ま え が き

 古来、日本人は山紫水明を国の誇りとし、自然を愛する国民であるという自負があった。

 しかし、戦後の高度成長に象徴される近代化の波は、国民の福祉や所得の向上に重要な役割を果したが、一方、ともすれば自然をないがしろにする思考や行動が目立つようになり、公害や自然の損壊などの環境破壊をもたらすことになった。

 37万平方キロの国土において、1億1千万人−昭和60年には1億2千4百万人に増加するものと推定されている−の国民が将来にわたって高福祉の下で質の高い環境を享受するためには、国民生活のあらゆる分野できめの細かい環境への配慮がなされなければならない。このような考えの下では環境行政も科学的により高い水準を維持することが要求されよう。

 一方、環境科学はようやくその緒についたところであり、データの蓄積や方法論等の知見も非常に少なく、行政を科学的に進めるための大きな障害の一つになっているのが実状である。なかでも、自然環境についてのデータは全国的に整備されたものは皆無ともいえる状況であった。今回全国的な規模で行われた「自然環境保全調査」の意義は正にここにあるといえよう。いうまでもなく自然についての調査研究は長期的に継続されることが必要であり、その意味では本調査が今後5年毎に行われることは特記されなければならない。

 本調査は、環境庁自然保護局の責任で行ったものであるが、調査を実施するに当り精力的に調査手法や結果の検討にご協力頂いた調査委員各位、各フィールドで実際に調査に当られた先生方、都道府県関係者各位に心から感謝と敬意を表するとともに、調査の企画からとりまとめに至るまでの仕事にたずさわった自然保護局の諸君の労を多とするものである。

昭和51年3月

国務大臣 

環境庁長官

小 沢 辰 男

 

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