1. 千葉県

 

  (1)分布及び消滅状況の概要

1 全般的な生育サンゴ群集の分布状況

千葉県下における生育サンゴ群集については、古くから館山湾でダイバーによって断片的にその存在が指摘されてきたが、学問的な調査として千葉県地学教育研究会が1963年にまとめた沼サンゴに関する論文のなかで現生サンゴの存在を報告した以外はほとんどなかった。ごく最近、日本のサンゴ群集について総合的な研究を行ったオーストラリアのベロン博士が、沖縄から館山までのサンゴ群集の分布について論文を発表した。千葉県に関しては、館山湾の坂田から波佐間の水深10-15mで25種の石サンゴ類の存在を確認している。

今回の聞込み調査によると、館山湾に位置する沖ノ島以外では水深5m以浅での石サンゴ類の生息の確認はできなかった。マンタ法による5m等深線に沿った遊泳調査では、当該水域の海水透視度が低く、大型海藻類の存在がかろうじて確認できるのみであった。そのため、海底上1m付近まで潜水して調査を実施したので広範囲の水域を調査できなかった。この5m深度の潜水現地調査で石サンゴ類の生息が確認されたのは、館山湾の沖ノ島南北、大房南水域の2カ所であった。ソフトコーラルはこの2カ所に加えて、野島崎、洲崎、八幡岬の5カ所であった。

聞込み調査、文献調査、現地調査の結果を総合すると、千葉県下に生息するサンゴ類(ソフトコーラルを4種を含む)は36種であり、その分布域は館山湾の坂田、波佐間、沖ノ島、大房水域に集中し、その他の水域では少なくとも浅海域(5m以浅)では生域する可能性は低いことが明らかになった。とくに沖ノ島南北水域の5m以浅部は、千葉県で浅場にサンゴ群集が生息する唯一の場所であり、ここで4年間潜水観察(素潜り)を行っている三瓶雅延氏によると14種類のサンゴを確認している。外房海岸では石サンゴの生息の確認がないため、沖ノ島浅場はサンゴの北限域としてきわめて重要な場であるといえる。この場所は黒潮分岐流の直接の影響下にあるとともに内湾的な要素をも持ち、海藻の生育状況も良好で、場所によっては生育サンゴ群集を被覆する場合もみられている。以上の諸点を考慮すると早急な保護対策がとられる必要がある。

2 改変状況と環境予測

千葉県下のサンゴ生息地の改変状況については、今回が最初の調査であるためと文献調査によっても比較可能な資料が得られなかったため、現況を報告するにとどまった。現在のところ、生息地の改変をともなう開発も計画されていない。しかし、沖ノ島浅場のサンゴ群集は、南水域を中心に小河川を通しての排水の間接的影響のため、透視度が低く、また、海底には細泥が沈着しているため、長期的には悪影響がでることが予測され、懸念される。時期によっては小規模だが、赤潮が発生する可能性もある(今年度7月に小規模なヤコウチュウの発生による海水変色が観察された)。海藻の過剰な繁茂に対する対策、海水富栄養化の進行の抑制などの対策がとられる必要がある。

 

<調査方法>

今回指定された調査方法、とくにマンタ法は千葉県下のサンゴ群集を調査する場合には、南方水域とくらべ比較的低い透視度をもつため、かならずしも有効な方法ではなかった。今回の調査のほとんどが比較的透視度の高い冬期に実施されたにもかかわらず、5m水深の表層から海底を透視することはほとんどの場所で不可能であった。また、外房沿岸では、海況が静穏な状況でも風波やうねりの影響で岩礁浅場での船による曳航調査、潜水調査(素潜り)はかなり危険を伴った。今回の調査では生息場の保護の観点から、海藻も含めてサンプルの採集をいっさいおこなわなかったため、また、生育場所の環境やサンゴの発育状況により多様な形態変化をしめすため、サンゴの種類同定には若干の問題が残されている。館山湾水域を時間をかけて精査すれば、環境選択の幅の広いサンゴ種の未確認を考慮すると種類数はまだ増加する可能性がある。

 

 

文献資料リスト

 

千葉県地学教育研究会編(1963)

  千葉県地学図集第4号「サンゴ編」140pp.

原留吉将(1986)

  坂田実験実習場付近近海の腔腸動物の分布とDendronephthya属の分類。

  東京水産大学卒業論文25pp.

北原浩一郎・藤田耕太郎(1988)

  坂田沖コンクリート礁(設置後8-9年経過)における付着性マクロベントスの分布及び着生状況に関する研究。

  東京水産大学卒業論文(増殖生態学研究室)47pp.

大谷豪(1989)

  ウミトサカ・ヤギ類に寄生するウミウサギガイ科貝類の生態。

  東京水産大学卒業論文(水産動物学研究室)50pp.

西平守孝(1991)

  フィールド図鑑「造礁サンゴ」東海大学出版会 264pp.

三瓶雅延(1991)

  館山湾沖ノ島に生息するサンゴおよび化石沼サンゴに関する調査報告。

  千葉県地学教育研究会会誌8月23-29。

橋本昇・高野仁(1991)

  三瓶雅延さんを訪ねて―沖ノ島サンゴに注目を―。

  千葉県地学教育研究会会誌8月30-33。

Veron,J.E.N.(1992)

  Conservation of biodiversity:a critical time for the hermatypiccorals of japan. Coral Reefs,11,13-21。

 

 

(2)生育サンゴ群集取りまとめ表
 (都道府県名) 生育サンゴ群集分布取りまとめ表
調査年度  1991年度
調査者名  所属 東邦大学          氏名  秋山 章男
   千葉県
群集番号
前回調査区
番   号
地 図 名 地図番号 海 域 名 海域コード 市町村名 市町村コード 面 積 被 度 生 育 型 透 視 度 保護指定 消滅 底生生物 現地調査
時期 面積 理由 種類 食害
  1       白 浜 5239-27 房 総 501 白 浜 町 124656 <0.1 Ns  5m                       c 〇 ストロベリーサンゴ
  2      館 山 5239-36 東京湾 502 館 山 市 122050 <0.1 So 10                       c 〇 ウミトサカ類
  3      <0.1 Ma,En,Fo  7                       c
  4       1.5 Br,Ma,En  5                       c 〇1
  5        0.8 Ma  3                       c 〇2
  6       那 古 5239-46 富 浦 町 124613 <0.1 Ma,Ns,Br 10                       c
  7       小 湊 5240-51 房 総 501 天津小湊町 124729 <0.1 Ns  5                       c 〇 イボヤギ
  8       勝 浦 5240-52 勝 浦 市 122181 <0.1 So  5                       c 〇 ウミトサカ類

 

注1 サンゴが観察されない調査地は除外した

注2 千葉県下では被度5%を越える生育地はみとめられなかった

注3 1個体でも石サンゴ、ソフトコーラル、非造礁サンゴを認めた場合は群集番号をつけた

注4 消滅域は該当地域がないので表から除外した

注5 「保護指定」には海中公園地区名のみ掲載

 

  (3)サンゴ群集分布図

千葉県 非サンゴ礁海域サンゴ群集分布図

千葉-1

千葉-2

千葉-3

千葉-4

千葉-5

千葉-6

 

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