7. ウシ目(偶蹄目)

 日本に分布する偶蹄類3科7種の全てについて分布情報が得られた。

(1) イノシシ科

 日本には、ニホンイノシシが本州、四国、九州、淡路島、五島列島に、リ
ュウキュウイノシシが奄美、沖縄、八重山の各諸島に分布する。これらのイ
ノシシの全国分布は環境庁(1979a)の調査により詳しく明らかにされてい
る。今回の調査結果は、1979年の環境庁調査の結果にほぼ一致するが、群馬
県、富山県での分布拡大、青森県、岩手県からの新分布情報が注目される。

(2) シカ科

 日本には、北海道にエゾシカ、本州、四国、九州とその周辺島嶼にニホン
ジカが、対馬にツシマジカが分布する。これらシカ類の全国分布は環境庁(
1979a)の調査に詳しい。またエゾシカについては、その後、北海道自然保
護課(1986)による調査が行われている。ニホンジカは本州、四国、九州、
淡路島、小豆島、五島列島、大隅諸島(馬毛島、口永良部島を含む)、慶良
間諸島等に分布する。今回の結果は1979年の環境庁調査結果にほとんど一致
するが、青森県、秋田県、宮城県南部(前回調査でも情報が得られている)、
および能登半島の分布情報は繁殖個体群を示すものであれば新知見である。
一方、種子島からは情報が得られなかった。ツシマジカは対馬の上島、下島
の両方に分布し、今回の結果もこれと一致する。エゾシカは北海道の中央部
から東部を中心として全域に広く分布する。今回の調査でもこのような分布
パターンが確認された。

(3) ウシ科

 日本列島に自然分布するウシ科の動物は、本州、四国、九州にみられるニ
ホンカモシカ1種で、ほかにヤギが野生化している。
  ニホンカモシカの分布状況は哺乳類分布調査科研グループ(1979)と環境
庁(1979b)の調査により詳しく判明しており、本州の近畿地方以北、およ
び四国、九州の一部の山岳地帯に分布することが分かっている。今回の調査
でもこのような分布状況が確認された。なお、福島県太平洋岸、静岡県南西
部、兵庫県北部、四国西部からの情報は分布域の拡大を示すものとして注目
される。
 ノヤギの分布情報は、今回、伊豆大島、八丈島、隠岐諸島、五島列島から
得られた。本種は小笠原諸島でも野生化していることが知られているが、今
回は情報がなかった。他の島嶼でも野生化している可能性があり、さらに調
査が必要である。

                                   ( 阿部 學 )

                 引用文献


北海道自然保護課、1986.野生動物分布等実態調査報告書、ヒグマ・エゾシカア
      ンケート調査報告書.115pp.
哺乳類分布調査科研グループ、1979.カモシカ・シカ・ヒグマ・ツキノワグマ・
     ニホンザル・イノシシの全国的生息分布ならびに被害分布.生物科学、
     31:96-112.
環境庁、1979a. 第2回自然環境保全基礎調査、動植物分布調査報告書(哺乳類)
     全国版.91pp.
環境庁、1979b.ニホンカモシカの分布域.生息頭数の推定について.48pp.