V.考察

 

1 総論

 第4回自然環境保全基礎調査、動植物分布調査報告書の昆虫(チョウ)類の部がまとまってようやく出版される運びとなった。この調査は全国のチョウ研究家有志の無償のボランティアとしての協力によるもので、この部門の世話人として深く感謝の意を表したい。とくに一部の地域ではきわめて綿密な調査結果が提出されて精度の高い分布図の作成が可能になった。調査員の方々にはとくに御礼を申し上げたい。

 分布図に第3回(前回)および第4回(今回)調査データを併せて図示することによって各種分布図の精度は格段に向上した。そのため前回において"やや情報不足"と表示した大部分の種は、今回は一段上のランクの"分布パターンを表している"のクラスに昇格させることができた。

 しかし、依然空白域が残っている分布図が見られる。これは、調査員あるいは調査地の遍在によっておこった記録の空白を示している。今後このような空白域を生じさせないために、調査を行う側がどういう処置をとるべきかを考える必要がある。ある程度、調査員各自の分担地域を定めるのも有効かもしれない。あるいは各都道府県毎に調査員の責任者を指名して、大きな空白のでないように調整を行うことも一方法であろう。しかし、それよりさらに有効かと思われるのは調査期間の延長である。チョウの中には早春のみ、あるいは晩夏のみに出現というように短期間に発生を終わるものも少なくなく、2年あるいは3年にわたる調査が望ましい。今回は、第3回調査結果をもとに空白域を埋めるような調査が実施されたが、今後は調査期間中においても1年目に得られた成果にもとづく分布図を各調査員に配布して、それをもとに次年度の計画を立てれば空白域を埋める調査が行われ、さらに完全に近い分布図が得られるはずである。

 今回の調査でアカシジミ(Japonica lutea)として表示したものには極めて類似の2種が含まれている。すなわちアカシジミJ.luteaそのものと、別種のカシワアカシジミ(キタアカシジミ)J.onoiである。従来のアカシジミに2種が混同されていることが判明したのは最近のことで、第4回の調査開始時には未だこのことが明確でなかったので、この区別は行っていない。従って今回のアカシジミの分布図には上記2種が含まれていると判断して頂きたい。次回の調査からは上記2種は分離すべきものである。

 また、カラスアゲハPapilio bianorとは別種とされることの多い沖縄本島特産のオキナワカラスアゲハPapilio okinawensis Fruhstorfer(カラスアゲハの地理的亜種と考える場合の学名はP.bianor okinawensis Fruhstorferとなる)は、この調査では便宜的にカラスアゲハの分布図に含まれているので御了承を頂きたい。

 なお、小数例ではあるが一部にかなり古い記録(現在ではすでに消滅していると考えれる地域)が含まれていることもご了承頂きたい。

 

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