調査結果 2

初鳴き・遅鳴き

 四季の変化のある日本には、私たちに季節の到来を感じさせてくれる多くの生きものがいます。それは、早春に顔を出すフキノトウや、晩夏に鳴き出すマツムシのように、身近にあって季節の変わり目をいち早く伝えてくれるものです。セミもまた、その鳴き声によって私たちに季節を告げるなじみ深い生きものの一つです。

 その年、初めてのセミの声である「初鳴き」の記録を全国から集めて地図に書きこんでゆくと、サクラ類の開花前線のようなセミの初鳴き前線図ができあがります。こうした図は「生物季節前線図」と呼ばれていますが、これを作るのには2つの目的があります。一つは、生きものの動向を通じて、全国的な季節の進み具合を知ることです。たとえば、サクラ類の開花前線はその代表的なものです。もう一つは、それぞれの種類が、それぞれの土地での季節の進行にどのように対応した生活を送っているのかを知る手がかりになるということです。

 今回の調査では、鳴き声による区別のしやすい9種類のセミについて報告していただき、それを地図にまとめることを計画しました。その結果、「初鳴き」に関して13,415件の報告が寄せられました。

 集計は、気候や地形などによって日本列島を14の地域に分けて行いました。鳴き声の記録には聞き違いなども含まれやすいので、それぞれの地域で、報告を日付順に数えていって、全報告の1割がそろった頃を「鳴き始め」、5割がそろった頃を「鳴きそろい」として、地域ごとに比べてみました。

 「初鳴き」について、ミンミンゼミクマゼミについてまとめたものが下の図です。ミンミンゼミを見ると、北海道地方がもっとも早く、6月下旬には鳴き声が聞こえます。北関東、北陸地方などでは7月中旬、九州地方などでは7月上旬となっています。サクラ前線と違って、北にいくにつれて、鳴き始める時期が遅れるといった単純な図式でないことがわかります。図には示しませんでしたが、ツクツクボウシヒグラシに関しても同様の傾向が読みとれました。

 この結果は、同じミンミンゼミでも、鳴き始めのひきがねとなる気温などの条件が全国一律でないことを示しています。

 季節の移り変わりは、それぞれの地域によって異なります。冬から一気に春になる地域、冬が短く温暖な地域などさまざまです。各地のセミは、このようなそれぞれの地域での季節の進み具合のなかで、自らにもっとも適した時期に発生し、それを全国的にまとめてみると、むしろ北方に分布するセミが早く出現しているという結果になるようです。つまり、この図は生物季節前線図の第二の目的にあてはまる性格を持っていることになります。

 一方、クマゼミでは南ほど早く鳴き出していますが、これはクマゼミが比較的近年になって北に分布を広げてきたことと関連していると思われます。

 つぎに「遅鳴き」について見てみましょう。寄せられた報告数は3,859件でした。

 報告数が少なかったため、図にはできませんでしたので、おもな種類、地域を表にしました。今回の調査だけから見れば、北から南にいくにつれ、鳴き終わる時期が遅くなる傾向が見られます。秋から冬に向かっての気温低下の影響が大きいため、緯度との関係がより濃く現れた結果となりました。なお、「遅鳴き」は、その年の一番最後に聞いた日ということですが、記録は案外と面倒です。というのも、この時期は毎日鳴いている訳ではないので、こまめに記録していないと忘れてしまうからです。カレンダーに鳴き声を聞いた日を書き込んで、後でそれを整理するといった方法がおすすめできます。

 「初鳴き・遅鳴き」について見てきましたが、全般的に情報が少なく、まだまだ地道な調査を積み重ねる必要があると思います。とくに、種別に地域ごとの詳細な情報の収集は欠かせません。これは、「初鳴き」のところで述べた土地柄との関連を知るために重要です。セミの鳴き声をもとに調べるのは、特殊な計測の手法を使うわけではなく、子どもたちの環境学習や自然観察サークル活動のテーマになりうるものです。ぜひ皆さんも、根気強く調査を続けてみてください。

■遅鳴き

北東北地方

南関東地方

九州地方

クマゼミ

―――

9月中〜下旬

10月上〜中旬

ヒグラシ

9月上〜中旬

9月下旬

10月下旬

ツクツクボウシ

9月下旬

10月中旬

10月下旬

ミンミンゼミ

9月下旬

10月上旬

9月下旬

 

鳴き始め分布図[ミンミンゼミ]

鳴き始め分布図[クマゼミ]

  

目次へ