Z.イワツバメ,コシアカツバメ,ショウドウツバメの集団繁殖地の現状と動向

 

1.形態及び生態

イワツバメ,コシアカツバメ,ショウドウツバメはともにスズメ目ツバメ科に属す小鳥で,形態及び生態は以下のようである。

1)イワツバメ

イワツバメは,中央アジア南部から東アジア沿岸部,日本に分布している(Turner & Rose1989)。体長は15cmほどで,体重はおよそ18g,顔から背面全体が黒く,のどから腹部と腰が白い(清棲 1965)。

日本には夏鳥として飛来するが,関東以南では,越冬するものも多い。たとえば,九州北部では,春から夏にかけて繁殖したあと,秋に一度いなくなり,再び冬になると一部の個体が同じ集団繁殖地にもどってくる(武下雅文 未発表)。

本州以南では,もともと山地の崖などに営巣しており,標高500〜3000mの山地を中心に分布していた(清棲 1965)。その後,人工建築物への営巣例が増え,1970年代から1980年代にかけ急速に都市部に分布域を拡大した(浜口・端山1983,川内1990,武下1993)。北海道では,昔から山地だけでなく平地でも繁殖していたことが報告されている(清棲1965)。

巣は泥でつくられており,前年以前に利用したものを修理して再利用することも多い。巣と巣のあいだは,巣が少ないときには数m以上あいていることもあるが,多くの場合,巣どうしがくっついている。また,一部の巣をヒメアマツバメが奪い利用していることもある。1回の繁殖で産む卵の数は2から8個である。繁殖の期間は,4月下旬から8月までである(清棲 1965)。

2)コシアカツバメ

コシアカツバメは,ヨーロッパ南部から中近東,南アジア,東アジアのユーラシア大陸南部に広く分布し,とくに東アジアではかなり北部まで分布域を広げている(Turner & Rose 1989)。体長は19cmほどで,体重は14〜23g,背面全体が黒く,顔から腹部にかけて白い。顔の一部と腰が赤褐色をしている(清棲 1965)。

日本には夏鳥として飛来する。日本国内では,おもに中国,四国地方で生息密度が高く,おおよそ本州以南に分布している(Turner & Rose 1989)。関東地方で調べられた結果では,1970年代までは,おもに海岸沿いの集落にある木造家屋に営巣していた(仲間1984)。しかし,1980年代にかけイワツバメ同様,急速に都市部に分布域を拡大した際,内陸部の団地などの建築物に営巣する例が増加した(浜口・端山 1983)。

巣はイワツバメ同様に泥でつくられており,一般的には建物の壁とひさしの下面につけられている。1回の繁殖で産む卵数は4から5個,5から9月の間が繁殖期である。

西日本では,コシアカツバメの巣が10巣以上集まった集団繁殖地を形成することが多いが(武下雅文 未発表),東日本では,単独で営巣することが多い。

3)ショウドウツバメ

ショウドウツバメは,北半球北部の広い範囲で繁殖し,中国南部,東南アジアおよびアフリカで越冬していることが知られている。シヨウドウツバメは,通常,崖などに集団繁殖地をつくることが知られている(Turner & Rose 1989)。体長は13cmほどで,体重は12から18g,背面は茶褐色で顔から腹部にかけては白色である(清棲 1965,Turner & Rose 1989)。

日本国内では,北海道のみで繁殖している(環境庁 1980)。湖沼,河川周辺にできた自然の崖や,土砂採取などのためにできた人工的な崖に穴を掘って営巣する。巣穴どうしが接近することは少なく,数10cm〜数m以上の間があいている。1回の繁殖で産む卵の数は3〜5個で,繁殖期は6月から8月である(清棲 1965)。

 

2.調査方法

これら3種について,前述のアンケート調査により,集団繁殖地の全国的な分布を調べるとともに,地域を限って詳細な生息環境を明らかにするための現地調査を行なった。アンケート調査については,他の種と同時に情報を収集したので,T.カワウの節で説明したものと質問事項なども同じである。

1)イワツバメとコシアカツバメ

イワツバメとコシアカツバメについては関東地方南部の神奈川県,東京都,埼玉県,千葉県,茨城県,東海地方の静岡県,関西地方の兵庫県において,現地調査を実施した。現地調査では,以下のような形で集団繁殖地に集まる個体数と環境特性を調査した。環境の調査として,集団繁殖地を中心とした半径1kmの円内の環境,集団繁殖地などがつくられている場所の植生を記録した。集団繁殖地を中心に半径1kmの円内の環境を13種類の要素,すなわち,畑,乾燥した草地,水田,湿性草地,果樹園,森林,河川,湖沼,海,裸地,一般住宅地,高層団地,商店街に分類し,それぞれがどれくらいの割合を占めているのかを,地図と現地での観察をもとに記録した。

イワツバメとコシアカツバメの集団繁殖地がつくられている場所そのものの特徴として,まず巣やねぐらのある場所の種類(団地,一般住宅,商店,デパート,倉庫,工場,学校,市場,高架道路,橋桁,歩道橋など),巣やねぐらのある建造物全体の高さ,巣やねぐらそのものの高さ,巣が付着している部分の材質,巣のつき方(台にのっているかべなどに直接ついている),建造物の断面の構造,集団繁殖地やねぐらがある場所の標高を記録した。集団繁殖地を利用しているイワツバメやコシアカツバメの個体数は,1時間に出入りする個体を数えることで記録した。また,広く分布するコシアカツバメの巣をすべて調査することは困難だったので,10巣以上の集団・繁殖地のみを調査の対象とした。

2)ショウドウツバメ

ショウドウツバメについては,本州以南で繁殖している可能性が低いため,北海道のみで集団繁殖地の現地調査を行なった。この現地調査では,以下のような形で集団繁殖地に集まるショウドウツバメの個体数と環境特性を調査した。

環境の調査として,集団繁殖地を中心とした半径1kmの円内の環境,集団繁殖地がつくられている場所の植生を記録した。集団繁殖地を中心に半径1kmの円内の環境を13種類の要素,畑,乾燥した草地,水田,湿性草地,果樹園,森林,河川,湖沼,海,裸地,一般住宅地,高層団地,商店街に分類し,それぞれがどれくらいの割合を占めているのかを,地形図と現地での観察をもとに記録した。

前述のとおり,集団繁殖地がつくられるのはおもに崖なので,崖そのものの高さと崖の土質を記録した。また,集団繁殖地が成立している場所の標高も記録した。繁殖しているショウドウツバメの個体数を明らかにするため,巣穴の個数を数えた。

3.分布と規模

1)イワツバメ

今回のアンケート調査では216か所,現地調査では64か所の集団繁殖地が報告され,32の都道府県,5万分の1地形図で122のメッシュで,イワツバメの集団繁殖地が確認された。今回明らかにされた全国規模での分布状況を,第2回自然環境保全基礎調査(環境庁1980)の5万分の1地形図で169メッシュとくらべると,メッシュ数は少なくなっているが分布域はあまり変化していなかった(図7.1)。すなわち,中部以北の本州,北海道を中心に中国地方,九州北部に多く分布していた。今回の調査では山地域で現地調査が行われなかったため,確認メッシュ数が少なくなったと考えられる。しかし,関東,東海および近畿地方に限って,さらに細かい分布状況をみると,1970年代(仲間 1984)にくらべ,関東,近畿では,山地部から沿岸部へと分布が拡大している(浜口・端山 1983,川内 1990,武下 1993)。

イワツバメの集団繁殖地の規模は,ほとんどが50巣以下の小さなものであったが,ごく一部,100巣以上の大規模な繁殖地も認められた(図7.2)。この大規模な集団繁殖地は,おもに内陸部に分布していた。イワツバメの分布が山岳部から海岸部へと向かって拡大する傾向は,関東から近畿地方まで広く認められた。また,この傾向は現在も続いていることが報告されている(越川 1991,日本野鳥の会神奈川支部 l992,武下 1993)。

2)コシアカツバメ

コシアカツバメは,アンケート調査で72か所,現地調査で11か所から報告があり,19の都道府県,5万分の1地形図で39メッシュで集団繁殖地が確認された(図7.3)。これらの集団繁殖地の規模は,いずれも50巣以下の小規模なものしか認められなかった。第2回自然環境保全基礎調査(環境庁 1980)では5万分の1地形図で165メッシュで記録があり,これに比較して大きく減少している。これは,調査法が異なるために記録できなかったものが多いこと,現地調査を行なった関東地方,東海地方,関西地方では,おもに1巣だけで営巣しているため,10巣以上が集中する集団繁殖地のみの情報を収集したことによると考えられる。

全国的にみた場合,今回の情報では,分布の拡大は認められなかった。浜口・端山(1984)によれば,神奈川県下でのコシアカツバメの分布域拡大は,1980年代前半までに起こっていた。しかし,その後の分布域の変化が起こっているのかどうかは,今回の調査結果からは明らかにできなかった。

3)ショウドウツバメ

ショウドウツバメは,アンケート調査では26か所,現地調査では2か所の報告があった。記録があったのは文献調査も含めても北海道のみで,5万分の1地形図13メッシュで繁殖が確認された。第2回自然環境保全基礎調査(環境庁 1980)では5万分の1地形図で19メッシュで記録があったが,ショウドウツバメについては,得られた情報が少なかったため,個体数や分布域がどう変化しているのかは,明らかにできなかった。

 

4.環境選択

1)イワツバメ及びコシアカツバメ

イワツバメの営巣場所は,学校や市役所,高架道路など,高さが6〜10mの建築物であった(図7.4)。しかし,イワツバメの巣は,コシアカツバメにくらべるとやや低い場所につくられる傾向があるように見え,ほとんどが,1階にある駐車場の通路,軒下などにつくられていた(図7.5)。また,巣が付着している壁面は,ほとんどがコンクリートでできていた(図7.6)。

イワツバメにとって,自然の崖と人工建築物では,どちらが好ましいのかは不明である。また,今回の調査地以外の地域では,自然の崖に営巣している可能性もあり,現在,日本に生息するイワツバメが自然の崖と人工建築物,どちらでより多く繁殖しているのかは不明である。日本に生息するイワツバメにとって,自然の崖と人工建築物のどちらが重要なのかを明らかにするためには,今後,さらに調査を進めていく必要がある。

今回の調査によって得られた情報は限られているが,コシアカツバメは,団地などの5〜20mの高い建築物を選好する傾向があった(図7.4)。巣も,イワツバメにくらべ高い場所につくられる傾向があり,その建物の最上階で営巣している例も多かった(図7.5)。巣が付着している壁面もすべてコンクリートでできていた(図7.6)。

以上のことから,イワツバメにとってもコシアカツバメにとっても,少なくともコンクリートでできた高い建物が重要であると考えられる。ただし,この2種にとっては高さだけが重要で,そのような高い建築物がおもにコンクリートでできているため,結果的にコンクリートでできた建物を選択しているという可能性もある。

営巣場所の高さは,イワツバメが低いところ,コシアカツバメは高いところを選好しており,そのような高さに,集団繁殖地が形成できるような空間の存在が,両種にとって重要であると考えられる。また,理由は不明だが,イワツバメとコシアカツバメが,一緒に繁殖している例はなかった。

集団繁殖地周辺1km以内の環境については,特定の傾向が読み取れなかった。すなわち,巣周辺に必ずしも大面積に存在している特定の環境は存在しなかった。この理由として,イワツバメやコシアカツバメが,特定の環境を必要としていないか,あるいはより遠くまで採食のために移動しているため,1km以内には採食のための環境を必要としていない,などが考えられる。

また,市街地に生息するイワツバメとコシアカツバメにとって,重要な営巣条件は,高い建築物で,泥でできた巣を付着できるような壁面をもった高い建築物があるかどうかであることが示唆された。もし,食物などの条件があまり変化しなければ,このような特徴をもった建築物が存在する限り,今後,急速に減少することは考えにくい。

定期的に行なわれる建築物の改装工事などによって,集団繁殖地が破壊される可能性がある。イワツバメとコシアカツバメは,巣が破壊されても別の場所に造巣できる能力をもっているが,このような工事がイワツバメやコシアカツバメにどのような影響を与えるのか,さらに詳細な調査が必要である。

 

2)ショウドウツバメ

ショウドウツバメについてはどのような環境に集団繁殖地を形成しているのか,情報を充分に集められなかった。ごくわずかな情報であったが,確認された集団繁殖地は,すべて砂利採取場など人工的につくられた崖に形成されていた。これらの崖の高5〜10mであった。

ショウドウツバメについては,得られた情報が少なかったため,分布図は描かなかった。近年砂利採取場などが増加し,そこに集団繁殖地を形成される例が増えているという情報もあった(大畑孝二 未発表)。

 

5.保護のための対策と提言

イワツバメとコシアカツバメの個体数の顕著な減少は認められなかった。しかし,どちらも,人工建築物で繁殖している個体が多く,人為的な影響を受けやすいことが予想できる。

ツバメでは,人口が減少した地域で,ツバメの数が大きく減少していることが報告されている(藤田・樋口 1992)。イワツバメやコシアカツバメなども,これらの種の生活を考慮しない形で,建築物の構造が変わったりすることが大規模に起これば,個体数が大きく減少することも考えられる。

イワツバメとコシアカツバメの安定した集団繁殖地を確保するためには,現時点で集団繁殖地などが形成されている建築物の所有者に働きかけ,できるだけ営巣に影響のない形で,補修工事などを行なうようにしていくことが大切であろう。

現在では,私有物である建築物などを法的に保護することは,困難である。しかし,建築物に営巣した鳥類の保護を考慮しながら建築補修工事をすすめ,管理するようなガイドラインやマニュアルを設け,指導や協力要請を行なうことは可能だと思われる。人工建築物を営巣場所として選好する鳥類の安定した生息環境を維持するためには,ぜひとも,このような側面からの取り組みについて検討する必要があるものと考えられる。

具体的には,イワツバメやコシアカツバメの繁殖期である春から夏にかけての改築補修工事はできるだけ避けること,また,巣の付着している壁面については,再塗装の時期を考えることが望ましい。

このような取り組みを実現するためには,建築物の設計や維持管理にあたり,野生生物の生息環境の確保にも配慮していくことの重要性を,より多くの人々が理解する必要があるだろう。また,個々の建築物だけでなく,町全体の設計にも,野生生物と人が共存できるような発想をとり入れていく必要があるだろう。

ショウドウツバメの個体数が減少しているのか増加しているのかは,今回の調査からは明らかにできなかった。一般的に考えて,ショウドウツバメが営巣できるような崖地は,ごく限られた場所にしかないため,これらの崖地が各地で破壊された場合,ショウドウツバメが減少する可能性が高いものと思われる。

ショウドウツバメの安定した集団繁殖地を確保するためには,ショウドウッバメが繁殖できるような崖を法的に保護する必要があるだろう。また,砂利採取場などの人工的な崖が,どれくらいショウドウツバメにとって安定した巣場所であるのか,そして北海道全体で,どれくらいの割合のショウドウツバメが,このような人工的な崖に営巣しているのかを明らかにすることも,今後の個体数変動や保護活動を進める上で,重要な資料になるものと思われる。

 

6.評価

イワツバメ,コシアカツバメ,ショウドウツバメの繁殖地は比較的目につきやすいが,分布域が広くアンケート調査の結果はこれら3種の集団繁殖地の分布を必ずしも正確には表していない可能性がある。南関東および静岡県,兵庫県で行なった現地調査については,イワツバメの集団繁殖地の大部分はおさえられていると思われるが,それ以外の地域のイワツバメおよびコシアカツバメ,ショウドウツバメの情報は,充分ではないと判断される。

 

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