6. アザラシ目(鰭脚目)

 日本近海で知られている鰭脚類には8種があり、そのうち5種の分布情報が寄
せられた。
 トドは北海道周辺に現在でも毎年来遊しており、それにはサハリン沿岸系のも
のと千島系の2群があるとされている(山中ら、1986)。前者は北海道北部オホ
ーツク海側沿岸および日本海側積丹半島までの沿岸域に来遊し、後者は知床から
噴火湾までの海域に来遊している。このような状況から考えると、今回の調査結
果は新報告がなくきわめて不完全なものである。但し、海上のものはともかく、
上陸地は限定されているので、海獣研究者等から情報を得ることによって今回の
分布空白域を埋める必要がある。
 日本近海に回遊するオットセイはロベン島およびコマンドルスキー諸島系のも
ので、宗谷海峡を通って日本海に入るものの大部分は前者である。また、太平洋
側では北海道東部沖から常盤沖の海域に回避している(和田、1971)。しかし、
通常は接岸することはなく、死体の海岸漂着や魚網への羅網による死亡があると
思われるが、記録は少ない。今回も宮城県において2箇所の記録が増えただけで
ある。本種に関しては海上のどの地域までのものを分布図に含めるかという問題
があり、記録法を含めた再検討が必要である。
 ゴマフアザラシには知床など、北海道東部沿岸に定着している少数のものと、
流氷期に回遊してくる比較的多数からなる個体群があるが、今回の分布記録は定
着性のものについても報告がなくまだきわめて不完全である(大泰司・斉藤、19
81)。北海道東部沿岸域ではかなり広範囲の分布があるものと思われる。岩手県、
宮城県の記録は新しいものであるが例外的な回遊例であろう。
 ゼニガタアザラシは北海道の根室半島から襟裳岬にかけての太平洋岸にきまっ
た定着地をもち、その生息地はかなり詳しく調べられている(伊藤・宿野部、19
86)。今回も記録は増加せずきわめて不完全である。伊藤・宿野部(1986)等の
報告により、日本におけるほぼ完全な分布域の現状を知ることができる。
 ワモンアザラシ(フイリアザラシ)は北海道や本州北部沿岸に回遊するが、回
遊数はゴマフアザラシより少なく、流氷と共に移動するので、正確な記録に乏し
い。今回も新しい記録はなく、前回の例外的記録と思われる本州東北のもの1例
のみで、北海道沿岸のものがなく、不完全である。
 今回報告のなかったもののうち、ニホンアシカについてはすでに絶滅したとい
う考えもあり、それにはまだ疑問が残っているものの、現在、日本沿岸での生息、
繁殖がないことは事実である(伊藤、1979)。
 クラカケアザラシは流氷と共に北海道東部沿岸に回遊し、氷上で出産する。接
岸することがほとんどないため海岸での記録を欠いているものと思われる。これ
も記録法に問題がある。
 アゴヒゲアザラシは日本近海に来遊するアザラシ類の中で最も数が少なく、し
たがって情報も乏しいが、稀に北海道東部海岸に接岸することがある(大泰司・
斉藤、1981)。
 以上、日本沿岸に生息する鰭脚類の分布情報またはその収集はきわめて不完全
であり、今後は現存情報の追加収集と、乏しい情報の蓄積を継続することが必要
である。
                                        ( 阿部 永 )

                  引用文献

伊藤徹魯、1979,ニホンアシカ雑感.哺乳頚科学.39:27-40
伊藤徹魯・宿野部猛、1986.ゼニガタアザラシの生息数と生息状況.和田一雄ほ
      か編.ゼニガタアザラシの生態と保護.東海大学出版会.pp.18-58.
大義司紀之・斉藤隆、1981.知床半島沿岸海域の鰭脚類.知床半島自然生態系総
      合調査報告書(動物篇).北海道.pp.165-181.
和田一雄、1971.オットセイの回遊について.東海区水産研究所報告.67:47-80
山中正実・大泰司紀之・伊藤徹魯、1986.北海道沿岸におけるトドの来遊状況と
      漁業被害について.和田一雄ほか編.ゼニガタアザラシの生態と保護.
      東海大学版会.pp.274-295.