2.2.3 動植物分布調査・全種調査

 


●調査対象としたわが国の主要な動物分類群の全種(または一部の種)2,646種のうち、
  2,067種について、計約42万件の分布情報の報告があり、報告のあった種については、
  それぞれ分布図を作成した(表2-2-10、図2-2-5、6)。

●専門家による確認等の確かな情報をもとに、2次メッシュ(約10km×10km, 2万5千分
  の1地形図に相当)単位での全国的な分布図が、主要動物相全般にわたって作成された
  のはわが国初のものである。今回はこのような方式による第1回目の調査であり、分布
  パターン、分布限界(南限、北限など)あるいは、新分布地などが判明したものがある
  一方、種によっては、調査員数及び期間の不足などにより、分布情報の空白地域も見ら
  れ、分布図として不完全なものもある(情報提供(原データ)は、3次メッシュ(約1
  km×1km)によった)。

●今回の調査を通じ、わが国の主要動物相全般にわたる情報の継続的な収集・蓄積のため
  の専門研究者のネットワークが形成された意義は大きいと言える。

●分類群ごとの結果事例は次のとおり。

 

  ○中・大型種の多くは夜行性であることなどから、分布情報が少ないが、食虫目のアカ
   トガリネズミ、ミズラモグラなど、翼手目のイリオモテキクガシラコウモリなど、兎
   目のナキウサギ、齧歯目のミカドネズミ、エゾヤチネズミなど、食肉目のアライグマ、
   カワウソ、イリオモテヤマネコ、インドマングースについては、分布図から分布の大
   要を把握することができた。

  ○ニホンジカについては、宮城県中央部で分布情報が得られたが、もし繁殖している個
   体群であれば、今回新たに知られた分布域である。今回新しい分布域を示しているも
   のの例として、アライグマの岐阜県、テンの北海道、ハクビシンの山梨県、ドブネズ
   ミの小笠原諸島、モモジロコウモリの隠岐島、種子島からの情報などがある。

  ○ニホンザルについては、今回調査により、宮城県牡鹿半島基部で分布情報が得られた
    が、これは、1923年以来の情報であり、半世紀を隔てて分布域が回復した例と考えら
    れる。

  ○逆に愛知県知多半島と名古屋市周辺について、チョウセンイタチの情報は比較的多数
    得られたものの、イタチでは得られていないのは、両者の競合により、イタチの分布
    域がこの地域で縮小したことを示すものと考えられる。

表2-2-10 分類群別調査状況

分類群
(1)
調査対象

種数

(2)
報告のあった

種数

(3)
延べ報告件数

(分布情報総数)

(4)
延べ報告
メッシュ数
(3次メッシュ)

(5)
報  告
メッシュ数
(3次メッシュ)
(6)
調査員数
哺乳類 
鳥類 
両生類・爬虫類 
淡水魚類 
     昆虫類 
トンボ類 
チョウ類 
セミ類 
ガ 類 
甲虫類 
陸産及び淡水産貝 
陸産貝類 
淡水産貝類 
129
538
144
195

203
286
32
251
104

647
117
107
321
126
158

169
258
32
230
55

511
100
3,997
216,678
8,164
20,161

19,203
91,405
1,581
21,598
1,792

32,825
5,130

3,330
183,236
7,002
14,109

14,980
70,223
1,394
14,246
1,346

25,901
4,405

508
2,401
1,152
1,058

1,092
1,966
388
630
308

1,949
823
41
1,619
59
40

57
186
28
59
27
109
(102)
(80)
2,646
2.067
422,534
340,172

12,275
全国
4,730
メッシュ

2,225

注:( )内は参考


(1)調査対象種数:    各報告書の巻末資料に示された調査対象種(亜種)(コード番号が付され
               たもの)の数である。
(2)報告のあった種数:  本調査の結果、分布図が作成された種(亜種)の数である。
(3)延べ報告件数:    各調査票に記載された報告を、「種−調査者−メッシュコード−調査年月」
  (分布情報総数)    という単位で整理して得られた分布情報の総数である。
(4)延べ報告メッシュ数: 上記(3)の分布情報から、同一種、同一メッシュにおける報告を統合し、
  (3次メッシュ)      「種−メッシュコード」という単位で整理して得られた数である。
                 各報告書II-2「集計表」に示された「種別・都道府県別集計表」の
                 総合計の数。
(5)報告メッシュ数:     当該分類群において、いずれかの種の報告が得られた2次メッシュの数で
 (2次メッシュ)        ある。
                (各報告書I-3、図I-7に表示されたメッシュ数。)
(6)調査員数:        各分類群毎に、報告を寄せられた調査員の数。
                  但し、陸産及び淡水産貝類は、重複する調査員が大半を占めるため、
                  まとめて示した。

  この他、オコジョの北海道からの情報欠如は、イタチに駆逐され個体数が減少したこ
  とを示しているものと考えられる。

 

 ○鳥類全種について、わが国初の全国的越冬記録が分布図として作成され、種ごとの越
   冬南限が明らかになった。

 ○第2回基礎調査で実施した繁殖分布(53年度調査)との比較により、留鳥、標鳥、夏
   鳥、冬鳥といった繁殖・越冬分布型の判定が可能となった(さらに、越冬、繁殖の地
   域による細分類が可能)。

 ○アカエリカイツブリとカンムリカイツブリについて、従来は、アカエリカイツブリは
  冬鳥の普通種であり、カンムリカイツブリは、日本産カイツブリ科の中で最も稀な種
  と位置づけられていたが、今回の調査結果により、まったく逆の状態であることが判
  明した。すなわち、本州以南においては、カンムリカイツブリの記録が圧倒的に多く、
  一方、アカエリカイツブリは、対照的に西日本からの報告が少なかった。

 ○ガン類について、内陸の淡水域や耕地を越冬域とするマガン類と、内湾や干潟を越冬
  地とするコクガンなどとの分布域の違いが明確になった。その他、オオハクチョウと
   コハクチョウ、ヤマセミとカワセミ、キツツキ類などについて、分布域の違いが明確
   となった。

 ○シラコバトは、埼玉県越谷付近に生息し、一時は絶滅の危機さえあり、昭和31年には、
   国指定天然記念物に指定されている。当調査では埼玉県から千葉県にかけてのみに集
   中した記録ではあるが、近年徐々に分布を広げつつあるのが確認された。

 

 ○両生類・爬虫類のうち、産卵のため特定の池に集る傾向のある両生類(カエル、イモ
   リ、サンショウウオの仲間)は、比較的確認しやすく、分布の把握された種も多いが、
   爬虫類(ヘビ・トカゲ・カメの仲間)の発見は偶発的な条件に左右され、情報量も少
   なかった。特に、水中に生息する淡水産カメ類の情報は極めて少なかった。
 
 ○比較的広く分布しているイモリは、中部地方から関東地方にかけての情報が、カエル
   類に比べて少なく、イモリの分布域が縮小している傾向を示すものと考えられる。

 ○トノサマガエルも水田の減少などともに、分布城が縮小されており、ダルマガエル、
   モリアオガエルなどでも同様に、既知の分布域の一部で消滅しつつあることが確認さ
   れた。
 
 ○トノサマガエルとトウキョウダルマガエルの分布域は重複しないことが明確になり、
   関東地方などで一般にトノサマガエルと呼ばれている種は、トウキョウダルマガエル
   であることが確認された。

 

 ○日本に原産する淡水魚は、173種であり、このうち、塩分環境に対する抵抗性がなく
   完全に淡水中のみに生息するいわゆる第1次淡水魚は、64種である。この70%以上に
   当たる49種がコイ科の魚種によって占められているが、これらの東日本と西日本での
   分布の差が明らかになった。

 ○アユに比べて、河川改修や水の汚れにも強く、琵琶湖産アユに混じって放流されてい
   るといわれるオイカワの東北、四国南部(高知県)への移入状態及びタモロコの関東、
   東北への分布拡大傾向などが明らかになった。

 ○イタセンパラの自然分布は、淀川水系、木曾川水系及び富山平野が知られているが、
   個体群の減少が著しく、1974年に国の天然記念物に指定されている。今回の報告(メ
   ッシュ図)では、富山で空白となっており、今後さらに調査する必要がある。

 

 ・トンボ類

 ○ルリボシヤンマなどで今回はじめて分布パターンが得られた。

 ・チョウ類

 ○今回はじめて、日本産チョウ類の分布型を類型化(45類型)することができた。

 ○ナガサキアゲハ、タテハモドキ、クロコノマチョウなどでは、顕著な拡大(北進ない
   し東進)傾向が確認された。

 ・セミ類

 ○沖縄地方のセミ類について、今回はじめて分布パターンが把握された。

 ・ガ類

 ○日本産として学名登録されている4,500種のうち、230種(調査対象251種)について報
   告があり、それぞれの分布図をもとに、分布地域により、寒冷地型、広分布型、温暖
   地型、亜熱帯型に分類した分布類別図(細分類により16類別図)が作成された。

 ・甲虫類

 ○8,000種を越える甲虫類のうちから、環境指標性を有する種に着目して、3科104種を
   調査対象としたが、調査者数も少なく、分布パターンを表わすまでの情報が得られた
   種は非常に少なかった。

 

 ○わが国で初めて全種の分布図が作成され、この結果、島嶼分布型、石灰岩地分布型な
   どの分布域の狭い種類と、北海道分布型、本州四国分布型など比較的分布域の広い種
   類とに分類ができた。

 ○樹上性のエゾコギセルについては、札幌で新分布地が確認されたほか、下北半島にも
   分布しており、その中で青森県上北郡からの情報は、分布の南限として注目される。
   その他、ハナコギセル,チャイロマイマイなどでも、新分布地又は分布限界(北限又
   は南限など)が明らかになった。