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1991年レッドデータブック掲載種
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哺乳類概説

哺乳類は、脊椎動物のうち、発展した爬虫類のなかに温血性のものが生まれ、その一部から発生したと考えられている。 それは中生代三畳紀の終わり頃のことである。 しかし、地球上のさまざまな環境に適応放散した爬虫類が全盛を極めていた中生代には、哺乳類は小型で少数派に過ぎなかった。 中生代の終わりに主要な爬虫類が一斉に絶滅した後、哺乳類は爆発的に進化し、種の多様化が起こった。 これが哺乳類の時代と言われ現在まで続いている新生代である。

哺乳類の特徴は体温が通常ほぼ一定に保たれた温血性で、体の保護とともに熱の伝導をさえぎる体毛を持ち、活動性が高いことである。 また、卵生である単孔類を除き、子は親の雛形として生まれ、幼弱期は母乳で育てられるのも大きな特徴である。 そのほかにも哺乳類だけが持ついくつかの形態的特徴がある。 第一頸椎とつながる頭骨側の関節(後頭顆)が1対であること、 空気が通る外鼻孔は1つで、餌を咀嚼しながらも効率よく呼吸ができるよう鼻腔と口腔を隔てる二次口蓋があること、 爬虫類では頭骨の方形骨と下顎の関節骨で顎の関節が形成されるが、哺乳類ではこれらの骨は中耳に入ってそれぞれキヌタ骨とツチ骨という耳小骨に変形し、 アブミ骨とともに鼓膜から内耳へ音の振動を伝えるような機能に変化していること、 知能の向上を反映して脳頭蓋が大きいこと、 下顎は歯骨という単一の骨からなり、餌の採取と咀嚼を効率よくするため歯が切歯、犬歯、頬歯などに分化していることなどである。

このように、さまざまな機能改良に成功した哺乳類は、現在地球上の水中から空中まで、多様な環境に適応し繁栄している。


●日本の哺乳類相の特徴と現状

現在、日本列島および周辺海域から9目30科87属148種の在来哺乳類が知られている。 このほかに移入種(国内移入種を含む)が6目14科19属21種あり、それらを含めた総計(重複種を除く)は9目35科98属165種である。 ただ、本書がこれまで対象としてきたものにはクジラ目とジュゴン目が含まれていなかったので、それらを除けば、 今回のレッドデータブック見直し作業の基礎とした総種数は126種であり、亜種を含めると202種・亜種に達している。 これは、作業の開始当初に挙げた種・亜種(巻末「参考資料1」参照)に、その後新種記載された2種を加えた数である。 この数は1991年版のレッドデータブック作成時のものとは異なっており、この変化はその後発見された新種の追加や分類の変更にともなって起こったものである。

日本列島に分布する哺乳類は、他の動物群と同様、生物地理学的には2群から構成されている。 一つは鹿児島県のトカラ列島以北に分布する旧北区系の動物で、ユーラシア大陸北部に広く分布する哺乳類に類縁を持つものである。 これらは過去に日本列島がアジア大陸との接続と分離を繰り返してきた過程において朝鮮海峡や宗谷海峡にできた陸橋などを通って渡来したものと考えられている。 もう一つはトカラ列島より南の南西諸島に分布する動物群で、これらは中国南部からヒマラヤ山脈の南側などを含む東南アジアに起源するものである。

南北約3,000kmにわたる広範な気候帯、海洋性気候の影響が強く湿潤な気候、複雑な山岳地形を持つ多数の島々など、 多様な生態環境を持つ日本列島では、特異的に多様な哺乳類相が見られる。 また、本州、四国、九州の本土域や南西諸島は島としての隔離の歴史が長いこともあって固有種の比率が高いという特徴がある。 一方、対馬や北海道の哺乳類相は、その地理的位置からも予想されるとおり、本土域と共通の固有種のほかに、 対馬では近隣の朝鮮半島や中国大陸系の種が加わり、北海道ではサハリンやシベリア大陸系の種が加わっているというのが特徴である。

環境改変による一部の哺乳類の減少や絶滅の危機、さらには移入種の侵入により在来種の生存に深刻な影響がでるなど、 日本産哺乳類の存続に対し人間活動に起因する悪影響が顕在化して久しいが、それらは今後ますます増大することが予想される。 レッドデータブック掲載種の新たな発生を未然に防ぎ、既掲載種の削減を可能にするような環境改善などに実効ある施策が必要である。


●選定の基本的考え方と選定結果

1991年版レッドデータブックの掲載種選定に当たっては、動物種に関する生息状況などの基礎資料が非常に限定されていたため、 選定基準は定性的なもので、生息数など数値的なものはほとんど使われなかった。その結果、選定種、とくに上位ランクの種数は比較的少なかった。 今回の種選定に当たっては、客観的評価に適している数値基準を基本としたが、 未だ生息数や分布情報の不足しているものが多いため定性的要件によって判定せざるを得ないものも多かった。 また、選定は在来の種に限定し(*)、種レベルまたは亜種が存在する場合は原則として亜種レベルを評価の対象とした。 その結果、日本産哺乳類のうち今回の評価対象となった在来種は180種・亜種であり、その26.7%の48種・亜種が絶滅のおそれのある種とされた。 今回選定された、絶滅のおそれのある種の数は旧版の14種・亜種の3.4倍に達している。 しかし、これは絶滅のおそれのある種が急増したことを意味するものではなく、情報が少ない中で数値基準をあてはめた結果によるものである。 とくに選定種のうち約3分の2にあたる31種・亜種がコウモリ類であるが、 原生林などにすむ樹洞性コウモリ類において原生林の残存面積を判定基準とした結果、このように多数が選定されたものである。 なお、1998(平成10)年に沖縄の山原地区から新種記載されたヤンバルホオヒゲコウモリとリュウキュウテングコウモリが絶滅危惧砧爐傍鵑欧蕕譴討い襦


阿部 永(元北海道大学農学部教授)


(*)評価対象から除いた種・亜種

Erinaceus europaeus ナミハリネズミ
Macaca cyclopis タイワンザル
Canis familiaris ノイヌ
Felis catus ノネコ
Mustela vison ミンク
Procyon lotor アライグマ
Procyon cancrivorus カニクイアライグマ
Paguma larvata ハクビシン
Herpestes javanicus ジャワマングース
Muntiacus reevesi キョン
Capra hircus ノヤギ
Callosciurus erythraeusタイワンリス
thaiwanensis タイワンリス
Tamias sibiricus シマリス
barberi チョウセンシマリス
Ondatra zibethicus マスクラット
Rattus norvegicus ドブネズミ
caraco ニホンドブネズミ
norvegicus ヨウシュウドブネズミ
Rattus rattus クマネズミ
diardi マレーシアクマネズミ
tanezumi ニホンクマネズミ
Mus musculus ハツカネズミ
molossinus ホンドハツカネズミ
musculus ヨウシュウハツカネズミ
Myocastor coypus ヌートリア
Oryctolagus cuniculus アナウサギ


■レッドデータブック掲載種 哺乳類

絶滅(EX) オキナワオオコウモリ Pteropus loochoensis
オガサワラアブラコウモリPipistrellus sturdeei
エゾオオカミ Canis lupus hattai
ニホンオオカミ Canis lupus hodophilax
絶滅危惧IA類(CR) センカクモグラ Nesoscaptor uchidai
ダイトウオオコウモリ Pteropus dasymallus daitoensis
エラブオオコウモリ Pteropus dasymallus dasymallus
オガサワラオオコウモリ Pteropus pselaphon
ミヤココキクガシラコウモリ Rhinolophus pumilus miyakonis
ヤンバルホオヒゲコウモリ Myotis yanbarensis
ツシマヤマネコ Felis bengalensis euptilura
ニホンカワウソ(本州以南個体群)Lutra lutra nippon
ニホンカワウソ(北海道個体群) Lutra lutra whiteleyi
ニホンアシカ Zalophus californianus japonicus
セスジネズミ Apodemus agrarius
オキナワトゲネズミ Apodemus agrarius
絶滅危惧IB類(EN) オリイジネズミ Crocidura orii
オキナワコキクガシラコウモリRhinolophus pumilus pumilus
ヤエヤマコキクガシラコウモリRhinolophus perditus perditus
カグラコウモリ Hipposideros turpis
シナノホオヒゲコウモリ Myotis ikonnikovi hosonoi
ヒメホオヒゲコウモリ Myotis ikonnikovi ikonnikovi
エゾホオヒゲコウモリ Myotis ikonnikovi yesoensis
クロホオヒゲコウモリ Myotis pruinosus
ホンドノレンコウモリ Myotis nattereri bombinus
モリアブラコウモリ Pipistrellus endoi
ヒメホリカワコウモリ Eptesicus nilssonii parvus
クビワコウモリ Eptesicus japonensis
コヤマコウモリ Nyctalus furvus
リュウキュウユビナガコウモリMiniopterus fuscus
リュウキュウテングコウモリ Felis iriomotensis
イリオモテヤマネコ Felis iriomotensis
ゼニガタアザラシ Phoca vitulina
アマミトゲネズミ Tokudaia osimensis osimensis
ケナガネズミ Diplothrix legata
アマミノクロウサギ Pentalagus furnessi
絶滅危惧II類(VU) トウキョウトガリネズミ Sorex minutissimus hawkeri
エチゴモグラ Mogera tokudae etigo
オリイコキクガシラコウモリ Rhinolophus cornutus orii
イリオモテコキクガシラコウモリRhinolophus perditus imaizumii
ウスリドーベントンコウモリ Myotis daubentonii ussuriensis
ウスリホオヒゲコウモリ Myotis mystacinus gracilis
フジホオヒゲコウモリ Myotis ikonnikovi fujiensis
カグヤコウモリ Myotis frater kaguyae
ヤマコウモリ Nyctalus aviator
ヒナコウモリ Vespertilio superans
チチブコウモリ Barbastella leucomelas darjelingensis
ニホンウサギコウモリ Plecotus auritus sacrimontis
ニホンテングコウモリ Murina leucogaster hilgendorfi
ニホンコテングコウモリ Murina ussuriensis silvatica
ツシマテン Martes melampus tsuensis
トド Eumetopias jubatus
準絶滅危惧(NT) アズミトガリネズミ Sorex hosonoi hosonoi
シロウマトガリネズミSorex hosonoi shiroumanus
サドトガリネズミ Sorex sadonisus
チョウセンコジネズミCrocidura suaveolens shantungensis
ワタセジネズミ Crocidura horsfieldii watasei
ヒワミズラモグラ Euroscaptor mizura hiwaensis
フジミズラモグラ Euroscaptor mizura mizura
シナノミズラモグラ Euroscaptor mizura ohtai
サドモグラ Mogera tokudae tokudae
ヤクシマザル Macaca fuscata yakui
ニホンイイズナ Mustela nivalis namiyei
ホンドオコジョ Mustela erminea nippon
エゾオコジョ Mustela erminea orientalis
ミヤマムクゲネズミ Clethrionomys rex montanus
リシリムクゲネズミ lethrionomys rex rex
ヤマネ Glirulus japonicus
情報不足(DD) ツシマクロアカコウモリ Myotis formosus tsuensis
オゼホオヒゲコウモリ Myotis ikonnikovi ozensis
クロオオアブラコウモリ Pipistrellus savii velox
コウライオオアブラコウモリPipistrellus savii coreensis
クチバテングコウモリ Murina tenebrosa
オヒキコウモリ Tadarida insignis insignis
スミイロオヒキコウモリ Tadarida insignis latouchei
エゾクロテン Martes zibellina brachyura
ラッコ Enhydra lutris
絶滅のおそれのある地域個体群(LP) 下北半島のホンドザル Macaca fuscata fuscata (population in Shimokita Peninsula)
東北地方のホンドザル Macaca fuscata fuscata (populations in Tohoku District)
石狩西部のエゾヒグマ Ursus arctos yesoensis (population of the west side
下北半島のツキノワグマ Ursus thibetanus japonicus (population in Shimokita Peninsula)
紀伊半島のツキノワグマ Ursus thibetanus japonicus (population in Kii Peninsula)
東中国地域のツキノワグマ Ursus thibetanus japonicus (population in eastern Chugoku District)
西中国山地のツキノワグマ Ursus thibetanus japonicus (population in western Chugoku District)
四国山地のツキノワグマ Ursus thibetanus japonicus (population in Shikoku)
九州地方のツキノワグマ Ursus thibetanus japonicus (population in Kyushu)
徳之島のリュウキュウイノシシ Sus scrofa riukiuanus (population in Tokunoshima Island)
中国地方以西(四国を除く)のニホンリスSciurus lis (populations in Chugoku and Kyushu Districts)
夕張・芦別のナキウサギ Ochotona hyperborea yesoensis (population in Yubari-Ashibetsu Mountains)

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