5.“すぐれた自然”の調査

 

5−1 調査方法

 “すぐれた自然”の調査は、特異性、稀少性、原産性、歴史性等の観点より全国のすぐれた自然の確認を行ったものである。次の5つの項目を調査対象とし、各都道府県で専門学識経験者よりなる調査委員会を組識し、既存資料の収集、学術性等の評価を行なった。

ア 植 物

 貴重な植物の個体・群落の生育地、各種の群落がまとまっている地域、典型的な垂直分布等を調査した。まず貴重な個体植物については、(ア)日本特産であるもの、または地方特産であるもの(イ)稀産種であるもの(ウ)世界または日本における南限、北限であるもの(エ)その他、重要な種等であるものを調査対象とした。次に、貴重な群落については、(ア)各種の群落がまとまっている地域、典型的な垂直分布をなし、貴重と認められるもの(イ)群落が特に自然性の高いもの(ウ)その他、重要な群落と認められるもの等に重点を置き調査した。

イ 野生動物

 獣類、鳥類、爬虫類、両棲類、魚類(淡水産)、昆虫類の生息地(繁殖地を含む)、渡来地(鳥類)等を調べ(ア)日本特産であるもの(イ)稀産種であるもの(ウ)世界または、日本における南限、北限の種であるもの(エ)その他、重要な個体群と認められるもの等に重点を置き調査した。

ウ 地形、地質、自然現象

 すぐれた、または特異な地形、地質、自然現象を調べ、特に次のものに重点を置き調査した。

(ア)点または線的分布をするものについては、模式的、記念物的意味をもつ岩石、鉱物、化石などの露頭、典型的な地形種類(小地形)、火山現象、水文、気象、海象現象で、限られた分布をするものであること。

(イ)面的分布をするものについては、(ア)のうち大規模なもの、および地形地質、自然現象などのさまざまな要素の組合せにより、地球科学的意味を持った景観を構成するものであること。

エ 海中自然環境

主として水深20メートル以下の浅海、潮間帯を対象とし、海中動植物の生地や海中地形からなる海中自然環境を調べた。特に、熱帯魚、さんご、海草、その他これらに類する動植物及び海中地形等の自然環境がすぐれた生態系を維持している海域であって、海域の水質が汚染されておらず、しかも黒潮、対馬海流、千島海流等の各海流によって形成される代表的な海中の生態系で海中地形に変化があり、海中動植物が豊富でその種類の多いものに重点を置き調査した。

オ 歴史的自然環境

 遺跡、歴史的建造物等の歴史的文化財や過去の生活、生産様式と密接に結びつき、これらと一体をなす歴史的風土としての自然環境を形成しているもの(例えば歴史的文化財と一体となった自然林等のすぐれた歴史的自然環境)を調査対象とした。

 以上の調査項目につき、保全対象ごとにその位置、規模、内容を調べ価値評価を行い、縮尺5万分の1地形図と20万分の1地勢図に対象区域を記入した。なお評価については、各都道府県において、(A)全国レベル保護対象(B)地方レベル保護対象(C)都道府県レベル保護対象の3段階にわけ学術性・貴重性の評価を行っている。

5−2 “すぐれた自然”の報告件数と評価

 各都道府県からの報告件数は1植物群落2,297件  2野生動物6,096件  3地形、地質、自然現象6,296件  4海中自然環境230件  5歴史的自然環境3,131件総計約18,000件に及んでいる。表28は各都道府県からの報告件数を単純に集計したものであり、各保護対象も点的なものから数千ヘクタールに及び広大な面的なものまで様々なものが含まれている。

 都道府県ごとにすぐれた自然図が作成されているが、その事例として宮城県と神奈川県のすぐれた自然図をかかげる。(図19図20)。

 “すぐれた自然”の調査については、今後検討すべき問題点が多い。この調査は、各都道府県ごとの学識経験者からなる委員会によって行われたものであり、このため“すぐれた”程度、すなわち学術的貴重性等の判定が全国に統一されておらず、都道府県ごとに保護対象物の選定と評価に差があった。

5−3 “すぐれた自然”の事例

 すぐれた自然の調査の中からいくつかの話題を事例としてあげれば次のとおりである。

 (植物群落)

群馬県奥利根源流部に自然度の高い地域

 開発の進んだ関東地方において、日光、尾瀬、上信越高原、奥秩父などの国立公園地域を除いて最も自然度の高い910の地域が群馬県側の奥利根源流域部(平岳2,140メートルを最高峰とする地域)に広く残されている。ブナ、ヒメコマツ、オオシラビソ等の天然林、平岳の高層湿原、カモシカ、サル等の大型哺乳類が特色。

岩手県、秋田県境の和賀岳(標高1,440メートル)一帯のブナ原生林

 奥羽山脈の中でも朝日山地、飯豊山地と並んで原始性を保持した地域。ブナの広大な原生林が約5.000ヘクタール程残されていることが報告されている。

東京都多摩川、中洲、河川敷のカワラノギク群落

 多摩川河川敷に植生自然度10の地域が点在する。

 オギの群落、ツルヨシ群落等の冠水河辺植生の中にカワラノギク群落がみられる。このカワラノギク群落は多摩川でも貴重なもので保護を要する。

 (野生動物)

東北地方でカモシカ増加

  東北地方では、カモシカが広く各地で観察され、最近は増加しているのではないかと推測される資料が多い。特に高地から低地へ下りてくる傾向がみられ、農耕地に出現する例もある。

秋田県八郎潟のオオセッカ

 八郎潟でオオセッカが観察されたことが報告されている。

 オオセッカは、特殊鳥類であり、全国的にも稀産種の野鳥。従来、まぼろしの鳥とされていた。

茨城県鉾田町、玉里村のツバメ越冬地

 従来ツバメの越冬地は、浜名湖が北限とされてきたが、霞ヶ浦周辺にも越冬地が4地区報告されている。

 (海中自然環境)

神奈川県、相模灘の一部にすぐれた海中自然環境

 開発の進んでいる相模灘でも黒潮の影響をうけて海中の自然生態系が比較的よく残されている海域が真鶴半島、城ケ島地先及び姥島(鳥帽子岩−茅ケ崎市地先)等の3地区にみられる。アラメ、カジメ等の海中林、ヤギ類、サンゴイソギンチャク類、ウミシダ及びスズメダイ、チョウチョウウオ等の亜熱帯性の魚類などに特長がある。透明度8メートル。

 

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