まとめとこれからの課題

 今回の身近な生きもの調査は、私たちにとって子どもの頃から慣れ親しんできた植物であるひっつきむしを通して、身の回りの自然の様子や変化を見直す目的で始めました。みなさんによって集められたひっつきむしはとても貴重なもので、標本から得られた様々な調査結果は1996年の身近な自然のありさまを教えてくれます。しかし、調査で得られたものはそれだけではありません。標本とともに大事な記録は、みなさんが歩いて得られた体験だと思います。みなさんの家の周りにはどんなひっつきむしがあったでしょうか。ひっつきむしとともにどんな植物や昆虫、鳥などが見られたでしょうか? いつもの散歩道は、昔にくらべてどのように変化していたでしょうか? これから先5年後10年後に歩いたら何が見つかるでしょうか? 今回の調査結果とみなさんの体験を、これからの継続的な観察の土台としてください。

 今回の調査では、18種のひっつきむしと、みなさんの身の回りの自然に関して、様々なことがわかりました。たとえば、オナモミタウコギなどの在来種が少なくなる一方、コセンダングサアメリカセンダングサオオオナモミといった帰化種の方が身近な植物になっていることがわかりました。これらはいずれも、半自然的あるいは人工的環境である造成地や舗装道路の路傍などに多い種であることもわかりました。つまりひっつきむしは私たちの身の回りに造成地や埋立地、舗装された道路がいかに多いかを物語っているのです。また報告されたひっつきむし全体の10%以上を占める4種のうち、在来種はヒナタイノコズチ1種だけでした。これは森林、自然的草地、半自然的草地、水辺の4つに区分した環境をほぼ等しく生育環境とするもので、あまり場所を選ばずに生育できるという性質のため、在来種でもっとも身近なひっつきむしになっていると考えられます。

 このほか、種ごとの分布図、生育環境などはこの報告書のそれぞれのページに示したとおりで、種による分布の偏り、ひっつきむしの種構成の地域ごとの特色など、全国的規模の調査ならではの結果が得られました。

 生物相というのは地域ごとに特色があるのが当然ですが、生きものを使った全国的な自然環境の指標には、これまでタンポポやホタルなどごく限られた生物しか利用されてきませんでした。今回の調査である程度生態や分布などの基礎資料ができてきたひっつきむしは、それらに加えて利用できる「生きもの」だと思います。従来の指標生物にひっつきむしなども加え、複数の生物を調べると、環境をより多角的に見ることができると思われます。

 ひっつきむし調査では果実を調査票に貼って送っていただきました。果実だけで種の同定ができるものは限られますし、種によっては判別がむずかしく調査をむずかしいものにしたかも知れません。それも上記のような目的があって選ばれた種ですので、ご了承いただきたいと思います。

 生物の調査は1回でわかることも数多くありますが、継続することで何倍もの楽しさや不思議さを教えてくれます。ひっつきむしに関する全国的な調査はさしあたり終わりになりますが、毎年秋にはひっつきむしにも心を留めて身の回りの自然の変化を見続けていただきたいと思います。

 

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