本邦から記録されている哺乳類135種のうち126種について分布情報
が得られた。前回より総種類数がふえているのは、主として一部専門家によ
る種認定に変化があったことによるものであるが、わが国の哺乳類にはまだ
分類上に問題を残しているものが多い。したがって、得られた情報の中には
一部に種判定等の誤認と思われるものがあったものの、必ずしもそうとはい
えないもの、すなわち、異なる種認識の立場から判定されたと思われるもの
もあった。この場合、提供された分布情報だけから今回の基準による種判定
に合わせて分布を調整することは難しいものである。前者に属するものには
鹿児島県のモグラ、本州でのユキウサギ、エゾリス、エゾシカ、ヒグマ、ク
ロテンなどがある。また、後者としては、離島など地理的分布境界の明らか
なものを除き、例えば本州におけるスミスネズミとカゲネズミのように、2
種を同種とする立場から寄せられた分布情報の場合「どこでそれらを分割す
るかは必ずしも容易でない。これらに関しては分類の完成(一般的合意)を
待たなければならないものである。これに類するものには北海道におけるリ
シリムクゲネズミとミヤマムクゲネズミ、本州におけるニイガタヤチネズミ
とトウホクヤチネズミなどがある。なお、既往の知見からみて現情報の完成
度を分類すると次のとおりである。
- A. およその分布パターンを示すもの
- 今回の調査によって、多くの種では前回のものに比して著しく情報量が
増加した。特に前回全般に情報が少なかった広域分布種や普通種について
の分布情報が増加した結果、それらでは既往知見に近い分布状況を示すも
のとなった。もちろん、生息が予想される区画での情報を欠いている部分
がまだ多いけれども、今回の調査により、以下のB、Cを除く日本産哺乳
類の大部分の種の分布はその概要が示されたといえる。
- B. やや情報不足のもの
- 一部の種においては、既知分布域内主要部の情報は得られたものの、一
部の地域ではそれを完全に欠いている。そのような例としては次のような
ものがある。すなわち、キクガシラコウモリとコキクガシラコウモリは北
海道、ヒナコウモリは北海道と四国、チチブコウモリとウサギコウモリは
四国、ナキウサギは夕張岳山系、ホンドモモンガとヤマネは四国など、そ
のほかオナガジネズミ、カワネズミ、ユキウサギ、オキナワハツカネズミ、
クロテン、オットセイなども一部の地域での分布情報を欠いている。
- C.情報が著しく不足しているもの
- 回遊性のトド、ゼニガタアザラシ、ゴマフアザラシ、フイリアザラシな
どは情報提供者や分布情報がきわめて限られている。また今回情報が全く
得られなかったものは、すでに絶滅したと考えられているオキナワオオコ
ウモリ、エゾオオカミ、ホンドオオカミ、アシカのほか、回遊性で情報提
供者の得られなかったラッコ、アゴヒゲアザラシ、クラカケアザラシ、セ
イウチ、また、分布が限られ情報のなかったものにオガサワラオオコウモ
リ、オゼホオヒゲコウモリ、エゾホオヒゲコウモリ、ウスリホオヒゲコウ
モリ、クロアカコウモリ、オガサワラアブラコウモリ、クロオオアブラコ
ウモリ、コウライアブラコウモリ、マスクラット、セスジネズミ、カニク
イアライグマなどがある。
|