\.スズメの集団ねぐらの現状と動向

 

1.形態及び生態

スズメはスズメ目ハタオリドリ科に属す小型の鳥で,頭部から背にかけては茶色でのどとほおが黒く,体長14cm,体重23gの小型の鳥である(榎本 1941)。一年をとおして全国に広く分布しており,2〜9月が産卵期である(清棲 1965)。住宅地など市街地に普通に生息する。

 

2.調査方法

集団ねぐらの分布状況,集団ねぐらそれぞれの規模,集団繁殖地とその周辺の環境特性を明らかにするため,アンケート調査と文献調査を行なった。アンケート調査と文献調査の実施期間,調査内容などは,T.カワウの節で述べたものと同じである。

 

3.分布と規模

アンケート調査で,36都道府県から226か所のねぐらが報告され,全国各地に集団ねぐらが分布していることが確認された(図9.1)。5万分の1地形図では102メッシュであった。ねぐらは数羽から20羽といった小規模のものがつくられることもあるが(8%),アンケート調査だけからでは正確な羽数はわからないものの,そのほとんど(74%)は数100〜数10,000羽といった大規模なものであった(図9.2)。

 

4.環境選択

ねぐらはビルなどの人工物につくられることもあったが,そのほとんどは雑木林,竹林といった林地につくられていた(62%,図9.3)。しかし,街路樹,孤立した木などにもつくられるなど,必ずしも大面積の林地を必要とするわけではなく,0.1ha以下といった小さな緑地にも多く記録された(57%,図9.4)。また,集団ねぐらをつくるには葉をつけている樹木であることが重要で,落葉樹では落葉とともにねぐらが消滅するか,あるいは利用個体数がいちじるしく減少する(佐野 1986, 小野 1992)。したがって,冬期にねぐらを確保するためには,冬でも葉をつけている常緑樹や竹などの樹種が必要である。

 

5.保護のための対策と提言

ねぐらは林地につくられるが,大面積の林地を必要とするわけではなく,街路樹のようなものでもねぐらとして利用する。また,都市化の影響もうけにくく,東京の都心のような場所でもスズメは生息することができる。しかし,スズメが集団ねぐらをつくるためには常緑樹や竹など冬でも葉をつけている樹木が必要なので,スズメの集団ねぐらを保護するためには,常緑樹や竹を保存したり,植えたりすることが必要と思われる。現在の街路樹は,ほとんどがケヤキなどの落葉広葉樹である。植裁する樹種を落葉樹だけにして単純な環境にするのではなく,常緑樹なども植裁して多様な環境をつくることにより,常緑樹をねぐらとして使う,スズメを含めた多くの鳥のねぐらを確保することができるだろう。

現在はスズメを保護することの緊急性は低い。しかし,スズメが将来,減少するのか増加するのかなどを推測するために,個体数の増減を記録することや個体数と環境とのかかわりを明らかにする重要性は高い。集団ねぐらをつくるスズメのような鳥は,ねぐらの個体数を継年的に追跡することで,個体数の変遷を比較的容易に調べることができる。今後もこのような調査が継続的に行なわれることが望まれる。

今回の調査では,スズメの集団ねぐらに関する苦情などは出されていない。スズメは,古くから人家などの近くに集団ねぐらをとっていたと考えられ,今後も,スズメの集団ねぐらに対する苦情も増えないものと思われる。

 

6.評価

スズメはアンケート調査および文献調査によって,調査が行なわれた。スズメの集団ねぐらは比較的人家に近いところに分布しており,ねぐらに入る時間帯には,よく鳴くので見落しは比較的少ないと思われる。したがって,全国的な分布の状況はおさえられていると思われる。しかし,アンケート協力者のいない場所にもねぐらは存在していると思われるので,実際には本報告書の調査結果よりもかなり多くのねぐらが全国にはあると思われる。

 

目次へ