第8章 解析単位でみた自然の状況

 

 本章では、前章で設定した地形地域区分と2次メッシュを解析単位として、いくつかの視点から自然の状況を分析した。あわせて自然公園、都道府県単位の集計を行った。

ここでの視点は、

●日本の代表的な気候的極相林、土地的極相林がどこに多くあるのか、

●多様な植生をもつ地域はどこか、

●良好な自然を代表する(生活圏の大きい)大型獣の生息する地域はどこか、

●動物相が多様な地域はどこか

の4点とした。この4つ視点から、地形地域区分単位に自然の状況を各視点別に評価し、また相互に比較しつつ、優れた自然をもつ地域がマクロにみてどこにあるのかを把握した。さらに、地形地域区分ごとの保護の状況(既保全性)を把握した。また、夕イプの異なる3箇所のモデル的地形地域区分を選び、自然の改変状況とそれをもたらした原因について検討を加えた。

 2次メッシュを単位としては、日本の気候帯ごとに自然林をどれだけ含むかを基礎的な指標とし、そこに大型森林性哺乳類がどれだけ重複分布しているかを評価基準として加え、総合的に評価した。

 

8.1 地形地域区分でみた自然の状況

 

8.1.1 極相である植生を多く有する地形地域区分

 ここでは、気候的極相として、ハイマツ林、オオシラビソ・コメツガ林、ブナ林、中間温帯林、照葉樹林、亜熱帯林の6タイプをとりあげ、土地的極相として高層湿原、低層湿原の2タイプをとりあげた。この8タイプと植生類型の対応は表8.1.1.1に示した。

 この8タイプについて、各地形地域区分が保有するメッシュ数と地形地域区分の全メッシュ数に対する割合を集計し、値が高い順に並べ替え、表8.1.1.2に示した。また、その上位10区分までの地理的な位置を図8.1.1.1に示した。以下、各タイプごとにその分布の特徴を述べる。

●ハイマツ林(図8.1.1.1表8.1.1.2 1/8)

 ハイマツ林を多く保有するのは、北海道の山地と本州中央部の山地である(図8.1.1.1)。とくに知床半島では、全国のハイマツ林971メッシュのうち16%にあたる155メッシュを保有し、知床半島全体に占めるハイマツ林の割合は、全国で唯一10%を越える。また知床半島の平均温量指数は全地形地域区分のなかで最も低い39℃・月であり、ハイマツ林のモード(最頻値)である20℃・月(図6.1.1.4)よりはいくぶん高い。従って知床半島は、ハイマツ林の典型的な生育地をその北部と高標高部に含む地域ということができる。

 これに対し本州の地形地域区分では飛騨山地で92メッシュ、3%を保有する以外はいずれも保有数が少なく、まとまった生育地が少ないことを示している。

●オオシラビソ・コメツガ林(図8.1.1.1表8.1.1.2 2/8)

 オオシラビソ・コメツガ林では、メッシュ数、構成比ともに飛騨山地が多く保有している。その他には赤石山地、越後山地南部、御岳・乗鞍山地などが保有メッシュ数が多い(表8.1.1.2)。保有メッシュ数の地形地域区分の全メッシュ数に対する割合は、上記の地形地域区分以外に八ヶ岳・蓼科山地、谷川山地などで高い値を示している。こうした地形地域区分の平均温量指数は、50〜80℃・月とオオシラビソ・コメツガ林の適域よりは高いものとなっているため、これらの山地の高標高部にオオシラビソ・コメツガ林が生育しているものと考えられる。

●ブナ林(図8.1.1.1表8.1.1.2 3/8)

 ブナ林では、太平洋側ブナ林と日本海側ブナ林とをあわせて示した。保有メッシュ数、保有率とも真昼・神室山地、渡島半島南部山地などが高い値を示している。北海道南部(渡島山地南部、渡島山地北部、駒ケ岳・亀田半島)から東北地方(真昼・神室山地、朝日飯豊山地、八幡平・森吉山地、鳥海山・月山・丁岳山地、白神山地)、中部地方の日本海側(越後山地北部、南部加賀山地)にかけての山地でブナ林が多く、太平洋側では赤石山地のみが多い。日本海側のものに比べ、太平洋側ブナ林の分布はより限定されているものと考えられる(図8.1.1.1)。

 ブナ林を多く保有する山地の平均温量指数をみると、ブナ適域といわれる45〜85℃・月の範囲にすっぽりと納まっており、、ブナ林はこれら山地を典型的な生育地としていることがわかる。また、図3.5.1に示したとおり、ブナ林が成立する冷温帯は東北日本を広くおおっており、ブナ林も本来はこれに対応して広い面積をしめていたものと考えられる。

●中間温帯林(図8.1.1.1表8.1.1.2 4/8)

 モミ林、ツガ林をその代表とする中間温帯林は、各単独の植生類型がしめるメッシュ数が少ないため、合わせて中間温帯林として扱った。ブナ林までの類型と異なり、関東以西の地形地域区分で保有メッシュ数が多い。特に、紀伊山地、九州山地では他の地形地域区分の3倍以上の中間温帯林メッシュが保有されている。地形地域区分の全メッシュ数に対する割合では、霧島火山地の8.3%がきわだって高いことが注目される(表8.1.1.2)。

●照葉樹林(図8.1.1.1表8.1.1.2 5/8)

 暖温帯のシイ林、カシ林、夕ブ林などは、各々の類型のメッシュ数が少ないため、中間温帯林と同様に照葉樹林として一括して扱った。

 照葉樹林メッシュを多く保有する地形地域区分は、西南日本の区分が上位をしめ、最も多く照葉樹林を保有するのは九州山地(487メッシュ)で、ついで沖縄島(312メッシュ)、大島(奄美大島、220メッシュ)、西表島(193メッシュ)の順となった。特に南九州から南西諸島にかけて照葉樹林が多い傾向がみられる。

 島嶼と九州山地、紀伊山地という大規模な山地を除くと、南九州の肝属山地、鰐塚山地といった小規模山地や平野で照葉樹林が多い傾向がみられる。

 地形地域区分全メッシュに対する割合をみると、西表島が73%と最も高く、ついで甑島(51%)、野間岳山地(38%)の順となった。島嶼で高い割合を示していることが注目される。特に、西表島はとびぬけて高い値を示し、著しく自然性の高い地域ということができる。

 温量指数でみると、西南日本の地形地域区分は、その多くの部分が照葉樹林の適域(暖温帯)に含まれている(図3.5.1)。照葉樹林は、東北日本のブナ林と同様、かつては西南日本を広くおおっていたものと考えられる。しかし現在では、西表島、甑島以外の地域では地形地域区分の40%未満をしめるのみとなり、ブナ林以上に分断と縮小が進んでいるといえよう。これは、照葉樹林の成立していた地域が、日本における人間活動の中心的な地域と重複しているため、ブナ林とくらべ、人為改変をより強くうけた結果によるものと考えられる。

●亜熱帯林(図8.1.1.1表8.1.1.2 6/8)

 亜熱帯林は、マングローブ林、ガジュマル林などを合わせた区分である。日本では、気候的に亜熱帯にはいる地域が少ないため、亜熱帯林のメッシュ数も135メッシュと少ない。亜熱帯林の保有メッシュ数をみると、沖縄島、石垣島、西表島の南西諸島の3島がきわだって多い。特に西表島は、前述のとおり、島全体の264メッシュに対し、照葉樹林が200メッシュ、亜熱帯林が22メッシュをしめており、日本の亜熱帯の本来の植生を保有している数少ない地域のうち、最も代表的な地域ということができる。

●高層湿原(図8.1.1.1表8.1.1.2 7/8)

 高層湿原は、北海道から東北地方に偏っている(図5.1.2)。高層湿原のような小面積で点的に生ずる植生類型は、メッシュの(小円選択法による)代表値とはなりにくいものと考えられる。従って、全国の高層湿原のメッシュ数は71と少ない。そのなかで、釧路低地、飛騨山地、尾瀬を擁する越後山地南部、八幡平・森吉山地、サロベツ原野を含む天塩平野、八甲田・十和田山地の6地形地域区分は、きわだって高層湿原メッシュの保有数が多いといえる。逆に、これらの地形地域区分にしか、大規模なものは、存在しないほど、高層湿原は日本には数少ない植生類型であると考えられる。

●低層湿原(図8.1.1.1表8.1.1.2 8/8)

 低層湿原(ヨシ、マコモ湿原など)は、高層湿原と同様、北海道から東北地方にかけて多い傾向を示すが、一方で、関東東部平野や京都盆地、濃尾平野といった、大河川をもつ関東以西の地形地域区分にも多くみられる。それらのなかでは、根釧台地と釧路低地、関東東部平野の保有数が特に多く、地形地域区分の全メッシュ数に対する低層湿原メッシュの割合は、釧路低地が保有率で2位の区分の約3倍ときわだって高い値を示している。釧路湿原国立公園が日本初の湿原を主な対象とした国立公園として釧路低地に設置されたのは、こうした特性を反映したものといえよう。

 

8.1.2 多様な植生類型をもつ地形地域区分

 ここでは植生の多様性として、

 ●当該地形地域区分に出現する植生類型の数

 ●メッシュ数を単位としたSimpsonの単純度指数を1から引いた値(多様性指数)の2つを、地形地域区分ごとの指標とした。

 「植生類型の数」としては、全植生類型を対象とした数と、強度の地表改変地(市街地等)、弱度の地表改変地(耕作地等)、及び林業利用地(植林地等)を除いた、二次植生を含めた自然植生類型を対象とした数の2通りの数について、各地形地域区分に出現した類型数を指標とした。

 多様性指数は、地形地域区分を構成するメッシュから任意に2メッシュをとり出したとき、その2つがそれぞれ異なる植生類型に属している確率を示す。従ってこの指標には、単純に植生類型の数だけではなく、各植生類型に属するメッシュ数の配分も反映されている。即ち、地域区分内に含まれる類型数が多く、かつ、それぞれの類型がしめるメッシュ数が均等な場合に高い値となる。多様性指数についても植生類型の数と同様、全植生類型を対象としたものと、自然植生類型(二次植生を含む)のみを対象としたものの、2通りを指標とした。なお、多様性指数は、地形地域区分のメッシュ数が極端に少ない場合には、きわめて高い値を示すことがある。結果をみる場合にはその点に留意する必要がある。

 以上、4通りの指標にそって、地形地域区分を図8.1.2表8.1.2に示した。

 植生類型の数でみると、全植生類型を対象としたもの、自然植生類型のみを対象としたもの、ともに九州山地、四国山地、赤石山地、飛騨山地といった、大規模な山地が上位をしめる。全植生類型を対象にしたものの順位と、自然植生類型のみを対象としたものの順位を比較すると、全植生では45類型存在する飛騨山地は地形地域区分合計メッシュは3,000メッシュ弱しかなく、10,000メッシュ以上をもつ四国山地に植生類型の数では及ばないが、自然植生のみで比較すると、ほぼ拮抗する類型数をもつ。越後山地南部、加賀山地などの植生類型の数と、中国山地の植生類型の数を比較しても同様の傾向がみられる。こうした傾向の原因として考えられることの1つには、気候と地形のの多様性があげられる。飛騨山地、越後山地南部などは標高差が大きいことなどから温量指数の幅が大きく、気候的には多様で、また、様々な地形要素を含む地形地域区分であると考えられる。そのため、含まれる植生類型の数が多いものと考えられる。また理由の1つには、人為的改変の状況があげられる。四国のような、先進林業地を含む林業の盛んな地域では、拡大造林等による植生の置き換えが進み、また中国山地のような古くから薪炭林利用が高度に行われ、アカマツ林化が進んだ地域では、面積の割には相対的に多様性が低くなっているともみることが出来る。

 Simpsonの多様性指数でみると、植生類型の数の場合でみられた大規模な山地が上位をしめる傾向と異なり、メッシュ数のごく少ない島嶼を除くと、東北日本の地形地域区分が上位をしめている。これらの地形地域区分では、標高差や南北差が大きいため温量指数の幅は相対的に大きい値を示しており、気候的に多様な地域であることが植生の多様さに反映しているものと考えられる。特に、飛騨山地、赤石山地、木曾山地のような標高差の大きな山地で高い値を示すのは、このことによると考えられる。

 一方では、高い多様性を示す北海道の沿岸部低地では標高差が小さく、温量指数の幅がせまいため、気候的な多様性は少ない。そのため、多様性指数で上位をしめるこうした区分は、塩沼地や湿地という、気候的要因によらない多様な立地環境があるのではないかと考えられる。

 なお、ここでの多様性の議論は植生類型を単位としており、個々の群落や地形地域区分に含まれる植物の種数を間題にしてはいない。従来豊富な植物種を持つとされている、屋久島や小笠原諸島がここで上位に現れないのはそうしたことによる。こうした種の多様性という視点からの検討も必要であると考えられ、今後の課題の1つといえよう。

 

8.1.3 大型森林性哺乳類の生息域を多く含む地形地域区分

 ここでは、良好な自然環境の存在とその広がりを指標するものとして、大型森林性哺乳類の分布をとりあげた。その中で、暖温帯を中心に分布するニホンザル、ニホンジカ、冷温帯を中心に分布するツキノワグマ、エゾシカ、カモシカの5種の分布を分析に用いた。これら5種の各地形地域区分ごとの生息メッシュ数と、生息メッシュの地形地域区分合計メッシュに対する割合を表8.1.3に示した。また、各々の種の生息メッシュを多く含む上位10地形地域区分を図8.1.3に図示した。

●ニホンザル(図8.1.3表8.1.3 1/4)

 ニホンザル生息メッシュを最も多く含む地形地域区分は、中国山地(896メッシュ)であり、ついで紀伊山地、四国山地、九州山地の順となった。こうした西日本の大きな山地が上位をしめることが特徴となっている。生息メッシュの地形地域区分合計メッシュにしめる割合をみると、比良山地、鈴鹿山地などの近畿地方以西の、中規模山地で高い値を示している。6章でも述べた通り、西日本を中心とする里山型の哺乳類の特徴を示している。

●ツキノワグマ(図8.1.3表8.1.3 2/4)

 ツキノワグマの生息メッシュ数が多い地形地域区分は、北上山地(711メッシュ)、朝日・飯豊山地(690メッシュ)、中国山地(587メッシュ)、加賀山地(571メッシュ)と、中国山地以外は東北日本に多い傾向を示し、ニホンザル、ニホンジカと異なっている。一方、中国・四国地方のツキノワグマは減少しているといわれる。中国山地の生息メッシュ数587は上位とはいえ中国山地の大きさ(メッシュ数)と比較すれば少ない(5%)ものといえよう。

 ツキノワグマ生息メッシュ数の地形地域区分全メッシュ数に対する割合をみると、この傾向はさらに顕著にみられる。即ち、深浦段丘(白神山地の北側)の27%をはじめ、舟形山地(蔵王山近辺)22%、白神山地18%など、東北地方の地形地域区分が上位をしめる。それと並んで、飛騨高原山地から加賀山地、美濃山地、三方山地と連続した地域もツキノワグマの生息メッシュが濃い。

●ニホンジカ・エゾシカ(図8.1.3表8.1.3 3/4)

 ニホンジカ・エゾシカは一括して扱った。生息メッシュ数が多い地形地域区分は、紀伊山地(1114メッシュ)、九州山地(737メッシュ)、丹波山地(582メッシュ)といった西日本の大規模山地と、北海道の山地、丘陵、台地が上位をしめている。本州以南では、ニホンザルと同様に関東以西の地形地域区分が上位をしめることが特徴となっている。

 生息、メッシュ数の地形地域区分のメッシュ数に対する割合をみると、ニホンザルと同様、比良山地(23%)、鈴鹿山地(20%)といった、西日本の中規模山地で高い値を示している。北海道では、日高山地を中心とする浦河丘陵(18%)、日高山地(10%)、白糖丘陵(10%)などが高い値をしめしている。ニホンジカ・エゾシカは森林と草原が混在する環境を選好するため(5章参照)、これら地形区分にはそうした環境がセットとなって存在しているものと考えられる。

●カモシカ(図8.1.3表8.1.3 4/4)

 カモシカの生息メッシュ数の多い地形地域区分を見ると、北上山地(4615メッシュ)、真昼・神室山地(2271メッシュ)など、ツキノワグマの場合と同様に、東北地方を中心に中部以北の本州の地形地域区分が上位をしめる傾向がみられる。西日本の地形地域区分は紀伊山地のみが、1000メッシュをこえている。カモシカ生息メッシュ数の地形地域区分全メッシュに対する割合をみると、御岳・乗鞍山地(71%)を筆頭に大平山地(68%)、木曾山地(65%)、谷川山地(61%)、鈴鹿山地(61%)と東北・中部・関東地方の地形地域区分が多い傾向がみられる。ツキノワグマ同様、カモシカの分布が東北日本に偏っている傾向が反映されたものといえよう。

 

8.1.4 多様な動物相をもつ地形地域区分

 本解析では、前項で述べた生活圏の大きな大型哺乳類の個別の分布状況による評価だけではなく、各地形地域区分がどれだけ多様な動物相をもつかを、哺乳類分布状況、鳥類繁殖状況、チョウ類分布状況をもとに検討した。

 指標として用いた値は、植生の場合と同様、各地形地域区分内で確認された種数と、多様性指数の2つである。なお、哺乳類は第2回基礎調査で対象とされた8種とカモシカの計9種、鳥類については繁殖状況調査(第2回自然環境基礎調査)で対象となった種のうち、4章で選んだ55種、チョウ類については第3回基礎調査でデータがえられた112種を対象とした。

 また、多様性指数としては、Shannon−Weaverの多様性を分布メッシュ数を単位として用いた。ここでは常用対数を用い、

 H' = −Σ pi log pi

 H' max = log S

          ただし、

E; 多様性指数(O≦E≦1)
pi; i番目の種の確認メッシュ数が当該の地形地域区分全メッシュにしめる割合
S; 当該の地形地域区分内で確認された種数

 を計算し、 E = H' /H' max を多様性指数とした。

 この指数は当該地域内で確認されたそれぞれの種の生息メッシュ数が均等に近いほど高い値をとり、生息する種数とは関連しない。つまり、生息しているメッシュ数の配分についての指標である。

 この両者を、哺乳類、鳥類、チョウ類について求め、高い順に地形地域区分を並べたものを図8.1.4及び表8.1.4.1に示した。

●哺乳類(図8.1.4.1表8.1.4.1 1,2/4)

 哺乳類についてみると、北海道のみに分布するヒグマを除く8種が分布している地形地域区分は38区分ある。いずれも本州中央部に位置し、大きな面積をもつ脊梁山地が多いが、足尾山地、丹沢山地、比良山地といった小規模な山地や、関東東部平野、多摩・相模野台地、濃美平野のような人工改変が進んだ平地部も含まれている。即ち、大面積で多様な自然条件をもつ地形地域区分で種数が多いが、小規模ながら多様な動物相を保持する山地や、人工改変が周辺で進行し、半島状または島状に残された「自然」をもつ地形地域区分も抽出されている。

 多様性指数をみると、前にみた8種が分布している地形地域区分が上位をしめている。詳細にみると、中部地方の地形地域区分が上位をしめ、東北地方の地形地域区分はみられないことがわかる。これは、東北地方ではニホンザルとニホンジカの分布が限定されており他の種と、分布メッシュ数が拮抗するほどの分布域のひろがりがないためと考えられる。

 多様性指数では、秩父山地、近江平野、丹波山地などの比校的大都市近郊で値が高い傾向がみられる。

●鳥類(図8.1.4.1表8.1.4.1 3/4)

 地形地域区分ごとの鳥類繁殖種数をみると、哺乳類の傾向と異なり、平野が上位をしめている。特に地域的な傾向はみられない。鳥類は、種ごとに、かなり特化した繁殖環境を要求するため、上位に現れた地形地域区分には、水域から森林までの多様な環境がみられるものと考えられる。

 多様性指数では、種数でみたのと同様、平野、丘陵が上位をしめている。これらの平野・丘陵はいずれも大きな河川を伴い、大規模な山地に接している。そのため、それぞれはそれほど自然性の高くない様々な環境が偏らずに存在し、多様な鳥類相を保有しているものと考えられる。逆の見方をすれば、そうした二次的な環境が混在している多様性の高い地域であることは、1つ1つの谷戸や雑木林といった環境が失われてもわかりにくい面があるため、保全のためには注意を要する地域であると考えられる。

●チョウ類(図8.1.4.1表8.1.4.1 4/4)

 チョウ類の地形地域区分別の出現種数をみると、鳥類とは異なり、大規模な山地が上位をしめる。上位の地形地域区分の分布には、はっきりとした地域的な傾向はみられない。チョウ類の場合には、鳥類よりもさらに環境に特化した生活史をもつため、チョウ類相の多様性の指標は、植生や森林構造などの多様性を示すと考えられる。

 多様性指数をみても種数の場合と同様な傾向を示し、大規模山地と小規模でも標高差の大きい山地とが上位をしめている。

●大型森林性哺乳類4種の重複分布(図8.1.4.2表8.1.4.2

 以上のように各動物群の多様さは、その地形地域区分内の環境要素(水辺、草原、森林など)の多様さに対応していることが一定程度把握された。つぎに、日本の良好な自然を代表すると考えられる大型森林性哺乳類4種(ニホンザル、ツキノワグマ、ニホンジカ、カモシカ)について、その分布の重複の状況を検討した(図8.1.4.2)。なお、北海道に分布するヒグマとエゾシカは、分布が重複しても最大2種であり、また、両種とも広く分布し北海道の多くの地域で重複分布する(図8.2.2参照)ため、ここでの分析からは除いた。

 表8.1.4.2に、地形地域区分ごとの、上記4種についての分布種数と、各種の分布メッシュの総和の地形地域区分全メッシュに対する割合(以後重複分布率と呼ぶ)を示した。後者の値は、4種すべてが当該地形地域区分全メッシュに分布していた場合に、最大値の4をとる。

 まず、種数についてみると、4種ともに分布が認められるのは、近畿地方から東北地方かけての地域である。3種の分布が認められるのは、4種分布する地域に接し、これをとりまくような地域となっている。これは前述の通り、この4種の地理的分布が重複するのは近畿以東、東北以西(日本海側の多雪地を除く)の地域に限られるためである。

 つぎに重複分布率をみると、鈴鹿山地が1.0と最も高く、ついで御岳・乗鞍山地、舟形山地、木曽山地の順となった。地方別にみると、近畿地方では鈴鹿山地、三方山地、比良山地で0.6をこえており、中部地方では、御岳・乗鞍山地、木曽山地、八ケ岳・蓼科山地で0.6をこえた。関東地方では、谷川山地、那須・帝釈山地、越後山地南部で0.6をこえ、東北地方では、舟形山地、大平山地、真昼・神室山地、深浦段丘、白神山地、朝日飯豊山地、磐梯・吾妻山地、北上山地で0.6をこえた。これらの地形地域区分では、森林が大型哺乳類の生息を維持するだけの質と面積の森林を有しており、また、複数の種の生息を可能とする多様な要素(例えば、ツキノワグマの越冬穴となる巨木や、ニホンジカの採食地となる草地状の環境など)を含んでいるものと考えられる。

 

8.1.5 地形地域区分でみた「良好な自然・多様な自然」

 これまでの地形地域区分を単位とした検討の結果をまとめておく。まず、亜寒帯・亜高山帯から冷温帯の気候的極相林を多く保有する地形地域区分として、知床半島、飛騨山地、日高山地、赤石山地、越後山地南部、渡島山地南部、真昼・神室山地、朝日・飯豊山地などの中部以北の地形地域区分があげられた。メッシュ数の割合では、上記に加え、八ヶ岳・寥科山地、谷川山地、渡島山地北部、白神山地などがあげられた。また、中間温帯から亜熱帯の気候的極相林を多く保有する地形地域区分どして、紀伊山地、九州山地、四国山地、大島(奄美大島)、沖縄島、石垣島、西表島などの西南日本の地形地域区分があげられた。メッシュ数の割合では、上記のほかに、霧島火山地、甑島、野間岳山地等があげられた(メッシュ数の著しく少ない島嶼は省略した)。その中で、中間温帯林のメッシュ数割合が高い霧島火山地と、照葉樹林のメッシュ数割合の高い甑島は従来このような視点からの評価があまりなされていなかったという点で注目される。

 土地的極相である、高層湿原を多く保有する地形地域区分としては、釧路低地、飛騨山地、越後山地南部、八幡平・森吉山地、天塩平野があげられた。メッシュ数の割合では、上記に加え、八甲田・十和田山地があげられた。また、低層湿原を多く保有する地形地域区分としては、釧路低地、根釧台地、関東東部平野などがあげられた。メッシュ数の割合では、上に加え、頓別平野、京都盆地、勇払平野などがあげられた。

 植生の多様性の視点では、九州山地、四国山地、赤石山地、飛騨山地、八幡平・森吉山地、真昼・神室山地、秩父山地などで植生類型数が多く、多様度指数が高い地形地域区分として、勇払平野、那須・帝釈山地、阿寒火山群、飛騨山地、岩木山火山地、霧島火山地、頓別平野、赤石山地、下北丘陵、御岳・乗鞍山地などがあげられた。

 この中では、霧島火山地と秩父山地が面積と比べ、多様性が高いことが注目される。

 森林性の大型哺乳類の分布からは、各種の分布の中心となる地域があげられた。即ち、ニホンザル、ニホンジカでは紀伊山地、九州山地、丹波山地、中国山地などの西南日本の地形地域区分があげられ、メッシュ数の割合では、比良山地、鈴鹿山地、養老山地などがあげられた。ツキノワグマ、カモシカでは北上山地、朝日飯豊山地、真昼・神室山地、八幡平・森吉山地などの東北日本の地形地域区分があげられ、メッシュ数の割合では、舟形山地、御岳・乗鞍山地、白神山地、木曽山地などがあげられた。

 動物相の多様性の指標では、秩父山地、赤石山地、富士山・御坂山地などがあげられた。

 これらの視点をいくつか組合せ、代表的な地形地域区分を抽出してみる。

●気候的極相林の豊富さと植生の多様さの視点

 この視点では、八幡平・森吉山地、真昼・神室山地、飛騨山地、赤石山地、紀伊山地、四国山地、九州山地、霧島火山地などがあげられる。

●気候的極相林の豊富さと、大型哺乳類の分布域を多く含んでいるという視点

 この視点では、八幡平・森吉山地、真昼・神室山地、白神山地、飛騨山地、赤右山地、

 紀伊山地、四国山地、九州山地といった、日本列島の骨格をなす山地があげられる。

●気候的極相林の豊富さと動物相の多様さという視点

 この視点では、真昼・神室山地、越後山地南部、飛騨山地、赤石山地、紀伊山地、中国山地、九州山地という、大規模山地と秩父山地があげられる。

●植生の多様性と動物相の多様性という視点

 この視点からは、那須・帝釈山地、秩父山地、富士山・御坂山地、飛騨山地、赤石山地、中国山地があげられる。他とくらべやや、面積の小さい山地があげられている。

 以上のような視点を総合的に扱っていく方法の1つとしては、次の手順が考えられる。即ち、先ず、どのような特性を具えた地域を探すのかを決めなければならない。それによって、みるべき指標を選択する。例えば、本州で冷温帯の典型的な自然環境を保有している地域を探すのであれば、植生としてブナ林を多く保有し、森林性大型獣としてはツキノワグマを多く保有する地域に着目することとなる。すると、ブナ林のメッシュ数の割合も高い地形地域区分として、本州では真昼・神室山地、谷川山地、越後山地南部、白神山地、鳥海山・月山・丁岳山地などが着目される。ツキノワグマの分布域を多く含む地形地域区分としては、深浦段丘、白神山地、加賀山地、上信越高原、朝日・飯豊山地などがあげられる。両者で共通している、真昼・神室山地、白神山地、舟形山地、加賀山地などの地形地域区分が、冷温帯の典型的な自然環境を保有しているものと考えられる(表8.1.5)。

 

8.1.6 地形地域区分の既保全性

 本項では、各地形地域区分がどれだけ保護の網をかけられているか、について検討を加えた。保護の指標としては、規制の強さにより国立公園、国定公園の特別保護地区、自然環境保全地域、原生自然環境保全地域と、国立公園、国定公園の特別地域の2っの区分をとりあげた。県立自然公園、県立自然環境保全地域を対象としていないため、これらをあわせれば、既保全性はより高い値を示すことになる。

 表8.1.6.1に地形区分全メッシュに対する国立公園、国定公園の特別保護地区及び自然環境保全地域のしめる割合を、地形地域区分ごとに割合の高い順に示した。母島諸島が56.7%と最も高い割合を示し、父島諸島、御蔵島、硫黄請島、聟島諸島がこれについでいる。小笠原諸島が高い値を示していることがみてとれる。そのほかにも、新島、利尻島などが上位をしめ、10%以上の値を示す地形地域区分16のうち島嶼は11をしめている。島嶼以外は、飛騨山地、知床半島で高い値を示している。

 特別保護地区のしめる割合が高い島嶼には、固有の植生(5章1参照)や固有動植物が数多く生息・生育している。こうした固有生物の生息・生育地は、特別保護地区に多く含まれていると考えられる。しかし、小笠原諸島と同様、固有動植物が豊富な南西諸島では、慶良間諸島以外は、特別保護地区の割合が10%をこえる地形地域区分はない。特別保護地区は島嶼に多くかかっているとはいえ、その島嶼も伊豆七島〜小笠原に偏っているということができる。

 表8.1.6.2に、特別保護地区及び自然環境保全地域と特別地域のしめる割合の高い地形地域区分を示した。地形地域区分全域が特別保護地区、自然環境保全地域または特別地域に指定されている地形区分は、開聞岳火山地、三宅島、御蔵島の3区分である。ついで、慶良間諸島、母島諸島、神津島などが高い割合を示している。特別保護地区等の場合と同様、島嶼が多く、50%以上の値を示す13区分のうち11区分までが島嶼である(桜島は陸続きとした)。島嶼以外の区分では、猪苗代盆地、飛騨山地、鈴鹿山地などが高い値を示している。

 特別保護地区と特別地域とをあわせても、島嶼、特に伊豆七島から小笠原の島嶼に高い割合で指定されている傾向がみられる。これと比べ、南西諸島は、特別地域以上の指定は少ない。島嶼以外の区分では、飛騨山地、知床半島という亜寒帯・亜高山帯のしめる割合の高い地形地域区分(8.1.1参照)で、高い割合で指定されている。また、飛騨山地に加え比良山地ような、植生や動物相が豊かな地形地域区分(8.1.2,8.1.3参照)で高い割合で指定されている。

 良好な自然、多様な自然を有する地形地域区分は、その割合に差があるものの、多くが上記の保護制度による指定をうけているがその中にあって、これまで十分な保全・保護の網をかけられていない地域をみてみると次のような地域があげられる。ここでは特別地域までの規制ランクの割合を指標として検討した(表8.1.6.3)。

●極相である植生を多く有する地形地域区分

 冷温帯から亜寒帯・亜高山帯の極相林を多く有する地形地域区分では、渡島山地南部(0.2%、百分率は特別地域以上の規制地域がしめる割合を示す、以下同じ)、白神山地(3.5%)などで、既保全性が低い。亜熱帯から中間温帯の極相林を多く有する地形地域区分では、石垣島(0%)、甑島(0%)、鰐塚山地(3.6%)、沖縄島(4.7%)、肝属山地(6.2%)、紀伊山地(6.8%)などで、特別地域以上の規制の指定の割合が低い傾向がみられる。高層湿原を多く有する地形地域区分では、天塩平野で5.4%と低い値となっている。低層湿原を多く有する地形地域区分では、根釧台地(0.8%)、関東東部平野(3.5%)などで既保全性が低い。

●多様な植生を有する地形地域区分

 多様な植生を有する地形地域区分では、御岳・乗鞍山地で5.2%と低い。このほかの、飛騨山地など多様な植生を有する地形地域区分では、既保全性は比較的高い傾向がみられる。

●大型森林性哺乳類をの生息地を多く含む地形地域区分

 ニホンザル、ツキノワグマなどの大型森林性哺乳類の生息地を多く含む地形地域区分では、飛騨高原山地(0.3%)、美濃山地(3.2%)、紀伊山地、中国山地(7.6%)、などで指定の割合が低い傾向がみられる。

●多様な動物相を有する地形地域区分

 多様な動物相を有する地形地域区分では、特に、大型森林性哺乳類の生息メッシュの重複で高い評価を得た、大平山地(0%)、白神山地、木曽山地(5.2%)、などで既保全性が低い。

 

8.1.7 地形地域区分でみた改変状況とその要因

 ここでは、人為的な改変の状況とその要因について分析するために、夕イプが異なるモデル的な地形地域区分をえらび、検討を加えた。分析対象地域として植生、動物分布の双方で多様性に関する指標が高い値を示した秩父山地と、それに接し、人為改変が進行した武蔵野・入間台地、関東東部平野の3地域とした(図7.1.1参照)。分析にあたっては、地域を温量指数階で分割し、その中の植生類型の構成を比較することにより、どのような形で人為改変が加えられているかを検討する方法をとった。植生類型を比較するさいには、以下に示す8区分に再統合した。

1 水面、裸地等

2 市街地・住宅・工場

3 耕作地(畑、水田など)

4 林業利用地(人工林など)

5 二次草原(ススキ草原など)

6 湿原

7 二次林

8 自然林(自然草原、自然低木林を含む)

 対象とした3地域の温量指数別の植生類型の状況を図8.1.7に示した。ここでは温量指数で示してあるが、対象とした地域が限定されているため、温量指数を標高と読みかえることができる。

 以下、人為改変の特徴を地域ごとにのべる。

●秩父山地

 当地域の温量指数をみると、60〜100の広い幅にわたりメッシュ数が多い。温量指数の範囲は、亜高山帯に相当する25から暖温帯に相当する110まで広い。

 植生の状況は、温量指数の低い階級では、自然林が80%以上をしめるが、温量指数が40を越えると林業利用地が大きな割合をしめる。また、二次林の割合も増加し自然林の割合は減少する。温量指数50を境に、自然林の割合は50%未満となり、温量指数80以上の地域では10%未満となる。耕作地、市街地等は二次林、林業利用地と比べて少ないが、温量指数60付近から現れ、温量指数が高くなるに従い増加する。

 以上より、秩父山地の自然林に対する人為改変は、かつての薪炭施業による二次林化、林業による人工林化という2つが主なものであると考えられる。林業については、青梅林業、西川林業という先進的な林業地をかかえ、人工林化が古くから進行しているため、低標高地の自然林から順次人工林におきかわってきたものと考えられる。

 高標高地では自然林はまだ多く残っており、植生、動物相の多様さを支えているものと考えられる。

●武蔵野・入間台地

 当地域は温量指数の幅がせまく、標高差があまりないことを示している。温量指数からは暖温帯に相当する地域であるが、自然林は殆ど残存していない。わずかにシラカシ林が残る(数メッシュ)程度までに人為改変が進行している。

 当地域は古くから人口集積地(江戸低地)に隣接した台地で、掘井の技術の発達後、畑が広がった。その後、近年の都市の膨張にともない、耕作地から市街地・住宅地への土地利用の転換が進行している。こうした、古くからの農業的土地利用を反映して、林業利用地は少なく、全体の1割程度をしめる二次林も農用林として機能してきた、所謂「武蔵野の雑木林」である。当地域では、自然林→耕作地→市街地・住宅地と土地利用が変化してきたため、林業利用地が少なく、市街地・住宅地等の割合が高いものと考えられる。

 このような土地利用の転換の結果が現状の武蔵野入間台地の植生の状態をもたらしたものと考えられる。

●関東東部平野

 当地域の温量指数は冷温帯相当の75から暖温帯の125までの範囲にわたる。しかし、それに対応する自然植生はほとんど残存していない。当地域で特徴的なことは、耕作地のしめる割合が大きいことである。すでに3章でみたように、日本の中でも特に耕作地が集中している地域の1つに数えられる。そのため、農用林の機能をもつ二次林(アカマツ林、クヌギ・コナラ林)と人工林が少数残るものの、樹林地は耕作地とされ、現状の植生状況となったものと考えられる。市街地・住宅地が、耕作地と比べると少ないが、林業利用地と同程度あることは、隣接する都市部の膨張によるものと考えられる。

 

 特定植物群落調査追跡調査によれは、消失したり、面積が減少した群落は全国で212群落あった。このうち関東地方では消失が24群落で、これが関東地方の全特定植物群落にしめる割合は4%で、全国で最も高い値である。面積が減少した群落をあわせると50件で、特定植物群落数の9%にあたる。面積の減少や消失は関東地方では照葉樹林に多く、その原因は、宅地造成、道路建設などである。

 

8.2 2次メッシュでみた自然の状況

 

 本節では2次メッシュを解析単位として、気候的極相である植生(特に自然植生)の豊富さと、大型森林性哺乳類の重複分布状況を指標として、良好な自然を有する2次メッシュを抽出した。2次メッシュは地形地域区分と異なり、具体的な地域を表すには向いていない。従って、地域の抽出にあたっては、いくつかの2次メッシュの塊を○○地域として扱った。そして、抽出された2次メッシュの国立・国定公園による保全状況について検討を加えた。

 

8.2.1 気候的極相を多く有する地域

 まず、植生帯を下の5つに区分し、各々について、自然植生、2次植生の割合をみた。

1 亜寒帯・亜高山帯

2 冷温帯(汎針広混交林を含む)

3 暖温帯(中間温帯を含む)

4 亜熱帯

5 その他(湿原植生、海浜植生など)

 植生と2次メッシュの対応は、3次メッシュ単位で植生類型を植生帯にふりわけ(4.1参照)、最も多くの3次メッシュを有する植生帯をその2次メッシュの植生帯区分とした。

 つぎに、2次メッシュ内の自然植生と二次植生のしめる割合により、下のように2次メッシュを4区分した。 

Aランク: 自然植生が80%以上をしめる2次メッシュ
Bランク: 自然植生が80%未満、40%以上ををしめる2次メッシュ
Cランク: 自然植生が40%未満、10%以上をしめ、かつ、自然植生と2次植生との和が40%以上をしめる2次メッシュ
Dランク: 自然植生が10%未満、1%以上をしめ、かつ、自然植生と2次植生との和が40%以上をしめる2次メッシュ

 以上2つの指標を組み合わせ2次メッシュを区分し、図8.2.1に示した。Aランクの2次メッシュがかたまってみられるのは、南西諸島と、中部北陸以北の地域である。特に大きな、10メッシュ以上の塊は、飛騨山地、越後山地、夕張山地、日高山地、増毛山地、石狩山地、知床半島といった地域に限られている。

 植生帯別にみると、亜熱帯、暖温帯では、西表島、沖縄島北部、奄美大島、西日本の沿岸部で高いランクのメッシュがみられる。冷温帯では、加賀山地、越後山地、舟形山地、真昼・神室山地、白神山地といった中部〜東北地方と、北海道の渡島半島、積丹半島、日高山地南部、増毛山地にランクの高いメッシュがかたまってみられる。亜寒帯・亜高山帯では、北アルプス、南アルプス、日光・白根山、羊蹄火山群、日高山地、石狩山地、知床半島、利尻島などにランクの高いメッシュがみられる。

 

8.2.2 大型森林性哺乳類の重複分布状況

 大型森林性哺乳類として、ニホンザル、ヒグマ・ツキノワグマ、エゾシカ・ニホンジカ、カモシカの6種(分布が重複する可能性があるのは、ヒグマ、エゾシカを除く4種及びヒグマ、エゾシカの2種)を対象に、2次メッシュ単位で分布の重複をみた(図8.2.2)。

 4種の分布の重複が可能となる地域は、地理的分布と絶滅地域との関係で、中国地方を除く本州と四国に限られる。この地域の中で、4種の分布が重複している2次メッシュは、紀伊山地、丹波山地から白山へ連続する山地、中央アルプス〜南アルプスにかけての地域、秩父山地、丹沢山地、日光〜帝釈の山地、苗場山周辺に大きな塊がみられる。そのほか小規模な4種重複分布しているメッシュの塊は、四国の剣山付近、飯豊山地南部、舟形山地、五葉山、南八幡平にみられる。

 地理的に4種の重複分布がみられない地域をみると、中国地方、四国地方、九州地方で3種の分布が重複する2次メッシュがかたまってみられるのは、氷ノ山、中国山地西部、祖母・傾山地、市房山周辺である。本州日本海側では北アルプス、飯豊山地北部、白神山地などにみられる。

 

8.2.3 植生、哺乳類分布からみた良好な自然を持つ2次メッシュとその既保全性

 前項まで、植生と大型森林性哺乳類の重複分布との2つの指標で2次メッシュを分級し図示した。ここではこの2つの指標を総合し、どのような地域が良好な自然を持つのかを検討した。

 まず、植生からみた2次メッシュのランクと大型森林性哺乳類の重複分布の種数を下のように組合せ、4ランクを作成した。

Aランク: 植生がAランクか、または植生がBランクで、大型森林性哺乳類が3種以上分布している2次メッシュ
Bランク: 植生がBランクか、または植生がCランクで、大型森林性哺乳類が3種以上分布している2次メッシュでAランクでないもの
Cランク: 植生がCランクか、または植生がDランクで、大型森林性哺乳類が3種以上分布している2次メッシュでBランクでないもの
Dランク: 植生がDランクか、または、大型森林性哺乳類が3種以上分布している2次メッシュでA〜Cランクでないもの

この4ランクを2次メッシュごとにあてはめ、図8.2.3.1に示した。植生のみでみた場合と異なる点は、祖母・傾山地、紀伊山地、秩父山地、上信越高原、中国山地西部などでランクが高くなっていることである。こうした山地では、自然植生は相対的に少ないが、大型森林性哺乳類は多く分布していることがわかる。

 こうした良好な自然は、どのように保護・保全の網がかかっているのかを、国立・国定公園との関係でみた。国立・国定公園の2次メッシュ分布図を図8.2.3.2に示した。この図と図8.2.3.1とを比較対照し、良好な自然をもつ地域と国立・国定公園の指定との関係を検討した。

 図8.2.3.1で示した良好な自然を持つ2次メッシュの塊と国立・国定公園は大部分重なっている。

 国立・国定公園と重なっていないのは、南西諸島では、沖縄島北部、石垣島、九州では甑島があげられるが、いずれも小規模である。中国、四国地方では、ほぼ国立・国定公園と重複している。中部地方では、伊吹山地北端から両白山地南部(能郷白山)、中央アルプス、南アルプス南部で、国立・国定公園の指定と重複していない部分が目立つ。関東地方から東北地方では、白神山地などで、北海道では渡島半島、夕張山地、増毛山地、天塩山地、白糠丘陵などで国立・国定公園と重複していない部分が目立っ。

 

8.3 自然公園からみた自然の状況

 

 本節では、8.1でとりあげた視点から自然公園(国立公園、国定公園)内の自然の状況を分析した。この中で、特に気候的極相林に関する部分はすでに植生調査報告書で詳細に分析されているため、傾向を概観するにとどめた。

 

8.3.1 極相である植生を多く有する自然公園

 気候的極相、土地的極相としては前節でもとりあげた8タイプとした。それぞれのタイプを多く有する自然公園を図8.2.1、表8.2.1に示した。以下にそれぞれの特徴を述べる。

●ハイマツ林(図8.3.1 1/8

 ハイマツ林を多く保有する自然公園は北海道に偏っており、大雪山、知床、日高山脈襟裳、中部山岳の4公園で100メッシュをこえている。保有率でみると、上記の4公園に南アルプス、大沼、早池峰が加わる。

●オオシラビソ・コメツガ林(図8.3.1 2/8

 オオシラビソ・コメツガ林では、中部山岳、日光、上信越高原の各公園で多く保有されており、いずれも200メッシュをこえる。保有率をみると、南アルプス、早池峰、八ヶ岳中信高原の3公園も高い値を示している。

●ブナ林(図8.3.1 3/8

 ブナ林を多く保有する公園は、磐梯朝日、栗駒、上信越高原、十和田八幡平、越後三山只見、日光の各公園で、いずれも300メッシュをこえる。保有率をみると、50%をこえるのは栗駒1つであり65%の高い値を示し、続いて白山が50%と高い値を示している。また、蔵王、石槌の両国定公園で30%をこえている。

●中間温帯林(図8.3.1 4/8

 中間温帯林は、祖母傾、吉野熊野、九州中央、霧島屋久の4公園で20メッシュ以上保有されている。保有率をみると、明治の森高尾と祖母傾の両国定公園で10%をこえている。

●照葉樹林(図8.3.1 5/8

 照葉樹林を多く含む自然公園は、西表、霧島屋久、伊勢志摩の3公園で、いずれも50メッシュをこえ、富士箱根伊豆、吉野熊野、足摺宇和海、若狭湾がこれに続いている。保有率をみると、西表で唯一50%をこえ、66%という高い値を示している。ほかでは、沖縄海岸、日豊海岸、足摺宇和海、霧島屋久などの公園で、比校的高い値を示している。

●亜熱帯林(図8.3.1 6/8

 亜熱帯林は、西表、小笠原、沖縄戦跡、奄美群島、沖縄海岸、西海、日南海岸の7公園にしか保有されていない。

●高層湿原(図8.3.1 7/8

 高層湿原は、釧路湿原、十和田八幡平、中部山岳、日光の4公園などで多く保有されている。

●低層湿原(図8.3.1 8/8

 低層湿原は、釧路湿原が91メッシュと最も多くを有し、ついで水郷筑波の10メッシュとなった。

 

8.3.2 多様な植生を有する自然公園

 自然公園の植生の多様性の指標として、前節と同様、出現する植生類型の数とSimpsonの多様性指数を用いた。この2つの指標でみた自然公園の植生の多様性の状況を図8.3.2に示した。

 植生類型の数をみると、全植生類型を対象にしたもの、二次植生を含む自然植生を対象としたもの、両者ともに富士箱根伊豆、上信越高原、中部山岳、磐梯朝日、日光、霧島屋久の6公園が上位をしめている。これらについで、全植生を対象とした類型数では、瀬戸内海、阿蘇、耶馬日田英彦山の3公園で、30類型をこえる。自然植生を対象とした類型数では、栗駒、大雪山、十和田八幡平などで、高い値を示している。上位をしめている公園は、大雪山、上信越高原、中部山岳、日光のように、広く、標高差が大きい山地を含むタイプと、富士箱根伊豆、磐梯朝日、瀬戸内海、霧島屋久のように、いくつかの自然条件の異なる団地に分かれているタイプの2通りがある。

 多様性指数でみると、植生類型の数の場合と同様に、富士箱根伊豆、霧島屋久、上信越高原が上位をしめるが、阿寒、大沼、大山隠岐、能登半島といった自然公園も高い値を示している。二次植生をも含めた自然植生の多様性指数では、上記公園のほかに、網走、天竜奥三河、小笠原、室生赤目青山が高い値を示す。多様性指数の面からみると、栗駒、西表のように、単一の極相林が多くの面積をしめている公園は多様性指数が低くなるため、表8.2.2には現れていない。

 

8.3.3 大型森林性哺乳類の生息域を多く含む自然公園

 本項では、前節と同様、森林性の大型哺乳類(ニホンザル、ツキノワグマ、ニホンジカ・エゾシカ、カモシカ)の生息メッシュを指標とし、自然公園内での生息メッシュ数と、生息メッシュ数の自然公園全メッシュに対する割合の順に、自然公園を配列した(図8.3.3)。

●ニホンザル(図8.3.3 1/4

 ニホンザル生息メッシュを多く有する公園は、秩父多摩(l30メッシュ)、日光(106メッシュ)、上信越高原(98メッシュ)の中部関東に位置する公園である。生息メッシュの比率でみると、メッシュ数の少ない明治の森高尾を除くと、日南海岸、若狭湾で20%をこえ、日豊海岸とあわせ、沿岸の公園で値が高い。

●ツキノワグマ(図8.3.3 2/4

 ツキノワグマ生息メッシュ数を多く含む公園は、本州東北部の磐梯朝日(225メッシユ)、上信越高原(185メッシュ)、秩父多摩(164メッシュ)、日光(148メッシュ)、栗駒(109メッシュ)で、100メッシュをこえている。生息メッシュの比率では、妙義荒船佐久高原、蔵王で20%をこえる値を示している。

●ニホンジカ・エゾシカ(図8.3.3 3/4

 ニホンジカ・エゾシカの生息メッシュを多く含む公園は、秩父多摩(146メッシュ)、耶馬日田英彦山(120メッシュ)、日光(100メッシュ)などで、この3公園で100メッシュをこえる。ニホンジカ・エゾシカが多く生息する公園は九州から北海道にまでおよんでいる。生息メッシュの公園全メッシュに対する割合をみると、メッシュ数が極端に少ない明治の森箕面を除くと、10%をこえる値を示す13公園のうち、9つが西日本の公園である。

●カモシカ(図8.3.3 4/4

 カモシカの生息メッシュを多く有する公園は、磐梯朝日(828メッシュ)、上信越高原(724メッシュ)、日光(568メッシュ)、中部山岳(558メッシュ)といった本州中部以北の大規模山地を主体とする公園が上位をしめている。一方、生息メッシュの公園全メッシュに対する割合では、鈴鹿(69%)、高野竜神(61%)という、近畿地方の比較的小規模な公園が上位をしめる。

 

8.3.4 多様な動物相を有する自然公園

 本項では、前節で検討を加えたと同様、動物相の多様さについて、哺乳類、鳥類、チョウ類の分布調査結果をもとに、自然公園単位に検討を加えた。

 指標として用いた値は地形地域区分で検討した際と同様、各自然公園内で確認された種数とShannon−Weaverの多様性指数とを用いた。この指標の順に自然公園を配列し図8.3.4に示した。

●哺乳類(図8.3.4 1/3

 哺乳類の生息種数をみると、ヒグマを除く8種が生息している公園は14ある。いずれの公園も関東以西の本州中央部に集中している。この理由として考えられるのは、東北日本に偏った分布をするツキノワグマ、カモシカと、西南日本に分布の中心をもつニホンザル、ニホンジカの分布が重複するのが本州中央部付近であるため、ということは前節でも述べた。多様性指数でも同様の傾向がみられ、富士箱根伊豆、揖斐関ケ原、若狭湾の3公園で0.9をこえている。

●鳥類(図8.3.4 2/3

 鳥類の繁殖種数では、富士箱根伊豆、瀬戸内海、氷ノ山後山那岐山、伊勢志摩、三河湾、愛知高原の6公園で20種をこえている。これらの公園の位置は本州中西部で、自然性がそれほど高くはないが、様々な環境要素を含む公園であるということができる。多様性指数をみても、同様の傾向がみられる。即ち、富士箱根伊豆、氷ノ山後山那岐山、三河湾の3公園で0.7をこえる値を示し、これについで日豊海岸、愛知高原、瀬戸内海、能登半島などが高い値を示している。富士箱根伊豆は、前述の通り、団地が3ケ所に分かれており、多様性が高い理由はこうした点にもあると考えられる。この点は、氷ノ山後山那岐山も同様である。

●チョウ類(図8.3.4 3/3

 チョウ類の生息種数をみると、上信越高原、秩父多摩、大山隠岐、磐梯朝日の4公園で100種をこえている。ついで、西中国山地、蔵王、八ケ岳中信高原、富士箱根伊豆などの公園が高い値を示している。この傾向は多様性指数の順でも同様にみられる。

 動物相の多様性については、富士箱根伊豆が、哺乳類、鳥類、チョウ類の3分類群で共通して高い値を示した。

 

8.3.5 自然公園単位でみた「良好な自然・多様な自然」の状況

 これまで検討してきた、極相である植生を多く含む公園、多様な植生をもつ公園、大型森林性哺乳類の生息域を多く含む公園、多様な動物相をもつ公園、という4つの視点から浮かび上がった公園を整理する。

 亜寒帯・亜高山帯から冷温帯の気候的極相林を多くもつ公園として、大雪山、知床、中部山岳、日光、上信越高原、磐梯朝日、栗駒、十和田八幡平などの北海道から中部地方の公園があげられた。また、中間温帯から亜熱帯の気候的極相林を多く保有する公園として、祖母傾、吉野熊野、伊勢志摩、霧島屋久、西表、小笠原などの西南日本の公園があげられた。土地的極相である高層湿原を多く含む公園として、釧路湿原、十和田八幡平、中部山岳、日光の4公園が、低層湿原を多く保有する公園として、釧路湿原、水郷筑波の2公園があげられた。

 植生の多様性の視点からは、富士箱根伊豆、上信越高原、中部山岳、磐梯朝日、日光、霧島屋久などの公園があげられた。

 大型森林性哺乳類の生息メッシュを多く含む公園としては、日光、秩父多摩、上信越高原、磐梯朝日などの公園があげられた。

 動物相の多様性の視点からは、富士箱根伊豆、秩父多摩、氷ノ山後山那岐山などの公園があげられた。

 これらの視点を総合してみると、気候的極相を多く含み、森林性の哺乳類の生息メッシュ数が多い公園として、日光、磐梯朝日、中部山岳などの公園があげられる。また、植生に関して、気候的極相を相対的に多く含み、多様である公園として、上記に加え、上信越高原、霧島屋久などの公園があげられる。動物分布については、大型森林性哺乳類の生息メッシュを多く含み、多様な動物相をもつ公園として、八ヶ岳中信高原、富士箱根伊豆、秩父多摩などがあげられる。また、植生、動物相ともに多様な公園としては、富士箱根伊豆、秩父多摩などがあげられる。

 

8.4 都道府県からみた自然の状況

 

 本節では、植生と動物分布の状況を都道府県を単位として整理した。都道府県別の詳しい分析は、各調査報告書で述べられているため、ここでは割愛した。

 

8.4.1 極相である植生を多く有する都道府県

 ハイマツ林等8区分の気候的、土地的極相植生について、それぞれのメッシュ数と都道府県土面積(メッシュ数)に対する割合の順に、都道府県を配列し、表8.4.1に示した。

●ハイマツ林(表8.4.1 1/8

 ハイマツ林は、北海道(536メッシュ)、長野(56メッシュ)、富山(54メッシュ)でメッシュ数が多く、この3者で全国の80%以上をしめる。これらが存在するのは、知床半島、大雪山、飛騨山地であることはすでに述べた。県土面積に対する割合でみると、富山県で1.6%と著しく高い値を示している。

●オオシラビソ・コメツガ林(表8.4.1 2/8

 オオシラビソ・コメツガ林は、長野(1128メッシュ)、岐阜(237メッシュ)、群馬(230メッシュ)でメッシュ数が多く、長野県だけで全国の41%ものオオシラビソ・コメツガ林を保有している。県土面積に対する割合でも長野県が9%と最も高い値を示す。

●ブナ林(表8.4.1 3/8

 ブナ林では、北海道(2183メッシュ)、山形(1504メッシュ)、秋田(1494メッシュ)、福島(1111メッシュ)、新潟(1098メッシュ)の5道県で1000メッシュをこえている。県土面積に対する割合をみると、山形が16.3%と最も高く、以下、富山(13.0%)、秋田(12.7%)で10%をこえる値を示している。

●中間温帯林(表8.4.1 4/8

 中間温帯林では、奈良(170メッシュ)、宮崎(118メッシュ)で100メッシュをこえ、他の都府県の2倍以上を保有している。県土面積に対する割合をみると、奈良が4.9%と最も高く、以下、宮崎、石川で1%をこえる値を示している。

●照葉樹林(表8.4.1 5/8

 照葉樹林では、鹿児島(1302メッシュ)、沖縄(586メッシュ)、宮崎(512メッシュ)の3県で500メッシュをこえている。香川県でメッシュ数が0であるのは、ウバメガシ林を海岸に成立する土地的極相として、ここでは照葉樹林に含めていないことによる。県土面積に対する割合をみると、沖縄県が28%と最も高い値を示し、ついで鹿児島(15%)となり、この2県でのみ10%をこえる値を示す。

●亜熱帯林(表8.4.1 6/8

 亜熱帯林では、沖縄が119メッシュと最も多く、以下、鹿児島、東京、長崎の4都県にのみ存在する。県土面積に対する割合も、沖縄県が6%と最も高い。

●高層湿原(表8.4.1 7/8

 高層湿原では、北海道が30メッシュと最も多く、これは全国の40%以上にあたる。以下、青森、岩手、群馬、富山となっている。県土面積にしめる割合では、富山県が0.2%と最も高い。

●低層湿原(表8.4.1 8/8

 低層湿原では、北海道が617メッシュと最も多く、ついで秋田(51メッシュ)、茨城(46メッシュ)の順となった。県土面積に対する割合をみると、千葉が0.9%と最も高い値を示し、ついで、茨城(0.8%)、北海道(0.7%)の順となった。

 

8.4.2 大型森林性哺乳類の生息域を多く含む都道府県

 表8.4.2に、大型森林性哺乳類の都道府県別生息状況を示した。

●ニホンザル(表8.4.2 1/4

 ニホンザル生息メッシュ数が最も多いのは島根(587メッシュ)で、ついで、山口(569メッシュ)、長野(562メッシュ)、広島(526メッシュ)、岐阜(517)で500メッシュをこえる。県土面積に対する生息メッシュの割合をみると、佐賀県が10.7%と最も高く、ついで、滋賀(10.5%)、山口(9.7%)、京都(9.3%)の順となっている。西日本の県で値が高い。

●ツキノワグマ(表8.4.2 2/4

 ツキノワグマでは、山形で1271メッシュと最も生息メッシュ数が多く、ついで、長野(1189メッシュ)、岩手(1177メッシュ)で1000メッシュをこえている。県土面積に対する生息メッシュの割合でみると、山形県が13.8%と最も高く、ついで、福井(11.6%)で10%をこえている。

●ニホンジカ・エゾシカ(表8.4.2 3/4

 ニホンジカ・エゾシカの生息メッシュ数をみると、北海道ではエゾシカの生息メッシュが3769メッシュある(比率は4.5%)。ニホンジカでは、大分の603メッシュが最も多く、ついで、兵庫(572メッシュ)、奈良(570メッシュ)、京都(509メッシュ)と、近畿地方の府県で500メッシュをこえている。県土面積比率をみると、奈良県が16.4%と最も高く、ついで、京都(11.5%)、和歌山(10.8%)、大分(10.1%)と、やはり近畿の府県で10%をこえる値を示す。

●カモシカ(表8.4.2 4/4

 カモシカでは、岩手が6987メッシュと最も生息メッシュ数が多く、ついで、長野(4753メッシュ)、秋田(4308メッシュ)、山形(3070メッシュ)で生息メッシュ数が多い。県土面積に対する生息メッシュ数の割合をみると、岩手県が45.3%と最も高く、ついで、秋田(36.7%)、長野(36.6%)、山形(33.3%)奈良(32.5%)で30%をこえている。東北地方と長野県で値が高いのが特徴である。

 

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