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植物機憤欖病植物)概説

日本列島には6,000種に近い野生植物(亜種や変種の階級のものも数えると8,000を超える)が生育している。狭い国土に、これだけの植物の多様性が認められるのは、温暖多雨の気候が植物の生育に適していること、複雑な地形が多様な植物の生育を支えていること、温帯植物の遺伝子の供給源ともいうべきヒマラヤから中国西南部にかけての植物の分布を受け入れてきた地史的背景に恵まれていること、豊かな植物相が肥沃な土壌条件を育ててきたこと、等の好条件が揃っているからである。こうした山紫水明の自然の中で、日本人は自然と共に生きてきた。

この日本の豊かな植物相が、著しく人為の影響を受けている状況がはじめて数字の上でも明らかにされたのは1980年代末だった。そして今回、環境省の事業として、日本植物分類学会が全面的に協力して編纂した維管束植物のレッドデータブックによって、日本列島を覆う植物の現状はより正確に表現されることになった。IUCN(国際自然保護連盟)の新しい数値基準に沿うかたちで、植物に及ぶ危機が改めて洗い直されたからである。

日本の植物の基礎的な研究は、国際的にももっとも進んだ成果を上げている。日本語で書かれた多くの出版物によって、日本の植物の現状は誰でも簡単に知ることができるようになっている。植物相に関する豊富な知見があり、さらにその知見が専門家集団だけのものに閉じられず、広く一般にも検索可能になっている。日本各地には優れたナチュラリストが活躍しており、地域の植物の動態に関しては、常に鋭い目が注がれているという文化が育っている。こうした日本における植物知識の普及の程度は、国際的にも誇れる段階に達している。現在出版が進んでいる英文版のFlora of Japanは、国際的な基準で日本の植物相の知見がどこまで進んでいるかを内外に問うものである。

日本列島の植物の動態を限られた数の専門家だけで調査するとすれば、相当の年月を要するし、精度の高さも期待できない。しかし、全国各地で活躍するナチュラリストのデータを集成すれば、短時間に精度の高い資料の集成も難しくはない。幸いにして、日頃から、いわゆる専門家集団とナチュラリストの間には、専門的な知識の供給と地域の植物の動態に関する知見との交流が前述のように良い関係で成り立っている。

環境省が従来の動物版レッドデータブックの見直しと、植物についての新たなレッドデータブックの作成に着手したとき、その評価基準は、絶滅危惧種の評価をより科学的なものにするべく量的な評価を含めて設定されたIUCNの新基準の考え方を取り入れたものとなった。維管束植物についてはこの新しいカテゴリーに基づいて評価するために、全国のナチュラリストに協力を要請し、もともと手弁当で集められていたものも含めた大量のデータがボランタリーに提供され、そのデータが日本植物分類学会の専門委員会を中心とするメンバーによって解析され、今日の時点でもっとも科学的な方法で評価された。数値基準の考え方に基づいて、日本列島ほどの規模で、維管束植物全体というまとまった生物群を対象にして危険度が評価されたのは、まさに他に例のないことである。

この調査は環境省が実施した調査であるが、短時間にこれだけの結果を出すことができたのは、学会と一般市民の全面的な協力があったからであることを改めて強調しておきたい。自然環境の現状を考え、未来に持続的に引き継いでいくためには、国民各層の全面的な協力が必要であることは改めて言うまでもない。この「植物機憤欖病植物)レッドデータブック」が、上に述べたような協力体制を生かして作成されたものであることを正確に記録し、そのような協力がさらに市民一般に拡がって、日本の自然を大切にする心情が醸成されることを期待したい。

岩槻邦男(放送大学教授)


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