3.サル目(霊長目)

 日本に自然分布するサルはニホンザル1種であるが, 他にタイワンザルが一部
の地域で野生化している。また, カニクイザル, アカゲザルが野外で目撃されて
いるとの情報もある。このうちニホンザルの全国分布については, 長谷部言人に
よる1923年の調査(岩野, 1974)以降, 数回(岸田, 1953; 竹下, 1964a, b; ニ
ホンザルの現況研究会, 1977a, b, 1978a, b, c; 哺乳類分布調査会科研グルー
プ, 1979; 環境庁, 1979等)にわたって行われ, 分布域の時代的変化も含む詳し
い情報が得られている。 ただし, ニホンザルの現況研究会の調査を除き, これら
の調査は聞き取りやアンケートによる間接的情報に基づいている。
 ニホンザルは, 本州, 四国, 九州, 金華山島, 淡路島, 小豆島および屋久島に
分布する。かつては種子島にも生息していたが現在では絶滅している。今回の調
査では, 環境庁調査(1979)で明らかにされたのとほぼ同様の分布パターンが示
されているが, 生息が知られていなかった宮城県牡鹿半島, 福島県南部太平洋岸,
茨城県などにも分布情報がある。これらが群れの生息を示すものであれば新知見
であるが, ヒトリザルまたは他種の可能性もあり, 確認のための調査が必要であ
る。
 野生化したサル類では, タイワンザルの分布情報が神奈川・静岡県境付近, 伊
豆大島, 青森県下北半島から得られ, 本種の野生化の現況を示していると考えら
れる。調査対象に含まれていない他のサル類に関する情報はないが, 野外におけ
る異種間交雑の危険性をはじめ, ニホンザル自然個体群の保護上重大な問題がある
ため, 今後タイワンザルを含め野生化したサル類についての調査が必要である。
                                         
                                        ( 阿部 學 )

                 引用文献

哺乳類分布調査科研グループ、1979. カモシカ・シカ・ヒグマ・ツキノワグマ・
       ニホンザル・イノシシの全国的生息分布ならびに被害分布。生物科学,
       31:96-112.
岩野泰三、1974. ニホンザルの分布。にほんざる,1:5-62.
環境庁、1979. 第2回自然環境保全基礎調査, 動物分布調査報告書(哺乳類),
       全国版, 91pp.
岸田久吉、1953. 代表的森林棲哺乳動物ニホンザル調査報告。鳥獣調査報告第14
       号。林野庁.
ニホンザルの現況研究会、1977a. 東北地方のニホンザルの分布. にほんざる,
       3:9-10.
ニホンザルの現況研究会、1977b. 関東甲信越地方のニホンザルの分布. にほん
       ざる, 3:23-26.
ニホンザルの現況研究会、1978a. 中部・近畿地方のニホンザルの分布. にほん
       ざる, 4:1-4.
ニホンザルの現況研究会、1978b. 中国・四国地方のニホンザルの分布. にほん
       ざる, 4:32-34.
ニホンザルの現況研究会、1978c. 九州地方のニホンザルの分布. にほんざる,
       4:47-48.
竹下完、1964a. 野生ニホンザルの分布及びポピュレーション(上). 野猿,
       19:6-13.
竹下完、1964b. 野生ニホンザルの分布及びポピュレーション(下). 野猿,
       20:12-21.