15. 福井県

 

(1) 分布及び消滅状況の概要
 現存藻場
 福井県沿岸は日本海特有の潮汐によって潮位差は小さく、太平洋沿岸のような広範な潮間帯が存在しない。このため、1日に2回干出しないと生育できないような海藻に乏しく、これまでの福井水試による県内全域の植生調査から、およそ200種類程度が同定されたにすぎない。本県の沿岸は海岸線の形状から、日本海の荒波を直接受ける嶺北地方とリアス式海岸として知られる嶺南地方とに大別され、藻場の分布はそれぞれ水深15mに及ぶ。 
 嶺北地方の沿岸はその大部分が岩礁・転石域を成し、一部に砂質域もみられるが砂質域に藻場は形成されていない。岩礁・転石域にはホンダワラ類によって構成されるガラモ場が発達しているが、岩礁・転石域の沖出しは100〜200mと嶺南地方より短く、その境界は砂質底と接している。このために、岩面上は砂の影響を受け易く、エビアマモの小群落がモザイク状に混在する海域もみられる。また、場所によってはクロメのパッチ状群落も存在するが、クロメはホンダワラ類と混生しているのが通常である。ホンダワラ類としてはヤツマタモクが圧倒的に優位を占め、他にアカモク、マメタワラ、イソモク、ヨレモク、オオバモク等が多い。これらのホンダワラ類の根元には、ピリヒバ、ヘリトリカニノテ等の有節石灰藻が適度に繁茂し、ワカメの越夏・着生基質を提供している。有節石灰藻の群落にはマクサ(テングサ)の群落も混在する。ホンダワラ類の体表はモヅクの着生基質となり、ホンダワラ類や有節石灰礫がほとんど着生しない滑らかな岩面はイシモヅクの着生基質となっている。平均水面付近には、トチャカ、ツノマタ、 マツノリ、オキツノリ等が多く、自家消費的に利用されるカヤモノリ、ハバノリ、ウミゾウメン等も生育するが、これらは多量には産しない。飛沫帯の岩面には、岩ノリと呼ばれるアマノリ類が着生し、その採取風景は冬期の風物詩として知られる。
 一方、嶺南地方は敦賀湾、八代湾、小浜湾、高浜湾、内浦湾等の若狭湾の支湾に富み、海岸線の凸部は岩礁・転石域、凹部は砂泥域となっている。岩礁・転石域は幅200〜400mに及び、ガラモ場がよく発達している。嶺北地方に比べて、波浪の影響がやや小さいため、ホンダワラ類の藻長は大きい。ホンダワラ類としてはヤツマタモクが最優占し、アカモク、マメタワラ、ノコギリモク、ジョロモク、ウミトラノオ等も多い。これらの根元には有節石灰藻が生育し、ワカメの着生基質を形成している。ホンダワラ類の体表はモヅクばかりでなく、自家消費的に粗製寒天の原料とされるエゴノリ、アミクサ、イギスの着生基質ともなっている。クロメの優占群落は僅にみられ、ホンダワラ類と混生しているが、マクサ、イシモヅク、アマノリ類と同様に、嶺北地方より少ない。平均水面付近の小型紅藻類も多くない。砂泥域では、海水の交換が比較的良好な海域にアマモの群落が形成され、ウミヒルモが混生ずる区域もみられるが、ガラモ場に比べるとアマモ場の面積は狭い。カサノリの狭少な群落が発見されたという報告もある。汀線付近の小石や護岸にはアオノリ類やアナアオサが繁茂し、オゴノリやフノリ類も若干生育する。
 しかしながら、本県においても自然海岸の人為的な消失は著しく、藻場の保全と回復 が今後の大きな課題となっている。
 
 消滅藻場
 本県では1978〜1990年の12年間で59haのアマモ場およびガラモ場が消滅した。藻場消滅の全ての原因は埋め立て等の直接の改変によるものであった。これらの消滅藻場で最も広範囲なものは大飯町小堀地先の総合利用施設用地として埋め立てられた24ha である。次いで、原子力・火力発電施設用地の5件25ha1マリーナ施設の1件5ha、漁港施設2件3ha、道路改修2件2haである。消滅藻場はリアス式海岸の多い西部海域に多く見られた。1978年に実施した第2回の自然環境保全基礎調査と今回の調査結果を比較すると、消滅藻場の面積は1978年の4.5倍に拡大していることがわかる。なお、調査区1の米ケ脇〜安島地先についてはエビアマモの繁茂域が拡大し、ガラモ藻場が減 少している傾向にある。これは漂砂の影響によるものと考えられるので今後の動向に注意する必要がある。 

        

現存・消滅藻場総括表

 

海 域 名

現 存 藻 場 消 滅 藻 場
調査区数 面 積(ha) 調査区数 面 積(ha)
若 狭 湾 17 1,781 11 59
         
合   計 17 1,781 11 59

 

<調査実施方法>

 各調査区における調査方法を下表に示した。各調査区とも基本的には県の実施した沿岸漁場開発調査報告書(1978〜1987)および第2回自然環境保全基礎調査報告書(1978)を参考にした。なお、埋め立て等の直接改変については関係市町村に出向き、ヒヤリング調査を実施すると共に、施行図面等参考書類の収集に努めた。また、これらの調査区では可能な限り現地確認調査を実施した。 

 

各調査区の調査実施方法

調査区 現存藻場 消滅藻場 既存資料 ヒヤリング 現地確認
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(2)現存、消滅藻場一覧表

現存・消滅藻場一覧表

 

調査区
番 号
地図
番号
海 域 名 市 町 村 名 地    名 タイプ
番 号
面 積(ha)
現存藻場 消滅藻場
1 12 若 狭 湾 三  国  町 梶 〜米ヶ崎 1・2・4・8 149  
2 13 福  井  市 和 布〜白 浜 1・2・4・8 89  
3 13 福井市・越廼村 白 浜〜蒲 生 2・4・8 71  
4 13 越  廼  村 茱    崎 2・4・8   1
5 13・18 越廼村・越前町 蒲 生〜米 ノ 2・4・8 218  
6 18 越  前  町 玉 川〜米 ノ 2・4・8   1
7 14・18 越前町・河野村 米ノ〜甲楽城 2・8 64  
8 15 河野村・敦賀市 甲楽城〜大比田 2・8 57  
9 15 敦  賀  市 大比田〜鞠山 1・2・8 24  
10 15 鞠    山 1・2・8   9
11 15・16 鞠山〜色ケ浜 1・2・8 24  
12 15 色ケ浜〜立石 1・2・8 51  
13 19 敦賀市・美浜町 立 石〜松 淵 2・8 81  
14 19 敦  賀  市 白    木 2・8   8
15 20 美  浜  町 松 淵〜和 田 2・8 63  
16 20 久々子〜日向 2・8 86  
17 20 美浜町・三方町 日向〜獅子崎 2・8 198  
18 20 小  浜  市 獅子崎〜甲ヶ崎 1・2・5・8 196  
19 20 志    積 2・5・8   1
20 20・22・23 甲ヶ崎〜鯉川 1・2・8 40  
21 22・23 小浜市・大飯町・高浜市 長 井〜和 田 1・2・5・8 236  
22 23 大  飯  町 小    堀 1・2・8   24
23 22 鋸    崎 2・5・8   2
24 22 2・5・8   1
25 23 高  浜  町 和    田 2・5・8   5
26 22・23・24 和田〜正面崎 2・5・8 134  
27 22 田  ノ  浦 2・5・8   5
28 22 内  浦  港 2・5・8   2
               
          1,781 59

 

 

(3)現存、消滅藻場分布図

 

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