7.干葉県
(1)分布及び消滅状況の概要
1現存干潟
千葉県で認められた幅100m以上の残存干潟の総面積は1,686haで、房総は8箇所で97ha、東京湾が16箇所で1,589haであった。 冨津以北の東京湾内の干潟が全体の94%を占めた。
房総は外海に面する小規模干潟が多く、タイプは流入河川の河口、潟湖干潟で前浜タイプは九十九里浜の中央部の浜宿海岸のみであった。九十九里浜より南の南房海岸では夷隅川河口の潟湖干潟のみで、平砂浦など広大な砂浜が存在するが匂配が急なため、100mを越える干潟は発達しなかった。 しかし、房総では干潟の幅100mの制限を解除すると、干潟総面積は数十倍に増大するであろう。
東京湾では、通称番洲の鼻に広大な干潟が残存しており、牛込高須から木更津港北まで一連の1,243haがその規模と生物相の多様さで、代表的な干潟と言える。 これに次いで、冨津岬北側の154haが面積が大きかった。
湾奥部では谷津干潟と、広大な浅瀬である三番州に面した船橋地先の2箇所の干潟以外は人工海浜であった。 船橋海浜公園地先の干潟は高潮部は造成されたものであり、生物相は貧弱であったが、中潮帯以沖は自然の干潟で、かつての東京湾奥部の生物相の様相をわずか残していた。 湾奥にある4箇所の人工海浜は面積7〜18haの小規模なものであり、生物相も貧弱であった。特に、高潮線上部の生物分布帯を欠いていた。
【生物相の概況】
房総海岸は直接外洋と面するため、東京湾とくらべると干潟が少ない。 しかしながら、九十九里浜のように匂配の少ない砂浜では、干出延長が100mを越える干潟が露出することが明らかにされた。 その代表的なものとして今回調査対象地となった浜宿海岸があげられる。 高潮線上部には、ハマヒルガオ、ケカモノハシなどの典型的な砂浜植生が広がり、かつ、春秋にはシギ・チドリなどの渡り鳥が飛来し、これを支える餌生物も、内湾干潟ほど豊富ではないが、充分にあり、渡鳥の渡来地として今後注目する必要があると考えられる。 とくに、内湾干潟には渡来しないミユビシギが越冬、生息していることが確認された。
房総で特記すべき干潟としては、浜宿海岸に加えて、一宮川河口干潟があげられる。 内湾にくらべ小規模な干潟であるにもかかわらず、シギ・チドリの飛来数、種類数はかなり多く、餌生物も豊富である。 干潟は外洋海水に周期的におおわれ、汚染の進行が抑えれる環境にあるので、長期的に見ても安定した干潟として存続する可能性がある。一宮川河口干潟以外の外房河川は、夷隅川をのぞくと海岸に直走するように改変されており、干潟の発達はみられなかった。
外房海岸は現在のところ大規模な開発計画はなく、局所的に、防災状の観点から護岸工事、浚渫工事がおこなわれているが、干潟環境に直接壊滅的な影響を与える改変は認められなかった。 九十九里浜への流入河川では河口部での砂の堆積傾向が顕著で干潟面積は漸増の傾向がみられる。
東京湾では、日本有数の干潟である畔戸地先干潟(小櫃川河口)が前回の調査と同様に規模、生物相を維持していた。 認められた生物相の変化は自然の経年変動の範囲内と考えられた。 より湾口寄りに位置する冨津干潟はイボキサゴが一部で生息し、より良好な環境にあることが判明した。 湾奥部では前回とくらべ大きな変化が見られ、とくに人工海浜の増加がめだった。 いなげの浜に加え、けみがわの浜、まくはりの浜、習志野人工海浜(仮称)が増設された。 人工海浜では共通して底生生物相が回復しているとは認められなかった。
谷津干潟は前回より海水の流動の促進による泥質の傾向が緩和されており、これに対応して砂質性の生物が出現している。 また、ゴカイを中心とした底生生物も豊富で、渡り鳥、とくに、シギ・チドリの渡来地としての充分な機能の維持が確認された。 湾岸道路で分断された南側には、あらたに砂泥質の小規模干潟が形成され、シキ・チドリの定着が認められた。
今回、調査対象地に選定した船橋海浜公園の地先にある干潟は、前面に三番瀬浅瀬を有し、小規模ながらも湾奥干潟の典型的な生物相を保有していた。 現在、アサリ種苗の放流と、潮干狩場として利用されているが、シギ・チドリの飛来も認められた。 前面水域の三番瀬は大規模な埋め立て工事(市川2期工事)が計画されており、東京湾奥部の生物自然への多大な影響が懸念されるところである。
2消滅干潟
房総では一宮川河口干潟、夷隅川河口干潟の2カ所で防災対策または漁場整備のための工事がおこなわれており、一部現存干潟の消滅がみられたが、その消滅規模は1ha未満であり、検討対象としなかった。
東京湾では谷津干潟の一部が湾岸道路の建設のため埋め立てされたが、現地調査では確認できなかったので除外した。
現存干潟・消滅干潟総括表
海 域 名 |
現存干潟 |
消滅干潟 |
||
調査区数 |
面積(ha) |
調査区数 |
面積(ha) |
|
房 総 |
8 |
97 |
0 |
0 |
東京湾 |
16 |
1,589 |
0 |
0 |
|
|
|
|
|
合 計 |
24 |
1,686 |
0 |
0 |
<調査実施方法〉
干潟面積の算出には国土地理院の25,000分の1地形図を中心に用い、現地調査結果と一致しない場合は現地調査結果を採用した。 この場合、航空写真で裏付けを行った。
・現地確認調査
今回の調査は現地確認調査を中心に行った。 国土地理院の地形図は、干潟面積の算出については、現地調査の結果と合致しない例があったからである。 現地調査は1回の予備調査に続いて、本調査さらに確認と補足のための追加調査を行った。
(2)現存、消滅干潟一覧表
現存・消滅干潟一覧表
調査区 |
地図 |
海域名 |
市町村名 |
地 名 |
タイプ |
面 積(ha) |
|
現存干潟 |
消滅干潟 |
||||||
1 |
4 |
房 総 |
横 芝 町 |
栗山川河口 |
2 |
5 |
|
2 |
7 |
〃 |
九十九里町 |
作田川河口 |
2 |
5 |
|
3 |
7 |
〃 |
〃 |
片貝海岸 |
1 |
10 |
|
4 |
8 |
〃 |
〃 |
真亀川河口 |
2 |
10 |
|
5 |
8 |
〃 |
〃 |
浜宿海岸 |
1 |
50 |
|
6 |
8 |
〃 |
大網白里町 |
南白亀川河口 |
2 |
6 |
|
7 |
8 |
〃 |
長 生 村 |
一宮川河口 |
2・3 |
8 |
|
8 |
9 |
〃 |
岬 町 |
夷隈川河口 |
3 |
3 |
|
9 |
12 |
東京湾 |
習志野市 |
谷 津 |
1・4 |
50 |
|
10 |
13 |
〃 |
市 原 市 |
養老川河口 |
2 |
6 |
|
11 |
13 |
〃 |
千 葉 市 |
いなげの浜 |
4 |
12 |
|
12 |
13 |
〃 |
〃 |
検見川の浜 |
4 |
7 |
|
13 |
13 |
〃 |
〃 |
幕張の浜 |
4 |
18 |
|
14 |
13 |
〃 |
〃 |
豊砂地先海浜 |
4 |
9 |
|
15 |
19 |
〃 |
船 橋 市 |
船橋海浜公園 |
1 |
22 |
|
16 |
20 |
〃 |
〃 |
千葉港地先 |
1 |
16 |
|
17 |
19 |
〃 |
市 川 市 |
江戸川河口 |
2 |
45 |
|
18 |
21 |
〃 |
木更津市 |
牛込高須 |
1 |
208 |
|
19 |
21 |
〃 |
〃 |
中島高須 |
1 |
291 |
|
20 |
21 |
〃 |
〃 |
畔戸地先 |
1 |
384 |
|
21 |
21 |
〃 |
〃 |
木更津港北 |
1 |
360 |
|
22 |
21 |
〃 |
〃 |
木更津港内 |
1 |
7 |
|
23 |
22 |
〃 |
富 津 市 |
富津港北 |
1 |
39 |
|
24 |
22 |
〃 |
〃 |
富津公園 |
1 |
115 |
|
計 |
|
|
|
|
|
1,686 |
|
前回調査区との対照表
(干潟分布・改変状況調査)
今 回 調 査 区 |
区分の変更 |
前回調査区 |
備考 |
||||
現存干潟 |
消滅干潟 |
||||||
番号 |
面積(ha) |
番号 |
面積(ha) |
番号 |
面積(ha) |
||
|
|
|
|
対象から除外 |
1 |
85 |
干出幅<100m |
1 |
5 |
|
|
変更なし |
2 |
5 |
|
2 |
5 |
|
|
分割 |
3 |
100 |
|
3 |
10 |
|
|
|
|
|
|
4 |
10 |
|
|
|
|
|
|
5 |
50 |
|
|
|
|
|
|
6 |
6 |
|
|
変更なし |
4 |
6 |
|
|
|
|
|
対象から除外 |
5 |
25 |
干出幅<100m |
7 |
8 |
|
|
変更なし |
6 |
8 |
|
|
|
|
|
対象から除外 |
7 |
33 |
干出幅<100m |
8 |
3 |
|
|
変更なし |
8 |
3 |
|
9 |
50 |
|
|
変更なし |
9 |
50 |
|
10 |
6 |
|
|
変更なし |
14 |
6 |
|
11 |
12 |
|
|
変更なし |
21 |
12 |
|
12 |
7 |
|
|
新規人工海浜 |
|
|
|
13 |
18 |
|
|
新規人工海浜 |
|
|
|
14 |
9 |
|
|
新規人工海浜 |
|
|
|
15 |
22 |
|
|
新規 |
|
|
前回確認できず |
16 |
16 |
|
|
変更なし |
34 |
3 |
地名変更あり |
17 |
45 |
|
|
変更なし |
39 |
45 |
地名変更あり |
|
|
|
|
対象から除外 |
40 |
53 |
干出幅<100m |
18 |
208 |
|
|
変更なし |
52 |
140 |
|
19 |
291 |
|
|
変更なし |
54 |
135 |
|
20 |
384 |
|
|
変更なし |
57 |
263 |
|
21 |
360 |
|
|
変更なし |
59 |
230 |
|
22 |
7 |
|
|
変更なし |
60 |
7 |
|
23 |
39 |
|
|
変更なし |
72 |
40 |
|
24 |
115 |
|
|
変更なし |
73 |
134 |
|
(3)現存、消滅干潟分布図
千葉県 干 潟 分 布 図
|
千 葉−2 |
千 葉−2 |
千 葉−3 |
千 葉−4 |