調査結果 5

セミに関する体験

 季節の風物詩として親しまれているセミは、私たちの暮らしのなかにとけ込んだ昆虫の一つです。古くから、短歌や俳句、川柳に多く詠まれ、私たちの心を楽しませてくれています。芭蕉の「閑さや岩にしみ入る蝉の声」という名吟はその代表作です。

 また、セミは子どもたちにとっても大切な存在で、セミ取りは言うに及ばず、各地で蝉凧や蝉殻人形などの玩具として子供たちの遊び相手となっています。このような楽しみとしての関わりだけでなく、暮らしの実用面にもセミは登場します。たとえば、漢方薬として用いられ、脱皮殻は解熱や咳止めなど、成虫の黒焼きは心臓病などに効くとされています。また、セミを食べ物としていた地方もあり、ハネをとって鉄鍋で炒り、醤油などをつけて調理するそうです。こうしてみると、日本人の暮らしの中にセミが深く住み着いていることがうかがええます。今回の調査では、セミと関わった体験の有無を答えていただき、人との絆がどのくらいあるのかを調べました。まず、子どもの頃の体験を主とした「セミ取り」(1)や「幼虫・羽化の観察」(34)ですが、各年齢層ともに30〜40%前後の方が体験しています。セミの感触を知っている方が、全体の4割を占めるといったことは、セミとの関わりが決して疎遠ではないことを示したものと言えます。興味深いのは、性別による体験度の違いです。戦前世代を見ると明らかに男性の体験度が増し、戦後世代では差が見られなくなります。これは、若い世代ほど遊びの男女差がなくなってきたことによるものと思われます。また、クモの巣でセミを取る(2)という方法は、子ども時代が昭和40年以前の年齢層で高くなることも興味深い結果です。これは日本の経済成長にともない、「虫取り網」という道具が子どもたちにも普及し、クモの巣を使うという伝統的な方法が忘れられていったためでしょう。

 セミを食べたという体験に関しては、ほとんどの方が「無い」とお答えいただきました。古くから長野や山形ではあちこちで食料とされていたという情報もありましたが、実際には特殊な食べ物になってしまったのでしょうか。

 セミに積極的な関わりのある方が多かったという今回の結果から、セミと人との絆の強さが改めて浮かびあがりました。これからも日本の風物のひとつとして、仲良くつきあってゆけるでしょう。

蝉凧

セミの折り紙

 

  

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