発刊によせて

上野 俊一

 

 昭和59(1984)年度に実施された第3回自然環境保全基礎調査動植物分布調査で、両生爬虫類に関する部門は対象を全種にひろげることになり、その方針に従って調査が行なわれた。その経緯は、第3回の報告書(1988)のはじめに詳しく記されている。

 しかし、方針決定の時点ですでに危惧されていたとおり、調査の結果に地域によるかなり大きい偏りの生じたことは、誰の目にも明らかであった。たしかに、十分に満足できる成果が多くの地方で得られたが、その反面、まったくの空白となった地域も目立った。要するに、両生爬虫類に関心のある人が存在する地域と、そうでない地域とのあいだに、極端な格差ができたことになる。

 これらの空白を、どのようにして埋めていけばよいか、という難題を解決するために、両生爬虫類分科会で討議が行なわれた。いうまでもなくもっとも望ましいのは、信頼のおける調査者をそれぞれの空白地域に育てることである。しかし、2〜3年のうちに有能な調査者を得ることは、ほとんど不可能に近い。当面、考えられる最良の対策は、専門の研究者による現地調査しかないだろう、というのがひとつの結論だった。それと同時に、既存の標本資料のうち、当該空白地域に関するものをもう一度、重点的に調べ直して、過去の記録からも基礎資料の充実に努めることになった。

 この報告書には、以上のような計画を合わせて実施された、第4回自然環境保全基礎調査の成果がまとめられている。一見してわかるように、北海道の北部や四国など、過去の調査で明らかにされなかった地域の状況がかなり判明し、利尻島や礼文島などの島嶼部からも、ある程度の資料が得られた。もちろん、これらのデータの多くは、1回かせいぜい2回程度の現地調査によるものなので、きわめて表面的だといわざるを得ない。それでも、これまでの知見がまったくの空白であった地域に、これだけの記録がプロットされた意義は非常に大きい。今後の課題は、これらの地域に有能な調査者を養成し、基礎資料の厚みを増していくことだろう。一朝ータにできることではないが、その実現に向けての第一歩を、今回の調査で踏み出したと考えたい。

 4名の委員によって執筆された考察には、今回の基礎調査で直接に得られた成果ばかりでなく、さまざまなほかの出所に基づく情報が大幅に取り入れられている。その量は、ことによると基礎調査本来の成果を上まわるかもしれない。しかし、日本の自然環境保全に資する記録をできるだけ充実させる、という重要な作業に鑑みて、入手できる情報を可能なかぎり活用して欲しいとあえてお願いした。無理な仕事を進めてくださった委員の皆さん、基礎調査の資料集積に協力してくださった調査者および貴重な情報を快く提供してくださった多くの方々に厚くお礼を申しあげたい。

 

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