IV 第1回自然環境保全基礎調査の概要

 第1回自然環境保全基礎調査は、「自然度調査」、「すぐれた自然調査」、「環境寄与
度調査」の3つを柱として、昭和48年度に実施された。

●自然度調査
 国土を陸域、陸水域(湖沼・河川)、海域(海岸線とその地先海面)の三つの領域に
区分し、自然環境の現況を調査し、その自然性を判定した。

○植生自然度
 陸域については、植生を調査して自然度の判定を行った。全国の植物社会学的現存
植生図(1/20万)を作成し、この植生図を元に植生に加えられた人間活動の影響を判
定し、その地域の自然度(植生自然度、10段階)とした。
 この結果、全国的にみると、比較的自然性を保っている自然度の高い地域は国土の
23%にとどまり、その他の約8割近くは何等かの意味で人間活動の影響を受けている
ことが判明した。

○陸水域自然度
 陸水域は、湖沼と河川に分類される。湖沼については全国の代表的な67湖沼を選定
し、1)湖沼概要、2)受水区域概要、3)湖岸線の利用・改変状況、4)水質等の理化学的
性状、5)生物分布、についてデータを収集した。また、河川については全国51河川に
つき、1)河川概要、2)水質等の理化学的性状、3)生物分布、についてデータを収集し
た。
 これらの資料をもとに、調査対象となった陸水域の自然性を判定した結果、湖沼に
ついては、調査対象となった67湖沼のうち、全体的にみて本来の自然性を保っている
ものは5湖沼にすぎず、その他の62湖沼は人為的な改変や水・質汚濁が進んでいること
が判明した。
 河川については、調査対象となった51河川のうち、全体的にみて本来の自然性を保
っているものは4河川にすぎず、その他の47河川は人為的な改変や水質汚濁が進んで
いることが判明した。

○海域自然度
 海域については、1)水質(透明度およびC.O.D.)、2)海岸線の利用・改変状況、3)
生物分布(貝類・海草類などの地区別分布および漁獲量)につき、各部道府県の沿岸
地先海域全域を対象としてデータを収集した。
 これらの資料をもとに、全国の海域の自然性を判定した結果、まず、海岸線の改変
状況については、約60%が自然海岸であり、約20%が人工海岸、約20%が半自然海岸
であった。また、水質や生物等の現況も加味した総合的な自然性をみると、代表的な
17海域のうち、本来の自然性を比較的保っているのは5海域であった。

●すぐれた自然調査
 「すぐれた自然」の調査は、植物、野生動物、地形・地質・自然現象、海中自然環境、
歴史的自然環境の5つの項目について、全国を対象として稀少性、固有性、特異性とい
う視点から、すぐれた自然がどこにどのような状態で残されているかを調査した。
 調査の結果、それぞれの貴重度、規模等の違いはあるが、約18,000件のものが確認さ
れた。調査項目毎の具体的な調査内容は次のとおり。

○植物
 1)貴重な個体植物及び2)貴重な群落に分けて調査した。1)については「日本特産また
 は地方特産」「稀産種」「世界または日本における南限または北限」「その他重要な
 種」について調査した。2)については「各種の群落がまとまっている地域、典型的な
 垂直分布をなし、貴重と認められるもの」「自然性、稀少性の高いもの」「その他重
 要なもの」について調査した(全国で2,297件)。

○野生動物
 1)日本特産種、2)稀産種、3)世界または日本において南限または北限種、4)その他重
 要な個体群である哺乳類、鳥類、は虫類、両生類、淡水魚類、昆虫類の生息地(繁殖
 地を含む)、渡来地(鳥類)をプロットし、生息状況等について調査した(6,096件)。

○地形・地質・自然現象
 環境庁が示した事例のうちから、1)典型的なもの、2)稀少なもの、3)学術的に貴重な
 もの、4)その他重要なもの、につき調査した(6、296件)。

○海中自然環境
 当該都道府県地先海域のうち、主として水深20メートル以下の浅海、潮間帯を対象に、
 熱帯魚、サンゴ、海草、その他これらに類する動植物および海中地形等の自然環境が
 すぐれた状態を維持している海域であって、海域の水質が汚染されていないこと、海
 中地形に変化があり、海中動植物が豊富で、かつその種類が多いこと等の基準に合致
 するものを調査した(230件)。

○歴史的自然環境
 遺跡、歴史的建造物等の歴史的文化財や、過去の生活生産様式と密接に結びつき、こ
 れらと一体をなす歴史的風土としての自然環境を形成しているもの(例えば、歴史的
 文化財と一体となった自然林等)を調査した(3,131件)。

●環境寄与度調査
 「環境寄与度調査」は、植生が人間環境の保全にどの程度の寄与をしているかを検討す
る基礎データを整備する目的で、人間活動が著しく、しかも各種の環境タイプが見られ
る広域的なモデル地域として関東地方を対象とし、植生現量及び植生生産量を調査し
た。また、あわせて、鳥類生息分布調査を行った。
 調査の結果、植生現存量は1.2億トン、植生生産量は2,600万トン(年当たり)で、人
口1人当たりの植生現存量は、群馬県の18.8トンに対し東京都は0.4トンで、東京都民
は群馬県民の50分の1の緑しか保有していないことが判明した。