39. 沖縄県

 

(1) 分布及び消滅状況の概要
 現存藻場
 1989年現在沖縄県内に現存する海草藻場分布域は合計6,902haであった。海域別では沖縄島1,282ha、宮古列島1,529ha、八重山列島4,091haとなっている。沖縄島海域には前回調査で見落とされていた久米島の2調査区(調査区番号57、58)の11haを新たに加え、消滅域4haを減じても結果として前回調査で報告された現存域の合計(1,275ha)より増加した。
 本調査における藻場の分布域には、調査要綱に従って、一時的な消長を繰り返すような疎生部分や近接する藻場の海底も含んでいる。このため、藻場分布図が実際の分布状況と異なっていたり、現存藻場の面積が過大に評価される傾向となる。1978年の前回調査と時期をほぼ同しくして行われた藻場調査(当真、1981)では、同一の空中写真から藻場の分布域を読みとったにもかかわらず、報告された藻場面積の合計は前回調査の結果の40%に満たなかった。
 沖縄県内には、リュウキュウスガモ、ウミヒルモ、ベニアマモ、リュウキュウアマモ、ボウバアモマ、ウミジグサ、マツバウミジグサ、コアマモの合計7属8種の海草が分布し、そのうち数種がモザイク状かまたはベルト状に卓越する部分を作って藻場が形成されているのが普遍である。本調査において定義される藻場で、単一種が卓越して形成されている藻場は西表島西部のウミショウブ帯以外にはみられない。また、一つの藻場のなかでの出現種の構成比には変動があるようで、同じ地域内の調査でも局所的に異なった卓越種が報告されている場合がある(当真、1981、寺田、1981)。したがって、調査表に優占種として記入された各海草種名は厳密な意味での優占種を示すものではない。
 分布域と疎密度のいずれの項についても明確に判定しえたもの以外は不明とした。現存藻場内に人工的な改変があっても、それが1ha未満の場合は調査表の経年変化の項に減少傾向として記録した。疎密度の変化はそれが持続しているものかどうかの確認がむずかしいので、ヒアリングおよび現地調査を含めて総合的に判断して記入した。
 海草藻場は、海域の局所的な富栄養化が起きだときには拡大する場合もある。例えば、オーストラリアのGreen Islandでは、観光地として発展してゆく過程で海草帯が増大したことが知られている。従って藻場の増減は、必ずしも環境条件の悪化と平行関係にあるわけではない。
 沖縄県ではオキナワモズクの養殖技術が1980年代、すなわち前回調査以後に飛躍的に発展した。また1986年からはクビルジタの養殖も行われている。今回の調査では、藻場の分布域中にモズクまたはクビレジタの養殖場が設けられているのがしばしばみられたが、これらの養殖場が季節的なものであることに加え、海底を直接改変して藻場を消滅させる要因になるとは考えられない。それゆえ今回は現存藻場調査表の備考欄に養殖場の存在についてのみ記入した。
 藻場の利用状況としてユニークなものは、沖縄島海域の下原(調査区番号42)に設 けられているウニ牧場があげられる。これは、藻場内に他所で採捕したシラヒゲウニを放養して身入りを増やすことを目的としており、地元の漁民が独自に行っているものである。この他に、宮古島の与那覇湾内の藻場がクチベニツキガイの漁場として利用されている。
  
 消滅藻場
 消滅藻場の合計面積31haの海域別のうちわけは、沖縄島4ha(1調査区)、宮古列島11ha(2調査区)、八重山列島16ha(3調査区)である。3つの海域を通じて最も大きい消滅域は西表島の住吉北(調査区番号124)の10haで、ヒアリング調査によれば陸域からの汚水とシルトの流入により消滅したとのことである。これ以外は、漁港の建設とそれにともなう航路浚渫やガザミ中間成場の掘り下げなどの人工的な改変により消滅した藻場であった。

 

 

現存藻場・消滅藻場総括表

海 域 名

現 存 藻 場 消 滅 藻 場
調査区数 面 積(ha) 調査区数 面 積(ha)
沖 縄 島  58 1,282 1 4
宮 古 列 島  15 1,529 2 11
八重山列島  51 4,091 3 16
合   計 124 6,902 6 31

 

<調査実施方法>
・ 既存資料調査
 干潟調査と同様に、今回の藻場調査も前回調査で報告されている現存藻場分布域の見直しと追跡調査が目的である。したがって既存資料としては、第2回自然環境保全基礎調査の成果物(干潟・藻場・サンゴ礁分布調査報告書)とその調査の際に使用した空中写真(1977年撮影)を主に用いた。この他にも、最新の空中写真や各種調査報告書、各地方土木事務所が発行する事業概要、港湾や漁港の修改築事業報告書などを参照した。
 調査の際には、前回調査で報告されている現存藻場の分布域中に新たに人工構造物が建設されているかどうか、または海底になんらかの改変が加えられていないかどうかを最 新の事業概要、港湾事業報告書や空中写真などで確認した。分布域中に特に認められる改変がないときは変化なしとした。

・ ヒアリング調査
 調査区付近の漁業者やダイバーなどから情報を得たほか、調査区となる藻場をフィー ルドとする研究者や、当該藻場をごく最近訪れた人々からもヒアリング調査を行った。聞き取りの際にはできるだけ正確な情報を得るよう努力し、調査表には信頼できるもののみ記入した。
・ 現地確認調査
 今回は空中写真による藻場の読み取りができなかった海域については、分布域や海底 改変状況の確認は現地調査に依存した。時間的制約のために多くの海域で潜水調査は行 わず、高所から目視あるいは望遠鏡を用いて、分布域と改変状況の確認のみにとどめた。

 

 

(2)現存、消滅藻場一覧表

現存・消滅藻場一覧表

 

調査区
番 号
地図
番号
海 域 名 市町村名 地     名 タイプ
番 号
面 積(ha)
現存藻場 消滅藻場
1 2 沖縄島 国頭村 伊 部 之 浜 1 7  
2 3 名護市 嘉   陽 1 8  
3 3 嘉 陽 南 1 6  
4 3 安 部 崎 1 2  
5 3 瀬 嵩 南 側 1 14  
6 3 辺 野 古 1 173  
7 3 松 田 湯 原 1 4  
8 7 宜野座村 松   田 1 5  
9 7 宜 野 座 1 11  
10 7 漢那ビーチ 1 26  
11 7 金武町 金 武 岬 北 1 33  
12 7 与那城村 池   味 1 3  
13 7 宮 城 島 南 1 59  
14 9 浜比嘉島東 1 3  
15 9 海中道路南 1 15  
16 7.9 海中道路北 1 41  
17 7 平 安 座 西 1 5  
18 9 海中道路南 1 57  
19 9 薮 地 島 東 1 60  
20 9 勝連町 カンナ崎 1 3  
21 9 アギナミ岩 1 4  
22 9 沖縄市 泡 瀬 沖 1 112  
23 9 中城村 久 場 崎 1 46  
24 9 勝連町 津 堅 西 浜 1 13  
25 10 知念村 アド牛島北 1 18  
26 10 玉城村 アージランド沖 1 15  
27 10 百名ビーチ 1 10  
28 14 糸満市 喜 屋 武 1 11  
29 14 名城ビーチ 1 25  
30 14 エージナ島北 1 6  
31 13 豊見城村 瀬 長 島 1 3  
32 13 大 嶺 岬 1 64  
33 12 読谷村 残 波 岬 1   4
34 12 長   浜 1 7  
35 12 恩納村 仲   泊 1 2  
36 12 谷 茶 前 1 20  
37 12 屋 嘉 田 浜 1 59  
38 11 伊江村 フ ナ ズ 原 1 7  
39 6 本部町 備   瀬 1 5  
40 6 有 馬 原 1 25  
41 6 今帰仁村 クンジャー 1 8  
42 6 下   原 1 16  
43 3 名護市 斉 井 出 1 28  
44 3 屋   我 1 22  
45 3 繞 平 名 1 43  
46 3.8 我   部 1 33  
47 5 伊是名村 屋 之 下 島 1 3  
48 5 屋之下島北 1 5  
49 4 伊平屋村 我 喜 屋 1 3  
50 15 渡名喜村 渡名喜東浜 1 26  
51 16 仲里村 真   泊 1 20  
52 16 奥 武 島 北 1 10  
53 16 久米島東リーフ 1 15  
54 16 畳   石 1 3  

 

調査区
番 号
地図
番号
海 域 名 市町村名 地     名 タイプ
番 号
面 積(ha)
現存藻場 消滅藻場
55 16 沖縄島 仲里村 1 16  
56 16 銭 田 浜 1 8  
57 16 儀 間 南 1 7  
58 16 儀   間 1 4  
59 16 具志川村 仲   泊 1 25  
60 17 宮古列島 平良市 池   間 1 8  
61 17 世 渡 崎 1 55  
62 17 狩   俣 1 199  
63 17 大   神 1 13  
64 18 平瀬尾神崎 1 16  
65 18 高   野 1 75  
66 18 城辺町 与 那 浜 崎 1 15  
67 18 嶺   原 1 13  
68 18 下地町 皆   愛 1 5  
69 18 来   間 1 4  
70 18 平良市 久松(与那覇湾) 1   8
71 18 与 那 覇 湾 1 902  
72 17 大浦清々奥 1   3
73 17 大 浦 湾 1 113  
74 19 伊良部村 佐 和 田 1 65  
75 19 白 鳥 崎 1 18  
76 20 多良間村 塩   川 1 28  
77 21 八重山列島 石垣市 安 良 崎 南 1 1  
78 21.22 伊 野 田 1 36  
79 22 石垣南東岸 1 219  
80 22 宮 良 湾 1 47  
81 22 観 音 崎 南 l 115  
82 22 名 蔵 湾 1 393  
83 22 大 崎 西 1 12  
84 22 御 神 崎 南 1 5  
85 22 崎 枝 湾 1 23  
86 21.22 底 地 湾 1 37  
87 21 平 離 島 南 1 2  
88 22 川 平 湾 1 5  
89 22 小 島 西 1 4  
90 22 吉   原 1 13  
91 22 富 野 東 1 27  
92 21 伊 上 名 1 38  
93 21 1 31  
94 21 野底石崎東 1 7  
95 21 伊 原 間 湾 1 65  
96 21 久 宇 良 南 1 49  
97 21 嘉良川河口 1 3  
98 21 平 久 保 1 2  
99 22 竹富町 東 崎 北 1 18  
100 22 西 桟 橋 1 26  
101 25 ニ シ 崎 南 1 48  
102 23.25 船 浦 湾 1 52  
103 23 鳩 間 桟 橋 1 4  
104 23 赤 離 島 南 1 51  
105 23 西 表 東 岸 1 1407  
106 23.24 小 浜 南 岸 1 102  
107 23.24 小 浜 北 岸 1 277  
108 24 豊   原 1 329  

 

調査区
番 号
地図
番号
海 域 名 市町村名 地     名 タイプ
番 号
面 積(ha)
現存藻場 消滅藻場
109 24 八重山列島 竹富町 黒 島 桟 橋 1 65  
110 25 崎 山 湾 1 40  
111 25 網 取 湾 1 29  
112 25 サ バ 崎 東 1 28  
113 25 舟 浮 北 1 5  
114 25 舟 浮 南 1 8  
115 25 舟浮湾東岸 1 79  
116 25 白   浜 1 21  
117 25 外・内離島北岸 1 124  
118 25 外・内離島南岸 1 38  
119 25 ミタラ川河口南 1 52  
120 25 西 表 漁 港 1   3
121 25 ミタラ川河口北 1 6  

 

調査区
  番 号
地図
番号
海 域 名 市町村名 地     名 タイプ
番 号
面 積(ha)
現存藻場 消滅藻場
122 25 八重山列島 竹富町 王   立 1 72  
123 25 住吉(南) 1 7  
124 25 住吉(北) 1   10
125 25 波照間桟橋 1 42  
126 26 与那国町 祖   納 1 3  
127 26 比   川 1 16  
128 26 比 川 西 1 4  
129 26 久 部 良 1 4  
130 26 久部良漁港 1   3
               
               
               
          6902 31

 

 

(3)現存、消滅藻場分布図

 

目次へ