1.調査結果の概要


 今回の調査において生物調査の地点として選定したのは、次の5地点である。


 1)吉胡(汐川干潟) 田原町(田原湾/三河湾)

 汐川干潟は、野鳥の飛来地として全国的にも有名であり、田原湾内に大規模な干潟が出現する。

 2)千生新田(衣崎海岸) 一色町(三河湾)

 矢作川および矢作古川の河口に近く、海岸線にそって大きな干潟を形成する。

 3)折立 渥美町(福江港/三河湾)

 渥美半島の先端に位置し、福江港内には多くの干潟の形成がある。近年、アサリ養殖の漁場としての改良が行われている。

 4)藤前 名古屋市(名古屋港/伊勢湾)

 新川、庄内川と日光川にはさまれた河口に位置し、野鳥の飛来地として知られている。

 5)時志 美浜町(三河湾)

 三河湾の西、知多湾に位置し、南北の海岸線に沿って干潟が形成される。


 以上の5地点は、愛知県内でも代表的な干潟が形成されるところであり、周辺の干潟を含めた相対的な規模及び愛知県の全海岸線のバランスを勘案して本調査の地点とした。

 愛知県は、太平洋に面しているが、その海岸は三河湾、伊勢湾といった内湾にあり、直接外海に面しているのは渥美半島の東海岸(表浜)だけである。海岸線は、渥美半島、知多半島の2つの半島を主に形成されている。また、豊川、矢作川、木曽川などの大河川がほぼ等間隔で流入し、いずれも下流に大きな平地が広がっている。そこには、豊橋市、岡崎市、名古屋市をはじめとする市街地が形成され、その前面に比較的泥質の砂浜海岸が広く分布している。

 海域は、海岸崖と白い砂浜が延々と続く渥美半島表浜に面した遠州灘、三河山地が沈水してできた20余の小島が点在する美しい三河湾、さらに知多半島の西方、名古屋市の南部に広がる伊勢湾でなりたっている。

 海岸線の様相は、外洋と内湾の分岐点である、伊良湖を界に、大きく変化し、内湾では、波静かな砂浜や河口に広がる砂泥浜および転石浜や磯浜をみかけるようになる。内海はさらに奥に進むほど、環境も徐々に変化していくことがわかる。例えば砂浜のようす、岩場の表面の色、そして海水の色、打ち上げられた空びん、空かん、ビニール類、木片などの散在など様々である。そのうえ、干潟は毎日繰り返さえれる潮汐による影響、そして、その場の底質によって生活様式の異なる数多くの生物達が適応しながら生息している。特に湾口では、外洋の影響を、湾奥では河川水の流入をはじめ、市街地と接する場合が多いために、海岸の生物相も異なってくる。河口に広がる干潟は、海水中の不純物を浄化する巨大な処理場であるだけでなく、渡り鳥の休息地であり、採餌場でもある。またプランクトンの繁殖場でもあり、魚類を育てる場でもあるので、特に干潟の消失は生物たちにとって深刻な問題である。

 県内の干潟は、遠浅であることが多く、市街地に接している場合が多いために、安易に利用されやすく、港湾造成や農地造成のための埋立てや、干拓によって海岸線は大きく変化している。それにつれて、海岸の汚染はさらに進み、水質や底質もしだいに悪化し、そこを生息地とする生物にとって重大な危機が訪れている。特に、近年の海域環境の悪化、破壊は著しく、現在もその傾向はますます進行の兆しが見られる。

 今回の調査では、同じ河口干潟でも、各地点で違いがある。

 伊勢湾に流入する日光川河口の藤前干潟は、泥質の度合いも高い上に、水質の汚れでやや悪臭を感じ、護岸には油幕も認められる状況で、ゴカイ類が全域にみとめられる以外は生物相も乏しい。

 それに対し、三河湾に流入する矢作古川の河口の干潟(一色町)ではゴカイ類・二枚貝・アナジャコ類をはじめ、比較的豊かな生物相を呈するが、アマモ場はしだいに沖に後退し近年では干潟では存在しない。

 また、汐川干潟では埋め立てに、さらに三河湾大橋の建設で汐川は流出を押さえられたために、泥質の度合いが高まり、場所によって異なるが全体的に生物相悪化しているものと思われる。この地点ではウミニナ類が多く目につくが、アゲマキガイ(二枚貝)は絶滅寸前の状況である。

 一方、前浜干潟をみると、渥美町の折立干潟では、小河川の影響および外洋に近いという条件もあり、非常に豊かな生物相を示す。特にウミニナ、ムシロガイ、キサゴ類が干潟をはいまわる姿は、それを証明していると言えよう。

 しかし、知多半島の時志の前浜干潟では、場所によっては異なるものの、海岸線に長く存在する砂質の高い干潟では生物相もやや乏しくなる。両前浜ともに干潟内でのアマモの存在はほとんど見当たらない。

 

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