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1991年レッドデータブック掲載種
和名索引


クモ形類・甲殻類等概説

   環境省のレッドデータブックの見直し作業は分類群ごとに分科会を設けて検討が進められ、無脊椎動物では、昆虫類、陸・淡水産貝類、そしてそれら以外の、いわば「その他の無脊椎動物」を対象とする分科会が設置された。本書で扱った分類群は、この分科会で検討した動物群で、一般にわかりやすい表現をすれば、昆虫に属さない虫の仲間に、エビ、カニ、カイメン、クラゲを加えたものである。もう少し分類学的に正確に言うならば、これらは以下の6つの門に跨る動物群から構成される。すなわち、海綿動物門(カイメン)、刺胞動物門(クラゲ)、扁形動物門(ウズムシ)、環形動物門の蛭綱(ヒル、ヒルミミズ)、節足動物門の剣尾綱(カブトガニ)、蛛形綱(カニムシ、ザトウムシ、ダニ、クモ)、甲殻綱(ワラジムシ、ヨコエビ、エビ、カニ)、倍脚綱(ヤスデ)、苔虫動物門(コケムシ)である。陸生のものも水生のものも含まれている。それぞれに多くの種を含んでいるが、レッドデータブックに取り上げられるものに関しては、エビ、カニが最も多く、ついでクモ、ザトウムシ、ウズムシが多くなっている。上には記さなかったが、このほかに曲形動物門、環形動物門の貧毛類(ミミズ)、節足動物門の唇脚綱(ムカデ)や少脚綱(エダヒゲムシ)なども将来は取り上げられることになるだろう。


●日本の「その他の無脊椎動物」相の特徴と現状

   日本列島が小面積の割りには、その位置や地形からしてきわめて多様な種の生息を可能にしていることは、多くの動物群で指摘されていることであるが、ここに取り扱う無脊椎動物群についても同じことが言える。しかも、他の動物群に比べてその分類学的研究が明らかに遅れており、未だ学名がつけられていない未記載種、今後新たに発見されるであろう種の数はどのくらいあるか、見当をつけるのも難しい。そのことを承知の上で、それぞれの動物群について、現在日本から確認されている種の数および将来追加されるであろう種の数を、専門家に算出してもらった結果が次頁の表である。
   この表を見ると、カブトガニ、コヨリムシ、サソリ、ヤイトムシのように日本産の確認種数が1〜4種とごく少ないものはこれ以上種が増えることはなさそうであり、100%の解明率と言える。淡水・汽水のエビ・カニは95%以上、ウズムシ、淡水カイメン、ザトウムシ、ハネコケムシ、ヒルなども70〜80%台は種の解明が進んでいる。しかし、その他の多くの動物群では、せいぜい60%台の解明率で、とくにダニやミミズでは日本に生息すると思われる種の半分も種名が確定していないと考えられる。土壌中に生息するササラダニ類では近年になっておびただしい数の新種が発見され、日本産の種数はこの50年間で100倍以上になっている。このことから、「その他の無脊椎動物」として括られた動物群は「新種の宝庫」と呼ぶに相応しく、今後続々と新記録種や新種が発見記載されていくことであろう。
   このような動物群にあっては、絶滅危惧という観点からの判定がきわめて行いにくい。既知種であっても調査が不十分で分布域が把握できていない種、新種として記載されたばかりの種などを、どのように扱うか。すべて情報不足(DD)またはランク外(非掲載)としてよいものかどうか。そのように取り扱って放置しているうちに絶滅してしまう危険はないのか。大いに悩むところである。
   このような場合に考慮すべきことは、移動分散力の大小であろう。クモやダニは一部の種を除いて風に飛ばされて遠方まで分散する性質を持っている。サソリやカニムシも比較的乾燥に強く、何かに付着して運ばれる可能性が高い。一方、淡水産の動物や陸生でも乾燥に弱い動物、たとえば陸生のウズムシ、ヤスデ、ミミズ、ワラジムシなどは移動力が小さいと考えられる。これらの動物の生息を脅かす要因として、淡水生の動物にあっては生息水域の消滅、水質の悪化、陸生の動物にあっては森林の伐採、道路工事などによる自然植生の改変、それに伴う土壌の乾燥化などが挙げられる。
   「その他の無脊椎動物」として括られた動物群は、その姿形があまり目立たないものが多く、一般人の関心が低く、さらにエビ・カニを除いては「不快動物」として忌み嫌われることが多く、これらを保護しようとする気持ちが起きにくい。そのようなことから、知らず知らずのうちに絶滅の危機に向かっていく種もたくさんあるのではないかと推察され、それぞれの生態学的特性や分布域の調査を少しでも早く進める必要がある。


●選定の基本的な考え方と選定結果

   この群の選定・評価の基本的な考え方としては、1)陸産・淡水産のもののみを対象としたが、一部(エビ目)では汽水産のものも含めたこと、2)種または亜種を対象としたこと、3)原則として、種または亜種の学名のつけられていないものは除外したが、その和名によって種または亜種が明確に特定でき、報告されたものは対象に含めることができるとしたこと、4)外来種(海外または国内の本来の生息地域から、その外部へ人為的に移動されたもの)は対象外としたこと、5)地域個体群(LP)として選定評価の対象とするものは、絶滅のおそれの大きい個体群であって、他の個体群と地理的に著しく隔離されているもの、その個体群の絶滅がその種の全国的な分布に大きい影響を与えるもの(南限、北限など)、他の個体群とは大きな形質の差異があるもの、研究が進めば将来的に別の種または亜種になる可能性が高いもののいずれかに該当するものを選定した。
   また、この分類群については数値データを把握することが困難であるので、評価は専門家の知見による定性的評価を基本とし、潜在的な危険性(生息分布の局限、生息環境の限定)も考慮した。カテゴリーの中では絶滅危惧砧爐鬮A(CR)とB(EN)とに分けず、絶滅危惧砧燹CR+EN)としてまとめて評価した。さらに、評価は国内のみの生息状況に基づいて行うこと、有害な種の扱いは個別に判断すること、単に採集記録の少ないだけの種は原則としてランク外とすることなどに留意した。
   選定評価の結果、以下の種数(種・亜種を含む)がレッドデータブックに掲載された。野生絶滅(EW):1種、絶滅危惧砧燹CR+EN):10種、絶滅危惧粁燹VU):23種、準絶滅危惧(NT):31種、情報不足(DD):36種、合計101種が選定された。絶滅が危惧される種(CR+EN、VU)は33種に達し、1991年刊行の旧版レッドデータブックでは14種であったから、かなり増加したことになる。


青木 淳一(神奈川県立生命の星・地球博物館長、横浜国立大学名誉教授)


■その他の無脊椎動物の種数(日本産)

既知種数 推定種数
海綿動物門 普通海綿綱 ザラカイメン目(淡水産) 25 30
刺胞動物門 ヒドロムシ綱 ヒドロムシ目(淡水産) 3 3
扁形動物門 渦虫綱(ウズムシ綱)(淡水産)
72 82
曲形動物門

1 1
環形動物門 貧毛綱(ミミズ綱)
160 400
蛭 綱(ヒル綱)
37 50
節足動物門 剣尾綱(カブトガニ綱)
1 1
蛛形綱(クモ形綱) サソリ目 2 2
カニムシ目 76 150〜
ザトウムシ目 96 120〜
ダニ目 1760 4000〜
コヨリムシ目 1 1
サソリモドキ目 2 2
ヤイトムシ目 4 4
クモ目 1134 1800〜
甲殻綱 ワラジムシ目(淡水・陸産) 143 300〜
ヨコエビ目(淡水・陸産) 40 60〜
エビ目(淡水・汽水産) 197 205
倍脚綱(ヤスデ綱)
293 450〜
少脚綱(エダヒゲムシ綱)
6 10
唇脚綱(ムカデ綱)
138 250〜
苔虫動物門 被口綱(ハネコケムシ綱)
16 20


■レッドデータブック掲載種

野生絶滅(EW) 節足動物門 蛛形綱(クモ形綱・クモ綱) ダニ目 トキウモウダニCompressalges nipponiaep.24
絶滅危惧砧燹CR+EN) 扁形動物門 渦虫綱(ウズムシ綱) ウズムシ目 カブトガニウズムシEctoplana limulip.25
イズウズムシDugesia izuensisp.26
カントウイドウズムシPhagocata papilliferap.27
キョウトウズムシDendrocoelopsis kishidaip.28
節足動物門 剣尾綱(カブトガニ綱) カブトガニ目 カブトガニTachypleus tridentatusp.29
節足動物門 蛛形綱(クモ形綱・クモ綱) クモ目 イツキメナシナミハグモCybaeus itsukiensisp.30
節足動物門 甲殻綱 ヨコエビ目 シオカワヨコエビParacalliope dichotomusp.31
節足動物門 甲殻綱 エビ目 ヒメユリサワガニGeothelphusa tenuimanusp.32
ミヤコサワガニGeothelphusa miyakoensisp.33
節足動物門 倍脚綱(ヤスデ綱) フサヤスデ目 シノハラフサヤスデPolyxenus shinoharaip.34
絶滅危惧粁燹VU) 扁形動物門 渦虫綱(ウズムシ綱) ウズムシ目 ソウヤイドウズムシPhagocata albatap.35
ホクリクホソウズムシPhagocata suginoip.36
ヒダカホソウズムシPhagocata tenellap.37
節足動物門 蛛形綱(クモ形綱・クモ綱) クモ目 キムラグモ類Heptathela (s. lat.) spp.p.38
フジホラヒメグモNesticus uenoip.40
マツダタカネオニグモAculepeira matsudaep.41
ミズグモArgyroneta aquaticap.42
イソコモリグモLycosa ishikarianap.43
節足動物門 蛛形綱(クモ形綱・クモ綱) ザトウムシ目 クメコシビロザトウムシParabeloniscus shimojanaip.44
節足動物門 甲殻綱 ワラジムシ目 ヒガタスナホリムシEurydice akiyamaip.45
ホンドワラジムシHondoniscus kitakamiensisp.46
節足動物門 甲殻綱 エビ目 オハグロテッポウエビMetabetaeus minutusp.47
オガサワラコテナガエビPalaemon ogasawaraensisp.48
ネッタイテナガエビMacrobrachium placidulump.49
ドウクツヌマエビAntecaridina lauensisp.50
イシガキヌマエビNeocaridina ishigakiensisp.51
ニホンザリガニCambaroides japonicusp.52
サキシマオカヤドカリCoenobita perlatusp.53
ヤシガニBirgus latrop.54
アラモトサワガニGeothelphusa aramotoip.55
オオサワガニGeothelphusa levicervixp.56
クメジマミナミサワガニCandidiopotamon kumejimensep.57
苔虫動物門 被口綱(ハネコケムシ綱) ハネコケムシ目 アユミコケムシCristatella mucedop.58
準絶滅危惧(NT) 節足動物門 蛛形綱(クモ形綱・クモ綱) クモ目 カネコトタテグモAntrodiaetus roretziip.59
キシノウエトタテグモLatouchia typicap.59
キノボリトタテグモUmmidia fragariap.59
ワスレナグモCalommata signatap.59
ダイセツカニグモXysticus daisetsuzanusp.60
節足動物門 甲殻綱 ヨコエビ目 ナリタヨコエビJesogammarus (Annanogammarus) naritaip.60
節足動物門 甲殻綱 エビ目 ツブテナガエビMacrobrachium gracilirostrep.60
ヒラアシテナガエビMacrobrachium latidactylusp.60
ショキタテナガエビMacrobrachium shokitaip.61
ミナミオニヌマエビAtyoida pilipesp.61
マングローブヌマエビCaridina propinquap.61
アシナガヌマエビCaridina rubellap.61
サキシマヌマエビCaridina rapaensisp.62
チカヌマエビHalocaridinides trigonophthalmap.62
コツノヌマエビNeocaridina brevirostrisp.62
コムラサキオカヤドカリCoenobita violascensp.62
オオナキオカヤドカリCoenobita brevimanusp.63
シオマネキUca arcuatap.63
ハクセンシオマネキUca lacteap.63
ミネイサワガニGeothelphusa mineip.63
ムラサキサワガニGeothelphusa marginata marginatap.64
リュウキュウサワガニGeothelphusa obtusipesp.64
サカモトサワガニGeothelphusa sakamotoanap.64
ミカゲサワガニGeothelphusa exiguap.64
アマミミナミサワガニAmamiku amamensisp.65
オキナワミナミサワガニCandidiopotamon okinawensep.65
ヤエヤマヤマガニRyukyum yaeyamensep.65
ヘリトリオカガニCardisoma rotundump.65
ムラサキオカガニGecarcoidea lalandiip.66
苔虫動物門 被口綱(ハネコケムシ綱) ハネコケムシ目 カンテンコケムシAsajirella gelatinosap.66
ヒメテンコケムシLophopodella carterip.66
情報不足(DD) 海綿動物門 普通海綿綱 ザラカイメン目 オオツカイメンSpongilla inarmatap.67
ホウザワカイメンRadiospongilla hozawaip.67
刺胞動物門 ヒドロ虫綱 ヒドロムシ目 イセマミズクラゲMicrohydra iseanap.67
節足動物門 蛛形綱(クモ形綱・クモ綱) ダニ目 アシュウタマゴダニLiacarus latilamellatusp.67
節足動物門 蛛形綱(クモ形綱・クモ綱) クモ目 ハラナガカヤシマグモFilistata longibentrisp.68
ドウシグモDoosia japonicap.68
ヤマトウシオグモDesis japonicap.68
アシマダラコモリグモAlopecosa hokkaidensisp.68
エダイボグモCladothela boninensisp.69
節足動物門 蛛形綱(クモ形綱・クモ綱) カニムシ目 テナガカニムシMetagoniochernes tomiyamaip.69
節足動物門 蛛形綱(クモ形綱・クモ綱) ザトウムシ目 テングザトウムシPygobunus okadaip.69
フセブラシザトウムシSabacon distinctump.69
アワマメザトウムシAcropsopilio boopisp.70
サドスベザトウムシLeiobunum sadoensep.70
シロウマスベザトウムシLeiobunum simplump.70
ムニンザトウムシVerpulus boninensisp.70
ムニンセグロザトウムシVerpulus similisp.71
ミナトザトウムシHologagrella minatoip.71
アカスベザトウムシLeiobunum rubrump.71
節足動物門 甲殻綱 ワラジムシ目 ヒメコツブムシGnorimosphaeroma pulchellump.71
節足動物門 甲殻綱 エビ目 イリオモテマメコブシガニPhilyra iriomotensisp.72
カネココブシガニPhilyra kanekoip.72
アマミマメコブシガニPhilyra taekoaep.72
アリアケヤワラガニElamenopsis ariakensisp.72
カワスナガニDeiratonotus japonicusp.73
トンダカワスナガニDeiratonotus tondensisp.73
ハラグクレチゴガニIlyoplax deschampsip.73
ハチジョウヒライソモドキPtychognathus hachijyoensisp.73
ヨツハヒライソモドキPtychognathus takahashiip.74
ヒラモクズガニUtica borneensisp.74
タイワンオオヒライソガニVaruna yuip.74
オキナワヒライソガニGaetice ungulatusp.74
ヒメオカガニEpigrapsus notatusp.75
節足動物門 倍脚綱(ヤスデ綱) オビヤスデ目 リュウオビヤスデEpanerchodus acuticlivusp.75
ホシオビヤスデEpanerchodus asterp.75
環形動物門 蛭綱(ヒル綱) ウオビル目 イカリビルAncyrobdella biwaep.75

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