まとめとこれからの課題

 1995年の身近な生きもの調査では、私たちになじみ深い動物であるセミをテーマに取り上げ、「セミと人のつながりを知る」ために、日本のセミの現状をつかむことに取り組みました。調査の内容は、簡単であり多くの方々に参加していただけること、自然や環境への理解を深めていただくことなどに配慮して決められました。とくに、セミにとっては不要となったぬけがらの収集だけにとどめたこと、またフィルムケースを再利用してぬけがらを入れていただいたことなど、調査を行った皆様には手間がかかったことと思いますが、自然や環境に配慮したすばらしい調査を行うことができたと考えております。また、全国津々浦々の参加者から寄せられた数値情報は、質・量とも十分なものでした。

 さて、今回の調査で調べた項目は、種類別の全国分布図を作成するための「ぬけがら調べ」、生物季節前線図を作成するための「鳴き声調べ」、地方名や体験の有無についておうかがいした「セミと人の暮らし」アンケートの3点でした。それぞれの集計・分析は、各項を参照していただくとして、ここでは成果と課題についてふれておきたいと思います。

 

 種類ごとの分布図は、専門家がぬけがらをチェックした結果に基づいて作成しており、高い信頼性を持つものです。また、北海道から沖縄県までの地域でもれなくぬけがらが収集されたことで、日本における分布の現状を的確に知ることができました。しかし、各種類に共通して、分布の北限・南限と考えられている地域からの情報が少ないことや、地域の詳細な情報に欠けるといった課題を残しました。今回得られた分布図を見ながら、「こんな分布がわからないだろうか」と思われる点をいくつか紹介してみましょう。

1エゾゼミ

 北海道・東北地方では、平地にも発生するといわれています。しかし、今回の調査では東北地方からの報告が少なく、平地でのぬけがらの採集や、発生環境の記録などの情報が望まれます。また、山間部に生息する関東・近畿地方の市街地でいくつものぬけがらが見つかりました。植裁によって運ばれた可能性があり、今後の発生状況を把握することが必要になります。

2コエゾゼミ

 北日本の平地における分布情報が望まれます。普通はブナ林にすみますが、甲信地方では、公園の植裁などからもぬけがらが収集されており、このような事例が一般的なのか、情報を積み上げる必要があります。

3クマゼミ

 海岸線沿いに北進している種類です。今回の調査でも従来知られていなかった地域から報告があり、今後どこまで北進するか、継続的な情報が望まれます。

 

 鳴き声による調査については、地域ごとの鳴き始める時期を示した地図にまとめることができました。遅鳴きに関しては、情報を得ること自体むずかしかったようで、満足のいく地図は描けませんでした。また、鳴き声の種類数で自然度を調べる試みもしましたが、報告された地名と環境の相関がつかめず、適切な集計ができませんでした。

 セミと人とのつながりに関しては、その体験の有無や多くの地方名が報告されたことで、その絆の強さを再認識することができました。

 

 こうして調査を振り返ってみると、いくつかの反省点はあるものの「日本のセミの現状を的確につかむ」といった目標は十分達成されたと思います。この調査で得られた膨大な実物資料(ぬけがらの標本)は、大切に保存され、教育活動や研究活動に役立てられます。また、ぬけがらの採集地点など詳細な記録の一覧は、別の報告書などで公表し、日本各地の自然誌資料の一つとして活用していただけるようにしたいと考えています。

 最後になりましたが、ご参加いただいた多くの方々すべてに厚くお礼申し上げるとともに、今後の環境庁の調査へのご理解とご協力をよろしくお願い申し上げます。

  

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