類繁殖分布調査は、欧米においては早くから実施され、その結果をまとめた文献も少なくない。日本では、都道府県単位での分布の記載は、例えば日本鳥類目録(日本鳥学会 第5版,1974)にみられるが、それ以上に詳しい分布情報は、ほんど得られていないのが現状である。従って、各種毎にその分布を全国規模で図示する試みは、皆無であった。1978年の基礎調査は、この空白を埋める大きな第一歩となるものである。

 本調査は、日本国内でそれまでに繁殖の知られている鳥類全257種を対象に、繁殖期における分布状況を明らかにすることを目的として、環境庁の委託を受けた日本野鳥の会が実施した。その結果を磁気テープ化し電算機により各種毎の繁殖分布地図を作製してまとめたのが、本報告書である。

 調査は、日本野鳥の会の各支部ならびに会員、野鳥グループの多大なお力添えなしにはとうてい成し得なかった。巻末にお名前をあげて、心からの感謝の意としたい。さらに調査結果をまとめるにあたっては、惜しみない御支援をいただいた会員の方々、特に由井蘭子、鈴木孜、宇山大樹、川内博、松田まゆみ、岡部悟、小林洋、藍沢司、佐野暢子、イギリス繁殖地図調査翻訳グループの皆さん、多忙の時間をさいて情報処理検討委員会に参加下さった樋口広芳、志水清孝、北脇英雄、藤岡宥三の各氏、繁殖地図の点検と貴重な助言を下さった高野伸二氏にひとかたならぬ御世話をいただいた。ここに厚く御礼申しあげる。

 

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