12.スズキ目

(1)トウゴロウイワシ科

○ぺヘレイ Odonthestes bonariensis

ぺヘレイは、1966年にアルゼンチンより養魚目的で神奈川県に移入された外来魚である。近年では種苗の生産技術も確立され、神奈川県以外の他県への移殖や企業化の推進も行われてきたが、大きな成果には至っていない。日本に移入されているぺヘレイは、原産地で淡水型といわれているものなので、塩分濃度の高い水域では生存が不可能といわれている(丸山ほか,1987)。従って純淡水域である湖沼に放流されているが、人工採卵にたよっている。今回の情報では神奈川県に分布が認められていないが、津久井湖や丹沢湖では放流試験が行われている。芦ノ湖でも1974年からしばらく放流がおこなわれていたが、現在の漁獲記録はない(石原ほか,1986)。試験放流の行われている水域を検討すれば、もう少し詳しい分布地点が示せると思われる。

(林 公義)

引 用 文 献

 

石原龍雄・橘川宗彦・栗本和音・上妻信夫.1986.箱根の魚類−エビ・カニ・貝類−.かなしんブックス14:pp.259.神奈川新聞社.

丸山為蔵・藤井一則・木島利通・前田弘也.1987.外国産新魚種の導入経過.水産庁研究部資源課・水産庁養殖研究所:pp.157.

(2)ボラ科

○ボラ類

河川に出現するボラ科魚類は、大部分が形態や色彩の差がはっきりしない未成魚である場合が多く、同定はきわめて困難である。調査対象となっているボラ、メナダ、セスジボラ、ナガレフウライボラ、コボラ以外にも、複数種を混同している可能性はかなり高い。今後は、専門家による標本の同定に基礎をおいた分布図の作成を目指す必要がある。また、河川との関わりの深いアンピンボラ、タイワンメナダ、カマヒレボラ、ナンヨウボラ、モンナシボラなども、調査対象種に加えるべきであろう。

○ボラ Mugil cephalus cephalus

沖縄島や伊豆・小笠原諸島、京都府、新潟県など、分布情報のない地域もあるが、調査結果はほぼ本種の分布域を示している。北海道の北端からの記録は特筆に値し、同定に間違いがなければ、本種の北限と考えてよいであろう。また、群馬県や栃木県など、海岸線から遠く離れた内陸部からの記録は、本種の河川の遡上能力の高さを証明しており、たいへん興味深い。

○メナダ Chelon haematocheilus

調査結果はやや情報不足と思われる。とくに、北海道と九州からの現認記録が少ない。本種は濁りの強い内湾域に選択的に生息する種類で、環境の変化に比較的敏感な種類なので、情報の少ない地域は、今後重点的に調査を行う必要がある。

○セスジボラ Chelon affinis

調査結果はかなり情報不足である。本種は北日本では少ないものの、ほぼ全国的に分布しており、とくに河川汽水域で多くみられる種類である。現認記録のない、あるいは少ない沖縄島、九州、紀伊半島などの地域では、今後重点的な調査が望まれる。

○ナガレフウライボラ Crenimugil heterocheilos

本種は日本では西表島と石垣島から記録されており、仲間川や浦内川など、大きな河川の渓流域に生息している。一生の大部分を河川淡水域で過ごし、上唇下面にあるやすりのような隆起縁で、アユのように岩の表面の付着藻類を削り取って食べており、ボラ科魚類の中では特異な存在である。本調査では西表島の1地点のみから記録されたが、今後は同地におけるより重点的な調査が望まれる。

○コボラ Chelon macrolepis

本種は、日本では南日本の黒潮の影響を強く受ける地域に出現し、琉球列島ではもっとも普通な種類のひとつである。沿岸域や河川汽水域に生息し、ときには淡水域にも侵入する。調査結果は、沖縄島や、千葉県以南の本州、四国、九州太平洋岸からの現認記録がほとんどなく、かなり情報不足である。今後は河川汽水域における重点的な調査が望まれる。また、日本海側においても、北限はどのあたりにあるのかを確認する必要があるだろう。

(瀬能 宏)

(3)タイワンドジョウ科

○ライギョ類

同定結果の信頼性に疑問のある情報を少なくするため、今後の調査では標本もしくは写真の提供を求める必要があるだろう。

○タイワンドジョウ Channa maculata

本種は、日本へは1906年に台湾から大阪府ヘ移入され(川那部・水野編・監修,1989)、その後、近畿地方の各地で定着したとされている(中坊編,1993)。ただし、石垣島のものは、台湾から直接持ち込まれたと考えられる。今回の調査結果は情報不足のように思えるが、これは調査が不十分なためか、あるいは本来亜熱帯域から熱帯域にかけて分布する本種が、温帯域の日本で勢力を縮小しつつあることを示しているのかは不明である。なお、今回の調査で、山梨県から新たに記録されたが、直接標本を検討することができなかった。

○カムルチー Channa argus

本種は、日本へは1923〜1924年にかけて朝鮮半島から奈良県ヘ移入され、その後、北海道を除く日本各地で定着したとされている(中坊編,1993)。ただし、琉球列島からの報告は現在のところみられない。今回の調査結果は、ほぼ本種の分布域を示しているものと考えられる。北海道から現認されたことは注目に値し、本種の分布域が現在も人為的に拡大しつつあることを示唆している。

○コウタイ Channa asiatica

本種は全長30cmまでの小型の種類で、台湾、海南島、長江流域以南の中国に分布し、日本へは台湾から石垣島と大阪府へ移入された(川那部・水野編・監修,1989;中坊編,1993)。今回の調査では記録されておらず、定着しているかどうかについてもまったく不明である。もともとが亜熱帯域を中心に分布している種類なので、石垣島ではとくに今後の動向に注目する必要があるだろう。

(瀬能 宏)

引 用 文 献

川那部浩哉・水野信彦編・監修.1989.山渓カラー名鑑:日本の淡水魚.719pp.山と渓谷社,東京.

中坊徹次編.1993.日本産魚類検索:全種の同定.xxxiv+1474pp.東海大学出版会,東京.

 

(4)ゴクラクギョ科

○チョウセンブナ Macropodus chinensis

本種は1914年ごろに朝鮮半島から移入され、各地で自然繁殖したが、その後減少し、新潟県上越地方、関東地方、長野県牟礼村、愛知県、岡山県岡山市の一部に残存しているとされている(川那部・水野編・監修,1.989;中坊,l993)。第3回の本調査で現認された岡山市のものは、今回の調査では確認されていない。調査結果は情報不足のように思えるが、これは調査が不十分なためか、あるいは本種が勢力を縮小しつつあることを示しているのかは不明である。今後は過去に記録のある地域の調査と、現認地域の個体群の動向調査を勢力的に行う必要がある。

○タイワンキンギョ Macropodus opercularis

本種は、日本では沖縄島と沖永良部島から記録されている(中坊編,1993)。今回の調査結果は、沖永良部島からの確認はできておらず、やや情報不足であるが、沖縄島からは複数の現認記録があった。また、渡嘉敷島からも現認されている。本種が移入種か、あるいは自然分布種であるかについては意見の分かれるところである。将来的には、台湾や中国、フィリピンなど、国外の分布地の個体との遺伝的比較研究の実施が望まれる。沖永良部島や渡嘉敷島産のものは、沖縄島からの移入の可能性が強い。環境庁(1991)は本種を希少種としている。

(瀬能 宏)

引 用 文 献

 

環境庁(編).1991.日本の絶滅のおそれのある野生生物−レッドデータブック−脊椎動物編.(財)日本野生生物研究センター.東京.331pp.

川那部浩哉・水野信彦編・監修.1989.山渓カラー名鑑:日本の淡水魚.719pp.山と渓谷社,東京.

中坊徹次編.1993.日本産魚類検索:全種の同定.xxxiv+1474pp.東海大学出版会,東京.

 

(5)ヨウジウオ科

○イッセンヨウジ Microphis (Coelonotus) leiaspis

本種は、日本では相模湾以南の、黒潮の影響を強く受ける地域の河川に出現する。全長20cmほどになり、琉球列島では河川淡水域に生息し、再生産を繰り返している。しかし、本州、四国、九州の河川では河口付近の汽水域に一時的に出現するだけで、定着はしていないようである。調査結果はやや情報不足で、沖縄島の河川淡水域、本州、四国、九州の太平洋岸の各河川汽水域の調査を重点的に行うべきである。

○アミメカワヨウジ Hippichthys (Hippichthys) heptagonus

本種は、日本では八重山諸島の河川だけから記録されている。汽水域〜淡水域にかけての、流れが緩やかで、岸に水生植物の繁茂するような所に生息している。今回の調査では記録されなかったが、これはこの種の個体数がそれほど多くないことも原因のひとつと考えられる。調査が進めば沖縄島や奄美諸島からも記録される可能性が高い。

○テングヨウジ Microphis (Oostethus) brachyurus brachyurus

本種は、日本では相模湾以南の、黒潮の影響を強く受ける地域の河川に出現する。全長23cmほどになり、琉球列島では河川淡水域に生息し、再生産を繰り返している。しかし、本州、四国、九州の河川では、イッセンヨウジ同様、河口付近の汽水域に一時的に出現するだけで、定着はしていないようである。調査結果はやや情報不足であり、今後は八重山諸島、沖縄島、九州の沿岸などを重点的に調査する必要がある。しかし、今回、利根川水系から現認されたことは注目に値し、同定に間違いがなければ、これが本種の北限記録になると思われる。

(瀬能 宏)

(6)スズキ科

○オヤニラミ Coreoperca kawamebari

分布域をよく表している。なお、分布図では欠落しているが、香川県(中村,1963;植田,1978)と岐阜県(中日新聞社,1992)を追加する。ただし、岐阜県下のものは移殖の可能性が高いので精査を要する。環境庁(1991)は本種を希少種としている。

(前畑 政善)

○スズキ Lateolabrax japonicus

主として沿岸性の海産魚であるが、幼魚は大型河川の河口、汽水域へ夏期に侵入する。本種は生活史の中で内湾や汽水域に侵入し、成魚は日本各地の沿岸に生息するので、河川での分布状況は周年を通した調査結果を必要とされる。第3回の分布調査結果より分布地における情報は増加している。琉球列島からの記録はない。内水面における北限記録では中村(1958)の青森県岩木川と十三湖がある。

○ヒラスズキ Lateolabrax latus

スズキと同様に沿岸性であるが、外洋に面した水域に多い。本種はスズキと反対で幼魚期でも河川には侵入せず、成魚がきわめて稀に河口に生息する。主に静岡県(北限は千葉県)から長崎県までの南日本沿岸に分布することが知られている(Katayama,1957;中村,1963)。本種に関してはより詳細な分布域の把握が必要と思われる。また外観がスズキと似ているので混同されていることも考えられる。

(林 公義)

引 用 文 献

環境庁(編).1991.日本の絶滅のおそれのある野生生物−レッドデータブック−脊椎動物編.(財)日本野生生物研究センター.東京.331pp.

Katayama,M.1957. Four new species of serranid fishes from Japan. Japan J. Ichthyol.,6(4/6):153-159.

中村守純.1958.岩木川・十三湖水系の魚類調査報告書.青森県内水面漁業資料(1):1-14.

中村守純.1963.原色淡水魚類検索図鑑・初版.258pp.北隆館,東京.中日新聞社.1992.中日新聞.1992年8月23日付け朝刊 19面.

植田和広.1978.香川県のオヤニラミ生息地保全活動.淡水魚,(4):29.

(7)アジ科

○ギンガメアジ Caranx sexfasciatus

調査結果は本種の分布域を示していると考えられるが、現認記録のない沖縄島や鹿児島県、和歌山県などで、今後は重点的に調査する必要があるだろう。今回の調査で茨城県や宮城県から現認されたのは注目に値し、同定に間違いがなければ、宮城県が本種の北限記録になると思われる。ただし、琉球列島以外では再生産は行われていないと考えられ、黒潮の影響を強く受ける地域に未成魚だけが一時的に出現する。

○ロウニンアジ Caranx ignobilis

本種は、南日本の太平洋岸の黒潮の影響を受ける地域に分布する。成魚はサンゴ礁外縁部などの沿岸域に生息し、未成魚は河川を遡上するが、通常、淡水域まで侵入することはない。ギンガメアジ同様、琉球列島以外では再生産は行われていないと考えられ、未成魚だけが一時的に出現する。調査結果は情報不足であり、本州、四国の太平洋岸の河川汽水域を重点的に調査する必要がある。また、本種、ギンガメアジ、カスミアジ、オニヒラアジの4種は、形態や生態がお互いに似ており、混同している可能性がある。今後は、カスミアジとオニヒラアジも調査対象種に加えるべきである。

○コバンアジ Trachinotus baillonii

本種は汽水域にも出現することがあることから、調査対象種として取り上げられている。しかし、本来はサンゴ礁域に生息する魚で、礁池内の汀線付近のごく浅い所に小さな群れで生活し、河川を積極的に遡上することはない。河川における出現は偶発的であり、河川との関わりはきわめて希薄と考えられる。従って、今後は調査対象種から除外すべきである。調査結果が情報不足なのは、上述のような理由によるものであろう。

(瀬能 宏)

(8)ヒイラギ科

○ヒイラギ Leiognathus nuchalis

調査結果は、本種の分布域をほぼ示していると思われる。現認記録の少ない鹿児島県、長崎県、高知県、和歌山県などで、今後重点的に調査を行う必要があるだろう。一方、富山県と宮城県から現認記録が得られたことは、北日本における本種の具体的な分布を記述するうえで重要である。琉球列島では、シマヒイラギやセイタカヒイラギの未成魚が、河川汽水域ヘ侵入する。今後はこれら2種も調査対象種に加えるべきである。

(瀬能 宏)

(9)ヒメツバメウオ科

○ヒメツバメウオ Monodachtylus argenteus

本種は、日本では宮古島、石垣・西表島から記録されている。未成魚は河川汽水域から淡水域の流れが緩やかなところに生息し、岸から水中へのびた植物の葉やその根、あるいは水中の倒木の周辺に多くみられる。成魚は河口付近の開けた水域や、港などの内湾的環境で群れをつくる。今回の調査結果はやや情報不足で、今後は石垣島や宮古島での調査を重点的に行う必要がある。

(瀬能 宏)

(10)シマイサキ科

○シマイサキ Rhyncopelates oxyrhynchus

調査結果は、本種の分布域をほぼ示しているものと思われる。ただし、現認情報の不足している九州、四国の各県、和歌山県、京都以北の日本海側の各県では、今後重点的な調査を行う必要がある。本種は中坊編(1993)により未成魚が沖縄県久米島から報告されているが、今回の調査では確認されていない。

○コトヒキ Terapon jarbua

調査結果は、本種の分布域をほぼ示しているものと思われる。ただし、現認情報の不足している沖縄島、鹿児島県、和歌山県などでは、今後重点的な調査の必要があるだろう。また、日本海側からの記録がないが、これが情報不足のためか、本来はほとんど分布しないためなのか、現時点では判断できない。

○ニセシマイサキ Mesopristes argenteus

本種は、日本では西表島だけに分布しており、比較的大きな河川の河川汽水域〜淡水域に生息している。未成魚は小さな河川の河口に出現することもある。八重山諸島に分布するヨコシマイサキ属3種のなかでは、最も個体数の多い種類である。調査結果は本種の分布域を示しているが、将来調査が進めば、石垣島や宮古島などでもみつかる可能性がある。本種に近似するシミズシマイサキが、西表島の浦内川の渓流域に分布しており、今後調査の対象に加えるべきである。

○ヨコシマイサキ Mesopristes cancellatus

本種は、日本では西表島だけに分布しており、大きな河川の渓流域に生息する淡水性の魚である。成魚は、とくに淵頭の落ち込みなど、流れが速く泡立つような所にみられる。未成魚は淵中央付近の流れが緩やかな所にもいる。調査結果は本種の分布域を示しているが、調査が進めば石垣島からもみつかる可能性がある。

(瀬能 宏)

引 用 文 献

中坊徹次編.1993.日本産魚類検索:全種の同定.xxxiv+1474pp.東海大学出版会,東京.

(11)夕イ科

○クロダイ類

情報不足。

○クロダイ Acanthoarus schlegeli

沿岸性の海産魚であるが、汽水域にもよく侵入する。特に幼魚は8〜9月の夏から秋に集中して河口域によく集まる。北海道南部以南に分布するが奄美大島以南から琉球列島にはいない。琉球列島には近似種のミナミクロダイ(Acanthopagrus sivicolus)やナンヨウチヌ(A.berda)が分布する。第3回の分布調査結果と今回の情報を併せで考察すると、本種の広範囲な分布域が示されていると思われる。

○キチヌ(キビレ)Acanthopagrus latus

本種もクロダイと同様、沿岸性の海産魚であるが、幼魚・成魚はともに汽水域でも生活し、クロダイより汽水に対する依存性が強い。奄美大島以南から琉球列島を除く南日本に分布することが知られ、四国や九州ではクロダイより本種の方が河川の中流域まで遡上していることが多い。太平洋側では千葉県、日本海側では新潟県以南に分布する(赤崎,1989)とされているが、愛知県や島根県以南が主たる分布域と思われる。本分布調査の結果はやや情報不足といえる。

○ミナミクロダイ Acanthopagrus sivicolus

珊瑚礁のある水域の沿岸魚で、主に内湾や河口域に生息する。本種は琉球列島の固有種で、奄美大島以南に分布する(諸喜田ほか,1989;林ほか,1992)。今回の沖縄本島における本種の未記録は、近年の河口や沿岸域の環境変化によるものであるのか疑問が残る。

○ナンヨウチヌ Acanthopagrus berda

マングローブ林のある河口域に生息する。日本での本種の分布は、沖縄県の西表島だけから知られている(赤崎,1989)。

(林 公義)

引 用 文 献

赤崎正人.1989.キチヌ・ナンヨウチヌ,日本の淡水魚.川那部浩哉・水野信彦編,山と渓谷社:531-532.

林 公義・伊藤 孝・林 弘章・萩原清司・木村喜芳.1992.奄美大島の陸水性魚類相と生物地理学的特性.横須賀市博研報,(40):45-63.

諸喜田茂充・吉野哲夫・比嘉義視.1989・奄美大島の河川産魚類相と分布.昭和63年度奄美大島調査報告書,環境庁自然保護局:227-245.

 

(12)クロホシマンジュウダイ科

○クロホシマンジュウダイ Scatophagus argus

本種が全生活史を通して分布する地域は、沖縄諸島以南である。木村・津本(1988)・木下(1989)や島田(1993)によれば、本種の稚・幼魚は和歌山県以南の河口域にも稀に出現するが、仔魚期に黒潮によって運ばれてきたものの分布記録であるとしている。今回の情報では太平洋側の九州・四国地域の情報がやや不足していると思われるが、本種の不安定な移動性によるものと思われる。河口・汽水域で生活しているが、八重山諸島では若魚が純淡、水域にも生息していることがある。

(林 公義)

引 用 文 献

 

木村清志・津本欣吾.1988.クロホシマンジュウダイ科,日本産稚魚図鑑.沖山宗雄編,東海大学出版会:541-542.

木下泉.1989.クロホシマンジュウダイ,日本の淡水魚.川那部浩哉・水野信彦編,山と渓谷社:533.

島田和彦.1993.クロホシマンジュウダイ科,日本産魚類検索−全種の同定−.中坊徹次編,東海大学出版会:777.

 

(13)フエダイ科

○ゴマフエダイ Lutjanus argentimaculatus

調査結果はやや情報不足である。琉球列島を除く黒潮沿岸域では、未成魚が夏から秋にかけての高水温時に出現するが、この時期に現認情報の少ない九州や紀伊半島の各河川汽水域で調査を行う必要がある。本種に近似するウラウチフエダイが、瀬能・鈴木(1992)により西表島の浦内川の渓流域から報告されており、今後調査の対象に加えるべきである。また、他の河川汽水域に侵入するニセクロホシフエダイ、オキフエダイ、イッテンフエダイ、ナミフエダイなども同様である。

(瀬能 宏)

引 用 文 献

瀬能 宏・鈴木寿之.1992.西表島から採集された日本初記録のウラウチフエダイ(新称).伊豆海洋公園通信,3(4):4-5.

(14)アカメ科

○アカメ Lates japonicus

調査結果は、本種の分布域をほぼ示していると思われる。本種の再生産が行われていると考えられる地域は、宮崎県と高知県のごく限られた地域だけであり、今後も重点的に調査を進める必要がある。和歌山県と三重県からの現認記録はたいへん興味深い。環境庁(1991)は本種を希少種としている。

(瀬能 宏)

(15)タカサゴイシモチ科

○タカサゴイシモチ類

八重山諸島には5種類の本科魚類が分布する(林,1993)。情報不足。

 

○セスジタカサゴイシモチ Ambassis miops

本種は琉球列島以南に分布し、日本に分布する同属5種の中では最も生息数が多い(瀬能,1989)。マングローブ林の発達する汽水域から淡水域深くまで進入する。八重山諸島では現在も数多く生息する環境が残っているが、ミナミクロダイと同様に沖縄本島での未記録は、近年の河口や汽水域の環境変化によるものであるのか疑問が残る。調査対象種ではないが、同属のタカサゴイシモチ A. urotaeniaは稀に相模湾以南の本州太平洋側で記録されることがある(林,1993)。

(林 公義)

引 用 文 献

環境庁(編).1991.日本の絶滅のおそれのある野生生物−レッドデータブック−脊椎動物編.(財)日本野生生物研究センター.東京.331pp.

林 公義.1993.タカサゴイシモチ科,日本産魚類検索−全種の同定−.中坊徹次編,東海大学出版会:592-593.

瀬能 宏.1989.セスジタカサゴイシモチ,日本の淡水魚.川那部浩哉・水野信彦編,山と渓谷社:484.

 

(16)サンフィッシュ科

○オオクチバス(ブラックバス)Micropterus salmoides

北アメリカ原産の移入魚で、1925年神奈川県芦ノ湖ヘ遊漁用に放流されて以来少しずつ国内の内水面で繁殖を始めた。主に釣愛好家による放流が原因で、現在では日本各地の内水面に分布している。環境庁が実施した第4回緑の国勢調査「1990年身近な生きもの調査」の結果(環境庁,1992)では北海道(主に南部)から九州(鹿児島県)まで全国的なデータが約2300件集まり、広範囲な分布が確認された。今回は北海道を始め沖縄県までの10県からは情報を得ることができなかったが、秋田県は杉山(1985)、福井県は加藤(1991)、高知県は落合ほか(1984)、沖縄県は幸地(199l)によりそれぞれの県でオオクチバスの分布が報告されている。第4回緑の国勢調査の結果と併わせて考えると日本全国に分布範囲を広げたと考えられる。近年は琵琶湖での繁殖が旺盛で在来種の食被害も多い。

○ブルーギル Lepomis macrochirus

北アメリカ原産の移入魚。1961年から静岡県(一碧湖)で試験放流され自然繁殖が確認された。日本ではオオクチバスに較べていまひとつ釣魚としての人気が低かったが、近年ではオオクチバスに敗けない勢いで放流されてきた。そのため各地で繁殖していることが報告され、傾向としてはオオクチバスの分布と比較的一致している。第3回の分布調査結果では茨城県−新潟県以南の分布にとどまっていたが、今回では岩手県−山形県まで情報が得られており、オオクチバスと同様に広範囲な分布拡大が今後も予想される。今回情報が得られなかった県では、福井県(加藤,1991)と高知県(落合ほか,1984)からの分布記録がある。

北アメリカには総称ブルーギルと呼ばれる種類が数多く、日本にも観賞用として数種類が輸入され始めているので他種の帰化も今後充分に考えられる。

(林 公義)

引 用 文 献

環境庁.1992.第4回緑の国勢調査,1990年身近な生きもの調査結果:96pp.

加藤文男.1991.福井県の淡水魚類,10.移入魚種の追加.福井市立郷土自然科学博物館研報,(38):41-46.

落合 明・大野正夫・古屋八重子・谷口順彦.1984.高知県の淡水生物.高知県内水面漁業協同組合連合会創立30周年記念出版:156pp.

杉山秀樹.1985.秋田の淡水魚.秋田魁新報社:168pp.

幸地良仁.1991.沖縄県の川魚.沖縄出版:165pp.

 

(17)カワスズメ科

○テラピア類

丸山ほか(1987)によれば、日本には少なくとも10種位のテラピア類が移入された経緯があり、日本の内水面環境に適応して生活しているものが4種ほどある。現状ではテラピア類としての分布情報では種の断定はできない。推測ではあるが、鹿児島県の分布情報はカワスズメ Oreochromis mossambicaやナイルテラピア O. niloticaの可能性が高い。また小笠原諸島に分布するテラピア類については、父島のヤツセ川にかつてアメリカ軍によって放流されたカワスズメが生息しているという情報が得られた(倉田洋二氏私信による)。

○カワスズメ Oreochromis mossambicus

アフリカ東南部原産の移入魚。本種は熱帯性の淡水魚類なので日本での自然繁殖地はきわめて限られ、温泉排水のある場所や琉球列島の河川、溜池などでは野生化している。また最近は本種を含めて数種類が食用として各地で養殖飼育されている。本種は水温が15℃以下で死亡する(山岡,1989)ようなので、今回本州の分布地である群馬・山梨・三重の各県の情報は温水流入水域と推測できる。山梨県の石和温泉からの流入のある平等川では自然繁殖している(筆者確認)。鹿児島県の指宿温泉の流入河川にも分布する(山岡,1989)ことが知られている。九州地方の情報が不足していると思われる。

○ナイルテラピア(イズミダイ)Oreochromis niloticus

本種もアフリカ西部原産の移入魚。カワスズメより耐寒性が強く(10℃でも生活できる)、成長もこの種の中では最も速く大きくなる等の利点から、食用魚としての養殖が各地で試みられている。これらのことと相まって河川や池沼への放流も行われているようで、一般に採補記録のあるものはカワスズメよりも近年ではナイルテラピアの方が多い。第3回の分布調査結果と比較して、今回の情報量が増えていることも養殖や放流が盛んになったことを示唆している。鹿児島県の池田湖にも分布する(山岡,1989)。

○ジルテラピア Tilapia zillii

アフリカ北部原産の移入魚。カワスズメやナイルテラピアに較べると養殖もまだ普及していない。かつて鹿児島県で試験養殖が行われていたが、近年では養殖対象魚とはなっていない。国内では鹿児島県の池田湖で自然繁殖している(山岡,1989)とされているが、今回は分布情報が得られていない。

(林 公義)

引 用 文 献

丸山為蔵・藤井一則・木島利通・前田弘也.1987.外国産新魚種の導入経過.水産庁研究部資源課・水産庁養殖研究所:pp.157.

山岡耕作.1989.モザンビークテラピア・ナイルテラピア・ジルテラピア,日本の淡水魚.川那部浩哉・水野信彦編:534-541,山と渓谷社.

 

(18)ユゴイ科

○オオクチユゴイ Kuhlia rupestris

調査結果は、本種の分布域をほぼ示していると思われる。現認記録のない宮古島や沖縄島では、重点的に調査をする必要がある。また、本種の未成魚は本州、四国、九州の黒潮の影響を強く受ける河川汽水域に出現する可能性があり、これらの地域の調査も今後行う必要があるだろう。

○ユゴイ Kuhlia marginata

調査結果は、本種の分布域をほぼ示していると思われる。今後は、現認記録のない宮古島、紀伊半島での調査を重点的に行う必要がある。尾鰭の色彩的特徴が明瞭でない稚魚期の個体は、オオクチユゴイの同サイズのものとの区別が困難なので注意が必要である。

○トゲナガユゴイ Kuhlia boninensis

西表島からの現認記録があるだけで、調査結果はきわめて情報不足である。これは本種の主な生息場所が、大きな河川の開けた水域であり、個体数もユゴイ科の他の2種にくらべて少ないために、確認することが難しいからであると思われる。情報のない宮古島以北の琉球列島と、模式産地である小笠原諸島での調査を重点的に行う必要がある。

(瀬能 宏)

(19)ツバサハゼ科

○ツバサハゼ Rhyacichthys aspro

ツバサハゼ科は1属2種から構成され、日本にはツバサハゼ1種が生息する。

日本では南西諸島の石垣島と西表島のみに分布する。国外では台湾やフィリピン、インドネシア等の西部太平洋域から知られている。河川上流域の急流中に生息する。種別分布図は本種の分布パターンを示している。環境庁(1991)は本種を希少種としている。

(岩田 明久)

(20)ハゼ科

○ホシマダラハゼ Ophiocara porocephala

河川の汽水から淡水域にかけて生息する。西表島、石垣島、宮古島において生息が知られている。種別分布図は情報不足である。

○ヤエヤマノコギリハゼ Butis amboinensis

河川の汽水域に分布するが稀に淡水域に侵入することもある。西表島と石垣島から知られている。種別分布図は情報不足である。

○カワアナゴ類 Eleotris spp.

日本にはカワアナゴ、チチブモドキ、テンジクカワアナゴ、およびオカメハゼの4種が分布しているが、これらの種は外見上極めて似ており区別するのがなかなか、困難である。本項目のプロットは前記4種を同定していない情報であるが、これらの分布域を考慮に入れると、分布図のうち千葉県の2つのプロットはカワアナゴかチチブモドキ、琉球列島のものはチチブモドキ、テンジクカワアナゴ、オカメハゼのいずれかである。

○チチブモドキ Eleotris acanthopoma

本種は千葉県以南の太平洋側から琉球列島にかけて分布している。河川の汽水域から淡水域に生息する。種別分布図はやや情報不足である。

○テンジクカワアナゴ Eleotris fusca

本種は琉球列島に分布するが静岡県や宮崎県での採集例もある。河川の淡水域に分布する。種別分布図はやや情報不足である。

○オカメハゼ Eleotris melanosoma

本種は静岡県以南の太平洋側から琉球列島にかけて分布している。河川の汽水域から淡水域にかけて生息する。種別分布図のデータは情報不足である。

○カワアナゴ Eleotris oxycephala

本種は千葉県から種子島に分布している。文献上では栃木県からの報告があるが(明仁親王ほか,1984)、天然分布かどうか疑問である。河川淡水域に生息する。種別分布図のデータは本種の分布パターンをほぼ表わしていると思われるが内陸部にプロットされているものは検討を要する。

○タメトモハゼ Ophieleotris sp.

本種は屋久島および琉球列島南部に生息している。淡水域に生息する。種別分布図は情報不足である。

○ドンコ Odontobutis obscura

本種は愛知県・新潟県以西の本州・四国および九州に分布している。文献上では茨城県からの報告があるが(明仁親王,1969)、天然分布とは思われない。淡水域に分布する。種別分布図は本種の分布パターンを表しているが、栃木、東京、長野からの報告は他地域からの移入と思われる。

○タナゴモドキ Hypseleotris cyprinoides

本種は沖縄島、宮古島、石垣島および西表島に分布している。淡水域に分布するが稀に汽水域にも出現する。種別分布図は本種の分布パターンを表している。環境庁(1991)は本種を希少種としている。

○ヒメハゼ Favonigobius gymnauchen

本種は北海道から西表島まで分布している。主な生息域は浅海域の砂底や前浜干潟だが河川の汽水域にも侵入する。種別分布図は情報不足である。

○エソハゼ Schismatogobius roxasi

本種は石垣島および西表島に分布している。淡水域に生息する。報告がえられず、分布図を作成できなかった。

○シマエソハゼ Schismatogobius sp.

本種は石垣島および西表島に分布している。淡水域に生息する。報告がえられず、分布図を作成できなかった。

○クロミナミハゼ Awaous melanocephalus

本種は琉球列島に分布する。淡水域に分布する。種別分布パターンは情報不足である。

○ミナミハゼ Awaous ocellaris

本種は琉球列島に分布するが千葉県や神奈川県からの報告がある。淡水域に生息する。種別分布図は情報不足である。

○アベハゼ Mugilogobius abei

本種は宮城県、石川県以西の本州・四国・九州および種子島に分布している。泥底の汽水域に生息している。種別分布図は情報不足である。

○ヒナハゼ Redigobius bikolanus

本種は静岡県から西表島まで分布している。汽水域に生息しているが淡水域に侵入することもある。種別分布図は情報不足である。

○ゴクラクハゼ Rhinogobius giurinus

本種は秋田県・茨城県以南から西表島まで分布する。汽水から淡水域にかけて生息する。種別分布図は特に分布の北よりの地域での情報が不足している。

○ヨシノボリ類 Rhinogobius spp.

ヨシノボリ類は以下の9種およびカワヨシノボリの未同定情報をプロットした結果である。

○シマヨシノボリ(横班型)Rhinogobius sp. CB

本種は青森県から西表島まで分布している。淡水域に生息する。種別分布図は情報不足である。なお、長野県のプロットは他地域からの移入と思われる。

○クロヨシノボリ(黒色型)Rhinogobius sp. DA

本種は千葉県・新潟県から西表島まで分布している。淡水域に生息する。種別分布図は情報不足である。

○ルリヨシノボリ(るり型)Rhinogobius sp. CO

本種は北海道から九州まで分布している。淡水域に生息する。種別分布図は情報不足である。

○オオヨシノボリ(黒色大型)Rhinogobius sp. LD

本種は宮城県・青森県から九州に分布する。淡水域に生息する。種別分布図は情報不足である。

○ヒラヨシノボリ(南黒色大型)Rhinogobius sp. DL

本種は南西諸島に分布する。淡水域に生息する。種別分布図は特に沖縄島と屋久島・種子島の情報が欠けている。

○キバラヨシノボリ(中卵型)(腹部が黄色のもの)Rhinogobius sp. YB

本種は琉球列島に分布している。淡水域に生息する。種別分布図は石垣島・沖縄島の情報が欠けている。

○アオバラヨシノボリ(中卵型)(腹部がるり色のもの)Rhinogobius sp. BB

本種は沖縄島のみに分布している。淡水域に生息している。種別分布図はプロットがひとつしかなく情報不足である。

○トウヨシノボリ(橙色型)Rhinogobius sp. OR

本種は北海道から九州まで分布している。淡水域に生息する。種別分布図は特に北海道の情報が欠けている。

○アヤヨシノボリ(モザイク型)Rhinogobius sp. MO

本種は奄美大島から沖縄島にかけて分布している。淡水域に生息する。種別分布図は本種の分布パターンを表わしている。

○カワヨシノボリ Rhinogobius flumineus

本種は静岡県・富山県以西の本州・四国・九州に分布する。淡水域に生息する。九州の情報を充実させれば種別分布図は本種の分布パターンをほぼ表している。

○タネカワハゼ Stenogobius sp.

本種は南西諸島に分布する。淡水域に生息している。種別分布図は情報不足である。

○チチブ類 Tridentiger spp.

種別分布図は以下のチチブ、ヌマチチブあるいはナガノゴリのいずれかを同定せずにプロットしたもので北海道のプロットがヌマチチブの情報と考えられる以外、分布パターンを基にデータを判定することは困難である。

○チチブ Tridentiger obscurus

本種は青森県から九州まで分布する。主に汽水域に生息するが淡水域にも侵入し、時に陸封化もしている。種別分布図を見ると次者のヌマチチブが本種に同定されている情報が多いものと思われる。情報の再検討を要する。

○ヌマチチブ Tridenfiger brevispinis

本種は北海道から九州にかけて分布する。主に淡水域に生息するが稀に汽水域にも出現する。陸封化も良くおきている。種別分布図は情報不足である。

○ナガノゴリ Tridentiger kuroiwae

本種は南西諸島に分布する。淡水域に分布する。種別分布図は屋久・種子島と石垣島の情報が必要である。

○シマハゼ類 Tridentiger spp.

シモフリシマハゼとアカオビシマハゼのデータが未同定のまま混合されて表われているが、両者の分布パターンを考えた時、内陸部にあるプロットはシモフリシマハゼである可能性が高い。

○シモフリシマハゼ Tridentiger bifasciatus

本種は北海道から九州まで分布する。汽水域に生息するが稀に淡水域にも侵入する。種別分布区は情報不足である。

○アカオビシマハゼ Tridentiger trigonocephalus

本種は北海道から九州にかけて分布する。浅海沿岸域から汽水域にかけて生息している。種別分布図は情報不足である。

○ウロハゼ類 Glossogobius spp.

本項目の分布図は本属に含まれる各種の分布パターンを考えた時、ウロハゼのものであると思われる。

○ウロハゼ Glossogobius olivaceus

本種は新潟県・茨城県から九州・種子島まで分布している。汽水域に分布する。種別分布図は情報不足である。

○コンジキハゼ Glossogobius aureus

本種は南西諸島に分布している。汽水域から淡水域にかけて生息する。種別分布図は情報不足である。

○イワハゼ Glossogobius celebius

本種は宮古島・石垣島・西表島に分布している。淡水域に生息する。種別分布図は西表島以外の情報か必要である。

○ミツボシゴマハゼ Pandaka trimaculata

本種は奄美大島から西表島まで分布している。汽水域に生息する。種別分布図は情報不足である。

○ビリンゴ chaenogobius castaneus

本種は北海道から屋久島まで分布する。汽水域に生息しており、少なくとも陸封型は知られていない。種別分布図は情報不足である。さらに内陸部からの報告はジュズカケハゼの誤固定の可能性が高い。

○シンジコハゼ(仮称)Chaenogobius sp.

本種は宍道湖に分布する。塩分濃度の薄い汽水域に生息している。種別分布図において島根県南部の情報は新知見である。環境庁(1991)は本種を希少種としている。

○ジュズカケハゼ Chaenogobius laevis

本種は北海道〜福井県・長野県・東京都および神奈川県に分布する。淡水域に生息するが北方では汽水域にも出現する。種別分布図は石川県・福井県のデータが必要であり、全体的にはやや情報不足の感があるが、種的分布パターンをほぼ表しているとも思われる。

○ウキゴリ類 Chaenogobius spp.

種別分布図はウキゴリ、シマウキゴリ、スミウキゴリ3種の未同定情報が混合されたデータである。四国南部のプロットはスミウキゴリと考えられる以外、3種の分布を基にデータを判定することは困難である。

○ウキゴリ(淡水型) Chaenogobius urotaenia

本種は北海道・本州・九州に分布している。淡水域に生息し、陸封化個体群も知られている。種別分布図は情報不足である。

○スミウキゴリ(汽水型) Chaenogobius sp.

本種は北海道から屋久島まで分布する。汽水域から淡水域に生息する。種別分布図は情報不足である。

○シマウキゴリ(中流型) Chaenogobius sp.

本種は北海道から茨城県・福井県まで分布している。淡水域に生息する。種別分布図は情報不足である。

○イサザ Chaenogobius isaza

本種の天然分布は琵琶湖内のみである。淡水域に生息する。種別分布図のうち愛知県のデータは移入によるものである。

○エドハゼ Chaenogobius macrognathos

本種は宮城県〜愛知県・大分県・宮崎県に分布する。汽水域に生息している。種別分布図は情報不足である。大阪での分布は新知見と思われるが他種を本種と誤同定した可能性もあり検討が必要である。

○マハゼ Acanthogobius flavimanus

本種は北海道から種子島まで分布している。浅海沿岸域に生息し、しばしば淡水域に侵入する。種別分布図は北海道の情報が少なく、種子島のデータがない等やや情報不足ではあるが全体的に見て本種の分布パターンを完全ではないにしろ表わしているようである。

○ハゼクチ Acanthogobius hasta

本種は有明海および八代海に生息し、幼魚期にはしばしば流入河川の河口域に侵入する。報告が得られず、分布図を作成できなかった。

○アシシロハゼ Acanthogobius lactipes

本種の分布域は北海道から沖縄島までである。汽水域に生息するが淡水域にも侵入する。また陸封個体群も知られている。種別分布図は情報不足である。

○ミミズハゼ類 Luciogobius spp.

ミミズハゼ属は未だ未記載種も多く種の同定が困難なグループであり、本項目のプロットは種未同定の情報であり、生息域も特殊で情報が得にくい。

○ミミズハゼ Luciogobius guttatus

本種は北海道から西表島まで分布している。汽水域から淡水域にかけて生息する。種別分布図は情報不足である。

○イドミミズハゼ Luciogobius pallidus

本種の分布は点在的で佐渡島・静岡県・三重県・和歌山県・高知県・愛媛県・熊本県・山口県・長崎県である。淡水域に生息するが、地下水や礫の下に潜入しており採集は困難である。種別分布図のうち青森県のデータは検討を要するが、その他については本種の分布パターンを表している。環境庁(1991)は本種を希少種としている。

○ドウクツミミズハゼ Luciogobius albus

本種は島根県と五島列島に分布する。洞窟内の淡水域に生息する。種別分布図は本種の分布パターンを表している。環境庁(1991)は本種を希少種としている。

○シロウオ Leucopsarion petersii

本種は北海道から九州まで分布する。浅海沿岸域に生息し産卵期に淡水域に溯上する。種別分布図はデータ不足である。

○ボウズハゼ類 Sicyopus spp.・Lentipes sp.・Stiphodon spp.・Sicyopterus spp.

以下の7種、特にボウズハゼとルリボウズハゼのデータが未同定のまま混入していると思われる。徳島県のデータはこの類の分布から考えてボウズハゼのものと思われる。

○カエルハゼ Sicyopus leprurus

本種は石垣島と西表島に分布している。淡水域に生息する。種別分布図は本種の分布パターンを表している。

○アカボウズハゼ Sicyopus zosterohorum

本種は沖縄島と石垣島に分布している。淡水域に分布する。種別分布図のうち沖縄島の情報がないのは十分な調査にもかかわらず採集されなかったのか調査が不十分だったか不明であり検討を要する。

○ヨロイボウズハゼ Lentipes armatus

本種は奄美大島・沖縄島・石垣島に分布する。淡水域に生息する。種別分布図において沖縄島の情報がないのは前種同様の理由からやはり検討が必要である。

○ナンヨウボウズハゼ Stiphodon elegans

本種は宮崎県と南西諸島に分布している。淡水域に生息する。種別分布図は情報不足である。

○ハヤセボウズハゼ Stiphodon stevensoni

本種は沖縄島、石垣島および西表島に分布している。報告が得られず、分布図が作成できなかった。

○ボウズハゼ Sicyopterus japonicus

本種は栃木県から西表島まで分布する。淡水域に生息している。種別分布図は千葉県・和歌山県・屋久島・種子島等の情報が欠けているが、その他を見た場合本種の分布域をほぼ表わしている。

○ルリボウズハゼ Sicyopterus macrostetholeis

本種は沖縄島・石垣島・西表島に分布している。淡水域に生息する。種別分布図は沖縄島の情報がないが、アカボウズハゼと同様の理由により検討を要する。奄美大島からの情報は新知見である。

○トビハゼ Periophthalmus modestus

本種は東京湾から沖縄島に分布する。浅海沿岸や汽水域の泥干潟に生息している。種別分布図は沖縄島や奄美大島の情報が欠けているがそれを除けば本種の分布パターンをほぼ表しているものと思われる。

○ミナミトビハゼ Periophthalmus argentilineatus

本種は琉球列島に分布する。浅海沿岸や汽水域の泥干潟に生息している。種別分布図は情報不足である。

○ワラスボ Taenioides limicola

本種は有明海および八代海に生息し、流入河川の河口域に侵入する可能性がある。報告が得られず、分布図を作成できなかった。

 

本報で記述したハゼ科魚類61種類についてはすべての種類について以下の文献を引用したので各種の文中に引用文献を記さない。

(岩田 明久)

引 用 文 献

 

明仁親王.1969.ハゼ科魚類の中翼状骨,後鎖骨,鰓条骨,腹鰭,肩胛骨,眼下骨に基づく分類の検討.魚類学雑誌,16(3):93-114.

明仁親王・岩田明久・坂本勝一・池田祐二.1993.ツバサハゼ科,ハゼ科.中坊徹次編.日本産魚類検索−全種の同定.東海大学出版会,東京.p.997-1086.

明仁親王・林 公義・吉野哲夫・島田和彦・瀬能宏・山本隆司.1984.ハゼ亜目.初版,Pages228-276,pls.235-258,353-355in益田 一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝禰・吉野哲夫編,日本産魚類大図鑑.東海大学出版会,東京.

環境庁(編).1991.日本の絶滅のおそれのある野生生物−レッドデータブック−脊椎動物編.(財)日本野生生物研究センター.東京.33lpp.

Katsuyama,I., R. Arai and M. Nakamura. 1972. Tridentiger obscurus brevispinis a new gobiid fish from Japan. Bull. Natn. Sci.Mus., Tokyo, 15(4):593-606,pls.1-2.

益田一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝弥・吉野哲夫編.1984.日本産魚類大図鑑,解説:xx+448pp.,東海大学出版会,東京.

中村守純.1963.原色淡水魚類検索図鑑:1-258,北隆館,東京.

佐藤久三.1993.9氷見地方の川と魚たち.in田中晋編著,とやまの川と湖の魚たち,131-135,シー・エー・ピー,富山.

 

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