5.サケ目

(1)サケ科

○クニマス Oncorhynchus kawamurae

クニマスは、田沢湖(秋田県)にのみ生息していた。昭和15年、水力発電に使用した玉川の酸性水を、本湖に導入したため絶滅したとされる(杉山,1985;環境庁,1991)。近似種のべニサケに比べ、体が黒くて斑点を欠くが(Jordan and McGregor, 1925;大島,1941)、両者を別種にすることに、批判的な考えもある(大島,1975;青柳,1979)。今後、標本の所在や保管状況などを調べ、分類学的に再検討する必要もあろう。大島正満博士生前の談話によれば、クニマスは深い湖にすむため、生きている個体の背部が美しい藍色を呈し、年中、産卵していたという。ベニザケの近縁種が本州に、しかも、日本最深の田沢湖に分布していたことが、興味深い(環境庁,1991)。

○イトウ Hucho perryi

今回は道東、道北、道央から報告された。道南やオホーツク海、日本海に注ぐ河川からはデータがなく、さらに分布を調べる必要があろう。わが国ではイトウは青森県と北海道や南千島に分布するが、現在は本州にいないという(中村,1963)。北海道では道北、道央、オホーツク沿岸、道南の日本海側の河川にすみ(疋田,1951;疋田ほか,1959)、根釧原野を蛇行する諸川に多く、海域で獲れることもある(木村,1966)、池中養殖による種苗生産が可能になった(木村・原,1989)。なお、本種は環境庁(1991)により危急種にされている。

○カワマス Salvelinus fontinalis

北米原産で、冷たい湧水を好む。1901年に初めて日本に移入、以後各地で養殖と放流がなされたが、現在はニジマスに置き替っている(中村,l963)。今回は栃木、埼玉、新潟、福井、長野、岐阜、奈良、山口各県から報告されたが、情報は少なく、カワマス分布の概要を示すとはいい難い。長野県上高地や栃木県日光のカワマスは有名だが、上高地ではイワナとの交雑が憂慮されている(野村ほか,1982)。他に北海道さけ・ますふ化場虹別事業場の湧水(西別川源流)に、本種が大正末期に移殖され、現在も少数が残っているという(疋田豊彦博士談)。山口県のカワマスはサツキマスの可能性もある。

○ミヤベイワナ Salvelinus malma miyabei

オショロコマS. malma krascheninikoviによく似るが、鰭耙が多く二次性徴に若干の違いがある(木村,1976;前川,1977)。この魚は湖沼性で、北海道の然別湖にのみすむ(大島,1961;久保,1967;Maekawa,1978)。分布が局限されているので、生息の実態は大体わかっている。道南の島崎川の本亜種は移殖されたもの。ミヤベイワナはオショロコマと分類学的に極めて近縁であるので、移殖・放流に細心の注意を要する。希少種とされている(環境庁,1991)。

○オショロコマ Salvelinus malma krascheninikovi

日本では北海道にのみすみ、今回その全域から報告された。分布の概要を示しているといってもよい。従来、本種は後志の千走川および日高の新冠川以北に分布し(前川,1977)、道央や知床の山地渓流に多く(浜田,1980;石城,1984)、降海性のものも時にいるという(疋田,1962;Komiyama et al.,1982;斉藤・杉若,1984)。環境庁(1991)はこの魚を希少種にしている。

○イワナ類 Salvelinus leucomaenis spp.

イワナ属のうち、いわゆるアメマス系のものは、形態や体色の変異が著しいために同定が難しい。とりあえずアメマス、ニッコウイワナ、ヤマトイワナ(キリクチを含む)、ゴギに分けて、亜種レベルで整理されている(例えばCavender and Kimura,l989;川那部・水野,1989)。しかし、これらは一般に「イワナ」と呼ばれている。今回もこの名称による報告が多かったので、別にイワナ類として一括した。このメッシュ図は、分布の概略を示しているが、報告には少し偏りがある。宮崎県の記録は、移入によるものであろう。

○アメマス Salvelinus leucomaenis leucomaenis

極東に分布するイワナ類で、降海性のものが多い。わが国では佐渡以北(大島,1961;本間ほか,1981)および北上川以北(稲村・中村,1962)の本州と北海道にすむ(石城,1984)。本州では青森県追良瀬川以北に多い(中村,1963;木村,1974)。今回その分布について新潟県佐渡島の他に長野、山形、秋田、岩手、青森各県および北海道から報告された。本州は別として、北海道のメッシュ図には空白が多いが、分布の実情を大体示しているといえよう。また、長野県上高地にはアメマス河川型の放流記録がある(野村ら,1982)。

○ニッコウイワナ Salvelinus leucomaenis pluvius

北海道と四国を除く各地方から報告された。このメッシュ図は、関東、東北、中部地方太平洋側において情報もれが多いが、大島(1961)、稲村・中村(1962)、今西(1967)らによるニッコウイワナ分布の概略を反映し、東北地方から島根、岡山両県の東部にいたる本州の生息範囲を一応は示している。なお、ニッコウイワナによく似た体色斑紋をもつイワナが北海道や青森県からも知られる(Nagasawa,1989;Goto et al.,1989)。

○ゴギ Salvelinus leucomaenis imbrius

鳥取、島根、岡山、広島、山口各県から報告された。このメッシュ図は従来の知見とほぼ一致する。木村(1977,1980)はゴギの分布について、既知の知見を次のようにまとめている。すなわち、山陰では島根県の斐伊川から高津川にかけて、山陽では岡山県の吉井川からの山口県の岩国川にかけて、ゴギがすむ。しかし、岡山県の高梁川、吉井川、山口県の佐波川のものは、山陰から移殖したものという。他に、広島県下での分布については、佐藤(1963)が詳しい。なお、島根県柿木村の椛谷川(高津川水系)と広島県鹿野町の錦川源流アゲ谷は、わが国におけるイワナ属の天然分布の西限とされている(稲村・中村,1962;今西,1967)。ゴギは環境庁(1991)により危急種にされている。

○ヤマトイワナ Salvelinus leucomaenis japonicus

滋賀、山梨、長野、岐阜、兵庫、奈良、鳥取、島根県から報告されたが、このメッシュ図は分布の実情を示すとはいい難い。大島(1961)、稲村・中村(1962)、上原(1980)によれば、この魚は主に中部地方の太平洋側と琵琶湖の水系に分布する。河川によってはイワナと共にすむという(今西,l967)。また、日本海側の千曲川(長野県)源流からも、ヤマトイワナが記録されている(上原,1980)。両者の形態は酷似し分類学的関係は微妙である。

○レイクトラウト Salvelinus namaycush

イワナ属としては細長い体形。全身に淡色の斑点をもち、尾鰭が深く二叉する。北米大陸原産。湖沼性。全長1m以上になり、原産地では遊漁の対象として人気が高い。水産庁淡水区水産研究所(現在は養殖研究所)が1966年にカナダのオペオンゴ湖より日光支所に移入、中禅寺湖にも放流された(川那部ほか,1989)。今回、この魚に関する情報は全くなく、分布図が作成できなかった。

○キリクチ Salvelinus leucomaenis japonicus

かつては筆者はキリクチを奈良県の熊野川水系川迫川源流の神童子川と小坪谷で採集し、形態がヤマトイワナに一致することを確かめた。紀伊半島のヤマトイワナは一般にキリクチと呼ばれ、絶滅危惧種になっている(環境庁,1991)。同水系の弥山川と河原樋川源流の弓手原川にも、キリクチがすむという(木村英造氏談話)。なお、和歌山県日高川源流トチンド谷のキリクチは、昭和30年頃にいなくなったので、昭和56年から他川産を放流しているという(木村英造氏談話)。このような紀伊半島のヤマトイワナは、日本最南端のイワナ属として、学術的にも貴重である。

○ヒメマス(ベニザケ)Oncorhynchus nerka

北海道、秋田、山形、栃木、群馬、神奈川、長野、山梨、岐阜、富山、各県から報告された。ヒメマスの原産地は北海道の阿寒湖とチミケップ湖で、阿寒湖産が支笏湖を経て、各地に移殖されたという(中村,1963)。メッシュ図は、報告もれが多いが、本州中部以北にこの魚が分布する実情を示している。

○カラフトマス Oncorhynchus gorbuscha

今回は北海道の北見、十勝、日高、渡島、桧山地方および青森県下北半島から報告された。この魚が多い根室地方からの情報は全くなく、このメッシュ図が分布の概略を示すとはいい難い。本種は日本海では石川県沖以北に来遊するが、河川に入らないという(疋田・寺尾,1967)。太平洋では岩手県沖以北にみられ、北海道では遊楽部川、天塩川以北の河川に溯上する(中村,1963)。岩手県の安家川(星合・佐藤,1973)、宮城県の大川(帰山・疋田,1984)でも過去に獲れたことがある。

○マスノスケ Oncorhynchus tchawytscha

今回は静岡県から1例報告があったが、マスノスケであるのか疑わしい。本種は大陸の大きい河川に遡る性質が強く、日本近海では極めて少ない。従来は佐渡、新潟近海、三面川(本間・水沢,1966;深滝,1968;加藤ほか,1982)、山形県の最上川と赤川(山洞,1983)、北海道の天塩川、湧別川、登呂川、斜里川、尾幌川、十勝川で極少数とれている(疋田,1956;Hikita,1962)。なお、マスノスケは昭和34〜38年および同42年〜45年に、米国のワシントン州から北海道ヘ移入、放流された(疋田,1965;北海道さけ・ますふ化場,1969,1970,1971a,1971b)。少数回帰したが、定着するには至らなかったという(山洞,1983)。

○サケ Oncorhynchus keta

天然分布は利根川および福岡県以北の本州、北海道とされる(中村,1963;宮地ほか,1984)。本種の孵化放流が始まって100年以上たち、近年は放流技術の進歩により、北日本における漁獲量は飛躍的に増大している(佐藤,1986)。今回、サケの分布について太平洋側では東京都と神奈川県を除く関東以北の本州、北海道から、日本海側では福岡県以北から報告があった。その他、太平洋側の三重県と和歌山県からも分布が確認されているが、迷入の可能性がある。全体として情報もれがあるが、このメッシュ図が分布の実情を示すといってもよい。過去にも静岡県の浜名湖(市川,1977)、高知県の物部川(谷口・木村,1982)、福岡、佐賀両県の玄界灘沿岸およびそこに注ぐ遠賀川、那珂川、玉島川(木村,1981)および宮崎県(Iwatsuki et al.,1990)からサケが報告されている。しかし、九州、四国からの報告は迷入であって、現在、母川回帰の可能性は考え難い。

○ギンザケ Oncorhynchus kisutch

これまで北海道の遊楽部川、利別川、渚滑川、幌別川、幌内川などから記録されたが、その数は極めて少ないという(Hikita,1962)。本種の分布に関して、青森、秋田、群馬、岩手、宮城、神奈川、新潟から報告が少数ある。このような本州産は移殖・放流によるものである。北海道からは情報がなかった。このメッシュ図からは分布の実態は全くわからない。近年、ギンザケは各地の池や海面で養殖されている。また、北海道では北米から移入した本種の卵を孵化させて、遊楽部川、標津川、伊茶仁川などに放流したことがある(石田ほか,1975;石田ほか,1976;梅田ほか,l981)。そして、道東の標津沿岸で回帰した成魚が若干獲れたが、採卵はできなかったという(奈良ほか,1979)。

○ヤマメ Oncorhynchus masou

今回は北海道、東北、中部、関東、中国、九州各地方から報告された。このメッシュ図から分布の概要を知ることができる。だが、陸封型のヤマメの分布は図をみてもわからない。大島(1957)およびKimura(1990)によるとサクラマス・ヤマメは、アマゴ・サツキマスと異なる分布を示し、太平洋側では関東以北、日本海側では山口県以北の本州と北海道にすみ、九州からも知られる。九州では瀬戸内海側を除くほぼ全域にヤマメがすむ(大島,1957;木村,1959;Kimura,1989)。屋久島の小杉谷と荒川のヤマメは1971年に放流されたもの。近年はしかし、西日本のヤマメ域にアマゴが放流されて、分布が乱れてきた。

○サクラマス Oncorhnchus masou masou

ヤマメが陸海(湖)、成長するとサクラマスになる。したがって、この魚の分布域はヤマメのそれと重複する。その傾向はこのメッシュ図でも明らかである。サクラマスは、山口県以北、利根川以北にすむが(大島,1957)、九州の不和火海、有明海、長崎沿岸からも降海型がとれている(松原,1934;木村・塚原,1969;道津,1977)。

○ビワマス Oncorhnchus masou subsp.

琵琶湖原産の湖沼性の魚で、今回は滋賀、奈良、栃木県から報告された。メッシュ図が本種の分布の実情を示すとはいい難い。また、ビワマスとアマゴは形態と生活史に少し違いがあることがわかっている(加藤,1973,1978)。両者の分布については、このメッシュ図も含めて、再検討が必要であろう。栃木県中禅寺湖のホンマスは、ビワマスかと思われる(川嶋・鈴木,l968)。環境庁(1991)はビワマスを希少種にランクしている。

○アマゴ Oncorhnchus masou ishikawai

今回は中部、近畿、中国、四国、九州各地方から報告された。大島(1957)およびKimura(1989,1990)によると、アマゴは中部地方以南の本州太平洋側、九州瀬戸内海側および四国に分布する。このメッシュ図は九州以外では、この魚本来の分布域をカバーし、しかも本州日本海側のヤマメ域に、アマゴが放流されている実情を示している。宮崎県北部からの今回の報告も、天然分布ではない。筆者の調査によれば、本県下におけるこの魚の天然分布は、祖母山南面の大野川源流のみである。

○サツキマス Oncrhynchus masou ishikawai

アマゴが降海(湖)、成長するとサツキマスと呼ばれる。したがって、この魚の分布域はアマゴと大体重なるが(加藤,1991)、天然ものは長良川にいると考えられる(加藤,1973)。その他は放流によるもの。鳥取県からの報告も天然分布ではない。環境庁(1991)はサツキマスを絶滅危惧種にしている。

○イワメ Oncorhynchus masou

今回は愛媛県、滋賀県から報告された。かつて岐阜県の牧田川にイワメがすむことを、筆者は故今西錦司博士から示唆されたことがある(昭和42年1月6日付私信)。従来も大分県の大野川(Kimura and Nakamura,1961)、愛媛県の面河渓(Ito, et al.,1973)、神奈川県の酒匂川(中村,1970a)、茨城県の高萩川(中村,l970b;位田,1982)、三重県の員弁川(名越,1981;森・名越,1986)からイワメが確かめられている。これらの生息地はほぼ一直線に不連続的に並び、しかも西日本では中央構造線に沿っていることは興味深い。現在はアマゴあるいはヤマメの突然変異型と考えられている(山内,1982;Kimura,1989,川那部・水野,1989)。環境庁(1991)はこの魚を絶滅危惧種にしている。メッシュ図は分布の現状を示すとはいい難い。

○ニジマス Oncorhynchus mykiss

今回は全国から報告された。本種は明治10年に米国から初めてわが国に移入、以後数回移殖され、全国で養殖と放流が行われた(中村,1963)。近年はルアー釣りの流行により、全国の河川湖沼、ダム湖でその姿をみ、天然繁殖をしている所もある。メッシュ図はその分布の概略を示すといえるが、中国地方を除けばデータがやや不足である。

○ブラウントラウト Salmo trutta

今回は、富山県以北の本州、北海道から報告された。このメッシュ図には、報告もれが多く、分布の実情を示すとはいい難い。ブラウントラウトはヨーロッパ原産で、米国からカワマス卵に混じって移入された(中村,1963)。近年はルアー釣りの流行に伴い、各地の河川湖沼、ダム湖などに放流されている。自然繁殖の例は少ない。野村ら(1982)によると、長野県上高地の明神池に、カワマスとともに定着し、自然繁殖している。

(木村 清朗)

引 用 文 献

青柳兵司. 1979. 日本列島産淡水魚類総説. (財)淡水魚類保護協会, vi+ii+272 pp. +xvii+xx. (復刻版. 原著は1957年に大修館より発行)

Cavender, T. M. and S. Kimura. 1989. Cytotaxonomy and interrelationships of Pacific basin Salvelinus. Physiol. Eco1. Japan. Spec. Vol. 1:49-68.

Goto, A.,M. Takahashi and F. Yamazaki. 1989. White-spotted and red-spotted morphs as a phenotypic variation of the japanese charr Salvelinus leucomaenis in the rivers of southern Hokkaido, Japan. Physiol. Ecol. Japan. Spec. Vol.1:421-428.

浜田啓吉. 1980. オショロコマ. 日本自然保護協会編, 環境庁委託第2回自然環境保全基礎調査動物分布調査報告書(淡水魚類)全国版:33-38. 東京,(財)日本自然保護協会.

疋田裕雍. 1951. 北海道各河川及びそれらの河口附近に産する魚類と水産物. 北海道さけ・ますふ化場試験報告, 11:155-170.

疋田裕雍. 1956. 北海道沿岸及び河川で捕られる太平洋鮭鱒類. 孵化場試験報告, 11:25-44.

Hikita, T. 1962. Ecological and morphological studies of the genus Oncorhynchus(Salmonidae)with particular consideration on phylogeny. Sci. Rept. Hokkaido Salmon Hatchery, 17:1-97.

疋田豊彦. 1962. 北海道東部河川に溯上したオショロコマについて. 水産孵化場研究報告,17:59−63.

疋田豊彦. 1965. 十勝川および日高沿岸に採捕されたマスノスケ成魚と幼魚. 北海道さけ・ますふ化場研究報告, 19:43-47.

疋田豊彦・亀山四郎・小林明宏・佐藤行孝. 1959. 西別川におけるニジマスの生物学的調査, 特に害魚の食性に就いて. 北海道さけ・ますふ化場研究報告, 14:91-120.

疋田豊彦・寺尾俊郎. l967. 千歳川で再びカラフトマス捕わる. 北海道さけ・ますふ化場研究報告, 21:77-79.

北海道さけ・ますふ化場. 1969. 昭和42年度事業成績書. 北海道さけ・ますふ化場:1-145.

北海道さけ・ますふ化場. 1970. 昭和43年度事業成績書. 北海道さけ・ますふ化場:1-202.

北海道さけ・ますふ化場. l971a. 昭和44年度事業成績書. 北海道さけ・ますふ化場:1-260.

北海道さけ・ますふ化場. 1971b. 昭和45年度事業成績書. 北海道さけ・ますふ化場:1-241.

本間義治・井上信夫・松本史郎. 1981. 佐渡島の淡水魚類相. 動物と自然, 11(6):30-34.

本間義治・水沢六郎. 1966. 新潟県魚類目録補訂. [. 魚類学雑誌, 14(1/3):53-61.

星合愿一・佐藤隆平. 1973. 本州太平洋岸の安家川にそ上したカラフトマスについて. 魚類学雑誌, 20(2):125-126.

深滝弘. 1968. 日本海におけるマスノスケの分布南限とその起源に関する考察. 日本海区水産研究所報告, 19:29-41.

位田俊臣. 1982. 茨城県の無紋ヤマメについて. 淡水魚(増刊), ヤマメ・アマゴ特集:112-114.

今西錦司. 1967. イワナ属−その日本における分布−. 森下・吉良編:自然生態学的研究(今西錦司博士還暦記念論文集):3-46, 東京, 中央公論社.

稲村彰郎・中村守純. 1962. 日本産イワナ属魚類の分布と変異. 資源科学研究所彙報, 58・59:64-78.

石田昭夫・田中哲彦・亀山四郎・佐々木金吾・根本義昭. 1975. ユーラップ川に放流した北米産ギンザケについて. 北海道さけ・ますふ化場研究報告, 29:11-15.

石田昭夫・辻弘・多田川隆良・奈良和俊. 1976. 標津川に放流した北米産ギンザケについて. 北海道さけ・ますふ化場研究報告, 30:47-53.

石城謙吉. 1984. イワナの謎を追う. 岩波新書:1-216, 東京, 岩波書店.

市川健夫. 1977. 日本のサケ、その文化誌と漁. NHKブックス:1-242. 東京, 日本放送出版協会.

Ito, T., J. Isa and A. Yamauchi. 1973. 0n a rare salmonid fish, Oncorhynchus iwame Kimura et Nakamura, found in a mountain stream of the Omogo River system, Shikoku. Mem. Ehime Univ., Sci. Ser. B.(Biology), 7(2):30-36.

Iwatsuki, Y., S. Kimura, J. Yasumoto and M. Akazaki. 1990. A record of the chum salmon, Oncorhnchus keta caught from most south-west boader, Miyazaki Prefecture. Bull. Fac. Agr. Miyazaki Univ., 37(1):115-118.

Jordan, D. S. and E. A. McCregor. 1925. Family Salmonidae. Pages 122-146 in D. S. Jordan and C. L. Hubbs eds. Record of fishes obtained by David Starr Jordan in Japan, 1922. Mem. Carnegie Mus.. 10(2):93-347.

環境庁(編). 1991. 日本の絶滅のおそれのある野生生物−レッドデータブック−脊椎動物編.(財)日本野生生物研究センター. 東京. 331pp.

加藤史彦・山洞仁・野田栄吉. 1982. 日本海におけるマスノスケの漁獲記録. 日本海区水産研究所報告, 33:41-54.

加藤文男. 1973. 伊勢湾で獲れたアマゴの降海型について. 魚類学雑誌, 20(2):107-117.

加藤文男. 1978. 琵琶湖水系に生息するアマゴとビワマスについて. 魚類学雑誌, 25(3):197-204.

加藤文男. 1991. 福井県の水域に分布するアマゴの形態と生態. 金沢大学日本海域研究所報告23:91-104.

川那部浩哉・水野信彦編. 1989. 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚. 山と渓谷社.

川嶋和雄・鈴木亮. 1968. 日本産サケ属魚類 2,3種における鱗相の比較研究. 淡水区水産研究所報告, 18:49-59.

木村清朗. 1959. 祖母・傾山群のエノハ. 加藤数功・立石敏雄編, 祖母大崩山群:109-199. 福岡市, しんつくし山岳会.

木村清朗. 1966. イトウ Hucho perryi(Brevoort)の生活史について. 魚類学雑誌, 14(1/3):17-25.

木村清朗. 1974. アメマス Salvelinus leucomaenisのものと思われる卵, 仔・稚魚について. 魚類学雑誌, 21(2):85-91.

木村清朗. 1976. ミヤベイワナとその仔・稚魚・九州大学農学部学芸雑誌, 30(4):191-197.

木村清朗. 1977. ゴギの産卵習性と仔稚魚. 九州大学農学部学芸雑誌, 32(2・3):125-140.

木村清朗. 1980. ゴギ. 日本自然保護協会編, 環境庁委託第2回自然環境保全基礎調査動物分布調査報告書(淡水魚類)全国版:41-45. 東京,(財)日本自然保護協会.

木村清朗. 1981. 九州北部におけるサケの捕獲例. 魚類学雑誌, 28(2):193-196.

Kimura, S. 1989.The Yamame, land-locked masu salmon of Kyushu Island, Japan. Physiol. Ecol. Japan, Spec. vol. 1:77-92.

Kimura, S. 1990. 0n the type specimens of Salmo macrostoma, Oncorhynchus ishikawae and 0. rhodurus. Bull. Inst. Zool. Academia Sinica, 29(3):1-16.

Kimura, S. and M. Nakamura. 1961. A new salmonid fish, Oncorhynchus iwame sp. nov., obtained from Kyusyu, Japan. Bull. Biogeograph. Soc. Japan, 22(5):69-74.

木村清朗・塚原博. 1969. 有明海で獲られたギンケヤマべについて. 魚類学雑誌, 16(4):131-134.

木村志津男・原彰彦. 1989. 池中養成イトウ Hucho perryi(Brevoort)の飼育および人工採卵.水産増殖. 37(2):121-128.

帰山雅秀・疋田豊彦. 1984. 本州太平洋岸気仙沼大川にそ上したカラフトマス. 魚類学雑誌, 20(2):125-126.

Komiyama, E., N. Ohtaishi and K. Maekawa. 1982. Occurrence of a sea-run type of the Dolly Varden in Shiretoko Peninsula, Hokkaido. Japan. J. Ichthyol., 29(3):298-302.

久保達郎. 1967. 北海道然別湖のオショロコマ Salvelinus malmaに関する生態学的並びに生理学的研究. 北海道さけ・ますふ化場研究報告, 21:11-31.

前川光司. 1977. 然別湖産イワナの変異性に関する研究. V. オショロコマ Salvelinus malmaの地理的変異と然別湖産のイワナの形態学的特徴. 魚類学雑誌, 24(1):49-56.

Maekawa, K. 1978. Growth and development of Salvelinus malma miyabei compared with other forms of S. malma. Japan. J. Ichthyol., 25(1):9-18.

松原喜代松. 1934. 熊本県沖合で獲れし鱒について. 養殖会誌, 4(3):114-117.

道津喜衛. 1977. 長崎県野母崎町沿岸でとれたサクラマス. 長崎県生物学会誌, 13:17-19.

宮地伝三郎・川那部浩哉・水野信彦. 1984. 原色日本淡水魚類図鑑(全改訂新版)462pp., 東京, 保育社.

森誠一・名越誠. 1986. 三重県三国谷のイワメとアマゴにおける形態比較. 三重大学水産学部研究報告, 13:135-143.

Nagasawa, K. 1989. Color variation of spots in Salvelinus leucomaenis in northern Honsyu, Japan. Physiol. Ecol. Japan. Spec. 1:69-76.

中村守純. 1963. 原色日本淡水魚類検索図鑑:1-260, 東京, 北陸館.

中村守純. 1970a. 東日本でとれたイワメ. つり人, 294:47-49.

中村守純. 1970b. 再び東日本でとれたイワメ. つり人, 295:67-69.

名越誠. 1981. 三重県三国谷のイワメとアマゴ. 関西自然保護機構会報, 7:5-8.

奈良和俊・清水勝・奥川元一・松村幸三郎・梅田勝博. 1979. 標津川に放流した北米産ギンザケについて, 第2報. 北海道さけ・ますふ化場研究報告, 33:7-16.

野村稔・上原武則・奥原保憲・木村英造・木村清朗・久保達郎・鈴木亮・富永正雄・中村守純・吉田利男・吉安売彦. 1982. 上高地・梓川上流域におけるイワナに関する検討会報告書:1-92, 東京, 環境庁.

大島正満. 1941. 鮭鱒族の稀種田沢湖の国鱒に就いて. 日本学術協会報告, 16(2):254-259.

大島正満. 1957. 桜鱒と琵琶鱒, 79pp., 札幌, 楡書房.

大島正満. 1961. 日本産イワナに関する研究. 鳥獣集報, 18(1):1-70.

大島正満. 1975. 脊椎動物大系 魚. 金子書店. 東京, ii+vii+661 pp.+i+xxxxv+xxxxiv. (復刻版, 原著は1940年に三省堂より発行)

斉藤譲二・杉若圭一. 1984. 暑寒別川に溯上したオショロコマについて. 水産孵化場研究報告, 17:59-63.

佐藤重勝. 1986. サケ つくる漁業への挑戦. 岩波新書, 212pp., 東京, 岩波書店.

佐藤月二. 1963. ゴギ(中国地方のイワナ). 広島県教育委員会編, 広島文化財調査報告書, 第3集(天然記念物編):3-30, 広島, 広島教育委員会.

杉山秀樹. 1985. 秋田の淡水魚. 秋田魁新報社:168pp.

谷口順彦・木村清朗. 1982. 高知県の物部川で獲れたサケについて. 高知大学海洋生物研究センタ−研究報告, 4:55-57.

上原武則. 1980. 中部山岳河川産イワナの2型. 淡水魚(増刊), イワナ特集, 6(1):30-34.

梅田勝博・松村幸三部・奥川元一・佐沢力男・本間広己・荒内学・笠原恵介・奈良和俊. 1981. 伊茶仁川に放流した北米産ギンザケについて. 北海道さけ・ますふ化場研究報告. 35:9-23.

山内晃. 1982. イワメの人工ふ化とイワメ×アマゴの交配実験を終わって. 淡水魚(増刊)ヤマメ・アマゴ特集:119-124.

山洞仁. 1983. 山形県最上川と赤川に溯上したマスノスケ. 淡水魚, (9):81-84.

 

(2)コレゴヌス科

○シナノユキマス Coregonus lavaretus maraena

シナノユキマスは1975年に東ヨーロッパのプラハから長野県に移入されたもので(富永,1983)、シロマス亜科に属する。この亜科は新旧両大陸の高緯度地方の湖沼に分布し、多くの種や亜種が報告されている。シナノユキマスは長野県下の湖沼に放流されている(川那部・水野,1989)。メッシュ図は分布の現況を一応示している。

(木村 清朗)

引 用 文 献

川那部浩哉・水野信彦編. 1989. 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚. 山と渓谷社. 東京, 719pp.

富永正雄. 1983. 導入新魚種コレゴヌスについて. 淡水魚,(9):29−31.

(3)アユ科

○アユ Plecoglossus altivelis altivelis

北海道の余市川以南の全国にすみ(中村,1963;宮地ら,1963)、南西諸島からは別亜種のリュウキュウアユP. altivelis ryukyuensisが知られる(Nishida,1986)。今回は北海道の渡島、桧山以南の日本全域から、アユの分布が報告された。東北、九州、四国では報告もれも多いが、その生息は確実である。現在、日本の河川は堰やダムのため、アユの天然溯上は難しく、稚アユ放流によって、その資源を維持している。メッシュ図は分布の実状を示している。

○リュウキュウアユ Plecoglossus altivelis ryukyuensis

リュウキュウアユは奄美大島から報告があった。本亜種は沖縄島と奄美大島に分布するが(Nishida,1988)、沖縄島では1970年代末に姿をみなくなったという(川那部・水野,1989)。現在、奄美大島産の本亜種を沖縄島に定着させる試みがなされている(池原・諸喜田,1994)。今回は奄美大島からのみ報告された。環境庁(1991)は本亜種を絶滅危惧種にしている。データは少ないが、分布の実態を示すといえよう。

(木村 清朗)

引 用 文 献

池原貞雄・諸喜田茂充. 1994. 琉球の清流−リュウキュウアユのすめる川を未来ヘ−(有)沖縄出版, 沖縄県, 229pp.

環境庁(編). 1991. 日本の絶滅のおそれのある野生生物−レッドデータブック−脊椎動物編. (財)日本野生生物研究センター. 東京331pp.

川那部浩哉・水野信彦編. 1989. 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚 山と渓谷社. 東京, 719pp.

宮地伝三部・川那部浩哉・水野信彦. 1963. 原色日本淡水魚類図鑑(初版). 保育社, 大阪, xi+259pp.

中村守純. 1963. 原色日本淡水魚類検索図鑑:1-260, 東京, 北陸館.

Nishida, M. 1988. A new subspecies of the ayu Plecoglossus altivelis(Plecoglossidae)from the Ryukyu Islands. Japan. J. Ichtyol. 35(3):236-242.

 

(4)キュウリウオ科

○キュウリウオ Osmerus eperlanus mordax

日本では北海道のみに分布し、太平洋及びオホーツク海に多い。国外では朝鮮半島から沿海州、カムチャッカ、アラスカを経てカナダの太平洋・大西洋沿岸域に広く分布する(McAllister,1963;柳川,1990)。日本では普通沿岸域に生息し、産卵期に河川に入る。溯上河川は連続しておらず複数の河川からなる河川群を形成する。噴火湾の森、日高海域、厚岸海域、オホーツク海紋別海域にそれぞれ異なった群が存在する(丸山,1991)。今回の調査では北海道東部の河川の情報が総じて少ない。

○シシャモ Spirinchus lanceolatus

日本固有種で、北海道噴火湾から襟裳岬を経て尾岱沼までの太平洋沿岸に分布する(疋田,l956)。沿岸で生活し、産卵期に河川に溯上する。以前は道南の遊楽部川、長万部川や道東の別寒辺牛川などにも溯上が見られたが、現在では鵡川、沙流川、十勝川、茶路川、庶路川、阿寒川、釧路川などに限られる(吉田,1991)。前回よりも情報が増えたが、道東域のものが不足している。

○ワカサギ Hypomesus transpacificus nipponensis

日本では太平洋側の霞ヶ浦、北浦、日本海側の鳥取県中海、宍道湖以北の本州及び北海道に自然分布する(柳川,1990)。太平洋側では少なく、北海道以北の太平洋岸で自然分布が確認できるのは国後島の東沸湖だけであり、他は移殖か湖からの流下した疑いが強い。本州でも自然分布は小川原湖水系、霞ヶ浦、北浦水系に限られる。日本海側の主な自然分布河川は天塩川、石狩川、十三湖、八郎潟、河北潟、湖山池、中海、宍道湖などである。内陸湖沼のものはすべて移殖による(浜田,1980)。自然分布河川、湖においても移殖群との間で競争が生じている。今回の情報はほぼ既知分布の現状を示している。

○イシカリワカサギ Hypomesus olidus

日本では北海道にのみ分布する。石狩川水系では石狩古川、袋地沼、菱沼、月ヵ湖に分布するが、石狩古川に多い。余市川水系余市古川が日本における分布の南限で、天塩川水系のパンケ湖は北限である。また、塘路湖、シラルトロ湖、達古武湖(移殖)からも知られている(Hamada,1961;浜田,1988;田中,1970)。国外では朝鮮半島元山、沿海州、サハリンからアラスカ、カナダ西岸までに分布する。北海道では河川下流域に連なる湖沼、河跡湖などに生息し、陸海型は知られていない。今回の調査では石狩地方の情報が得られたが、全体に不足している。

(尼岡 邦夫)

引 用 文 献

Hamada, K. 1961. Taxonomic and ecological studies of the genus Hypomesus of Japan. Mem. Fac. Fish. Hokkaido Univ., 9(1):1-55.

浜田啓吉. 1980. 日本の淡水生物(川合ら編):45-55. 東海大学出版会, 東京

浜田啓吉. 1988. イシカリワカサギ. 動植物分布調査報告書, 淡水魚類. 第3回自然環境保全基礎調査:207. 環境庁

疋田豊彦. 1956. 北海道各河川及びその河口附近に産する魚類と水産動物. 北海道水産ふ化場試験報告, 11:155-170.

丸山秀佳. 1991. キュウリウオ. 北のさかなたち(長澤和也・鳥澤雅編):24-25. 北日本海洋センタ−

McAllister, D. E. 1963. A revision of the smelt, family Osmeridae. Bull. Nat. Mus. Canada, 191:1-53.

田中寿雄. 1970. 北海道に於けるイシカリワカサギ Hypomesus olidusの生息地とその環境条件. さけますふ化場研究報告. 25:113-117.

Yanagawa, H. 1981. Studies on the local form and dispersal of the chika, Hypomesus pretiosus japonicus(Brevoort)in Japan. Mem. Fac. Fish. Hokkaido Univ., 27:1-78.

柳川弘行. 1990. ワカサギ,チカ. 日本の淡水魚(川那部浩也哉・水野信彦編):60-65. 山と渓谷社

吉田英雄. 1991. シシャモ. 北のさかなたち(長澤和也・鳥澤雅編):26-29. 北日本海洋センター

(5)シラウオ科

○シラウオ Salangichthys microdon

岡山県以北の太平洋岸および九州西岸から北海道に至る裏日本に分布する(Wakiya and Takahasi, l937:青柳, 1979)。本種の分布について、今回は広島、徳島県以北から報告された。データもれが多い。このメッシュ図はシラウオ分布の傾向を示す程度。従来、本種は茨城県(藤木,1954)、愛知県の豊川や矢作川(堀田・田村,1954)から知られている。そして、近年も島根県の宍道湖、中ノ海(島根大学地域分析研究会,1971;越川,1985;平塚,1985)、茨城県の霞ヶ浦、北浦(中村ほか,1971)、岡山県の高梁川(千田,1973a,1973b)でシラウオが漁獲されており、日本の各地に生息すると考えられる。

○イシカワシラウオ Salangichthys ishikawai

今回は報告が極めて少なかったが、宮崎県で獲れている。Wakiya and Takahasi(1937)によれば、宮城県から和歌山県にいたる本州太平洋側に、この魚が分布するという。そして近年も、茨城県沿岸(堀,1971a,1971b)、福島県の新地および請戸(竹内,1972,1974)において、シラス曳網で漁獲されている。なお、Senta et al.(1986)は浜名湖から房総半島にいたる地域の砕波帯で、イシカワシラウオの仔魚を採集、報告している。このメッシュ図は本種の分布の実状を示すとは到底いい難い。

○アリアケシラウオ Salanx ariakensis

有明海、朝鮮半島および華北沿岸に分布する(Wakiya and Takahasi,1937;内田・塚原,1955)。本種の分布について、福岡、佐賀、熊本県から報告があった。メッシュ図は分布の大要を示している。絶滅危惧種である(環境庁,1991)。秋に産卵するが、有明海におけるアリアケシラウオの生息状況や生活史などは、まだ明らかでない。

○アリアケヒメシラウオ Neosalanx regani

本種は日本固有種で、福岡、佐賀両県地先の筑後川感潮域にすみ(田北,1966)、現在も春先に極く少数がシラスウナギと混獲される。田北(1984)および田北ほか(1988)はまた、アリアケヒメシラウオが、熊本県の緑川感潮域に生息することを確認している。佐賀県嘉瀬川からも記録がある(佐賀新聞,1992)。環境庁(1991)は本種を絶滅危惧種にしている。

(木村 清朗)

(6)サバヒー科

○サバヒー Chanos chanos

本種は主に、西部太平洋と紅海を含むインド洋の熱帯・亜熱帯域の沿岸に分布する(加福,1975:上野,1984)。中米西岸にも分布するとされ、日本における採集記録の北限は幼魚・未成魚ともに相模湾とされている(千田,1982)。主に海で生活する種であるが、低塩分耐性が強いこともあってしばしば河川の汽水域や純淡水域まで侵入することがある。九州以南とりわけ南西諸島の河口汽水域や水田用の潅漑用水路などでも記録され(瀬能・鈴木,1980;林,1985)、これらは自然分布である。東南アジアでは本種の養殖が盛んであり、フィリピンでは「国を代表する魚」として知られている。種子島でも本種の養殖に取り組んだことがある。今回の調査では記録されておらず、分布調査の結果は情報不足といえる。

(林 公義)

引 用 文 献

青柳兵司. 1979. 日本列島産淡水魚類総説. (財)淡水魚類保護協会, vi+ii+272pp. +xvii+xx.(復刻版. 原著は1957年に大修館より発行)

林公義. 1985. l. 南西諸島の陸水性魚類. 南西諸島とその自然保護 そのU, 財団法人・世界野生生物基金日本委員会:210-221.

平塚純一. 1985. 宍戸湖の桝網で漁獲された魚類. 淡水魚,(11):15-19.

堀田秀之. 田村正. 1954. シラウオ Salangichthys microdon Bleekerの生態について. 北海道大学水産学部彙報,5(1):41-46.

掘義彦. 1971a. イシカワシラウオ Salangichthys ishikawai Wakiya et Takahashiの生活について. T. 成長・二次性徴・卵巣・抱卵数について. 茨城県水産試験場報告, 昭和43年度:41-46.

堀義彦. 1971b. イシカワシラウオ Salangichthys ishikawai Wakiya et Takahashiの生活について. U. 漁獲量・漁場について. 茨城県水産試験場報告, 昭和45年度:26-31.

藤本武. 1954. シラウオ Salangichthys microdon(Bleeker)の抱卵数について. 茨城県水産試験場報告, 昭和25・26年度:143-145.

加福竹一郎. 1975. 栽培漁業の新しい主役−サバヒー. 自然, (5):70-77.

環境庁(編). 1991. 日本の絶滅のおそれのある野生生物−レッドデータブック−脊椎動物編. (財)日本野生生物研究センター. 東京. 331pp.

越川敏樹. 1985. 天道湖とその周辺水域の魚類. 淡水魚, (11):10-14.

中村守純・竹内直政・一升輝吉, 川合春子・樋口洋子・木村忠亮・松島四郎・日置勝三・秋山哲雄・栢口実. 1971. 魚介類調査. 霞ヶ浦・北浦水産生物調査報告書:1-65, 東京, 水資源開発公団.

佐賀新聞. 1992. アリアケヒメシラウオ確認. 佐賀新聞朝刊(平成4年12月8日).

瀬能宏・鈴木寿之. 1980. 八重山列島の淡水魚(T). 淡水魚, (6):54-66, pls. 1-8.

千田哲資. 1973a. 岡山県高梁川におけるシラウオの産卵場. 魚類学雑誌, 20(1):25-28.

千田哲資. 1973b. 岡山県高架川における産卵期のシラウオ. 魚類学雑誌, 20(1):29-35.

千田哲資. 1982. 日本のサバヒー, T 幼魚〜未成魚の記録. 海洋と生物, 4(3):162-167.

Senta, T., Kinoshita, I. and Kitamura, T. 1986. Larval ishikawa icefish, Salangichthys ishikawae from surf zones of central Honshu, Japan. Bull. Fac. Fish. Nagasaki Univ., 8:29-34.

島根大学地域分析研究会編. 1971. 飫宇の入海、中海とその干拓淡水化をめぐって:1-221. たたら書房, 米子.

竹内啓. 1972. 福島県産シラウオの研究. T. 種の査定. 福島県水産試験場研究報告, 1:1-6.

竹内啓. 1974. 福島県産シラウオの研究. U. イシカワシラウオの産卵期. 福島県水産試験場研究報告, 2:1-8.

田北徹. l966. アリアケヒメシラウオの生態, 生活史. 長崎大学水産学部研究報告, 21:159-170.

田北徹. 1984. アリアケヒメシラウオについて. 淡水魚,(10):54-58.

田北徹・川口和宏・増谷英雄. 1988. アリアケヒメシラウオの分布と形態. 魚類学雑誌, 34(4):497-503.

上野輝弥. 1984. サバヒー科. 日本産魚類大図鑑・解説. (益田一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝弥・吉野哲夫編), 53. 東海大学出版会, 東京.

内田恵太郎・塚原博. 1955. 有明海の魚類相について. 日本生物地理学会会報(日本動物相の研究), 16-19:292-302.

Wakiya, Y & Takahasi, N. 1937. Study on fishes of the family Salangidae. J. Coll. Agr. Tokyo Imp. Univ., 14(4):265-296.

 

目次へ