V.考察

 

1.陸産貝類

 

(1)はじめに

前回の陸産貝類の調査対象種は、調査開始時にはキセルガイモドキ科、キセルガイ科、ニッポンマイマイ(ナンバンマイマイ)科、オナジマイマイ科の4科で総計324種・亜種であったが、途中で「陸産貝類の全種を対象」に変更されたために、4科以外は情報が極めて少なかった。しかし、今回は当初からの「全種が対象」とされたために、4科の情報がさらに増加したほかに多くの科で多数の情報が寄せられた。前回に情報不足として指摘した北海道をはじめとする各県でも、情報量が増えた。種毎の情報メッシュ数ではニッポンマイマイが初めて2000件を突破して、2094件の情報が得られたほか、オオケマイマイ(l391件)、コベソマイマイ(1444件)、ウスカワマイマイ(1320件)、ヤマタニシ(l242件)が続いた。

わが国の陸産貝類は、一部には外国との共通種(移入種を含む)があるものの、大半の種・亜種は日本固有種・亜種である。またそれぞれの地域において、種分化していることが多く、分布域の狭い種が多いことも特徴である。分布域の狭い、例えば「島嶼産」や「石灰岩地産」などはほぼ分布情報が把握できた。また分布域が広くて、しかも種内変異のみられる種についての分布情報は検討の余地があるものの、今回の調査である程度の分布の現状の把握ができたと考える。

 

(2)分布図についての考察

 1)ゴマオカタニシ科

微小な陸貝で、4種の分布情報が寄せられた。

○フクダゴマオカタニシとリュウキュウゴマオカタニシは奄美大島から与那国島まで記録があるが、今回得られた情報は前者が沖縄島のみ、後者が沖永良部島〜与那国島までであった。

○ゴマオカタニシは関東から九州、琉球列島まで広く分布情報があった。

○ベニゴマオカタニシは石灰岩地の固有種で、岐阜、静岡両県以西の本州、四国、九州(大分県)の10県から記録があった。

 2)ヤマキサゴ科

本科の対象種は13種であるが、主な種の分布情報を取り上げる。

○オガサワラヤマキサゴなど6種は小笠原諸島の固有種で分布情報はほぼ把握できた。

○オオスミヤマキサゴは鹿児島県本土での他に、今回は宮崎県南部からの情報があった。

○ハコダテヤマキサゴは北海道全域に分布すると思われるが、道東、道北からの情報が少なかった。しかし礼文島(利尻島)や稚内などから記録されたり、さらに、佐渡、下北半島、秋田県南部でも確認されたが、東北地域での分布情報を今後期待するところである。

○ヤマキサゴは青森県から九州まで広く分布し、558件の情報が寄せられた。

九州では情報が少なく、熊本県中部〜宮崎県北部以北までの分布と考えられる。

 3)ヤマタニシ科

24種を含む本科で分布域の狭い種の情報はほぼ状況が把握できるが、ここでは広域分布をする種を中心に述べる。

○ヤマタニシは最も普通な本科の陸貝で、栃木県、茨城県以南の本州、四国、九州(対馬、屋久島、種子島等を含む)に広く分布し、1242件の情報があったが、可能性のある長野県南部からは今回は情報がなかった。

○岐阜県以西の本州、四国、九州から多数の情報(605件)が得られたアツブタガイは、群馬県内にも分布地があるものの、岐阜県までは情報がない。分布していないのか、情報が少ないのか、今後の調査課題である。

○サドヤマトガイは佐渡の名を冠しているが、むしろ関東以西の本州、四国、九州まで、173件の情報があった。他のヤマトガイ類の分布確認は少ない。

 4)ヤマグルマガイ科

○ヤマクルマガイは近畿以西の本州、四国、九州に分布し、758件の情報が寄せられたが、山陰地方は情報が不足している。

○ヒメヤマグルマガイは屋久島、種子島に分布する。

 5)アズキガイ科

○アズキガイは長野県南部、伊豆半島(今回が初めて)に局地的に分布していることが知られているが、多くは近畿以西から四国、九州(屋久島を含む)まで広く分布する(情報量:276件)ものの、産地は限られるようである。他の3種は屋久島、種子島と奄美諸島に棲み、これらの分布図は実状を示している。

 6)ムシオイガイ科

25種の分布記録が寄せられたが、主要な種でかつ広域分布をする種を取り上げる。以下の3種のほかは、狭い分布を示すためのほぼ分布情報が表されている。

○ハリマムシオイは本州の下北半島から九州中部まで点々と情報が集まったが、種の同定に疑惑のあることが予測されるので、分布情報としての利用の際には注意をする必要がある。

○ムシオイガイは関東を中心にして、静岡、長野両県などに分布し、福井県下におよぶが、分布情報は今後まだ増える見込みである。

○ピルスブリムシオイは本科の中で最多の130件の情報があった。

 7)ゴマガイ科

48種が本科に所属する。その大半の種は分布域の狭い種であるため、分布傾向がほぼ把握できる。

○ゴマガイは本州と四国の全域から情報が寄せられた。

○コベルトゴマガイは四国からの記録が多く、近畿地方を中心とする地域からは少なかった。

○イブキゴマガイは名前のごとく「伊吹山」に多産するが、分布はそれより以東の中部地方や東北南部にも分布し、分布域は広い。本種は本科の中では大形で、殻口縁の背部が二重になる。

○キュウシュウゴマガイは九州(屋久島を含む)、四国、山口県から情報が寄せられた。

○ゴマガイ(ウゼンゴマガイ)の情報は種の同定作業で問題がありそうなので、この分布図の正確さが危惧される。

○ヒダリマキゴマガイは、本州(青森県〜山口県)、四国、九州まで広く分布し、本科では最多の1058件の情報が寄せられた。この種と対比できるオジマヒダリマキゴマガイは北海道のみに棲息する。

 8)クビキレガイ科

○クビキレガイは小笠原諸島、鹿児島県、沖縄県の海浜に分布する。

○ヤマトクビキレガイは神奈川県以西の海岸沿いに点々と知られるが、今回、北海道、青森県からも情報が得られた。詳しく調査をすれば分布図はかなり充実すると思われる。

 9)イツマデガイ科

本科の対象種は11種あるが、主な種のみ記す。

○ヤママメタニシは秋田から島根県東部に至り、主として日本海沿いに点々と分布し、「日本海要素型分布」をする陸貝であるが、湊(1980c)の報告とほぼ同じ分布情報であった。

○クビキレガイモドキは北海道、陸奥湾、七尾湾などに局地的に分布するが、北海道から5カ所報告された。

○ニクイロシブキツボは渓流の飛沫のかかる植物に付着するなど、生態的にも特異な半水棲の貝で、秋田県から福井県までの日本海沿いに情報が寄せられたが、京都府北部にも分布するので、今後はもっと情報が増えると思う(湊、1974、1987)。

○シモキタシブキツボは下北半島の固有種だが、比較的多くの報告があった。

 10)オカミミガイ科

本科は海浜性陸貝で、対象種は20種である。鹿児島、沖縄両県に多く種が分布するが、内湾性環境に棲息していることが比較的多いので、環境の変化(埋立など)で棲息場所が狭められることがある。そのため、棲息の好環境を守る必要がある。

○ハマシイノミガイは本科の中で最も多くの情報があったが、神奈川県以南で点々と知られた(情報量:35件)。

○シイノミミミガイは、ハマシイノミガイに次ぐ情報量があった。しかし情報不足の感がある。

○オカミミガイが大陸系の遣存的な種と考えるが、長崎県の大村湾、有明海からの情報があったが、山口県、三重県、愛知県(三河湾)からの記録は貴重である。

 ll)ケシガイ科

極めて微小な陸貝であるが、ナガケシガイ(鹿児島県、沖縄県)以外の3種は北海道から九州まで広く分布する。

 12)アシヒダナメクジ科

○アシヒダナメクジは熱帯に分布する種で、近年沖縄方面で繁殖していることが知られた移入種である。今回、沖永良部島から与那国島まで記録があったが、徳之島でも1968年12月にすでに目撃している(湊、未発表)。

 13)オカモノアラガイ科

本科の貝は種は多くはないが、広い分布域を示す種群と狭い分布域を示す種群がある。

○ヒメオカモノアラガイ、ナガオカモノアラガイ、オカモノアラガイの3種は広く分布する種である。前2種は本州から九州までが分布域であるのに対し、後種は北海道から近畿以北までが分布範囲で、北海道からは比較的多くの情報(145件)が寄せられた。

○狭い分布を示す例として、小笠原諸島の2種(オガサワラオカモノアラガイなど)がいる。

 14)ノミガイ科

本科の陸貝は微小種が多く、熱帯方面で多くの種が報告されているが、海浜性植物群落の繋る環境の所に見つかる。

○ノミガイは伊豆半島以南の太平洋に点々と分布し、さらに八重山諸島までひろがっている。

 15)ヤマボタルガイ科

○北方系の陸貝であるが、北海道〜中部地方に分布する。北海道道南で多くの情報があったが、道東、道北からは少なかった。これは未調査地域が多いためと思われる。伊豆諸島八丈島に分布することは分布上注目すべきである。

 16)キバサナギガイ科

微小な種が多く、12種が所属する。以下に示す以外の種は分布域の狭い種のため、分布範囲がほぼ把握できた。

○クチマガリスナガイは関東南部〜九州までの石灰岩地にのみ分布し、寄せられた情報によって分布図はほぼ正確であると判断する(情報量:151と本科の中で最多である)。

○ナガナタネガイは北海道からの情報が多かったが、本州では中部から近畿、四国にかけての高い山地の5〜6箇所で記録がある。

○スナガイは今回、北海道松前小島から記録されたが、東北からの記録はまったくなく、東海、近畿、四国、九州、沖縄までに報告がある。

○ナタネキバサナギガイ、キバサナギガイ、ヤマトキバサナギガイの3種は北海道〜九州まで広く分布するが、情報は少なかった。

 17)サナギガイ科

○サナギガイは情報が少なかったが、調査不足と思われる。

○ハナシサナギガイは北海道の道東、道北に分布する模様だが、今回は道北の分布情報のみであり、極めて少ない情報しか得られなかったと言える。

 18)クチミゾガイ科

○マツシマクチミゾガイの分布は東北南部から関東を経て、中部地方の高地であるが、産地は局地的である。

○ヤエヤマクチミゾガイは沖縄の八重山諸島に限って知られる。

 19)マキゾメガイ科

○マルナタネガイは群馬県以南に分布するが、今回は四国からの情報が多かった。

○ヒラドマルナタネも四国と大分県からの報告が大半を占めた。

○マキゾメガイは近年、道東、道北から報告された。

 20)キセルガイモドキ科

本科の貝はキセルガイ科によく似た細長い殻形を示すが、右巻きであること、殻口付近に襞などを欠くことなどによって相違する。今回の調査では、17種の分布情報が寄せられた。

1分布域の狭い種類

(ア)島嶼分布型

この分布型に属するのは、以下の10種であるが、分布域が狭いために分布図としてはほぼ完成に近い。これらの種は森林の樹幹を生活の場としているため、森林の環境破壊が進むと激減することは必至であるためこれらの種を保護するには、環境保全に留意しなけらばならない。

○ハハジマキセルガイモドキ、チチジマキセルガイモドキ、ヒラセキセルガイモドキ(以上3種とも小笠原諸島)。

○ニシキキセルガイモドキ(八重山諸島)、リュウキュウキセルガイモドキ(八重山諸島、沖縄諸島)。

○オオシマキセルガイモドキ(奄美諸島)、ウスチャイロキセルガイモドキ(沖永良部島〜沖縄本島)、キカイキセルガイモドキ(奄美諸島〜沖縄本島)

○チャイロキセルガイモドキ(屋久島、黒島ほか)。

○ハチジョウキセルガイモドキ(八丈島)。

(イ)石灰岩地分布型

○ヤセキセルガイモドキ(岡山県成羽石灰岩地の固有種)。

(ウ)非石灰岩地分布型

○ムロトキセルガイモドキ(徳島県津島、高知県室戸岬(高知県の情報は今回得られなかった))。

2分布域の広い種類

○クリイロキセルガイモドキは前回に比べて著しく情報が増えた。北海道から、東北、北陸、山陰の主として日本海沿岸地方を中心にして点々と分布する。過去に近畿中北部(鞍馬山)にも記録があるが、情報がなかった(湊・石坂、1989)。

○フトキセルガイモドキは、101件の情報が得られ、近畿中北部から中国東部、四国東部に分布する。ダイシキセルガイモドキも本種の型である。

○キセルガイモドキは北海道南部から九州まで広く情報が得られた。前回も指摘したが、分布図の中での空白部、例えば日本海沿岸の男鹿半島、佐渡島、能登半島、隠岐諸島などは文献上に記録がある(黒田、1945)ので、今後の情報の追加が望まれるところである。

○ホソキセルガイモドキは四国と九州から少ない情報があった。

 21)キセルガイ科

本科の貝は、左巻であること、殻口の中に複雑な襞や板状の構造があるなど大きな特徴がある。種類数も多い。分布域の狭い種はほぼ正確な分布情報が寄せられたので、分布図の完成度は高い。

表U−1 キセルガイ科で情報の多かった種類

順位

種 類

情報

メッシュ

順位

種 類

情報

メッシュ

ナミギセル

シリオレギセル

ヒカリギセル

スグヒダギセル

オオギセル

937

855

648

513

506

10

ナミコギセル

チビギセル

ウスベニギセル

ツムガタギセル

オキギセル

436

435

376

371

364

   1分布域の狭い種類

(ア)島嶼分布型

島嶼に分布する種は下記の通りである。カッコ内はその種の産地を示す。島嶼という狭い分布域のために、ほとんどの種は島の固有種で、その分布図の完成度も高いと考える。

○チイサギセル(五島、甑島列島)、ピントノミギセル(屋久島ほか)、ゾウゲツヤノミギセル(三宅島、八丈島)、ツヤノミギセル(与那国島ほか)、ハラブトノミギセル(屋久島、種子島ほか)、アラハダノミギセル(甑島ほか)、イトカケノミギセル(種子島、屋久島)、ヤクスギイトカケノミギセル(屋久島)、イトヒキツムガタノミギセル(慶良間列島)、トクノシマツムガタノミギセル(トカラ列島、徳之島)、カドシタノミギセル(奄美大島)、ツムガタノミギセル(奄美大島)、カズマキノミギセル(沖縄本島)、チャイロノミギセル(沖永良部島)、ナカノシマノミギセル(トカラ列島中之島ほか)、ヤエヤマノミギセル(石垣島、西表島)、キカイノミギセル(トカラ列島、奄美諸島)、ノミギセル(沖縄本島、久米島)、ニセノミギセル(久米島ほか)、ウチマキノミギセル(種子島、屋久島)、ホソウチマキノミギセル(奄美大島)、ソトバウチマキノミギセル(奄美大島)、タラマノミギセル(多良間島、宮古島)、アマミノミギセル(トカラ列島、奄美諸島ほか)、ハチジョウノミギセル(大阪(移入?)、大島、三宅島、八丈島)、サカズキノミギセル(慶良間列島ほか)、ミカズキノミギセル(伊平屋島ほか)、サキシマノミギセル(石垣島、西表島)、ヨワノミギセル(石垣島、西表島)、チビノミギセル(トカラ列島、奄美大島ほか)、エダヒダノミギセル(徳之島)、ツシマギセル(対馬)、イキギセル(壱岐島)、サドギセル(佐渡)、オクシリギセル(奥尻島)、ショウドシマギセル(小豆島)、ダイトウノミギセル(大東島)、トウギセル(奄美大島、徳之島)、カモハラギセル(高知県鵜来島)、ヒルグチギセル(奄美大島ほか)、オオシマギセル(奄美大島)、キンチャクギセル(沖縄本島)、リュウキュウギセル(沖縄本島)、ザレギセル(奄美大島)、アズマギセル(甑島)、ナタマメギセル(甑島)、ツヤギセル(沖縄本島ほか)、タネガシマギセル(種子島ほか)、ウジグントウギセル(宇治群島)、ミヤコオキナワギセル(宮古島)、ヒメナミギセル(隠岐島)、トライオンギセル(八丈島ほか)、ハラブトギセル(屋久島ほか)、コハラブトギセル(屋久島ほか)、スタアンズギセル(石垣島ほか)、イリオモテコギセル(西表島)、ハスヒダギセル(五島)、ヤコビギセル(種子島、屋久島)、ヒメヤコビギセル(トカラ列島)、ネニヤダマシギセル(奄美大島)、トクネニヤダマシギセル(徳之島)、コダマコギセル(トカラ列島悪石島ほか)、ナカダコギセル(八丈島)、トカラコギセル(トカラ列島ほか)、ニシノシマギセル(隠岐西ノ島)、クロシマギセル(黒島)、ニシキコギセル(石垣島、西表島)。

(イ)石灰岩地分布型

石灰岩地は陸産貝類の種類と個体数の多いところであるが、関東以西の石灰岩地では以下のキセルガイの固有種が知られる(カッコ内は種が分布する県名を示す)。分布図の完成度も高い。乱獲や石灰岩採掘等によって環境が破壊されてしまうと破滅してしまうことは必至で、その種保護には今後留意する必要がある。

○クビナガギセル(愛知)、ミカドギセル(滋賀、岐阜、三重)、シリボソギセル(滋賀、岐阜)、ナカムラギセル(高知)、イシカワギセル(熊本)、カザアナギセル(熊本)、オオイタシロギセル(大分、宮崎)、ケショウギセル(熊本、宮崎)、ヤグラギセル(東京、埼玉)、ヒゴコンボウギセル(熊本、宮崎)、タケノコギセル(大分、宮崎)、イイジマギセル(高知)、タイシャクギセル(岡山、広島)、デールギセル(徳島)、ハチノコギセル(愛知、静岡)、イトカケギセル(和歌山)。

(ウ)非石灰岩地分布型

石灰岩地でない地域でも比較的分布域の狭い次の7種が分布する。

○ホウライジギセル(静岡、愛知)、シリブトギセル(和歌山、奈良)、クロズギセル(和歌山)、シロバリギセル(和歌山、奈良、三重)、ミツクリギセル(和歌山)、アベギセル(徳島)、ミヤザキギセル(大分)。

2分布域の広い種類

分布図をもとに、主な種(多数の種は省略する)の分布状況をみる。

○ナミコギセルは関東から中部地方(長野県からの情報が前回と同じようにない)を経て、近畿、中国地方東部に分布し、一部は四国北東部にわずかに記録がある。

○オオギセルは東京都から東海地方を経て、近畿〜中国地方東部、四国に分布し、前回の報告とあまり変動がない(506件)。また以前筆者がまとめた分布図とほぼ一致する(湊、l980b)。

○コンボウギセルは東海、北陸(南部)、近畿、四国に分布し、比較的普通種である。

○スグヒダギセルは中国、四国(西部)、九州に広く分布する。

○シイボルトコギセルは九州全域に分布しているが、さらに中国地方(山口県見島、萩市、隠岐西ノ島)、四国(西部)、さらに伊豆半島東部(真鶴岬、初島)や新潟県南部(能生)に分布する。分布図は前回よりも多少情報が増えたが、全体の分布情報に変わりはない。

○ハゲギセルは岐阜県、福井県、愛知県の中部地方から近畿を経て、中国東部まで情報があった。

○アワジギセルは四国全域に広く分布。分布の東限は淡路島、和歌山市、西限は九州(熊本、宮崎)に分布し、「襲速紀要素型分布」をするキセルガイ科貝類の一つとして考えられている(湊、1982)。

○チビギセルは本州(青森〜山口県)、四国、九州から情報(420件)が寄せられたが、近畿、中国、四国から多かった。

○ツムガタギセルは下北半島から近畿(紀伊半島)までの本州と四国(北東部)から情報(371件)が得られた。

○ヒロクチコギセルは伊豆諸島を含めた神奈川県以南の太平洋岸、四国、九州中北部に点々と分布する。しかし、九州中南部やその離島からは情報がない。日本海沿岸では過去に丹(l931)による京都府冠島からの記録があったが、今回は情報が寄せられた。これは本種の最北分布である。

○ナミギセルは最も普通にみられるキセルガイであるが、本州ではほぼ全域に分布する(情報量:937件)。中でも近畿(中北部)、中国では情報が多かった。前回もキセルガイの中で最多の報告があった。四国と九州(中南部)の情報が少ない。

○ウスベニギセルは近畿を中心にして中部(西部)、四国(北東部)に分布する。

○シリオレギセルは近畿以西の本州、四国、九州から情報(855件)が得られた。

○ヒメギセルは北海道(渡島)、中部以北の本州から多数の情報(329件)が寄せられ、ほぼ分布傾向が把握できる。

○ヒカリギセルは関東(伊豆諸島を含む)を中心に、北は岩手県(南部)、静岡県まで分布するが、今回は愛知県から2件情報があった。情報量は648件で、その分布図は完成度が高いと考える。しかし、前回と同様に東北地方南部からの情報が少ない(湊、l980a)。

 22)イトカケマイマイ科

○イトカケマイマイは宮古島だけから情報があった。近似種は台湾に分布する。

 23)アフリカマイマイ科

○アフリカマイマイは移入種で、奄美大島以南の琉球列島と小笠原諸島に分布する。琉球列島から多くの情報があった。

 24)オカチョウジガイ科

本科に8種が所属するが、情報はおおむね全国から多く寄せられた。

○オカチョウジガイとホソオカチョウジガイは北海道(南部)から八重山諸島まで広く記録が集まった。しかし、府県によっては情報が希薄なところがある。

○トクサオカチョウジガイは関東以南から奄美大島まで分布するが、京浜地方、京阪神地方では情報が特に多かった。

 25)ヤマヒタチオビ科

○ヤマヒタチオビは移入種で小笠原諸島のみで繁殖している。

 26)ナタネガイ科

○ナタネガイは全国域から点々と分布情報がよせられたが、微小種のために下記の2種以外の他種は全体的に調査不足である。

○オオベソナタネ、エゾナタネは北海道からのみ情報があった。

 27)エンザガイ科

○本科は小笠原諸島の固有種(今回の対象種は5種)で、分布図もほぼ完成されている。

 28)パツラマイマイ科

○パツラマイマイは北方系の陸産貝類で北海道、東北(北部)、関東、中部地方から多くの情報(363件)が寄せられたが、一部では調査不足のため全く記録のない県がある。近畿地方では高野山(和歌山県)から記録された。

 29)コハクガイ科

○コハクガイは北海道から沖縄(大東島)までの全国から報告(445件)があったが、所々に分布の空白地があるのは未調査のためと思われる。

○ウスグチベッコウは北海道からのみ情報があった。

○カサマイマイ類のツヤカサマイマイ(八重山諸島)、タカカサマイマイ(屋久島、種子島、奄美大島)、オオカサマイマイ(奄美諸島、沖縄諸島)の分布情報も、ほぼ状況が把握できるほど記録が寄せられた。

 30)ナメクジ科

○イボイボナメクジは四国を中心に、9件の情報があったが、この種は稀産であること、調査の不備があることで今後はさらに情報が増えると思われる。

○ナメクジは北海道(南部)以南の全国から情報があるが、空白地は未調査

と思われる。

○ヤマナメクジはほぼ全国に分布し、ナメクジよりも情報が多かった。

 31)コウラナメクジ科

○キイロナメクジ、チャコウラナメクジなどは移入種であるが、分布は全国的に分散して報告された。情報量は今後増加すると思われる。

 32)オオコウラナメクジ科

○オオコウラナメクジは日本固有種であるが、近年は徐々に情報が増えてきている。今回も岐阜県、福井県、愛媛県の情報が多かった。

○ヤマコウラナメクジも前種と同じように日本固有種だが、前種に比べて情報が少なく、青森県から山口県の本州だけであった。

 33)ベッコウマイマイ科

本科は種類が多いうえに、種の同定が難しい陸貝である。今回は98種が対象種とされたが、情報を寄せられた種の中には、同定に問題がある種が若干あるように思われる。したがって分布図を見る場合にその点を留意する必要がある。分布域の狭い種類では、ほぼ完成度の高い情報が得られた。種類が多いので、ここでは代表的な種のみ取り上げる。

○ミドリベッコウは中部、北陸から報告されたが、分布図もほぼ完成度が高い。

○ヒラベッコウガイ、ツノイロヒメベッコウは本科では比較的普通種である。関東以南から九州まで情報量も多かった。

○ウラジロベッコウは前種に似た分布図であるが、東北の一部や伊豆諸島からも情報があった(611件)。

○ヒメベッコウガイは北海道から九州まで広く分布(776件)していることがわかったが、中でも北海道の道北からも情報があった。

○キビガイは前種と同じような分布情報(578件)だが、東北や中国(西部)、九州では分布の空白部分が目立つ。これは調査の不備と思われる。

○クリイロベッコウは北海道(渡鳥)、東北、関東、中部からの記録がある。しかし、中国、九州での2〜3カ所は同定に問題があるかもしれない。

○キヌツヤベッコウは東北(南部)から九州に至る地域から情報がよせられたが、四国からの情報は濃密である。

○レンズガイの分布は2分布地に分かれる。(1)関東(南部)から岐阜〜北陸、(2)九州。本種は稀産種であるため、分布情報の得にくい種である。

○マルシタラガイは東北(南部)から九州まで情報(412件)があった。県によっては、情報の極めて少ない所、空白地などがあるが、今後はさらに情報が増加すると思う。

○コシタカシタラガイも前種にほぼ同じ範囲の分布情報が得られた。

○カサキビは全国的に分布情報(553件)があったが、調査の徹底によってさらに分布図が充実するものと思う。

 34)ニッポンマイマイ科(ナンバンマイマイ科)

本科はオナジマイマイ科と同様に、わが国では大形の陸産貝類のグループを形成して各地で種分化が著しい。ことに琉球列島を含めた西日本では種類が多いため、分布状況を分布域の狭い種類と分布域の広い種類に分けて考察する。

表U−2 ニッポンマイマイ科で情報の多かった種類

順位

種 類

情報

メッシュ

順位

種 類

情報

メッシュ

ニッポンマイマイ

コベソマイマイ

シメクチマイマイ

ヤマタカマイマイ

カドバリニッポンマイマイ

2094

1444

 602

 388

 323

10

ヒメビロウドマイマイ

キヌビロウドマイマイ

サンインコベソマイマイ

ケハダビロウドマイマイ

コシタカコベソマイマイ

310

190

167

142

 94

 

1分布域の狭い種類

(ア)島嶼分布型

島嶼にのみ分布する種は次の38種ある。いずれも分布域が狭いため、分布傾向の把握はほぼ完全と考える。なお種名の後の地名はその産地である。

○オキナワヤマタカマイマイ、アマノヤマタカマイマイ(沖縄本島)、ウラキヤマタカマイマイ(宮古島)、クマドリヤマタカマイマイ(奄美大島)、トクノシマヤマタカマイマイ(徳之島)、オキノエラブヤマタカマイマイ、ヒメユリヤマタカマイマイ(沖永良部島)、ウラジロヤマタカマイマイ(奄美大島、喜界島)、オモロヤマタカマイマイ(久米島)、アマミヤマタカマイマイ(奄美大島)、リュウキュウヒダリマキマイマイ(久米島)、シュリマイマイ(沖縄本島、久米島ほか)、オオシママイマイ(奄美大島、徳之島、トカラ列島)、ダンジョマイマイ(男女群島)、チリメンマイマイ(徳之島)、ヤンバルマイマイ(沖縄本島)、キカイオオシママイマイ(喜界島)、クンチャンマイマイ(沖縄本島)、エラブシュリマイマイ(沖永良部島)、イッシキマイマイ(石垣島、西表島)、ヨナクニマイマイ(与那国島)、サキシマヒシマイマイ(宮古島)、タネガシママイマイ(屋久島、種子島、大隅諸島、トカラ列島)、クチジロビロウドマイマイ(屋久島)、ホシヤマビロウドマイマイ(トカラ列島悪石島)、ハジメテビロウドマイマイ(宇治群島)、オキビロウドマイマイ、オキシメクチマイマイ(隠岐諸島)、トクノシマビロウドマイマイ(徳之島)、ケハダシワクチマイマイ(奄美大島)、コケハダシワクチマイマイ(奄美大島)、トクノシマケハダシワクチマイマイ(徳之島)、カタマイマイ、ヌノメカタマイマイ、ヒメカタマイマイ、アナカタマイマイ、ヒシカタマイマイ、キノボリカタマイマイ(小笠原諸島)。

以上のうち、奄美諸島から宮古島まで分布するオキナワヤマタカマイマイ類は、棲息地が局限されること、さらに樹上性であることによって、棲息環境の悪化によって絶滅が心配される。またビロウドマイマイ類やシワクチマイマイ類も森林内で棲息するので、森林の保全には充分気をつける必要がある。

(イ)石灰岩地分布型

キセルガイ科にくらべてナンバンマイマイ科の石灰岩地の固有種は少なく、次の4種である。これらは石灰岩の採掘による環境の破壊によって絶滅してしまう危険性があるので、保護には特に留意しなければならない。

○ヤコビマイマイ(滋賀伊吹山、岐阜)、カナマルマイマイ(三重北部、滋賀)、ヒラコベソマイマイ(高知)、ナカヤママイマイ(福岡)。

(ウ)非石灰岩地分布型

石炭岩地でない地域で、分布域が極めて狭い種類がある。それらは次のような種類である。

○メルレンドルフマイマイ(神奈川、静岡)、ミノブマイマイ(神奈川、静岡、山梨)、ツヤマイマイ(三重、奈良、和歌山)、アナナシマイマイ(三重、奈良、和歌山)、ヒラマキビロウドマイマイ(和歌山)、カワリダネビロウドマイマイ(広島、山口)、サダミマイマイ(宮崎)。サダミマイマイは宮崎県双石(ぼろいし)山を中心に分布する稀産種であるが、情報数は前回よりも2つ多い5つの情報が得られた。

2分布域の広い種類

分布図をもとに、主な種(多数の種は省略する)の分布状況をみる。

○コベソマイマイはナンバンマイマイ科の中では、ニッポンマイマイに次いで多くの情報(1444件)が寄せられた。本種の分布図は完成度は高いと考える。本州では関東西部から中部地方を経て山口県まで分布するが、四国や九州ではほぼ全域から情報が得られた。しかし、前回にも指摘したが、東海、北陸、山陰地方では空白が目立つ。これは筆者がかつて文献上から調査をした本種の分布域とほぼ一致している(湊、1983a)から、上述の空白地域は棲息の可能性が薄いかもしれない。

○サンインコベソマイマイは山陰を中心にして、東は兵庫県北部の日本海側、西は島根県東部、南は岡山、広島両県の北部まで分布域がある。また隠岐諸島にも棲息する。

○ヤマタカマイマイは前回よりも情報が増えた(388件)。分布域は中部地方西部と北陸地方から近畿北部を経て、中国東部にまで及ぶ。富山県(菊池、1940)には記録があるが、今回も情報がなかった。今回の本種の分布図は湊(1983b)の記録とほぼ一致する。

○ニッポンマイマイは2094件の情報が得られた。青森県から山口県までの本州の全域と四国に分布しているが、一部には未調査、未報告地域もある。本種は広く分布するため、各地産に変異が多いことを留意する必要がある。

 35)オナジマイマイ科

オナジマイマイ科は殻形が低平なレンズ状形から通常のカタツムリ形、さらに高い円錐形まで多くの殻形が知られていて、種類が多い。今回もオオケマイマイのように、比較的分布域が広くて、普通にみられる種類の情報量が目立った。分布域の狭い種類は分布図の完成度が高い。

表U−3 オナジマイマイ科で情報の多かった種類

順位

種 類

情報

メッシュ

順位

種 類

情報

メッシュ

オオケマイマイ

ウスカワマイマイ

ヒダリマキマイマイ

ミスジマイマイ

オナジマイマイ

1391

1320

1112

 993

 906

10

セトウチマイマイ

ツクシマイマイ

クチベニマイマイ

エンスイマイマイ

ギュリキマイマイ

890

566

536

428

406

 

1分布域の狭い種類

(ア)島嶼分布型

島嶼にのみ分布する種を下記に示す。

アカマイマイ(宮古島、多良間島)、オオベソマイマイ(石垣島、西表島)、ミズイロオオベソマイマイ(西表島)、ウロコケマイマイ(沖縄本島、久米島)、カドマルウロコケマイマイ(粟国島、沖縄本島)、マメヒロベソマイマイ(奄美大島、徳之島)、マルテンスオオベソマイマイ(奄美大島、徳之島)、オオマオオベソマイマイ(多良間島)、トクノシマオオベソマイマイ(徳之島)、アワシマケマイマイ(粟島)、ヒラケマイマイ(高知県沖ノ島)、ヤギゾノマイマイ(五島)、タラマケマイマイ(宮古島、多良間島、石垣島ほか)、シュリケマイマイ(沖縄本島)、エサキケマイマイ(男女群島)、イトウケマイマイ(屋久島)、キュウシュウケマイマイ(奄美大島、徳之島、喜界島)、ヘソカドケマイマイ(屋久島、種子島ほか)、クロイワオオケマイマイ(石垣島、西表島)、へリトリケマイマイ(沖縄本島)、イトマンケマイマイ(沖縄本島ほか)、ツシマケマイマイ(対馬)、コシキフリイデルマイマイ(甑島)、オオシマフリイデルマイマイ(奄美大島)、オオシマケマイマイ(奄美大島)、トクノシマケマイマイ(徳之島)、ゴトウコウベマイマイ(五島)、コシキコウベマイマイ(甑島)、ミドリマイマイ(奄美大島ほか)、ツバキカドマイマイ(種子島、屋久島、八丈島、大島ほか)、トウガタホソマイマイ(久米島、沖縄本島ほか)、ナガシリマルホソマイマイ(石垣島、西表島、波照間島)、パンダナマイマイ(奄美大島、沖縄本島ほか)、オナジマイマイモドキ(八丈島)、タメトモマイマイ(奄美大島、徳之島ほか)、イヘヤタメトモマイマイ(伊平屋島)、チャイロマイマイ(屋久島、種子島ほか)、ミヤケチャイロマイマイ(三宅島ほか)、ホリマイマイ(男女群島ほか)、オキナワウスカワマイマイ(琉球列島)、タママイマイ(西表島、石垣島、与那国島)、クロマイマイ(悪石島ほか)、ヤクシママイマイ(屋久島、種子島)、サドマイマイ(佐渡)、オキマイマイ(隠岐)、ヘソアキアツマイマイ(南・北大東島)、アツマイマイ(尖閣諸島)、エラブマイマイ(沖永良部島)。

(イ)石灰岩地分布型

オナジマイマイ科の中では石灰岩地の固有種は次の9種である。カッコ内は県名を示す。

○ムラヤママイマイ(新潟)、オモイガケナマイマイ(群馬、東京、埼玉、愛知、静岡)、ミカワマイマイ(愛知、静岡)、ヒルゲンドルフマイマイ(滋賀、岐阜、三重)、サチマイマイ.(岡山)、ハタケダマイマイ(岡山、広島、香川)、ケショウマイマイ(徳島、高知)、シロマイマイ(徳島、香川、愛媛、高知)、モリサキオオベソマイマイ(徳島)。

(ウ)非石灰岩地分布型

非石炭岩地の狭い地域に分布する種は次の6種である。ナチマイマイ、クロオビオトメマイマイ以外は模式産地のみしか知られていない。

○アポイマイマイ(北海道アポイ岳)、ササミケマイマイ(岩手県国見温泉(秋田県境側にも))、カンムリケマイマイ(福井県冠山)、クロオビオトメマイマイ(和泉山脈)、ナチマイマイ(和歌山県那智瀧)、ヌノビキケマイマイ(兵庫県神戸市布引の瀧)。

2分布域の広い種類

種類が多いので、主な種の分布図のみを取り上げる。

○ウスカワマイマイは最も普通な陸貝で全国的に分布し、今回の調査では情報量は1320件であった。しかし前回と同様に、北海道、東北、四国、九州の一部などには未報告地がかなりあるので、今後の調査に期待したい。

○チクヤケマイマイは中国、四国、そして九州の一部から情報が得られた。

○コウベマイマイは近畿(兵庫)以西の中国、四国、九州に分布するが九州の分布情報は検討の余地がある。

○オオウマイマイは福島県以北の東北、新潟に分布し、7県から情報があった。

○オオケマイマイはよく知られた普通種であるため、同定の誤りも少ない。分布情報は139l件である。四国(中部から西部)、九州からの情報がない。中国地方の広島、島根、山口の情報が希薄である。

○ヒメマイマイは北海道固有種であるが、前回よりも多くの情報が得られたが、道東方面が空白地が目立つ。

○オナジマイマイはウスカワマイマイと同じように普通種であるが、情報は906件だけだった。東北(情報が少ないが)から九州まで分布する。また沖縄諸島でも記録がある。

○クチベニマイマイは近畿地方の代表的なマイマイ属で、536件の情報が寄せられた。一部に岐阜県、愛知県からも記録された。

○ギュリキマイマイはクチベニマイマイによく似た分布図を示す。

○ツクシマイマイは九州(屋久島、対馬、五島などを含む)と山口県から566件の情報があった。

○ミスジマイマイは関東地方を代表するマイマイ属で、993件の情報があった。分布図によれば、関東を中心にして、長野県、静岡県(東部)に分布。また伊豆諸島(神津島以北)にも分布する。今回の情報では秋田県(中部)から3プロットの情報があったが、あまりにも分布が飛び離れているので検討の余地があると思われる。

○ヒダリマキマイマイは左巻きのマイマイ属の代表で中部以北に最も普通である。最北分布地は湊(l986)の報告した青森県下北半島である。伊豆諸島にも分布するが、以前確認されていなかった八丈島から情報が得られた。これは移入されたものかもしれない。また滋賀県(北部)から岐阜県東部にかけての情報も分布域の西限であるだけに検討する必要がある。

○セトウチマイマイは瀬戸内海をはさんで、中国、四国、九州(大分県)に分布し、890件の情報が寄せられた。

○エゾマイマイは北海道の代表的な陸貝で道東の一部では分布の空白地があるが、前回よりも多くの情報(241件)が得られた。また、秋田県からの情報があったが、エゾマイマイの型であるブドウマイマイの情報が含まれていると思われるが、検討の余地がある。

○マメマイマイの分布は分布図の通り、北海道から東北を経て、中国、九州地方まで点々と知られているが、本種は種そのものの分類が難しいために分布域として正確さに疑義がないわけではない。

 36)タワラガイ科

本科の対象種は5種であるが、移入種のソメワケダワラ以外は日本固有種である。タワラガイ以外の3種は琉球列島の島嶼に分布するため、分布情報が少ないながら、ほぼ分布が把握できる。

○タワラガイは栃木、群馬両県を最北にして、それより西の本州、四国、九州に広く分布し、500件の情報が集まった。微小な種なので、精査すれば情報は今後もかなり増加すると思われる。

(湊 宏)

引 用 文 献

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