32. 福岡県

 

(1) 分布及び消滅状況の概要
 現存藻場
 福島県の海岸線は、北東側は周防灘、北西側は玄界灘・響灘・南西側は有明海に面している。南東側は英彦山・犬が岳山地などで大分県と、南南西側は背振山地で佐賀県と接しているため海はない。
 玄界灘・響灘に接する海岸線は古く筑前八松原と呼んだように白砂青松の景観を呈する部分が多く、このような砂地や砂泥地には部分的に小規模なアマモ場がみられ、また、潜水調査によればところによりホソエガサが点在するのみである。この辺りの海岸線にはところどころに中生界や新生界の堆積岩やカコウ岩・玄武岩などの露頭がみられ、ガラモ場やアラメ場の分布はそれと一致する。この一帯は海域コードでは801.響灘、802.博多湾、803.唐津伊万里となっている。ここは前述のようにアラメ場やガラモ場の分布域であるが、その違いは波浪の荒いところが前者となる傾向があるように思われる。
 また、その構成種で注目できる点の一つは、ガラモ場にEusargassumに属するホンダワラ類が生えていないことであろう。ただし、初夏の流れ藻の中にはこのホンダワラ類が含まれ、これらは対馬暖流によって、より南方の海域から運ばれて来たものであると思われる。アラメ場にみられるクロメ、ツルアラメも本県では普通種であるが、本県におけるツルアラメの分布は北九州市一帯である。すなわち、博多湾以西には分布せず、北部九州の西の方にその分布の西限があるらしい。クロメもアラメ、カジメとの識別に難しい点があるが、他県や他国のデータと比較できれば、日本海で進化した種の例として生物地理学的に興味ある結果が得られる可能性が大きい。
 瀬戸内海の両端に当たる周防灘側は、中津平野が直接海に接するため干潟が多く、アオサ・オゴノリを主とするアオサ・アオノリ場となっており、縮小傾向にあるがアサクサノリの養殖も行われている。
 有明海に面する部分は筑紫平野(佐賀平野)が直接海にはいる形になっており、潮差の大きなシルト質の広大な干潟には、ところどころにオゴノリがみられろくらいで海藻類は少ない。ここは冬になると一面の海苔養殖場になる。
 温帯中部に位置する福岡県の海には対馬暖流の影響を受ける部分もあるがサンゴ礁はなく、ガラモ場もアラメ場となる地域の基盤岩上に紅藻類の無節サンゴモ(Melobesioideae)がみられるのみである。
 
 消滅藻場
 前回の調査結果と今回の結果を比較しても、ほとんど違いはないようである。本県の磯やその延長となる海底に、特に大きな人為的変化が与えられていないためであろう。北部九州沿岸に点在する島の漁港の中には、その後増改築工事を加えたところも少しはあるが、面積が小さいため無視できる程度である。


 

現存・消滅藻場総括表

 

海 域 名

現 存 藻 場 消 滅 藻 場
調査区数 面 積(ha) 調査区数 面 積(ha)
周 防 灘 西  4  176 0 0
響   灘 36 3,552 0 0
博 多 湾  9  857 1 2
唐津伊万里 15  651 0 O
         
合   計 64 5,236 1 2


<調査実施方法>

 既存資料調査
 前回の調査より10年余り経過しているが、福岡県の海岸線は藻場の発達する磯はほとんどその後の変化を受けていないので、1978年の「干潟・藻場・サンゴ礁調査報告書」をまず基礎資料とした。ただし、それ以後も県や沿岸漁業振興会が北部九州沿岸のガラモ場・アラメ場の潜水調査を行っており、また、筆者等も自然保護を目的とした基礎調査を続けているので、それらの新しい資料を加えて検討を加えた。
 ヒアリング調査
 福岡県水産試験場や一部の漁協に現況を聞いたが、それらの多くは現地調査のついでに行った程度である。
現地確認調査
 福岡県の自然を守る会で、また、個人で1980年以後にも、勉めて大潮の干潮時におもに北部九州の磯や島を歩いて、フィールドノートをつくり、また、同定の難しい海藻や興味あるものについては材料を持ち帰り、標本作製を行っている。
 筆者の所属する福岡県高等学校生物部会が「福岡県植物誌(1975)」を発刊する際に、本件の海藻相を安定的にではあるがチェックしているため、それらも既存資料であると同時に現地調査を兼ねたことになっていると思う。

 

 

(2)現存、消滅藻場一覧表

現存・消滅藻場一覧表

 

調査区
番 号
地図
番号
海 域 名 市町村名 地     名 タイプ
番 号
面 積(ha)
現存藻場 消滅藻場
1 3 周防灘西 吉 富 町 吉   富 7 108  
2 3 豊 前 市 三 毛 門 7 20  
3 3 宇   島 7 47  
4 1 北九州市 柄 杓 田 7 1  
5 5 響 灘 藍   島 2 27  
6 5 2 34  
7 5 4 148  
8 6 吉 敷 岩 2 28  
9 6 馬   島 4 52  
10 6 和 合 良 島 4 4  
11 6 白   州 14 198  
12 12 白   島 2 413  
13 12 若   松 4 1097  
14 12 2 4  
15 12 芦 屋 町 柏   原 4 5  
16 12 4 7  
17 12 北九州市
芦 屋 町
4 190  
18 12 芦 屋 町 4 10  
19 12 岡 垣 町 波 津 白 瀬 4 68  
20 12 波   津 4 106  
21 12 玄 海 町 鐘   崎 2 1  
22 12 2 7  
23 12・18 地   島 4 381  
24 18 大 島 村 オ ノ マ 瀬 4 48  
25 18 玄 海 町 一 ノ 瀬 4 11  
26 18 中 ノ 瀬 4 8  
27 18 タツノカミ 4 5  
28 18 勝   島 4 63  
29 18 大 バ エ 4 5  
30 18 草 崎 町 2 15  
31 18 大 島 村 大   島 4 250  
32 18 2 6  
33 18 2 123  
34 19 津屋崎町 津 屋 崎 2 32  

 

調査区
番 号
地図
番号
海 域 名 市町村名 地     名 タイプ
番 号
面 積(ha)
現存藻場 消滅藻場
35 19 響 灘 津屋崎町 津 屋 崎 2 3  
36 19 2 70  
37 19 新 宮 町
福 岡 市
磯 崎 鼻 2 43  
38 19 新 宮 町 鼻 栗 瀬 2 10  
39 19 相   島 4 59  
40 20 福 岡 市 シ オ ヤ 瀬 2 21  
41 19 博多湾 志 賀 島 4 531  
42 25 玄 海 島 4 113 2
43 25 大 机 島 4 30  
44 20 能 古 島 2 20  
45 20 今   津 2 45  
46 26 西 浦 崎 4 100  
47 26 長 崎 鼻 2 7  
48 26 志 摩 町 二 見 ケ 浦 2 7  
49 26 金   山 2 4  
50 25 店津・伊 福 岡 市 小 呂 島 4 126  
51 26 志 摩 町 野   北 4 99  
52 26 コ ブ 島 2 20  
53 26 芥 屋 大 門 4 59  
54 26 仏   崎 4 53  
55 26 ノ ウ 瀬 2 16  
56 26 姫   島 4 143  
57 26 鷺   首 2 15  
58 26 寺山・立石崎 2 2  
59 26 二 丈 町 深   江 6 8  
60 26 大   入 2 15  
61 26 磯   崎 2 26  
62 26 羽   島 2 35  
63 27 串   崎 2 12  
64 27 鹿   家 2 22  
               
               
               
          5236 2

 

 

(3)現存、消滅藻場分布図

 

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