まとめ

 

1.調査結果の概略

集団繁殖地や集団ねぐらを形成することが知られているカワウ,サギ類,コアジサシ,チョウゲンボウ,ヒメアマツバメ,ツバメ類,セキレイ類,スズメ,ムクドリ,カラス類の22種を対象に分布状況と生息環境についてアンケート調査と現地調査を行った。

アンケート調査は1989年および1990年に日本野鳥の会会員や鳥獣保護員などを対象に行い864名から合計1,815件の分布情報を得た。また,1986年から1993年の間に報告された文献によりアンケート調査を補足した。

現地調査は,1991年6月から1992年8月にかけて11都道府県を対象に行い,のべ521か所の集団繁殖地と集団ねぐらについて利用個体数と環境特性等の詳細について記録と分析を行った。

これらの調査の結果,1メッシュが5万分の1地形図のサイズのメッシュ地図により全国の分布状況を25枚の分布図にまとめた。本調査で得た分布情報の概要は表4のとおりである。

 

2.保護対策

以上で述べた結果をまとめ,調査を行なったそれぞれの分類群の保護の必要性,保護対策のあり方を整理した。現状で保護対策が特に必要でない場合にも,それらの鳥に対して,どのような配慮が必要なのかをまとめた。

 

1)集団繁殖地又は集団ねぐらの数が少なく,分布域も縮小しつつある分類群

集団繁殖地を形成する種のうち,今回の調査によって十分な情報が得られたにも関わらず,確認された集団繁殖地数が比較的少ない分類群は,カワウ,サギ類,コアジサシ,チョウゲンボウであった。これらの分類群のうち,集団繁殖地の分布域が減少傾向にあると考えられたのはコアジサシとサギ類の内の,ササゴイとチュウサギであった。とくに,この3種については,さまざまな保護対策が必要なものと思われる。

コアジサシが集団繁殖地として利用していた場所は,ほとんどが理め立て地にある裸地だった。これらの埋め立て地は,本来,工場や倉庫などの建築物をたてるためにつくられたものであり,これらの理め立て地で長年継続できる繁殖地はない。東京湾の埋め立て地では,2年連続で同じ場所に繁殖した例は,数例しかなかった。今後,日本中の理め立て地での土地利用が進み裸地がなくなれば,コアジサシが急速に減少することが予測される。コアジサシの安定した集団繁殖地をつくるためには,今後コアジサシの繁殖できるような数100m2以上の裸地の維持を可能とするような何らかの対策が必要である。

サギ類は,繁殖期のはじめに,人などが集団繁殖地内に侵入すると,その集団繁殖地を放棄することが観察されている。したがって,人が立ち入らないような林を維持することが,サギ類の集団繁殖地を確保するために重要だと考えられる。その一方,実際に利用している集団繁殖地の林はさまざまな構造をもっており,特定の樹種等への要求は大きくないものと思われた。

ササゴイやチュウサギが減少している原因としては,採食場所として利用している水田や河川などの湿地の減少と,構造の変化などが考えられた。ササゴイやチュウサギを保護するためには,これらのサギにとって重要な採食環境を保全することが重要だろう。具体的には,ササゴイの採食場所になるような浅い池や沼,河川の環境を保全すること,チュウサギの採食場所になるように水田の耕作様式を,魚類や両生類が生息できるような形にすることなどが必要である。

集団ねぐらを形成する種のうち,今回の調査によって充分な情報が得られたにも関らず,確認された集団ねぐらの数が比較的少ない分類群は,サギ類(アオサギ,ダイサギ,コサギ,ゴイサギ)とツバメであった。これら2つの分類群とも,分布域は安定しているか,やや減少傾向にあると考えられた。

サギ類については,集団ねぐらがつくられる場所を確保するには,集団繁殖地と同様に人やその他の外敵が接近できないような場所が必要だと考えられた。また,サギ類にとっては,利用しやすい採食環境を維持することが,より重要だと考えられた。

ツバメ類が集団ねぐらを形成しているのは,ほとんどがヨシ原であった。しかも,10,000羽以上のツバメが利用する大規模な集団ねぐらは,面積が10,000m2以上の広いヨシ原であった。集団ねぐらの減少には,このような広いヨシ原が少なくなっていることが関係していると思われる。ツバメを保護するためには,このような面積10,000m2以上のヨシ原を保護していくことが重要だと思われる。

 

2)集団繁殖地又は集団ねぐら数は少ないが分布域が拡大しつつある分類群

カワウ,アオサギ,アマサギの集団繁殖地とチョウゲンボウの繁殖地については,数は少ないが分布域は拡大傾向にあることが確認された。ゴイサギ,コサギ,そしてダイサギは,集団繁殖地の数は少ないが分布域はほぼ安定していた。また,ショウドウツバメは,得られた情報が少なく,分布域が減少しつつある傾向は得られなかった。これらの種は,至急保護対策をとる緊急性はないものの,今後も個体数の変化などには注意が必要である。個体数が少ないため,何らかの理由で減少した場合,絶滅する可能性が高いからである。

カワウでは,それぞれの集団繁殖地で個体数が増加しており,新しい集団繁殖地も形成されたりしていた。しかし集団繁殖地が分布する地域は,青森県陸奥湾,東京湾,静岡県,伊勢湾,滋賀県,大分県に限られている。これは,カワウが大型の鳥類で,生息するためには大量の魚類が必要であり,このような魚類が豊富に存在する場所が限られていることなどが考えられる。したがって,カワウが採食地として利用している陸奥湾,六か所湖沼群,東京湾葛西沖や三番瀬,伊勢湾,三河湾,琵琶湖といった浅い海や湖沼,利根川のような大河川の環境を保全することが,カワウの保護にとって重要であると考えられる

チョウゲンボウは,個体数が増加しているかどうかは不明であるが,少なくとも南関東では,分布域が拡大していた。これは,チョウゲンボウが,土でできた崖以外に,橋などの人工構造物を巣場所として利用しはじめたことによると思われる。しかし,分布域は拡大しているが,茨城県南部,千葉県,埼玉県,東京都,神奈川県すべてをあわせても,わずか20つがいほどしか確認されておらず,生息密度はかなり低い。チョウゲンボウがこの地域に安定して生息するようにするためには,さらに生息密度を高くする必要があるだろう。今回の調査では,営巣場所になるような穴のある橋などが限られており,その結果,チョウゲンボウの生息密度が低くなっている可能性が示唆された。したがって,チョウゲンボウが採食できるような環境のある場所に,巣穴になるような巣箱を設置したりすれば,チョウゲンボウの生息密度は,より高くなるものと思われる。

アオサギの集団繁殖地は,もともと本州中部と本州日本海側に分布の中心があったが,九州などの西日本,関東などへ分布域を拡大していた。また,アマサギの分布域も,かつては関東よりも南に分布の中心があったが,今回の調査によって関東以北に分布域が拡大していることがわかった。ゴイサギ,コサギ,ダイサギは分布域がほぼ安定していた。アオサギやアマサギの個体数が全体的に増加しているのか,そしてゴイサギ,コサギ,ダイサギの個体数が安定しているのかどうかは,今回の調査では明らかにできなかった。また,アオサギやアマサギの分布域がなぜ広がっているのか,その理由も明らかにできなかった。分布域が拡大,もしくは安定しているものの,関東地方など一部の地域では,大規模な集団繁殖地がなくなったり,分布がやや狭くなったりしており,これらのサギの今後の変化をできるだけ正確に把握する必要があるだろう。また,アオサギやアマサギが,チュウサギなどとは逆に分布を広げている要因が何なのかを明らかにすることは,チュウサギなど減少傾向にあるサギ類の保護にとっても重要な意味をもつものと思われる。

ショウドウツバメは崖に巣穴を掘って営巣する。このような巣穴を掘れる崖地は,おもに河川や海岸などの周辺に存在する。しかも,このような崖地は,河川や海岸の改修によって破壊されることが多い。これが,ショウドウツバメの分布が,北海道の中でも限られている理由だと思われる。また砂利採取などのためにつくられた人工的な崖での営巣が確認された。これは,ショウドウツバメの分布が,河川や海岸以外の場所に広がっていることを示唆しているが,くわしいことは不明である。これらの人工的な崖が,ショウドウッバメにとって自然にできた崖と同じように安定した巣場所として利用できるのかどうかなども明らかにする必要があるだろう。

 

3)集団繁殖地又は集団ねぐらの数が多く分布域も安定しているが,人の活動に影響を受けやすい分類群

ヒメアマツバメ,イワツバメ,そしてコシアカツバメは,個体数も比較的多く,分布域も拡大しているかもしくは安定していた。これらの種は,巣場所になるような場所が,現時点では豊富にあると考えられるので,至急保護対策をとる緊急性はない。しかし,今後も個体数の変化などには注意が必要である。人工建築物などに集団繁殖地を形成しているため,建築物の構造が変わったりすることで,比較的簡単に個体数が減少することが予想できるからである。

これらの3種が選好する建築物は,6〜10mほどの高い建物であった。現在,このような建築物を営巣場所として保護できるような規制はない。しかし,これらの種の個体数をできるだけ安定させるためには,集団繁殖地のある建築物の再塗装などを行なう時期を非繁殖期にしたり,巣のついている壁面についてはできるだけ手をいれないようにするなどの配慮が必要だと思われる。

 

4)集団繁殖地又は集団ねぐら数が多く分布域も安定しており,絶滅の可能性も低い分類群

セキレイ類,スズメ,ムクドリ,カラス類は,いずれも集団繁殖地を作らず集団ねぐらのみを形成する種である。これらの分類群は,都市中心部から山間部などの自然が豊かな場所まで,さまざまな環境に広く分布している。その分布域の広さ,個体数の多さなどの理由で,アンケート調査と文献調査では,これらの種について,ごく断片的な情報しか収集できなかった。現時点では,これらの分類群は,個体数も多く,分布域も安定しており,生息環境の変化もあまり起こっていないものと思われる。

しかし,なぜ,これらの鳥が,都市部のような環境でも高密度に生息できるのか,その理由は明らかにされていない。これらの分類群以外の鳥の保護を考える上でも,この理由を明らかにすることは重要な意味をもつと思われる。現在も多くの個体数が生息しているこれらの分類群は,比較的環境破壊などにも影響を受けにくい鳥だと考えられるが,上述の1や2で述べた鳥とどこがちがうのか,比較することによって,1や2も生息できる環境を都市部などにもつくりだすための示唆を得ることができるかも知れないからである。

また,都市部の環境は,今後も大きく変化することが予想される。なぜこれらの鳥が現在も多く生息しているのかが不明な現在では,これらの種が今後も都市部に高密度で生息し続けられるかどうかも予測できない。その点で,たとえ現在個体数の多い種であっても,生息状況などの概略を把握しつづける必要があると考えられる。

また,これらの鳥の中でも,環境変化に対する影響の受けやすさが違っていることも予想できる。たとえば,カラス類は東京などの大都市の中心部まで分布している。しかし,ムクドリは,ほとんどこのような場所に生息していない。また,カラス類の中でもハシブトガラスは都市部に多いが,ハシボソガラスは,都市の中心部からはずれた場所に多いことなどが,一般的に知られている。なぜ,このような違いが生じるのかを明らかにすることも,サギ類やコアジサシなどと比較する場合と同じ理由で重要だと考えられる。

表1.第4回自然環境保全基礎調査で得られた集団繁殖地と集団ねぐらの分布情報の概要

Table1.The number of colonies and roosts.

種名

報告件数

5万分の1地形図メッシュ数

都道府県数

評価

アンケート

現地

全体

(うち現地)

カワウ

サギ類

 

コアジサシ

チョウゲンボウ

ヒメアマツバメ

ツバメ

イワツバメ

コシアカツバメ

ショウドウツバメ

セキレイ類

スズメ

ムクドリ

カラス類

集団繁殖地

集団繁殖地

ねぐら

集団繁殖地

繁殖地

集団繁殖地

集団ねぐら

集団繁殖地

集団繁殖地

集団繁殖地

集団ねぐら

集団ねぐら

集団ねぐら

集団ねぐら

12

433

27

8

40

82

216

72

26

112

226

178

383

75

153

28

24

12

46

170

11

2

15

645

234

77

18

26

72

122

38

13

94

102

91

192

(−)

(190)

(233)

(17)

(11)

(7)

(28)

(25)

(11)

(2)

(−)

(−)

(−)

(−)

8

46

9

31

12

14

29

32

19

1

34

36

36

44

A

A

C

A

B

B

B

B

B

-

C

B

C

B

評価については次の3段階で示した。A:全国の分布状況を表している。B:やや情報不足。C:情報不足

ヒメアマツバメの集団ねぐらは基本的には集団繁殖地と同じと考えられる。

 

The Environment Agency of Japan conducted a survey on the distribution and population status of colonies and communal roosts of 22 bird species from 1990 to 1992

 

 The species were Phalacrocorax carbo, Nycticorax nycticorax, Butorides striatus, Bubulcus ibis, Egretta garzetta, E. intermedia, E.alba,Ardea cinerea, Sterna albifrons, Falco tinnunculus, Apus affinis, Riparia riparia, Hirundo daurica, H. rustica, Delicon dysipus, Motacilla alba, M. grandis, Passer montanus, Sturnus cineraceus, Corvus frugilegus, C. corone and C. macrorhynchos.

 

  The reasons we chose colonial or communal roosting species for our survey are as follows:

1.It is easier to estimate population status of those species if we find colonies or communal roosts.

2.Recently, some of those species, herons, egrets and swallows, might be decreasing for unknown reasons.

3.Those species were considered to be good indicators of habitat conditions.

 

  First step of the survey was to collect information about the status of those birds throughout Japan, by questionnaires and survey of literature. After that, we investigated colonies and roosts, collecting information about number of individuals using them, and about habitat characteristics in particular regions. In Kanto, Tokai and Kinki Regions, habitat destruction has been serious, and in Hokkaido the habitats are better conserved.

 

Results of the survey are as follows:

 

  Our survey was conducted by members of Wild Bird Society of Japan and anthologized voluntary wildlife specialists in 1989 and 1990. Eight hundred and sixty-four(864)people have submitted one thousand eight hundred twenty(1,815)data to us.

  Additional information have been checked using published materials issued during 1986 to 1993 in Japan.

  During June 1991 to August 1992, field surveys of identified colonies and communal roosts of target species were conducted at five hundred thirty three(521)sites in eleven(11)prefectures.

  At those sites, we researched characteristics of sites and numbers of individuals. The distribution data are summarized on twenty-five(25)maps which are meshed by 1 to 50,000 scale.

  Then we are presenting table 1 as a sammary of this survey.

 

1.Great Cormorants

  Enough information to evaluate the status of the species was collected by the survey. There are less than 20 colonies scattered throughout Japan. Because their distribution was restricted to shallow bay areas which provide many fishes, which are prey for cormorants, it is likely that food supply restricts distribution of cormorant colonies. However, populations were increasing in each colony, and some new colonies were established in some areas. We could not find the reasons for the increase.

 

2.Herons and egrets

  In Kanto, Tokai and Kinki regions, we collected enough data to evaluate the status of herons and egrets. The distribution and population of Intermediate Egret and Green-backed Heron colonies were decreasing. Habitat destruction in paddy fields and rivers are likely reasons for these decreases. Distributions of colonies and roost sites of the Night Heron and the Little Egret, and colonies of the Great Egret, were stable. Distributions of Gray Heron and Cattle Egret colonies were expanding rapidly. We could not distinguish the reason which affects this change.

 

3.Little Terns

  In the Kanto region, enough data to evaluate the status of this species were collected. Colonies were distributed mainly in reclaimed lands. Distribution and population were declining rapidly. Destruction of good habitat, such as river bank without vegetation, is likely to decrease the species' colonies.

 

4.Common Kestrels

  We collected enough data to evaluate distribution of the species in the Kanto region. Although we found only 20 pairs in the region, distribution of the kestrels was expanding. Because the kestrels have come to nest on artificial structures, such as tall buildings, many new nest sites were available in sub-urban areas, and their distribution expanded.

 

5.White-rumped Swifts

  We could not collect enough data in this survey to evaluate distribution and population status of this species. Distribution area and population were likely to be stable or increasing. However, the species nests only on buildings which human activities affect those structures directly. Distribution and population of the swifts must be affected by those activities. We have to be careful to avoid those affects.

 

6.Barn Swallows

  Enough data were collected to evaluate the distribution of communal roosts of the species. Distribution of those roosts suggests swallows require reed beds larger than 1,000 ha, as their roosting habitats.

 

7.Red-rumped Swallows, Asian House Martins and Sand Martins

  Although we could not collect enough data to evaluate distribution and population status of those species, the data suggests that distribution of the Red-rumped Swallow and the Asian House Martin have expanded since the 1980's in Kanto and Kinki regions. The factors affecting distribution of these species could not be recognized by the survey.

  The Sand Martin is distributed only in Hokkaido. This species is likely to have expanded their distribution in the region. We suspected that increasing numbers of artificial cliffs, made by constructions of road or other human activities, was an important factor in the apparent increase.

 

8.Wagtails, Gray Starlings, Tree Sparrows and crows

  Enough data could not be collected by the survey to estimate distribution of roosts and population status in these four species. However, the data indicate that their roosts are distributed from urban to mountain areas, and their population sizes were likely to be large and stable.

 

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