3 日本産チョウ類の分布圏の拡大

 近年日本で暖地性(南方系)のチョウの北方(東方)への分布拡大が顕著に進行している。それはかなり長期にわたる暖冬の継続がその原因と考えられる。暖地性のチョウの北方への拡散を阻止している最大の要因は、冬期の寒冷であることに疑はないからである。ナガサキアゲハ、ヤクシマルリシジミ、ツマグロヒョウモン、タテハモドキ、イシガケチョウ、クロコノマチョウなどはその例である。前回(第3回)と今回(第4回)作成された分布図に明瞭にその違いが読みとれる次の2種について簡単な説明を加えておく。

(1)ナガサキアゲハ

日本におけるナガサキアゲハの北進(東進)の経過の概要については前回の報告書(第3回自然環境保全基礎調査動植物分布調査報告書昆虫(チョウ類):322-324,1988)に記述したところであるが、その後さらに東方に分布を拡げ、兵庫県下、三重県南部では比較的普種、分布図には示されていないが京都府下各地でもしばしば見受けられるようになった。滋賀県、愛知県でも先駆的な個体が発見されているが、現在の資料では迷チョウとすべきもの。

(2)クロコノマチョウ

今回の分布図は前回(第3回)の分布図に比べてみると東方への分布の拡大が著しく、神奈川県、千葉県への進出の様子が明瞭に読みとれる。分布図には示されていないが、神奈川県下では幼虫の発生、千葉県南部では幼虫の発生はもちろん、成虫越冬(すなわち土着)も確認されている。先駆的な個体は分布図には示されていないが、東京都、埼玉県、群馬県で見つかっている。

一方、寒地性(北方系)のチョウではウスバアゲハ(ウスバシロチョウ)で、分布圏の拡大が各地で起っているが、全国的なマクロの分布図ではその情況は読みとり難い。これは気象条件とは無関係の荒蕪地の増加によるというのが通説である。

 

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